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謎と黙示のスクランブル・5終

魔法のスクリーンの前で――昼食を挟んで、更に検討が続いた。魔法使いのガッツってすごい。


「ルーリーは、真昼の刻に、こちらに出現していたのじゃな?」


バーディー師匠が、早速ピンと来たようだった。バーディー師匠が手持ちの魔法の杖を振ると、魔法のスクリーンに、あの『大天球儀アストラルシア』が浮かび上がる。


三次元の球体は、二次元平面図として展開された。そこに、ディーター先生が、魔法の杖で更に操作を加えた――『大陸公路』の地図が重なる。


――天球の星々のマップと、地上の国々のマップが重なり合うのは、不思議な眺めだ。


天球軸の回転に沿って何回かクルクルと回り、スライドした後、『当時』の状況の図となって来たらしい。


「ルーリーが出現した前後の時刻が此処になる」


ディーター先生が、そう言いながら、魔法スクリーンに展開されていた動画を停止させた。


ウルフ王国では、昼日中の刻だ。


わたしが『昼の星』だと思っていた白い星は――


本当に真昼の時を刻むエーテル天体だった。昼の《銀文字星アージェント》。夜だと銀白色の光を放つ天体。昼日中の間は、光の加減で、うっすらとした白い星に見える。非常に稀な出現をするエーテル天体で、占術的には曖昧な意味合いしか与えられていなかったらしいけど。


――レオ帝都では日没の間際の刻。太陽が西の地平線に接触している。


その瞬間、東雲の《暁星エオス》の刻を迎えていたのは――竜王国。


竜王都から少し離れた平原エリアの真上に、あのラベンダー色をした謎のエーテル天体、《暁星エオス》が出ているのが、わたしにも見て取れた。


バーディー師匠が不思議な銀色の目をきらめかせて、レルゴさんを鋭く見やる。


「我が友レルゴ殿よ、竜王国でもバースト事故があったのでは無いか? この間、通過した国境の市場で、何やら、そんな事が噂になっておったがのぅ?」


レルゴさんは再び、茶色のタテガミをガシガシとやり出した。やがて、目がパッと大きくなってギュッと細められた。思い当たる事があったみたい。


「あぁ、平原にある大型の転移基地のひとつが、いきなり『大天球儀アストラルシア』の地図から消えたんだ。新しく竜王国に入国する隊商の奴ら、迂回ルートを回らなくちゃいけないとかで、ぶうぶう文句を言ってたぞ。大物クラス竜人の英雄将軍ラエリアン卿が何かして、転移基地が消し飛んだという噂だったんだが……ありゃバースト事故だったってのかよ?」


バーディー師匠が重々しく頷いた。


「あらゆる、とんでもない可能性を考慮に入れた方が良かろう。こういう類の事象が起こる瞬間というのは、同時多発で奇妙な出来事が同期するものじゃよ。昔の人類は『シンクロニシティ』とも『引き寄せ』とも言っておったがの。カオスとフラクタルの芸術と言うべき宇宙の、謎めいた表現のひとつじゃ」


ディーター先生が、わたしの方を注意深く眺めて来た。


「ルーリーが此処に現れる前、《雷攻撃エクレール》魔法を食らったのは確かだろう。その他に、何か覚えている事はあるか? 奇妙な光景を見た、感触があった、というような」


わたしは、しばらくの間、思案してみた。あの時、雷雨の嵐の他に、何かあっただろうか?


あると言えば、あるような気もするけど……


「えっと、雷雨で転がされている最中に、大きなショックがあったみたいな事は覚えてます。それで気絶したみたいで……気が付いたら、あの噴水広場の所……でしたけど?」


アシュリー師匠が、不意に眉をひそめた。


「元が《風魔法》でも《水魔法》でも、エーテル時空の穴の中で、大きなショック――それも気絶する程に強いショックが来るというのは、有り得ないわ。そんな種類の誤作動が普通に起きていたら、転移魔法による長距離の輸送ネットワークは、成り立たない。《変身魔法》だって、浅くエーテル時空の穴を掘って発動するのに」


バーディー師匠が、「誤作動があったのかも知れんぞ」と、応じた。


「重要な天体が、特別なホロスコープ配置にある。《暁星エオス》と《銀文字星アージェント》、それに太陽が――更には闇黒星《深邪星エレボス》もが――正確な『合』と『交差』を成す状況下で、2つのバースト級の事故が共鳴したのなら……」


