金貨500枚への作戦会議
## 124話 金貨500枚への作戦会議
店内が落ち着きを取り戻したところで、俺は黒板の前に立った。
「じゃあ、まず今の状況から共有するね」
「ガラワ組との約束は、来月末までに金貨500枚。サント酒造の借金200枚と、銅鉱山の共同出資300枚。これを絶対にそろえないといけない」
レノが手元の資料を持ち上げる。
「進捗ですが、約束の3ヶ月の中間点で、リバーシ事業が金貨200枚、ランチボックス事業が金貨30枚、酒造事業が金貨20枚、合計で金貨250枚でした。現在はそこからさらに積み上がっております」
〈よし、ここまでは順調〉
けれど店内の空気は、次の言葉を待っているように静まり返っていた。
「数字だけ見れば悪くない。でも、みんなも感じてる通り、いくつか問題が出てきてる」
ヤブタさんが腕を組む。
「酒造は当初の計画では金貨100枚を稼ぐと言っておったな。遅れとる」
テンドーさんが続ける。
「リバーシはロンドールでは出荷ペースが落ち着いてきています。エステルでも想定より伸びていません」
エッタさんが明るく補足した。
「ランチボックスはこの前1000食に増やしたけど順調よ」
「そう。だから問題は酒造とリバーシの二つなんだ」
クララが勢いよく身を乗り出す。
「プレサントは試飲会だね」
「正解。プレサントの一番の問題は、知られてないから飲まれないこと。だから、サンプル拡散作戦をやるよ」
店内がざわりと揺れる。
「弁当販売所3箇所、炎の鍋亭、ベック爺さん馴染みの店。そういう飲んだことない人が多い場所で、一口だけ無料で飲んでもらう」
組合長が眉を上げる。
「無料でとは大胆だな。本当に大丈夫なのか」
レノがすぐにフォローに入る。
「酒造も物流も自社ですので、コストはプレサントの製造原価のみです。まったく問題ありません」
ベック爺さんが愉快そうに笑う。
「思い切るのぉ。まあ、うちもプレサントが出りゃ儲かるしな。わかった、5店舗ほど見繕ってやろう」
ガレンさんも頷く。
「今はプレサントの在庫が溜まっているので問題ありません」
テトが勢いよく手を挙げる。
「じゃあ酒樽、俺が届けてくるね」
「テト、頼む。それと、エステルの母さんの実家、オルド商会でも同じ作戦をやる。ロンドールから酒樽を送る段取りもお願い」
「うん、やってみる」
サラが手をぱんと叩く。
「私も販売所の母友たちと鉱山の連中に説明しておくわ。なんか面白そうね」
「ありがとう。じゃあ、これを明日からできるところから始めて、来月までにプレサントで金貨100枚を目指すよ」
ヤブタさんが立ち上がる。
「わかった。ワシも試飲会のところに顔を出すぞい。まずは知ってもらわねば話にならん」
〈よし、プレサントは動き出した〉
ーーー
次に俺は黒板に「リバーシ」と書く。
「リバーシは今、金貨200枚の稼ぎ頭。でもロンドールの勢いが落ち着いた以上、エステルで広げていかないといけない」
テンドーさんが困ったように眉を寄せた。
「先週までは毎日100セット完売だったのですが、最近は数十セットに落ち着きました。エステルでも伸び悩んでいます」
「原因は単純。遊び方が分からないから、買われない。興味は持ってくれてるのに、最後の一歩で止まってしまってるんだ」
俺は円盤を描くように指で空をなぞる。
「だから、販売所にPOPと、全セットにルールブックを付ける」
マルタのおっちゃんがぽかんとする。
「ぽっ? るーるぶ?」
ミナが勢いよく手を挙げる。
「えっとね、帰りの船でみんなで作ったんだよ。どんな遊びか一目で分かる絵」
ミナがPOPを広げた瞬間、店内から「おぉ……」と声が上がる。
エリーナさんがPOPを手に取り、目を細めた。
「これはいいわね。店頭で見れば子どもでも分かるもの」
テンドーさんも頷く。
「確かにこれなら目を引きます」
ミナは続けて厚めの紙束を取り出した。
「で、こっちがるーるぶっく」
組合長がめくりながら言う。
「ふむ……いいな。確かに分かりやすい」
マルタのおっちゃんは腕を組む。
「だが文字が多いな。版画で全部作るんか?」
「いや、活版印刷機を作るよ」
その瞬間、カチさんが雷に打たれたみたいに目を見開く。
「かっぱん? 新しい機械か。どんなもんじゃ」
〈食いついた〉
「一文字ごとの部品をたくさん用意して、それを組み合わせて文章にして、ぺたぺた印刷する感じの機械だよ」
カチさんは数秒沈黙したあと、あっさり言う。
「仕組みは単純じゃな。ラーク、お前がやれ」
ラークさんが勢いよく立ち上がる。
「はい。鋳物で部品を作って文字を彫ればいいんですね。任せてください」
ラークさんは胸を張り、さらに言った。
「あとライム坊、プレス機4号機も完成しました」
「本当。ありがとう。これで量産が進む」
マルタのおっちゃんが確認するように聞く。
「坊主、これで1日に200セットで動かせばええんだな?」
「うん。エステルも王都も控えてるから、フル生産でお願い」
マルタのおっちゃんが満足げににやりと笑った。
〈よし。これで事業方針の共有はひと通り終わった〉
そのとき、クララが勢いよく手を挙げた。
「はいっ。じゃあクララがまとめるね」
店内が一気に明るくなる。
クララは指を一本ずつ折りながら、堂々と宣言した。
「まず、プレサントはしられてない問題を、みんなにちょっとのんでもらう作戦でなおす」
笑いが起きる。
「つぎ、リバーシはむずかしそう問題を、みたらわかるPOPとあそびかた本でなおす」
ミナがPOPを掲げて誇らしげに笑った。
クララは、胸に手を当てて言う。
「それでね、ライムはみんなとおなじ方向にすすむって決めたから、これからもみんなでがんばる」
ぱちぱちぱちぱち。
自然な拍手が店全体に広がった。
俺は胸の奥が熱くなるのを感じながら、静かに言った。
「ありがとう、クララ。そしてみんな、本当にありがとう。これで金貨500枚への道が、また大きく前に進んだよ」
仲間たちの表情には、疲れよりも前に進む力が宿っていた。
〈絶対に、このメンバーで達成する〉




