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燎が世界を照らすとき  作者: コンパス定規
1章 『灯火』
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16話 『きっと彼女は誰よりも素晴らしい』


「あんな技見たことないですよ。あるならちゃんと言ってください!」


 シレーヌさんは怒ったように、またわくわくしたようにも聞こえるように僕にそう言った。


「手の内は隠しておくものです。」


 僕らは修行が終わった後、一緒に食事を食べていた。

 場所は少し高級そうなレストラン。

 最近のシレーヌさんの成長もあり、こなせるクエストも増えたため、収入が増えたので、二人で普段は来ないような店に入ってみた。


「それにしてもこんないいところでご飯なんて久しぶりです。」

「僕は初めてかなぁ。」

「料理もすごくおいしいですよ⁉」

「本当だ。すごいおいしい…。」


 二人とも普段は来ることのない優雅な雰囲気に最初は少し戸惑いがあったものの、今では興奮が止まらない。

 というのも、ここイスファンには世界最大のギルドがあるため戦士たちが多く集まっており、このレストランの客も過半数以上が戦士たちであった。

 その結果、高級そうな雰囲気はあるもののどこか戦士たち特有の賑やかさがあり、ギルドに近い雰囲気になっていた。

 まぁ僕は幼少期を田舎の村で過ごし、巨大都市に来てからもサポーター業に明け暮れていたためにこのように高級料理というものには全く縁がなかった

だからまずメニューを見た最初の感想は「聞いたこともない料理名が書かれている」であり、その値段を見た時にはめまいがしそうだった。

 それにくらべ、シレーヌさんはメニューを見た途端、子供のように目を輝かせ、かと思ったら料理が運ばれ、実際に食べるときにはその子供っぽさが消え、優雅な立ち振る舞いをしていた。

 その姿は神秘的な雰囲気を漂わせており、誰が見ても見惚れてしまうほどの美しさだった。

 前から思っていたが、シレーヌさんはどこかの国の貴族なのかもしれない。


「あの…、そんなに見つめられるとさすがに恥ずかしいんですが…。」

「ご、ごめんなさい。」


 やってしまった…。

ついいつものシレーヌさんからは想像もつかないほどの洗礼された振る舞いに見とれてしまっていた。

僕は誤魔化すように並べられた料理を口に放り込む。


「ゴホッゴホッ」


 慌てて詰め込んだせいでむせてしまった。

 その様子をシレーヌさんはおかしそうに笑いながら、水を差しだしてくれた。

 どうやらこの場ではシレーヌさんが師匠で僕が弟子らしい。そんなことを思いながら楽しく食事を進めた。


「あの、カルナさんはどうやって戦い方を身につけたんですか?」


 食事も食べ終え、ゆっくりとしていると不意にシレーヌさんが訪ねてきた。


「えっと、子供のころに師匠に教わって、あとは実際のモンスターとの戦闘で学ぶみたいな感じかな。」

「前から思ってたんですけど、その師匠って誰なんですか?」


 シレーヌさんはすごい目を輝かせている。自分の師匠が誰に教わっていたのか気になるのは当然なのかもしれない。

 実際僕も師匠がどうやって強くなったのか多少興味がある。今度会えたら聞いてみよう。

 だが僕はそれをシレーヌさんに話せるだろうか。


「えーと、どこから話せばいいのかな。」


 僕は迷っていた。

 シレーヌさんにこの話をしていいのだろうか。

 師匠との出会い。

 他人に過去を話すということは、自身の過去ともう一度向き合うということ。

 あの出来事に、あの忌々しい過去ともう一度向き合う覚悟が僕にはあるのだろうか。


「あの、ごめんなさい…。嫌なこと聞いてしまったみたいで…。」


 僕はひどい顔をしていたらしい。

 そんな僕を見てシレーヌさんは少し戸惑い、それと同時に申し訳なさそうにしていた。


「いや、全然大丈夫です。師匠についてですよね。」

「無理しなくて大丈夫ですよ。顔色もあまりよくないですし、思い出したくなければ…。」


 やはり、気を遣わしてしまっていたようだ。でも師匠のこと自体に思い出したくないことはない。

 むしろ一応は僕の弟子となっている彼女にも僕の師匠のことは知っておいてほしい。


「いえ、本当に大丈夫ですよ。僕の師匠の名前はカテリナっていうんだけど。師匠には子供の頃の約半年間お世話になったんだ。その間に、剣技とか、戦い方を教わったんだ。」

「カテリナですか…。聞いたことないですね。」

「そーなんですよね。でも!師匠は本当に強いんですよ!なんど殺されかけたか…。」


 僕は必死に師匠の凄さを伝えようとした。


「それはカルナさんの戦いぶりを見ていれば分かりますよ。それにしても不思議ですね…。それだけ強いのなら名が広まっていてもおかしくないのに。」


 それは僕も思っていたことだった。

 僕が当時とてつもなく弱く、過去の記憶が過度に見えていたとしても、それを抜きにしても師匠の強さは本物だったように思う。

 それにもかかわらず、師匠の名を知っている人は一人もいなかった。

 この都市を訪れ、多くの人に師匠のことを尋ねてみたが誰も知っている人はいなかった。

 それは不自然なことだった。


「それは僕も思っていました。師匠の強さなら誰もが知っていてもおかしくないとおもうんだけど…。」

「そのカテリナさんってどんな人だったんですか?」

「師匠はとても厳しい人だった…。僕なんかとは比べものにならないほどに…。」

「あはははは…。」

「でも、それと同時に強く、優しい人だった。」


 僕は誰かに話したかったのかもしれない。

 適性に恵まれず、能力を授かることが出来なかった僕にも、師と呼べる存在がいて、その人みたいになりたい、と思っていることを。

 僕は誰かに聞いてほしかったのかもしれない。

 自身の師がどれほど偉大で、どれほど強かったのか。

 そして、誰よりも戦士であったということを。

 そこから先は僕が一方的に話す感じになってしまった。

 時間を忘れ、ひたすらに師匠のことを話した。師匠の強さ、厳しさ、人柄など今まで誰にも言えなかった、語れなかった僕の憧れをただひたすら話した。

 それでもシレーヌさんは僕の話を最後まで楽しそうに聞いてくれた。

 人との会話がこれほどまでに楽しいと感じたのはいつぶりだろうか。話し終わるころにはあたりはすっかり暗くなり、夜の賑やかさも終盤に近付いているようだった。




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