表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/174

涙ながらの相談と検討・後

中庭広場に出てみると、今日は少し蒸し暑い。夕方ごろになったら、天気が崩れるかも知れない。


そんな天候予測を噴水管理の担当者も立てていたようで、今日の噴水の上には、玉ねぎ型の大振りな可動屋根が覆いかぶさっていた。横殴りの風雨に対しては、魔法で合成する通常の防壁で対応できるそうだ。魔法って、つくづく便利。


中庭広場に並ぶミニ店舗の中に、チェルシーさんお勧めの衣料店が幾つかある。


ひとつは、レースとフリル満載のデザインが中心のお店。余りにも場違いな感じがするので、申し訳ないながら控えさせて頂きたいのですが……?


「あら、メルちゃんドレスのモデルになったルーリーは、大きな目のアンティーク人形みたいで、とっても可愛かったわよ。案外、似合うわよ。いつか素敵な男の子とデートする時に、慌てたくないでしょう? それに、近々、『茜離宮』定例の閲兵式の一般公開があるのよ。町の女の子たちは、これくらいお洒落して、カッコいい隊士を見に来るんだから」


――いつの間にか、思い切って購入するべく、説得されてしまっていた……


何でも、今日の『正字』作業のバイト代で、チェルシーさんの目から見ても、充分お釣りが来ると言う。ついでにチェルシーさんからも魔法文書の清書バイトを依頼されたので、今日の御礼も兼ねて、快く引き受ける事にした。


店内を一回りすると、レース&フリル盛り盛りな中にあって、フリル控えめながらテロンと流れるレースが印象的なワンピースとボレロのセットが見付かった。


大いにギャザーを寄せているフレアスカートや茜色のリボンが『如何にもな』だけど、大人しいミントグリーンだから、これなら何とか、気恥ずかしさに耐えられるかも知れない。裾がドレス丈になっているので、動きやすいワンピース丈に詰め直してもらうよう注文しておく。


隣の小物屋さんでは、フィリス先生がホッとするような品があった。『ウルフ耳付ヘッドリボン(黒)』だ。


元々、『耳』パーツを失った患者さんのための品で、需要は少ないけど、手術待ちが長くなってしまう患者さん向けに並べていたのだとか。さすが、中央病棟の中庭広場の商店街というところ。


髪の中に紛れ込ませる為もあって元のリボン幅が狭いので、わたしの『呪われた拘束バンド』を余裕で隠せる広い幅のリボンに着け直してもらう事にする。


初老の男性な店主さんはビックリしていたけど、「3日後にまたおいで下さい。ギリギリですが、閲兵式までに、必ず間に合わせます」と言ってくれた。


そして勿論、次の日からでも着用できる、普通のチュニックとズボンのセットも、シッカリと買っておいた。店員姿のジリアンさんも、チュニックとズボンの組み合わせだったから、そんなに不自然では無い筈だ。


ひととおり見回り、フィリス先生とチェルシーさんが「そろそろ昼食にしましょうか」と頷きあったところで――


――通りの向かい側から、チェルシーさんに『ガバッ』と抱き着いて来た人影があった。ストレート黒髪セミロングに、中級侍女のハシバミ色のユニフォーム。


「チェルシーさぁん! やっと会えたぁ!」


――あれ? 確か、『風のヒルダ』さんですよね?


「あ、あ、あたしが、殺人犯ですって! タイストさんの! 疑われてるの! どうしたら良いのッ……うっわああぁぁーん!」


チェルシーさんは目を白黒させながらも、「落ち着いて、落ち着いてね」と、ヒルダさんをなだめる羽目になったのだった。


*****


軽食屋さんで昼食をテイクアウトし、噴水脇のパラソル付きカフェテーブルで昼食を取るという事になった。


フィリス先生やチェルシーさんと共に、ヒルダさんの話に耳を傾ける。


噴水の傍であれば、噴水の音が適当にホワイトノイズになってくれるので、盗み聞きを余り心配しなくて良いんだよね。湿度も気温も高いけど、時折ヒンヤリした風が通るし、目下、半曇り。陽射しは余りきつくない。


ヒルダさんはグスグス泣きながらも、いきなり降りかかった疑惑について説明してくれた。


「昨日、タイストさんと大喧嘩してたのよね、あの襲撃現場となっていた回廊で。その件がタイストさん殺害の動機なんじゃ無いかって、捜査チームの衛兵に、繰り返し尋問されたの。冗談じゃ無いわ。あの時は、すごく腹立つ事をタイストさんに言われたから、思わず《風魔法》で本を投げただけなのよ。1回殴ったらスッとしたのは事実よ、それだけなの。第一、私、ボウガンだの何だの、撃ち方は余り知らないのよ。遊戯屋さんにある玩具のボウガンすら、触ったこと無いし。私ってホラ、自分の拳骨でボコボコ殴る方が、何となく性に合ってるから」


うーん。


ヒルダさん、基本的にストレートでサッパリした性格なんだよね。面と向き合って、言いたいこと言って、正々堂々とゲンコで殴るタイプ。この辺は、フィリス先生と似てる。


そりゃあ、あんなに大きくて重そうな本で『ゴン』と殴るのは、さすがに……ハードだとは思うけど。


昨日のボウガン襲撃事件は、夜を徹して話題になったお蔭で、チェルシーさんも概要を知っていて興味津々な状態だった。タイストさんの死に方が普通じゃ無かったと言うのが、やっぱり大きかったみたい。


