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持ち込まれて来た奇妙な噂

ヒルダさんの相談が、一区切りついた。


フィリス先生とチェルシーさんとヒルダさんは、食後のお茶を飲みながら、古代のアンティーク宝飾品についての魔法的な知識や専門的な知識を、ひとくさり交わした。


古代から中世の魔法道具は、特別な宝玉を仕込んで加工するのが多かったそうだ。特別な宝玉には魔法パワーを大量に溜め込む性質があり、現在でも魔法道具の製作に多く用いられている。


特に『魔法の杖』の加工技術が未熟だった古代の頃は、『魔法の杖』と言えば、多種類の宝玉をセットした『宝玉杖』だった。


当然、古代においては、宝飾技術の限りを尽くした『宝玉杖』すなわち『魔法の杖』は、とんでもない希少品であり、高額商品だった。


モンスター狩りにしても、『人体』と『狼体』を縦横に駆使した物理的な戦闘技術がメインだった時代なのだ。古代は魔法使いが非常に少なく、王国に1人、2人というレベル。当時はむしろ、賢者ないし占術師として重用されるケースが多かったらしい。


記憶喪失のせいで、内容の理解は半分にも及ばないものの、興味深い内容だ。わたしは耳を傾けつつ、昼食後のお茶をゆっくりと一服した。


そうしているうちに、一刻ほど、時間が経ったみたい。


授業を終わらせたと思しきメルちゃんが、同年代の女友達2人とスキップしながら中庭広場をやって来た。ちょうど、見習いの子供たちの授業が終わるタイミングだったらしい。同年代の男の子たちの姿も、ワッと出て来ている。


今わたしたちが居る噴水の傍は、中庭広場の中央部にあるので、中庭広場に並ぶ商店街が、だいたい見渡せるんだよね。


メルちゃんと女友達がクルクルしている様子は、見てて飽きない。チェルシーさんもクスクス笑いながら、そっと観察している。


少女たちは、如何にも少女趣味な衣料店や雑貨店を次々にのぞいているところだ。


やがて、少女たちはキラキラした店構えの陳列棚に並べられていた、色とりどりのヒラヒラ・リボンを夢中でのぞき込み始めた。お小遣いで買いたい商品が決まったみたい。


メルちゃんは『やっぱり』と言うか、ピンク色のリボンを選んでいる。でも、ちょっと緑や青の模様入りの品を選んだところは、少しずつ趣味が広がって成長して来たと言えるかも知れない。


少しして、メルちゃんが、わたしたちに気付いた。目がキラーンと光る――や否や、メルちゃんは不思議な行動を取ったのだった。


メルちゃんを含む3少女たちは、あらかじめ何らかを打ち合わせてあったらしく、いきなり少年の集団の1つを追いかけ始めた。


さすがウルフ族と言うべきか、子供たちも俊足なんだよね。買ったばかりの色とりどりのヒラヒラ・リボンが、吹き流しよろしく流れる様は、なかなかの見ものだけど……


少しの間、少年たちと少女たちの間で、「何だよ」とか「約束でしょ」とかキャンキャン言い合いが始まる。でも、すぐに了解が成り立った様子だ。


メルちゃんを含む少女グループ3人は、少年グループから2人ばかり男の子を引っこ抜いて、こちらに駆け寄って来た。


「フィリス叔母さん、超・ビックリな話があるんだよ!」


――あ、やっぱり何か打ち合わせてたんだ。何だろう。フィリス先生も結構ビックリしている。


少女たちはキャワキャワと話し出した。


「昨日、タイストって人が死んだって言ってたでしょ」

「黒髪の、如何にもヒキコモリ研究者なボワッとした髪型の」

「ケビン君の従兄弟の兄ちゃんの伯父さんが、その髪型で思い出した」

「それが、タイストって人のビックリな、ヤミのオタク趣味ってヤツでね」

「ホラ、ケビン君、話しなよ」


ケビン君と呼ばれた金髪の男の子は、言いにくそうにモジモジしていた。引っ込み思案な気質みたい。付き添って来ていた黒髪の男の子が、「フィリス先生だったら大丈夫だから、話しておけよ」と急かしている。


タイストさんの名前が出て来た事で、ヒルダさんがギョッとしていた。落ち着いた風を装ってお茶に口を付けてるけど、ウルフ耳がピコピコしてる。フィリス先生と子供たちが、話し合いのために少し距離を取ったけれど、そこへ向かって、全力で耳を傾けているところだ。


――ボウガン襲撃事件に関連のある事だろうか。でも、子供が持って来るような情報なんて……?


