表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

127/302

カチ鍛冶屋、まさかの選択

## 127話 カチ鍛冶屋、まさかの選択


朝の炎の鍋亭。


テーブルの上には、いつものように山盛りの朝食が並んでいた。


俺と父さん、母さん、それからレノの4人で、もりもりと朝ごはんをかき込んでいた。


「昨日のプレゼンは素晴らしかったです」


レノが、パンをちぎりながら静かに言った。


「それに、テトさんも物流の責任者を引き受けてくれてよかったです。テトさんは本当に適任だと思います」


「そんなことないよ。みんなが場を用意してくれたから、俺はいつも通り話しただけだよ」


一瞬、昨夜の光景が頭に浮かぶ。ぐしゃぐしゃに泣きながら、それでも前を向いたテトの顔。


「テトは本当に良かった。名乗りを上げなかったら、どう説得しようかちょっと悩んでたんだ」


母さんが、あきれたようにスープをすすった。


「分かってないわね。テトはね、命令しなきゃだめなのよ」


〈命令……〉


「自分から手を挙げるなんてできないけど、頼られたら全力でやるタイプ。そういう子よ、あの子は」


〈そうなんだ……ミナはどうなんだ〉


「じゃあ、ミナは? 自分から手を挙げるなんてびっくりしたよ」


母さんはまたしてもあきれ顔で、ふんと鼻を鳴らした。


「あんた……なんも分かってないわね。あの子はそんな気弱な子じゃないわよ」


「そう、なんだね。そんなもんか」


〈んー、難しいな〉


「そんなもんよ!」


父さんがパンをかじりながら、ふと思い出したように言った。


「カチさんのところはどうするんだ」


「うん。今日、話しに行こうと思ってる」


昨夜のカチさんの言葉が蘇る。


『しーてぃーおー、やってやる』


「カチさんは、正直言って絶対に必要なんだ。だから、こっちの都合だけじゃなくて、あっちのみんなにも喜んでもらえる形にしたい。ちゃんと話して、納得して来てもらいたい」


