炎の夜明け商会・全体共有会
## 123話 炎の夜明け商会・全体共有会
自室に戻った俺は、椅子に腰を下ろして大きく息を吐いた。
〈よし……ここから整理しよう〉
ガラワ組との約束の進捗。
サント酒造、銅鉱山、金貨500枚。
エステル出張で見えた新しい動き。
炎の夜明け商会として、これからどう走っていくのか。
机に羊皮紙を並べ、ペンを握る。
先に「共有事項」と書き、ガラワ組との約束と数字、エステルでの出来事を箇条書きにしていく。
ペン先がサラサラと走り、紙の上に線と文字が積み上がっていった。
〈ここまでは、ただの報告だ〉
ひと段落ついたところで、今度は別の紙の上に大きく「発表」と書く。
次の瞬間、ペンがぴたりと止まった。
〈……みんなの扱い、どうするんだ〉
頭の中に、ひとりひとりの顔が浮かぶ。
父さん。母さん。
レノ。
クララ。
ミナ。
〈みんな、善意で動いてくれてるじゃないか〉
レノは無給。
クララはお手伝い。
ミナは、ほぼタダ働き。
父さんも母さんも、俺が振った仕事を当たり前みたいに支えてくれている。
〈俺は何をしていたんだ〉
これまで俺が口にしてきた言葉が頭をよぎる。
〈全員が得をする仕組み〉
〈誰も損しない〉
いいながら、実際には「好意」で回っているところも多かった。
〈このままじゃ、どこかでひずみが出る〉
俺はペンを握り直す。
「一人一人、面談して意見を聞きたいな」
思わず口からこぼれた言葉が、やけにしっくりきた。
俺が一方的に役職や給金を決めて発表するのは簡単だ。
でも、それは「経営」じゃない。
〈やる気のないロジスティクス主任に金貨3枚払っても意味がないしな〉
テトだって、本当にやりたい形があるかもしれない。
レノだって、表に出していない不安を抱えているかもしれない。
〈だったら、まずは全体で方向性を確認して、それから一人一人と向き合うべきだ〉
俺は新しい紙を取り出し、「今日の共有会の目的」と書いた。
一人一人から聞きたいこと。
俺が伝えたいこと。
炎の夜明け商会をどういう場所にしたいのか。
書き始めると、さっきまでの迷いが嘘みたいにペンが滑り続けた。
〈ガラワ組との約束、数字の状況、事業の課題……〉
〈それから、みんなの役割と給金の話を「これから決めていこう」という宣言〉
気づけば、窓の外は赤く染まり始めていた。
「……もう夕方か」
そのとき、扉がこんこんと叩かれる。
「ライムさん、失礼します」
レノが、いつもの書類の束を抱えて顔を出した。
「みんなに声をかけてきました。ゴードンさんが調整してくださって、炎の鍋亭2号店で共有会をしたあと、そのまま皆さんで食事をする形になりました。みんな集まってくださるそうです」
「え、今日なのか」
「はい。今日はまず共有会だけで十分だと思いましたので、早いほうがよいかと。
私の提案していた待遇整理のほうは、時間をかけて進めればよいと思います」
〈今日は数字と今後の動きだけ、ってことか〉
俺は手元の紙を一度見下ろし、すぐに顔を上げた。
「いや、今日話すよ」
レノが目を丸くする。
「……今日、ですか」
「うん。確かに急ぐ話じゃないのかもしれないけど、俺の考える『会社』からは外れたままだからさ。みんなの給金と役割の話は、後回しにしたくない」
〈やる気がなかったら意味がない、ってさっき自分で書いたばかりだしな〉
レノは一瞬きょとんとしてから、ふっと微笑んだ。
「……さすがライムさんです。では、その点も含めて共有会の趣旨としてお伝えします」
「お願い。俺も、話す内容はもう大体まとまってる」
レノがこくりと頷く。
「では、そろそろ行きましょうか。皆さん、そろそろ集まり始めている頃です」
「うん」
俺は机の上の羊皮紙を重ねてまとめ、ペンを置いた。
〈ガラワ組との約束、金貨500枚〉
〈そして、その先に続く炎の夜明け商会のかたち〉
ここから先は、一人で抱え込むんじゃなくて、みんなで決めていく番だ。
ーーー
炎の鍋亭2号店。
夕方の店内は、仕事終わりの空気と、少しだけ特別な緊張が混ざっていた。
テーブルには軽食が並び、あちこちで笑い声が上がっている。
父さん、母さん、クララ、ミナ、エッタさん、テトとヤト。
マルタのおっちゃんにカチさん、ラークさん、テンドーさん、ベック爺さん。
市場組合からはアイザット組合長とエリーナさん。
サント工場からはヤブタさんとガレンさん。
さらにハインズさんとサクラさんの姿もある。
〈……ほんとに、ほぼフルメンバーだな〉
厨房の奥で様子を見ていた父さんに声をかける。
「父さん、ありがとう。店のほうは大丈夫?」
「ああ。2号店の料理人に一人で店を回す経験をさせておきたかったからな。本店のほうでやらせている。お前は気にせず、みんなにしっかり説明してこい」
「分かった」
父さんは渋い顔をしながらも、どこか誇らしげに頷いた。
俺は用意してきた羊皮紙を手に取り、店内をぐるりと見渡す。
炎の夜明け商会に関わる、ロンドールの仲間たち。
誰か一人欠けても、ここまで来られなかった顔ぶれだ。
〈よし……やるか〉
店内のざわめきが、少しずつ収まっていく。
俺は一歩前に出て、みんなの視線を受け止めた。
「みんな、今日は忙しいのに集まってくれてありがとう。
これから、炎の夜明け商会の全体共有会を始めるよ」
拍手と軽い歓声が、店内にふわりと広がった。
その音を聞きながら、俺は胸の奥でそっと決意を新しくする。
〈ガラワ組との約束も、みんなの暮らしも、絶対に中途半端にはしない〉
〈ここから先は、俺ひとりじゃなくて、みんなで作る会社にしていく〉