ケビン君が明かした事は、実に奇妙な内容だった。


「ボクの伯父さん、盛り場のランジェリーな『ミラクル☆ハート☆ラブ』ってお店のテーブルクロスとかカーテンとかを専門に洗濯してる人なんだけど。作業員用の通路からチラッと見ただけなんだけど。ボワッとした髪型のタイストさんって人、よく『ミラクル☆ハート☆ラブ』に来てるお客さんだったらしいんだ」


――何とも不思議な話だ。


あの真面目そのものの研究職って感じなタイストさんが、盛り場のランジェリー・ダンスのお店に入り浸っていた……?


ヒルダさんが、口をアングリしている。チェルシーさんも、そのお店の、如何にも『破廉恥(?)』と言うべき内容をちゃんと知ってるみたいで、『アラアラ』と呟きながらも、古風な淑女らしく、頬を染めていた。


「バニーガールのランジェリー・ダンスの舞台を見物している事が多かったみたい。あの、ビキニと言うのかな、ほとんど裸って言うか、果物のオレンジを入れる網ネットみたいな、真っ赤なランジェリー……」


引っ込み思案で、恐らく奥手なのだろうケビン君、説明しながらも、カーッと赤面している。お年頃の男の子だね……頑張って、全て喋り切れ。


だけど、ケビン君には荷が重かったみたいで、付き添いの男の子が説明を引き継いでいた。


「ケビン君、荷物を載せた台車を一斉にコントロールするの得意だからさ、時々、伯父さんが大変な時に手伝ってて、お店に入ってたんだよ。言っとくけど、大人のスペースには入って無いし、通ったのは作業員用の裏の通路だけで、バニーガールは仕切りの隙間からチラッと見ただけって言うから信じてよ!」


――ははぁ。成る程。


子供には目の毒な光景だったかも知れない。子供の話だから要領がなかなかつかめなかったけど、出入り業者の伯父さんが見た物と同じ物――気になる場面――を、ケビン君も度々目にしていたって事なんだ。


フィリス先生は、生真面目な様子で首を傾げて見せていた。


「つまり――そのボワッとした髪型の黒髪のタイストさんは、度々ランジェリー・ダンスの見世物を見物していて、その舞台ダンサーが、赤いスケスケのランジェリーのバニーガールである事が多かった……と、こういう訳かしら?」


付き添いの男の子は「そうー」と頷いた。ケビン君もコクコクと頷いている。


「その赤いスケスケのランジェリーのバニーガールには、背が高くてデッカイ恋人っていうのか、巨人みたいな仲間が付いててさ。どうも、クマ族っぽいというか、ウルフ族じゃ無いらしいんだよね……だろ、ケビン君。フード姿だけど『耳』はピクピクしてたから、獣人ではあるらしい。バニーガールで揉めて、度々タイストさんを小突いてたようなんだ。平然とボウガン持ち出して来そうな物騒な気配もバリバリあってさ、そいつが、バニーガールを裸にするのしないので、遂にタイストさんを殺したんじゃ無いかって」


――痴話喧嘩の延長で、宮殿にまで忍び込んで、あんな大掛かりなボウガン襲撃をするだろうか?


何だか発展しすぎな気もするけれど……


内容の中心が『破廉恥なランジェリー』から離れたせいか、ケビン君は気を取り直した様子で、ポツポツと説明を再開した。引っ込み思案で奥手で、口が回りにくいだけ、みたい。


こうして落ち着いて話しているのを見ると、ケビン君は意外に気が付いて頭が良いんだなと言うのが感じられる。


「バニーガールには、もう1人、最近まで熱心なファンが居たみたいなんだけど、そっちは今は見かけない。イヌ族の有力部族の誰かだと思う。イヌ族の族長や御曹司がするサークレットしてたから。色は赤。『火のチャンス』と、しょっちゅう喧嘩してたみたい。だから、そっちのイヌ族の方は、チャンスに聞いてみないと分からないと思う」


――わお。此処で、あの『火のチャンス』の名前も出て来るとは思わなかったよ。まさに、トラブルメーカー。


フィリス先生は早速、額に青筋を立てている。今日の内にもチャンスさんを呼び出して、ハリセンで尋問しつつ、とっちめるかも知れない。

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