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ささやかな突破口

一段落した後、わたしの頭部の『呪いの拘束具』を、改めて調査する事になった。


異様なデザインの金属製のヘアバンドみたいなスタイルなんだけど、今は毒々しいまでに真っ赤な『花房』付きヘッドドレスが一体化していて、訳が分からない事になっている。わたしの髪を、不気味な蛍光黄色と蛍光紫のマダラに変えた代物でもある。


以前、ディーター先生が『マイスター称号を持つ大魔法使いじゃないと覚束ない』と言ってたけど……


どうなるんだろう。ドキドキ。


魔法のスクリーンには早速、ディーター先生が『門番の透視魔法』でスキャンしていた結果が表示された。バンドに施されていた彫刻は、驚くほどに緻密な物だった――あの分子レベルの多殻構造が見えている。


この緻密な構造は、バーディー師匠とアシュリー師匠を驚かせた。


「ディーター君、よく此処まで気付いて、しかも詳しく調べ上げたわね。いずれ大魔法使いの会議で、『マイスター称号』を推薦しても良いくらいよ」

「立て続けに5本も論文が出たから、何があったのかと思ったぞよ。この導線が3本目の論文のヤツじゃな。《宿命図》に干渉して、魔法感覚の機能不全を起こす呪術……成る程のぉ」


バーディー師匠は、意味深な顔でわたしを振り返って来た。


「此処に出現した直後は、ルーリーの魔法感覚は生きておった筈じゃが。確か、『昼の星が見えた』とか言っとったのぅ」


――あ。あの謎のエーテル天体。


そう言えば『殿下』の《地魔法》……楔型くさびがたのナイフが、砂のようになって蒸発するというビックリな所も、見えてた。もし、魔法感覚が生きていなかったら、あの投げナイフは、ジワジワと、別次元に飲み込まれて消えて行くかのように見えたかも知れない。それはそれで、オカルトでミステリーな眺めだっただろう。


ディーター先生が溜息をつきながらも、説明を加えて来た。


「実は、バーディー師匠。地下牢で、その拘束バンドを魔法的な意味で外すという試みがあったのです。最初、ルーリーは暗殺者として地下牢に放り込まれていて、拷問……いや、尋問を受ける手筈になっていた。その前準備として、その拘束バンドを外す事になっていたので……」


不意に、地下牢での記憶が思い出されて来た。


――あの時。確か、クレドさん、警棒をかざして来たんだよね。それが淡く光ったかと思ったら、急に拘束バンドが頭を締め付けて来て……


アシュリー師匠が顔をしかめ、バーディー師匠が訳知り顔で頷いた。


「それで、この導線が活性化したのじゃな。ディーター君が断線に成功しているが、今でも活性化中と言う事は……エーテルの光と色が感知できる程度の、初歩的な魔法感覚しか機能しておらん筈じゃ。ふむ……日常魔法レベルのエーテル量だけで、魔法陣が稼働するようになっておるのぅ」


そこで、レルゴさんが口を挟んで来た。


「此処まで精密な多殻構造――それも大抵の衝撃に耐える代物となると、これを作れるのは《地魔法》に長けた竜人くらいじゃねぇか?」


ディーター先生とフィリス先生が、興味深そうな顔をした。


今、竜王国と獣王国とは交渉が薄い状態が続いているんだよね。目下、竜王国は内乱地獄で近づきにくい状態だ。敢えて入国しようとするのは、命知らずの隊商たちや、工作員を兼ねた魔法使い、そして、忍者としての任務にある特殊な学生たちくらいだろう。


レルゴさんの話は続いた。


「ここ最近、私が商売してる魔法道具の業界で流れている噂なんだが。竜王国の上級魔法使いレベルの技術者が闇ギルドに多数入っていて、軍資金を稼ぐために、方々で精密な魔法道具を作って取引してるらしい。その拘束バンドのような逸品が、マネーさえ積めば手に入るって話だ。もっとも、その竜人の属している闇ギルドへのツテが無いと、直接の入手は困難だが」


