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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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伝説のプレゼンと、揺さぶられた心

## 120話 伝説のプレゼンと、揺さぶられた心


【ガリレ視点】


……なんだ、さっきのは。


「俺はあなたのような人と一緒に仕事がしたいです」


あのガキ――ライムとか言ったか。

人は俺を見ると、まず身構える。

強面? 無愛想? 知るか。こっちは研究がしたいだけだ。

だが大抵の学生は、俺の前に立つと声を震わせるか逃げる。


なのにあいつは、臆することなく、まっすぐ正面から俺を見た。

丁寧に名乗り、礼までした。

あれくらいの年の子どもなら泣いて逃げるのが普通だろうに。


……くそ、胸の奥がざわつく。


俺の研究は、誰も理解しない。

理解どころか、見向きもしない。金にならんからだ。

仕方なく教員をやって食いつないでいるが……

本当は講義なんてどうでもいい。講義が終わればすぐ研究室に籠もる。

研究「だけ」をしていたい。


だが――

ライムは俺の研究に興味を示した。そして理解した。

さらに持論まで返してきた。


……あいつ、ただのガキじゃない。


「もっと話したい」と思った瞬間、壇上に呼ばれて行ってしまった。


その後、講堂に響くレノの声が耳に入る。


「本日は皆さんに炎の夜明け商会を知ってもらい、共に働きたいと思ってくれる人がいたら幸いです」


ふん……レノ=クルーガ。

あいつ、いや、あの姉弟は、俺が毎年「誰も解けないように」作っている自然哲学の難問を、唯一解いてきたやつらだ。

研究室にもよく顔を出しては、作業を手伝ってくれた。


そのレノが、あの商会に? ガキの商会に入ったのか?


壇上のクララが声を上げる。


「炎の夜明け商会はね! みんなが楽しく生きられる世界をつくるために、いろんなことをやってるの!」


……なんなんだあの子どもは。

あいつも俺を見て怯えもしなかった。しかもナンバーツー? レノじゃなくて?

それで「楽しく生きる世界をつくる」だの、「世界を変える」だの。


ふざけているのか。


……なのに。


胸の奥がざわ……っと揺れた。


なんだ、この落ち着かない感じは。


---


学生が手を挙げた。


「世界を変えたいというのは、どういう意味ですか?」


ライムの目が光る。

「待ってました」と言わんばかりに、準備していたみたいに前に出た。


「皆さん、今日はありがとうございます。

 炎の夜明け商会、代表人のライム=ハースです。質問ありがとうございます。

 俺から回答させてください」


まただ。

全員の目をまっすぐ見て、堂々と名乗る。


一体なんなんだこいつは。


「想像してみてください。

 朝起きると寒くて、ガチガチ震えながら薪に火を灯しますよね。

 もしそれがボタン一つで部屋が暖かくなったら?」


……は?


「想像してみてください。

 エステルから遠く離れた家族や友人に、何日もかけて会いに行きますよね。

 もしそれが数時間で、あっという間に会いに行けたら?」


何を言っているんだ。

そんな馬鹿げた未来があるものか。


だが――


その「馬鹿げた未来」を、俺は……

どこかで、ずっと夢見ていた気がする。


ライムは続ける。


「不便なこと。困っていること。『こうだったらいいのに』って誰かが思ってること。

 そういうのを、ひとつずつ見つけて、みんなで形にしていきたい」


胸が痛い。

何かが込み上げる。


俺の研究が、もし世の役に立つなら……

そんなことを思ったことが、何度あったか。


「俺が言ったのは、俺がこうだったらいいなって思うこと。

 みんなもこうだったらいいなって思うことがあったら、うちに来てよ」


こいつ……。


俺の胸の奥底――誰にも触れられたことがない部分に、手を伸ばしてくる。


さらにライムは笑って続ける。


「特殊技能の補足だけど、星を見るのが好きで軌道を全部知りたい! とか

 食べ歩きが好きで世界中の料理を食べたい! とか

 ミナみたいに〈絵なら負けない!〉とか。

 そういう人と仕事がしたいな!」


……もう無理だ。


心が跳ねた。

頭で考えるより先に、身体が動いた。


「お、おい!!

 学生ではない俺も……入れるのか!!」


講堂が一瞬で静まった。


俺自身、何を言ったのか理解できていない。

ただ――叫ばずにはいられなかった。


---


【ライム視点】


え、ガリレさん!?

ど、どうしたの!? なんで今!?


頭が追いつかず、完全に思考停止した。


そんな中。


クララが、いつもの調子で手を挙げた。


「うん!

 そんなことパンフレットに書いてないでしょ?」


〈あ、ありがとうクララさん。全く考えてなかったけどいいや〉

〈そして本質だけ刺すのやめてあげて、ガリレさん固まってるよ〉


レノがすっと話を引き取る。


「応募される方は、パンフレット記載の住所へ願書を提出してください。

 願書には名前、住所、志望動機、技能があればそれも記入の上、親の同意書を同封し、今月中に発送してください。

 書類選考を通過された方には、1月中に面接日程をご連絡します」


……後の流れ、全然考えてなかった。

やっぱりレノさん、ナンバースリー確定。


ヘイズさんが両手を叩いた。


「ええじゃろう!

 頼もしい若者たちに拍手じゃ!」


講堂いっぱいに拍手が広がる。


こうして――

エステル学舎での新卒採用プレゼンは、劇的な幕の閉じ方をした。


そして俺は見てしまった。


ガリレさんが、誰よりも真剣な目で、こちらを見つめているのを。


あの人の心に何かが灯ったのは、間違いない。


……もしかしたら、世界が動き始めたのかもしれない。

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