フィリス先生が申し訳なさそうな様子で、口を開いた。


「その疑惑が注目されたのは多分、私のせいだわ。捜査チームに加わっていたディーター先生に、直前にその出来事があったと連絡したの、私だから。ヒルダさんとタイストさんの大喧嘩、目撃者がたくさん居てね。此処に居るルーリーも直に目撃して、ビックリしたと言ってたくらいなの」


ヒルダさんが仰天して、わたしをパッと振り返って来た。


「見てたの?! ルーリー?」


――偶然ながら、そうだよ。


チェルシーさんが首を傾げながらも、最も重要な要点を、質問にまとめてくれた。


「ヒルダさん――タイストさんと、一体どういう事で口論になっていたの?」


ヒルダさんは、フィリス先生の告白にビックリする余り、涙が止まっていた。チェルシーさんの質問内容が、頭の中にストンと入ってくれたみたい。ヒルダさんは、冷たいお茶で喉を潤しながら、思案顔になった。


やがて、ヒルダさんは、思案深げにポツポツと話し出した。


「私、アンティーク宝物庫の管理スタッフとして、最近は目録作成が続いてたのよね。辺境の飛び地から寄贈された、古代豪族ゆかりの品々。ホラ、前にチェルシーさんにも話したでしょ。古代の宝飾品も色々含まれていて。タイスト研究員は、同じアンティーク宝物庫で、マーロウ室長と一緒に室内装飾品の分解研究してたの。古代の戦国乱世の品々って、まだまだ不明部分が多いから、研究員にとってはロマンとミステリーの極致ってとこでね」


ふむふむ。


そう言えば、昨夜、『火のマーロウ』さんと会った。小麦色の毛髪をした、お洒落な感じのシニア世代の男性。チェルシーさんの現役時代の上司で、職場結婚も噂される程に良い仲だったとか。


あ、そうだ。マーロウさん、片手に怪我してたんだよね。


古代遺物――古代の室内装飾品の分解をしている間に、うっかり攻撃魔法の仕掛けに引っ掛かったとか。アレ、この事だったんだ。成る程なあ。


ヒルダさんの話は続いた。


「あの時、タイストさんは、『寄贈されたアンティーク宝飾品の一部が紛失してる』って怒鳴って来たわ。私が作成した目録からもデータ項目が消えてるし、私が宝石に目がくらんで盗んだんじゃ無いか、やったと認めろ、って突っ込んで来たの」


ヒルダさんは、急にその時の事を思い出したみたいで、キュッと目が吊り上がった。


「もう、もう……冗談じゃ無いわッ! ネチネチと……ネチネチと! ネクラのオタク野郎が! あのボワッとした髪型を、ついでに《風魔法》で、ブチブチ引っこ抜いて、ハゲ野狼ヤロウにしてやるべきだったわ!」

「落ち着いて、ヒルダさん」


チェルシーさんが素晴らしいタイミングで、おっとりとした風でヒルダさんの背中をさすった。


ヒルダさんは、まだ『フーッ』と唸ってる状態だけど、その黒いウルフ耳は『ガチの角度』じゃ無いから、さっきよりは幾分か冷静になれているみたい。


「その、紛失したとされている品目って分かるかしら? ヒルダさん」

「あ、チェルシーさんも覚えてる品の筈よ。この間、3点ばかり、宝物庫の方で評価と鑑定お願いしたでしょ。あの宝飾細工の『豊穣の砂時計』と『茜姫のサークレット』、『白き連嶺のアーチ装飾』ね」


チェルシーさんが「覚えてるわ」と熱心に頷いている。


ヒルダさんは額に指先を押し当てて、思いつく限りの記憶を、口に出して説明していた。


「他は、タイストさんが『分かってるくせに』とか、ネチネチと思わせぶりにしか話して来なかったからピンと来ないけど、プラス3点か4点くらいのアンティーク宝飾品が行方不明、という感じ? 私が思いつくのは、これくらいね」


ヒルダさんの説明が終わった。


聞いてみると、職場トラブルの延長って感じ。


ちゃんと人を入れてシッカリ調査すれば解決する問題だと思うし、こじれまくって、あんなボウガン襲撃事件にまで発展するような要素は感じない。それに、ブツが紛失したと判明次第、宮殿の衛兵部署なり、専門の機関なりに届ければ良い話だ。


ヒルダさんが尋問から解放されたのは、今回の事件捜査チームも、そのように考えたからなんだろう。


チェルシーさんが小首を傾げて、思案の格好になった。


「アンティーク宝飾品が盗難に遭ったのなら、地下マーケットに陳列されている可能性があるわね。聞いてみる限りでは、紛失した可能性のある品は、いずれも国宝級の物よ。闇オークションなんかで売ったら、ものすごい価格になる筈。何人かツテのある同業者を知ってるから、私の方でも、問題の品が流通して無いか調べてみるわ」


ヒルダさんが「是非とも!」と、チェルシーさんの手をハッシと握っている。冷静になって考えてみたら、タイストさんが騒ぎ立てたのにも理由がある筈なんだよね。その辺はハッキリさせないと、スッキリしないし。


*****


今後の一応のメド――というか一応の目標が立った事で、ヒルダさんも余裕が出て来たみたい。わたしがレース多用の、或る意味、赤面モノの街着を調達した件を聞くと、『もう閲兵式の日程が迫ってたのねぇ』とシミジミしている。


1年に2回、夏と冬の閲兵式が近づくと、それに合わせて少女たちや若い女性たちが目一杯めかしこむ。この時期のファッションが、フリル&レース盛り盛りな華やかなワンピースやドレスで溢れるのは、もはや風物詩なんだそうだ。


うーん。ウルフ王国について知らない事って、一杯あるなあ。此処まで記憶喪失になるとは思わなかったよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