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燎が世界を照らすとき  作者: コンパス定規
1章 『灯火』
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17話 『現実は突然にやってくる』


「へぇーー、昨日はシレーヌさんとご飯に行ったんですか。へぇーー。」


 翌日、僕はマリーさんにつかまっていた。


「詳しく聞かせてもらおうかな?どういう経緯でそうなったのかな?」

「え、えっと、その‥‥。」


 ど、どうしたんだろうか。マリーさんの様子が最近おかしい。


「これはギルド職員として言っているんだよ。都市外部に出たときは、帰ってきたらすぐにギルドに報告!これは絶対でしょ。活動報告と被害報告、これは義務!」

「はい…。すいませんでした…。」


 言い返す言葉もない…。


「分かればいいんだけど。それじゃあ理由を聞かせてもらおうかな。」


 え、結局その質問に戻るんですか。


「カルナさぁーん。お待たせしました!」


 そこに聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 駄目だ。タイミングが悪すぎる。


「こ、こんにちは、シレーヌさん。」


 かろうじて挨拶はすることが出来た。だがその鋭い視線が僕を逃すことはない。


「すいませんが、シレーヌ氏、カルナ氏はいま私と話をしている最中ですのでお引き取りください。」


 そうマリーさんが満面の笑みを浮かべながら言った。女の人の笑顔ってこんなに怖いものだったっけ。


「それは絶対にギルド職員としてではなく、マリーさん個人として、ですよね!ギルド職員が公私混同していいんですか~?」


 最初は戸惑っていたシレーヌさんであったが、負けじと抗戦している。あれー、場をうまく治めてくれると思ったのに余計ひどくなってませんかね。

 このままでは言い争いは終わりそうにない。ここはひとつ僕が話題を逸らそう。


「あの、マリーさん。カテリナっていう戦士を知っていますか?」


 二人が同時にこちらを見る。怖い怖い怖い怖い怖い。


「なに、また別の女?」


 鋭い眼光が僕の方に向けられる。

 もうマリーさんのキャラがわからなくなってきたぞ。


「いやそうではないんですけど…。」

「冗談よ。ギルドとしても守秘義務があるから言えることには限りがあるけど少なくともカテリナという名前に聞き覚えはないわね。」

「そうですか…。」


 やはり師匠を知るものはいないだろうか。

 話題を逸らすつもりではあったもののこれはかなり知りたいことでもあった。師匠の詳細を知るものはいないのだろうか。

 そう思い、肩を落としていたその時だった。

 その人が僕の目の前に現れたのは。

 真っ赤に燃える炎が自然と連想されるほどに赤く輝いた髪と瞳。

 華奢な身体に程よくついた筋肉。

それはまさに美人を具現化したような顔つき。

 幼い時に助けられ、以降僕の目標となっていた人。

 師匠によく似た人がそこには立っていた。

 一瞬本当に師匠かと思った。

 だが、師匠と似ているようで全く違った。

 華奢な身体からは想像できないほどの威圧感。

 全てを軽蔑するかのような詰めた瞳。

 師匠にあった温かさがそこにはなかった。


「今カテリナって言った?」


 冷たく言い放たれる。その場にいる誰もが口をつぐんだ。


「氷の姫じゃねぇかよ、おい」


 あるひとりが口を開くと波が広がるように一気に伝播していった。


「まじか、氷の姫があのガキになんのようだ?」


 この人が氷の姫。急激に力をつけ、もうすでにBランクに到達している戦士。名前は聞いたことはあったが見たことはなかった。


「質問に答えろ。今お前はカテリナと言ったのか。」


 周りの視線など気にも留めずそう言い放つ。


「は、はい。」


 その威圧感に気後れする。


「なぜお前がその名前を知っている?」


 冷たい視線が嘘をつくことも言い逃れをすることも許さない。


「その、子供の時に、戦い方を教えてもらっていて…。」


 心なしか、この人がぴくっと反応したように思えた。


「なるほどな。ではなぜ今その名前を出した?」


 さらなる質問が飛び交う。


「いや、あの、こっちに来てから名前を全然聞かないので。一度会って挨拶をしたいなって。」

「ふっ。今のお前が会って何を言うというのだ?戦い方を教えてもらいましたが僕には才能が有りませんでしたとでも言いに行くつもりか。」


 目が見開かれる。この人は何を言っているんだ。


「お前、カルナというのだろう。適性もないくせにサポーターをしているという。」


 その言葉が心に刺さる。言葉の暴力は止まらない。


「はっきり言おう。迷惑だ。」


心が潰れそうになる。唇をかみしめる。言い返すことは出来る。だが言い返したところで何があるというのだろうか。

