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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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サプライズと涙の就任

## 128話 サプライズと涙の就任


カチさんたちの盛り上がりが熱すぎて、俺とレノは一度外に出た。工房の中からは、まだ怒号とも歓声ともつかない声が響いている。


「なんかさ……苦労もせずに鍛冶師集団を取り込むって、すごいよね」


レノが隣で軽く首を振った。


「苦労せずに、というわけではありません。ライムさんが積み上げてきたものがあってのことです。他の人が同じ言葉を言っても、こうはなりません」


「そうか。そうだよね……ありがとうレノ」


〈真面目なレノが言ってくれる言葉だからこそ、本当に嬉しい〉


「じゃあ、お昼になる前に炎の夜明け商会本部のランチボックス販売所に行ってみようか。試飲会の様子も見たいしね」


「い、いえ……その、そちらではなくて。ベックさんの方はどうでしょう」


「なんでよ。すぐそこなんだから、まずは本部でしょ」


「……はい」


〈ん? なんか変だよな〉


 


市場広場へ向かい、炎の夜明け商会本部の前まで来ると——。


店先に母さんと母友たち、それからマルタのおっちゃんと組合長までそろっていた。


〈うわ、なんだこの組み合わせ〉


「おーい、みんな! こんなところにそろってるなんて珍しいね。どうしたの?」


組合長がビクリと肩を跳ねさせた。


「ライム君!? あ、ああ……ちょっとお弁当を買いにね」


マルタのおっちゃんも妙にそわそわしている。


「お、俺もだ。腹が減っちまってな!」


〈なんかみんな変だな?〉


母さんが、じろっとレノをにらんだ。


「レノ! あんたなんでここにいるの!」


「す、すいません!」


「母さん、そんな怒らなくてもいいじゃん。なにかあった?」


「え? えーとね……レノには鉱山販売所の試飲会の様子を見に行きなさいって言っといたのよ!」


「え、そうだったの? でもレノ、さっきはベック爺さんの方って——」


レノは深々と頭を下げた。


「サラさん、申し訳ありません。私の勘違いでした。さ、ライムさん。お昼になってしまいますし、鉱山へ急ぎましょう」


「……まあ確かに、鉱山に人が集まってるかどうか気になるかも」


〈でもやっぱ変だよな。全員、妙に視線をそらすし〉


それでも、今は仕事が先だ。


俺とレノは、急ぎ足で鉱山へ向かった。


 


鉱山のランチボックス販売所に着くと、すでに人の列ができていた。


〈こんなに並ぶんだ……! これはこっちに来て正解だったな〉


販売員に声をかける。


「炎の夜明け商会のライムです。試飲会、聞いてますか?」


「ああ。けど、2人だとちょっと厳しいかも。弁当も売って、お金も受け取って……人手が足りねぇ」


「では手伝います。ライムさんもよろしいですか?」


「もちろん!」


俺たちは樽に入ったプレサントを小さな木のコップに注ぎ、弁当を買った鉱夫たちに声をかけていった。


「新しいお酒の試飲してます! 一口どうぞ!」


「なんだこりゃ!? すげえガツンとくる!」


「うめえ! どこで飲めんだ!」


「炎の鍋亭かベック酒店に来てね!」


列はふくらみ続け、噂は広がり、仕事前後の鉱夫がひっきりなしにやってくる。


そして——。


樽は、あっという間に空になった。


「すごい反響でしたね」


「うん。弁当が売り切れたあとも人が途切れなかったね」


販売員も汗を拭きながら笑った。


「今日はすげぇ日でしたよ。こんなに集まったって日、初めてっす」


「そっか、よかった! またよろしくね!」


こうして試飲会は大成功で終わり、俺たちは商会本部へ向かった。


 