父さんは真剣な顔でうなずいた。


「ああ。中途半端なことだけはするな」


「うん。みんなが得をする形、考えてくるよ」


朝食を平らげ、片づけを手伝ったあと、俺とレノはさっそく市場の一角、カチ鍛冶屋へ向かった。


---


いつもなら、ここからでも分かるくらい、金属を打つ音が響いているはずだった。


だが今日は、扉の前に立っても、金槌の音がしない。


扉を開けると、ひやりとした空気が流れ出てきた。煤と鉄の匂いはいつも通りなのに、熱気だけがどこかへ消えてしまったみたいだ。


〈あれ……どうしたんだ〉


奥の作業場に進むと、いつもと違う光景が目に飛び込んできた。


火の落ちた炉の前に、ぐるりと輪になって立つ10人の弟子たち。その中心に、腕を組んだカチさん。


弟子のひとりが、必死な声を上げていた。


「俺は、親方の包丁を見て……わざわざ王都から引っ越してきたんです! いなくなるなんて、あんまりだ!」


別の弟子も続く。


「俺もです! まだ教わりたいことは山ほどあります。辞めるなんて言わないでください!」


カチさんは、何度も聞いたと言わんばかりに顔をしかめた。


「何度も言ってるだろう。お前たちはもう一端の鍛冶師だ。お前らだけでやっていける」


輪の中から、ひときわ大きな声が響いた。弟子たちの中でも、少し若く、帳簿や客の対応も任されていた青年――ジンだ。


「そういうことじゃないんです! まだ、親方から教わりたいんです!」


〈うわ、完全にもめてる空気だ〉


でも、ここで黙って見ているわけにはいかない。


俺は輪に向かって、一歩踏み出した。


「おはようございます!」


全員の視線が、ぴたっとこっちを向く。


「カチさん……昨日のこと、ですよね」


カチさんは、肩をすくめた。


「ああ。こいつら、みんなして辞めるなって言うもんだからな」


〈そりゃそうだよな……〉


王国一の鍛冶師と呼ばれる職人の弟子になれるなんて、一生ものの運だろう。それが「俺、別のところに行くわ」なんて言い出したら――普通は反対する。


〈何とかしないと〉


「みなさん、すみません。俺も、カチさんにはぜひ来てほしい。でも、誰かが不満を持ったままにしておくのは、絶対に嫌なんです」


俺は、できるだけ真正面から弟子たちを見た。


「だから、ちゃんと話し合いをさせてもらえませんか」


数人が顔を見合わせる。


一人の弟子が、少し困ったような顔で頭をかいた。


「お前が来てから、親方が楽しそうに金槌を振るってるのは分かってるんだ。そこは……感謝してる」


別の弟子も、うなずいた。


「ああ。最近の親方、前よりずっと生き生きしてるもんな」


そして、少しだけ声を強くする。


「だが、さっき言ったように……親方がいなくなるのは許せねえ」


さらに別の弟子が続ける。


「ああ。店が回るとか、仕事があるとか、そういう問題じゃないんだ」


〈ん?〉


カチさんが、男たちを睨みつける。


「仕方ねえだろ! 俺はこの小僧と一緒に、新しいもん作って世界を変えてえんだ!」


ジンが叫ぶ。


「ですが、俺たちはどうすればいいんです!」


〈あれ?〉


弟子たちは「カチさんと一緒にいたい」。

カチさんは「鍛冶屋のことより、俺と一緒に新しいものを作りたい」。

けれど、今の話し方だと、「親方だけがいなくなる」と思われている。


〈……これ、何の問題もない解決策あるな〉


俺は手を上げた。


「みんな、カチさんと“仕事がしたい”んだよね」


弟子たちは一斉にうなずく。


「当たり前だ!」


「それはそうだ!」


「カチ親方についていくために、ここに来たんだ!」


「で、カチさんは、正直言うと店の看板とかどうでもよくて、俺と一緒に新しいものを作りたい。そうですよね」


「そうだ!」


カチさんは即答した。


「店なんざ、お前らがやればいいんだ。俺はこの小僧と仕事がしたい」


「つまり――みんなカチさんとは一緒にいたいし、カチさんも弟子たちと離れたいわけじゃない。でも鍛冶屋として残るかどうかで話がややこしくなってる」


そこまで言って、俺はにやっと笑った。


「じゃあさ――丸ごとうちに入る?」


一瞬、時間が止まった。


カチさんが間の抜けた声を出す。


「あ?」


弟子たちも口をぽかんと開けた。


「てめえ……」


カチさんが俺を睨みつけて――にやりと笑った。


「いや、それでいいな」


弟子の一人が慌てて叫ぶ。


「何言ってんだ! カチ鍛冶屋が……いや、カチ親方と仕事できるのか? それでいいのか?」


「よく考えろ」


カチさんがニヤリと笑って、弟子たちをぐるりと見渡した。


「看板がどうとか、場所がどうとか、金がどうとか……そんなもんは全部後回しだ。お前らが鍛冶やれて、俺が教えられて、この小僧と面白いもんが作れりゃ、それでいいだろうが」


一瞬の静寂のあと、弟子たちの顔がぱっと明るくなった。


「……それで、いいな」


「カチ親方と一緒に鍛冶ができるなら、どこだって!」


「炎の夜明け商会の製作所……いいじゃねえか!」


カチさんは、どん、と胸を叩いた。


「よし、てめえら! ここは今日から炎の夜明け商会の製作所だ! 俺が引き続き、お前らに鍛冶を教えてやる!」


「はい! よろしくお願いします!」


弟子たちの声が、作業場に響いた。


「ちょ、ちょっと待って。条件とか」


俺が慌てて口を挟むと、カチさんは心底どうでもよさそうに言った。


「そんなもんどうでもいい! おい、ジン!」


「は、はい!」


帳簿をよくつけていた、あの青年が背筋を伸ばす。


「お前がやっとけ! 金の話も、片付けの段取りも、ぜんぶだ!」


「わ、分かりました!」


〈すごい丸投げだな〉


レノが小声で耳打ちしてくる。


「……あの、ライムさん。条件の詰めは、私とジンさんでやりますね」


「うん、お願い」


カチさんが俺の肩をがしっとつかんだ。


「おい、小僧! 昨日言ってた印刷機ってやつ、あれだ。あれはこれから全員で今日中に仕上げてやる! 明日取りに来い!」


「え、今日中に!?」


「おい、お前ら! 火を入れろ! 印刷機の部品、全部洗い出すぞ!」


「はい! よろしくお願いします!」


弟子たちによって一気に炉に火が入れられ、さっきまで冷たかった空気が、いつもの熱を取り戻していく。


〈めんどくさそうな大問題かと思ったら……すごい勢いで片付いたな〉


---


その後、レノとジンが工房の隅で帳簿を広げ、細かい条件の話を進めた。


聞けば、ジン以外の弟子たちは、すでにほとんど一人前として扱われていて、それぞれ給金は金貨1枚。仕事はあえて多くは受けず、カチさんの指示で「赤字にならない最低ライン」で鍛冶屋を回していたらしい。


〈あの人らしいな〉


お金なんてどうでもよくて、弟子に教えるための鍛冶屋。

王国一の鍛冶師は、やっぱり王国一の変人だ。


でも――だからこそ、うちには最高の味方になる。


俺は、熱気を取り戻したカチ鍛冶屋を眺めながら、胸の中でそっと拳を握った。


〈よし。これで、炎の夜明け商会の製品の製作力は一気にレベルアップだ〉

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