18話 『神は何でも知っているのだろうか』
あたりはもう暗くなっていた。
あの一件のあとクエストをこなそうとしたが、そんな気にもなれず、すぐにシレーヌさんと別れ、あてもなく歩いていた。
イスファンの町は夜であろうと関係なく盛り上がっている。豪華な装備をつけた戦士や逆に素肌を見せつつもその屈強な体つきで数多の死線を超えたであろうものたちが酒を飲み、自身の冒険譚を語り盛り上がっている。
その戦士の周りにはマリーさんにも負けないくらい容姿が整った女性たちが晩酌をしている。
「少年!どうした!そんな暗い顔をして!」
そんな景色とは対照的な表情で歩いていると熱く燃え上がるような声で話しかけてくる人がいた。いや、その方はひとではなかった。神である。
全身を白いローブで覆い、赤い瞳が特徴的で整った顔つきに燃え上がる炎のような髪形をした男神である。
「フ、フレア様⁉」
思いもよらない方に話しかけられ素っ頓狂な声が出てしまった僕をフレア様はおおきくわらった。
「ははは!なんだ、大きな声が出るではないか!人生明るく生きなきゃ損であるぞ!」
「フレア様、お待ちください!あなたは一人で出歩くとすぐに迷子になってしまうんですから!何度言えば…、あ、これは見苦しいところを見せてしまいました、すいません‥。」
そう言って僕たちの方にちかづいてくるのは一人の女性であった。
「おう、ユーリ!そんな心配は無用であるぞ!なぜなら私は迷わないからだ!ははははははははははは!」
ユーリ・フレデリカ。
トップクラスの戦士。
装備は軽装で長く伸びた黒髪を後ろで束ねているヒューマン(いわゆる、ごく一般的な人間)である。容姿は整い、美女と美少女のちゅうかんくらいであろうか。
だがそれ以上に驚くべきなのは、
「Aランク…。」
「あのねぇ君、人を見てまずランクを指摘するのって失礼じゃない?」
「す、すいませんでした!」
僕よりも遥か彼方にいる彼女に怒られれば尻込みするしかない。
「まぁまぁ、お前がそれだけ有名になったという証拠でもあるのだぞ?」
笑いながらフレア様が仲介に入る。
「それはそうですが…、じゃああなたも名前をなのってもらっていい?知ってると思うけど私はユーリ・フレデリカよ。ユーリでいいわ。」
「カルナ・シグルドです…。」
僕は戦士には名乗りたくなかった。別に自分の名前が嫌いだとかそういうことではない。
「カルナ…、どっかできいたことがある名ね‥。あなた、なにをしてるの?」
この質問が嫌なのだ。「なにをしているの?」という質問が今ではなく、職業を聞こうとしていることくらいわかる。
「サポーターを…。」
「どうしてそんなに恥ずかしがるの?サポーターって素晴らしい職業なのよ?」
そうではない。僕はトップクラスの戦士の前でサポーターという職業を打ち明けることを恥じているのではない。恥ずかしいのではない。怖いのだ。次の質問が。
「あなたの属性はなんなの?」
この質問である。そしてその返答の先にまっているであろう現実である。
「ぞ、属性はありません…。その‥、適性がなくて…。」
この返答を聞いたユーリさんは理解できないような顔をしていた。
「属性がない?何の能力もつかえないってこと?」
「…はい…。」
ユーリさんはサポーターであるぼくにその重要性を説くことから、今の状況が如何に危険かということを説得しようとした。
「何の力もない生身の状態であの怪物たちの前に出ていける勇気は認めるわ。でもね、モンスターっていうのは本当に危険なの。ゴブリン一体くらいならあなたでも倒せるかもしれない。でも集団できたら?それだけじゃない。本当に何が起こるかわからないのよ?」
叩きつけられる現実。低ランクのクエストですら何度も死にかけた。トップクラスに分類されるAランクの戦士がいうのだから間違いない。
でも、それでも…、
「僕は人を守りたいんです…。希望になりたいんです…。」
この想いは折れそうなところで折れなかった。
「だからそれは…!」
「まぁまぁ、落ち着き給えよ、ユーリよ!
少年!その覚悟は認める!いつか力を得るかもしれん!だが現実からはにげるなよ!」
どきりっ、とした。現実から逃げている。その通りだ。だけど、だけど・・・!
「私たちはこれで帰る!それでは少年!また会おう!」
そう言いながらフレア様は歩き出していた。
「待ってください!迷子になります!
…フレア様はああいってたけど私は反対だから。それじゃ。」
待ってください!とユーリさんの声が遠のいていくなか、ぼくは一人立ちすくんでいた。
◇◇◇◇◇
「どうしてあんなことをいったんですか?」
ユーリは自らが最も尊敬し、敬愛している男神に質問した。
「あんなこととは一体なんのことだい⁉」
相変わらず熱く情熱的にフレアは返答をした。
「あの少年、カルナにです。いつか力を得られるなんて、そんなの言い伝えでしかありません!本当に少年のことを考えるならば現実を見せるべきです。そうじゃないと本当に死んでしまいますよ⁉」
「…‥。」
いつもは何を言われても訳のわからない論理で言いくるめるフレアが何も言わないので、ユーリは不審におもった。
「フレア様…?」
「そうだな…、だがあの少年には可能性があった。誰も信じず、現代ではもはや言い伝えとしか思われていない可能性に懸けているのだ。その身を犠牲にしてな。いかにもあの女神がすきそうではないか。」
いつになく真剣な表情で語るフレアを見てユーリは戸惑いを覚えていた。
「まぁ、それにしても!会ったばかりの人間にそこまで真剣になれるとは!本当に優しいな!ユーリは!」
「そ、それは…!」
「ははははははは!」
フレイが茶化すとユーリは先ほどのフレイの真剣な表情を忘れ、顔を赤らめた。