バーディー師匠の言葉が途切れた。でもそれは一瞬だけだった。


すぐにバーディー師匠の『魔法の杖』が、魔法のスクリーンを指す。


すると、魔法のスクリーンに映し出されていた内容が変わり、数多の導線を持つ《風》の転移魔法陣と《水》の渦巻魔法陣が、1セットずつ描かれた。それに付随して、主だったエーテル天体の作用導線が重なった。


見る見るうちに、多種類の大小の転移魔法陣とメモが次々に浮かび上がり、『正字』で組まれた図式が展開する。


特に異様なのは――大小の転移魔法陣に重なって、限界近くまで大きく揺れ続ける砂時計が、点滅しつつ出現している事だ。


恐ろしく複雑な図面だ。しかも展開が、極めて高速だ。


――と言う事は、バーディー師匠のシミュレーション計算の速度は、とんでもなく速いって事。やっぱり、鳥人の脳みそって特別製だ。それにしても、さすがベテラン大魔法使いの実力。


ディーター先生とフィリス先生と、アシュリー師匠が、ギョッとして目を剥いている。レルゴさんは訳が分からない様子で、ポカンとしている。


バーディー師匠が思案深げに呟き出した。


「逆算が正しければ、このエネルギー量は凶星《争乱星ノワーズ》の爆発――超新星――が関わっているとしか思えない。竜人の《宿命図》と獣人の《宿命図》は構造が違うから、正確な所は何とも言えないが。偶然か必然かはともかくとして、記憶系列の破壊に続いて《紐付き金融魔法陣》を全て焼き切るのに、充分なエネルギー量じゃよ」


――この、大揺れし続けている砂時計は、いったい何?


そんなわたしの疑問に対して、バーディー師匠は複雑な笑みをしながら回答を出して来た。


「流入エネルギー量が大きすぎるのじゃよ。この転移ルートは、巨大エネルギーを解消して世界のバランスを戻すために、恐らく幾つもの分岐に分かれておる。分岐の中には、数年後の未来に直結している物も、恐らくは出ているじゃろう」


――タイム・トラベルですかッ?!


「竜王国でも、大型の転移魔法陣がバースト事故を起こしたのは確実じゃ。そこから流れて来たのは、まさに爆発するタイミングの《争乱星ノワーズ》相を持っていた竜人に違いない」


竜人の《宿命図》は、爆発直前の《争乱星ノワーズ》相を抱えている事がある。今では非常に珍しいケースだけど、昔、上級魔法使いレベル同士の『呪い合戦』のような事があった時、人工の《争乱星ノワーズ》相が関わる事例が相当数、見受けられたそうだ。


そして、その《争乱星ノワーズ》相は、壮絶なまでの大容量エーテルを吸い込んで活性化する闇黒星でもある。《争乱星ノワーズ》相が活性化すると同時に、竜人はバーサーク化する。文字通り、巨大災厄をもたらす竜体――狂竜となって荒れ狂うのだ。


そうなった場合、同族である竜人に討伐されるのみというケースが、ほとんどだ。人工の呪いによってもたらされる、望みもしなかった運命。理不尽な死。


もし、そんな大凶星が、その竜人の《宿命図》から追い出されて、大型の転移魔法陣がバースト事故を起こすためのエネルギーとなったのなら……


「その竜人が、混乱する程の未来の時空に出ていない事を祈るしか無いのぅ。先方にも恐らくは、正式名の破壊と、全面的な記憶喪失が起きたじゃろうからな。ルーリーを襲った《雷攻撃エクレール》魔法の大部分は、この見知らぬ竜人が引き受けた筈じゃ。髪の色が真っ白になっているくらいのダメージも、あるじゃろうな」


――うわぁ。色々、綱渡りだったんだ。


わたしにはサフィールとしての記憶は全く無いけど、何だか申し訳ない気がする。


最悪のタイミングで、わたしがやらかした魔法の暴発のせいで。この見知らぬ竜人も、わたしと同じくらい、或いは、それ以上に、ボロボロになったんじゃ無いだろうか。


顔を伏せて色々考え込んでいると、バーディー師匠が苦笑しながら、『炭酸スイカ』カラーな頭を撫でて来てくれた。


「こういう事は、すべて天球の彼方の領域じゃ。《宿命》と《運命》は、常に我々の想像を超えている。昔の人類は、こういう事を総じて『神』と解釈していたそうじゃがのぅ。《銀文字星アージェント》は『幸結ぶ星』とも言われとるからな、死境からよみがえって来た事を今は喜ぶべきじゃし、見知らぬ竜人にも幸あらん事を祈るのみじゃよ」

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