だがその言葉に反応したのは僕の隣にいた人だった。


「何を根拠に迷惑と言っているんですか!」


 いつも争いごとを好まないシレーヌさんが食って掛かる。


「足手まといにしかならんだろう、能力なしは。あろうことかこいつは戦士を目指しているようじゃないか。」

「それの何がいけないんですか!」

「無理だ。」

「…っ!」


 心に言葉の槍が突き刺さる。やめてくれ。


「無理じゃありません!実際に私は助けられました!戦い方だって教えてもらっています!」


 シレーヌさんが負けじと言い張る。やめてくれ。


「カルナさんは戦士になれます!」


 そう言い放つ。


「無理だ。才能のないものがこちらの世界にくることなど不可能だ。」


 必死の訴えも感情のない冷たい言葉で一掃される。


「そして、お前はそいつに教えを乞いていると言ったな。恥というものを知らないのか?」

「なっ⁉」

「能力を授かったものが能力を授かることのできなかったものに教えを乞うなど恥以外の何でもないだろう。そもそもその行為自体がお前を弱くたらしめている。」

「そんなことないです!」

「では、お前に聞こう。どうだ?お前はどう感じる?」


 その視線が僕に向けられる。口が凍ったように開くことが出来ない。


「本当は気付いているのでなないか?もうこの少女に勝てないと。」


 はっとする。


「やはりな。気付いて、それでもお前はこいつを手放さなかった。恋でもしているのか?どちらにしろそれこそ迷惑というものだろう。」


 目を逸らしていた現実を叩きつけられる。


「お前がこいつの師匠である限りこいつは弱者のままだ。」


 そんなことは分かっていた。それでも彼女の力になりたかった。


「やはり、あいつの弟子というだけあるな。本当にはた迷惑だ。」


 その言葉で今までなかった感情があふれ出てくる。頭に血が上る。


「…それは師匠のことをいっているんですか?」


 そこで初めて口を開いた僕に対して多少驚いた様子を見せながらもすぐにその凶器が猛威を振るう。


「それ以外に誰がいる?お前の師匠がお前に夢を、希望を与えさえしなければお前は叶いもしない夢をおうことはなかった。お前の師匠は才能のないものに一時の希望を与え、お前は強者になりうる可能性をつぶそうとしている。どちらも本質は一緒だ。」

「どちらも偽善だ。」


 感情のボルテージがマックスになる。


「師匠のしたことは偽善なんかじゃない!実際に僕が救われた!あの人は本物の戦士だ!」

「本物の戦士?ではお前にとっての戦士とはなんだ?」

「そ、それは…!」


 戦士とは。

 この問いに答えなければならない。師匠を侮辱されたままでいいわけがない。それでも答えることが出来なかった。僕にとっての戦士ってなんだ。


「答えることが出来ないのか。それで戦士を語るか。戦士とは、モンスターを倒す者のことだ。それ以外に何もない。人を助けることなどそのおまけでしかない。」


信じられなかった。本気で言っているのかこの人は。


「信じられないという顔だな。では弱者をかばったために本来倒せるべき相手にやられたとしたらどうする?本当ならもっと救えていた命を結果として救えなくなるかもしれない。」

「だとしても、そうだとしても…!救わなきゃいけない。そこに救える命があるのなら救わなきゃだめだ…!」

「そんなことを言って死んでいったんだ。お前の師匠は。」


 一瞬息が止まる。


「今、なんて…?」

「何度でも言ってやる。お前の師匠、カテリナは死んだ。正確に言えば臓器は動いている。だがもう目を覚ますことなない。」


 嘘だ、嘘だ、嘘だ。


「ある駆け出しの新人を守ってそうなった。決して勝てない相手ではなかった。だが、弱者が足を引っ張った。」


 嘘だ、嘘だ、嘘だ。


「お前もそうなりたいか?」

「お前が戦場に出れば確実に死ぬ。お前が死ぬ分にはまだいい。最悪なのはお前をかばって誰かが死ぬことだ。誰が犠牲になる?お前の弟子か?お前に何ができる?人には限界がある。それを超えるために与えられるのが能力だ。それを与えられなかったお前が戦士になることは不可能だ。」


 そう冷徹にその人は告げる。そうだ、何も間違っていない。

 今まで誰もが頭ごなしに否定してくるだけだったが、この人はちゃんとした論理を持って否定してきた。

 もう無理だ。

 なによりこの人がこの姿で、師匠と瓜二つの姿で告げてきたという事実が心を滅多打ちにした。

 その人は赤い髪をたなびかせながら立ち去っていく。立ち去り際に、よく考えるんだな、そう告げてきたが耳には入らなかった。

 シレーヌさんとマリーさんが何か言っている。恐らく励ましてくれているのだろう。だがその言葉も耳に入らない。

 僕は俯くことしかできず、その場に立ち尽くしていた。


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