レルゴさんは、茶色のタテガミを、再びガシガシとかきむしった。こうすると思い出しやすくなるらしい。


「竜人の作る合法の魔法道具で、冒険者ギルド向けの特殊な水浄化装置がある――その水浄化装置の心臓部が、多殻構造だって聞いた事がある。元々、竜王都が『魔の山』にあるだろう。上水からの魔物成分の除去が必須で、退魔樹林やアーヴ種の浄化能力だけじゃカバー出来ないもんだから、強力な水浄化装置のテクノロジーが発達したそうだ」


――へぇ。そんなのが、あるんだ。『必要は発明の母』っていうけど、スゴイ技術じゃ無いかな。


レルゴさんは不意にタテガミをかきむしるのを止めて、ピンと来たような顔になった。


「体内からバーサーク毒のみを除去して急速排出する医療用の魔法道具を、開発してるという話もあった。試作品プロトタイプは、もう出来てるらしい。これが製品化したら、バーサーク化した連中を、もっとずっと早く正気に戻せるようになる筈だ。今朝、仕入れたばかりの情報でな、話そうと思ってたけど忘れてたよ。竜王国の内乱地獄が落ち着けば、その製品も手に入れやすくなるだろう」


新しい医療器具――それも画期的な新製品って感じだ。ディーター先生とフィリス先生のウルフ耳が、ピッと立っている。


バーディー師匠が、感心したような笑みを浮かべた。


「実に有用な情報の宝庫じゃのう、レルゴ殿。まさに今、レルゴ殿は、この拘束具のミステリーを全て解いてしまったぞよ。真っ赤な『花房』のミステリーを除いて」

「はぁ?」


魔法使いでは無いレルゴさんは、ピンと来なかったみたい。わたしも全然、分かって無いんだけど。


アシュリー師匠がディーター先生とアイ・コンタクトしつつ、解説してくれた。


「日常魔法レベルの余波のエーテル量さえあれば、拘束具に仕掛けられた魔法陣は、ほぼ半永久的に稼働し続ける。竜王都の水浄化装置が、除去した魔物成分を再利用エネルギー源として、ほぼ半永久的に稼働するのと同じ。ディーター君が魔法陣の影響を弱めたにも関わらず、今でもルーリーの魔法感覚が復活しないのは、そのせいよ」


――ううむ。夢の永久機関みたいだなあ。微小構造を持っているから、微小なエネルギーだけで、各種の魔法陣がちゃんと稼働しちゃうって事なのか。不気味なくらいに、ハイテクな魔法道具だ。


「この微小な多殻構造が、魔法パワーを除去して、無効化してしまうのね。拘束具が絶対に外れてくれないのも、そのせい。外すために注がれた魔法パワーも、逆に、より一層、頭部に固着するためのパワーに変えてしまう」


――うわあぁぁ。ますます凶悪な魔法道具だ。日常魔法レベルのエーテル量だったら、しょっちゅう空中を行き交っている筈だ。それじゃ、一生、外れないって事?


口をアングリしたわたしを、アシュリー師匠は思案顔で眺め始めた。


「非常手段なら、あるわ。この拘束具は、大容量のエーテル魔法には対応していないの。この多殻構造でさばけない程の大容量のエーテル魔法となると、上級魔法使いレベルの物になるけど、ルーリーは元・サフィールだった頃と同じように、大容量のエーテル魔法を扱える筈よ。『魔法の杖』さえ、手元にあれば」


フィリス先生が難しい顔をしながら、首を傾げた。


「アシュリー師匠。あの日、ルーリーの『魔法の杖』は、現場周辺を探しても見つからなかったそうなんですが」

「それでは、この辺り一帯を改めて探さないといけないわね。《盾使い》の『魔法の杖』は、特別なのよ。非常に『重い』から、普通の魔法使い用の物では対応できないわ。特製注文でも時間が掛かってしまうし」


一難去ってまた一難。


でも、どうやら、解決手段は見つかったみたいだ。


わたしの本来の『魔法の杖』は、いったい何処にあるのか――

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