お昼を食べ、街に戻る。商会本部に近づくと、クララとミナと母さんが入口に立っていた。


「おう、クララにミナ。どうしたんだ?」


「ひみつー! ね、ライム、まず2号店行こう!」


〈秘密……? なんだそれ〉


「うん。行くか」


クララとミナに腕を引かれ、俺とレノは炎の鍋亭2号店の扉を開けた。


中には、見慣れた顔ぶれ——なのに、ここに全員そろっているのが逆に不自然なメンバーが並んでいた。


マルタのおっちゃん、組合長、テンドーさん、カチさん、ヤブタさん。

テーブルの上には、プレサントの瓶と木のコップ。


「……あれ? みんなどうしたの?」


カチさんが、ニヤリと笑ってコップを掲げた。


「プレサントを飲みに来たのさ。今日からここで飲めるんだろうが」


「ちょっと早すぎでしょ」


ヤブタさんも顔をほころばせる。


「さっき本部前の販売所に顔を出したがの。そっちも盛況じゃった。売上につながるとええの」


「鉱山の試飲会もすごかったですよ。樽、すぐ空になりました」


俺が報告すると、テンドーさんが感心したように頷いた。


「それは頼もしいですね。うちは酒類が取り扱えないのが惜しいですね」


マルタのおっちゃんが豪快に笑う。


「こんなもん、ほっといても広がるわ! 買いだめしとくに限るな!」


組合長も苦笑いを浮かべた。


「市場の連中も、もうすっかり虜ですよ。リバーシに続いて、酒でも振り回されるとは思いませんでしたがね」


〈いや、それはこっちのセリフなんだけど〉


そんなやり取りを眺めていると、クララがパンッと手を叩いた。


「じゃあ、みんなそろったところで——本部、行こうか!」


マルタのおっちゃんがニヤニヤしながら立ち上がる。


「待ってました! 行くぞ、坊主」


〈え、なにこの流れ〉


レノが小声でささやく。


「ライムさん、行きましょう」


「う、うん?」


半分混乱しながらも、俺はみんなと一緒に階段を上がった。


その途中で、厨房にいた父さんも合流した。


クララが先頭で扉を開ける。


その瞬間——。


「……え?」


見慣れたはずの本部が、まったく別物になっていた。


殺風景だったはずの部屋に、どっしりとした執務机と棚。

窓際にはソファと椅子。

壁には大きな黒板。

部屋の端には、金属で作られた『炎の夜明け商会』の看板。

ソファの前には、ビンテージ風の木材で作られたローテーブル。


クララが胸を張る。


「ライム、しーいーおー就任おめでとう!」


「え……!」


母さんが笑って続ける。


「マルタさんがね、ライムがエステルに行ってるときにみんなに声をかけてくれたのよ」


マルタのおっちゃんが腕を組んだ。


「みすぼらしい部屋だったからな! 俺からは執務机と棚だ! どーんとな!」


部屋の中央には、立派な机と棚が鎮座していた。


組合長も満足げに頷く。


「組合からは中古だが、ソファと椅子を」


見覚えのあるふかふかの椅子。組合長室にあったやつだ。


「古くなってたから、ちょうど入れ替えでね。こっちの方が使い道がありそうだ」


テンドーさんが黒板を示す。


「私は事務用品と黒板を。それと、革工房がソファと椅子の革を貼り直してくれました」


新品のように輝く革張り。


カチさんがドンと胸を張る。


「鍛冶屋からは看板だ!」


ミナが手を挙げる。


「私も手伝ったんだよ!」


部屋の端には、金属で作られた炎のマークと『炎の夜明け商会』の文字が入った看板が立てかけられている。


ヤブタさんも笑う。


「サント工場からは、樽の木で作ったローテーブルじゃ。マルタがきれいに加工してくれたぞ」


母さんも続ける。


「全部テトが調整して運んでくれたのよ!」


俺は、言葉が出なかった。


胸が熱くて、視界がかすんだ。


「す、すごい……みんな、こんなにしてくれて、本当にいいの……?」


クララはにっこり笑った。


「みんなからのお祝いだよ! 私もいっぱい手伝ったの!」


父さんも口を開いた。


「お前がやってきたことは、ちゃんと誰かを喜ばせてきた。その積み重ねが、これだ。みんな善意でやってくれたんだよ」


涙が止まらなかった。


「……みんな……ありがとう。本当に。俺、もっと頑張るよ。もっとみんなが喜んでくれるように」


こうして、炎の夜明け商会——

俺たちの本拠地はついに完成した。


〈俺の……会社だ……〉

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