願書100通と会議の日
## 130話 願書100通と会議の日
革張りのソファに深く沈み込みながら、俺とクララはリバーシ盤を挟んで向かい合っている。
マルタのおっちゃん特製の高級盤は、やっぱり存在感がある。
〈エステルから帰ってきて、怒涛の毎日だったし……こういう時間は必要だよな〉
「ライム、嬉しそうだね!」
クララがコマをつまみ、勢いよく置く。
「よし、ここに打てば角が取れるね!」
「うん!みんなのおかげで本部もこんなに豪華になったよ!うわ、それはやめて……あー!」
パタン、と角がひっくり返る。
「やったぁ!角はもらったよ!」
クララが満面の笑みを浮かべる。
〈この子、本当に強くなったよな……最近の勝敗は5分5分だ〉
「私、ナンバーツーとしていっぱいお手伝いするからね!」
「うん。これからもよろしくね!」
新品の棚、黒板、椅子、看板。
もう立派な『会社』という感じだ。
そこへ、軽いノック音が聞こえた。
「おーい、ライムいるかー?」
顔を出したのは、ニキビ顔のテトだった。
「お、配送事業の責任者来たな!」
「ちょ、やめてよ!それより……組合で手紙を受け取ってきたよ。ガリレさんって人」
「ガリレさん!」
クララがぱっと顔を上げる。
俺はエステルでのやり取りを思い出した。
〈やっぱり……願書か〉
「私が読みます」
レノが封を開け、淡々とした声で読み上げていく。
「まず、入社希望の願書ですね。ご両親はすでに他界されているようですが、ヘイズ学舎長の推薦状が付いています。志望動機は『世界を変えるため、早急に入社させろ』と」
〈他界されてたのか、それは申し訳ないことをした。親の同意書が出せない人もいるな。そして早く入社させろ、か〉
「らしいね……!」
「さらに、水車研究の論文と思われるびっしり文字の詰まった紙が20枚ほど同封されています」
クララが目を輝かせる。
「すごいね!まじめな人だ!」
〈いや、あの人はまじめというより……熱い人なんだよな〉
レノが手紙の裏面に目を留める。
「……追加で、学舎長からのメモがあります」
「え、なにか問題?」
レノは一呼吸置き、静かに続けた。
「エステル学舎からの卒業予定者から応募者は100人ほどいるとのことです。家の都合で応募できない生徒もいたようですが、ほぼ全員が応募の意思を示したそうです。願書は学舎側でまとめて発送するとのことです」
「ひゃ……100人!?」
〈長男なんかの跡取りをのぞいたら全員とか……〉
クララはむしろ誇らしげに胸を張る。
「やった!目標の100人集まったね!」
〈クララさん……マジで大物だよ、あなた〉
レノが真面目な顔で俺を見る。
「想定以上ですが、ライムさんとクララさんの力を考えれば当然とも言えます」
「いや、全然当然じゃないよ!でも……今は20人くらいで収めたい」
「はい。100人を迎えるのは現実的ではありません。選考方法を考える必要がありますね」
「だよね。給金目当てで、とりあえず応募したって人もいるかもしれないし。これはCHROの母さんにも相談したいな」
俺は深呼吸する。
「とりあえず、願書がまとまって届くのを待とう」
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その日の夕方、商会本部に大きな木箱が運び込まれた。
中には、ぎっしりと願書の束が詰まっていた。
〈……本当に100人分、いるんだな〉
翌日。炎の夜明け商会本部。
会議用のテーブルいっぱいに、願書の束が積み上がっている。
その場にいるのは、俺、レノ、母さん、父さん、クララの5人だ。
母さんが眉を寄せた。
「ライム、あんた……やりすぎよ!」
「いや、俺もさすがに想定外だよ」
父さんが腕を組む。
「これはどうするか……」
クララが元気よく手を挙げた。
「なんで?私、100人集めるって言ったよ!」
全員が苦笑いを浮かべる。
〈いや、クララの目標は確かに達成してるんだけどさ〉
レノが黒板の前に立ち、チョークを走らせる。
「昨日の晩、願書を読みながらいくつか分類してみました」
黒板には、きちんとした字が並んでいく。
「まず、私やクララさん、ミナさんに強い好意を書いている、いわゆる推しのような層」
「ファン、か」
「ふぁん?」
クララが首をかしげる。
「し、知らなくていいからクララさん……!」
レノはそのまま続ける。
「次に、給金について強く書いている人たち。家計の事情が厳しいようです」
「うん……」
「それから、炎の夜明け商会の事業内容に強い興味を示している人たち。研究職志望、現場志望、職人志望など、希望職種も含めて分けてあります」
黒板には簡単な項目が並ぶ。
・レノ/クララ/ミナ推し
・給金重視
・事業内容に強い興味
・研究職志望
・現場志望
・職人志望
・その他
父さんがぼそりと言う。
「ここから20人を選ぶんだな」
母さんも真剣な顔になる。
「ライム、これは会社の未来を決める重大な選択よ。でも100人なんて面接できないわ!」
俺は目の前の願書の束に手を置いた。
〈100人分の人生が、この中に詰まってる〉
〈責任……重いな。でも、逃げるわけにはいかない〉
「よし。みんなで、しっかり選ぼう」
炎の夜明け商会。
新しい仲間を迎えるための、本気の会議が始まった。




