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31話

ヒビキ:主人公。気分屋。性格がひん曲がってる。かなり斜め上思考。

ユキ:主人公と契約した狐。見た目も性格も天使。

アニエス:白エルフ。主人公が異世界人であることを知っている。

セリア:黒エルフ。美人ではあるし性格もそれほど悪いわけではないけど、扱いが酷い。

アレクデス:ストーカー。ヒビキは彼の名前を正しく覚えていない。

 

 しとしとと雨が続いていたある日のことだった。


 窓から覗く空は灰色に覆われていて、食欲をゼロにするほどの猛暑は身を潜めていた。一生こんな気温で居てほしいとも思うが、残念なことに雨は雨で面倒くさい。


 日本だったら道すがらにカラフルな花をいくつもいくつも咲かせるのだろうが、この世界は違う。自分のマントやらカッパみたいな何かで体を覆い、雨の中を歩かなければならない。


 びしょ濡れになったマントはもちろん部屋干しだ。だがこれを普通に干してしまってはいけない。

「生臭い……」


 どうしてこんなににおうのだろうか……。使う生地によっては余りにおわないらしいが、どうやら俺の買ってしまった雨用のマントは安物のせいか、部屋の中を生臭くしてしまう。発酵した漬物よか幾分かましという程度の匂いだから、それはもう臭い。


「ヒビキのローブだったら多分匂わないぞ?」

「いやぁ、あれ高かったし雨の日に使うのはなんとなく嫌なんだよね。それよりも……」


 俺はアニエスに視線を向ける。アニエスはベッドの上で仰向けになりながらぺらりと本のページをめくる。白くすらっとした足が、服の隙間からチラチラ見えて、思わず目線が持ってかれる。つかそのベッドも読んでる本も俺のなんですが。


「ふむ。どうした。私の体をじっと見て? 欲情したか」

「いや、ここは誰の部屋だったかなと考えていただけだ」

「なるほど。私の友人の部屋だな。ふむ、全く問題ないな」


 いやちょっとな、問題あると思う。と思おうが、何言っても俺が言い負かされそうな気がしたので、俺は言及を止めた。最近俺より俺の部屋に居る気がするんだが、気のせいかな? まぁユキちゃん見てもらっているから、何も言えないのだけれど。


「はぁ~ぁ」

 俺は窓に視線を向けて大きくため息を吐く。魔法の練習を使用にも、建物内で出来ることはもうやりつくしてしまったし、読書をしようにも、アイテムボックスに入っている本は古代文字とか魔法文字とか言われる意味不明文字で書かれていて、翻訳されない。アニエスは幾つか読めるのがあるらしく、今それを読んでいる。


「なんかないかな……」

「ヒビキは読書は好きか?」


「まぁ嫌いではないな。やたら難しい文章を羅列するような本はごめんだけど」

「だったら図書館へ行ってみるのはどうだ?」


「図書館? そんな所があるのか?」

「一応ある。小さいがな。魔法書は少ないものの、物語が幾つかあって暇つぶしには丁度いいぞ。それとこの世界の常識を養うのに、丁度いい教科書になってくれるのではないか?」


 確かに暇つぶしにも、この世界について知るのにも良い教科書になってくれそうな気がする。だけどその図書館はどこで運営しているのだろうか。日本だったら国立だったり私立だったりなので、基本的には入館料金を取られることは無いだろう。だけどここは異世界だ。町が運営しているのだったら、町民だったら無償で入れそうな気がするが。


「へぇ、その図書館ってどこが運営しているんだ?」

「行こうとしている場所は冒険者ギルドが運営していたはずだ。だからギルドカードを持っていれば入る事が出来る……とは言ってもギルドカードのランクによって見れない資料があったり、金を取られてしまうコーナーがあったりする」


「ほほ、なるほどな」

「読む本がただのノベライズならば、どんなにランクが低くても読めるだろう。代わりに魔法書はランクが高くても金を取られるな。火球レベルの魔法が書かれている魔法書コーナーでも金貨数枚はくだらない」


 そんなするんですか? アレ。私、魔法を教えてもらってるんですが。もしかして普通に知ろうとしたらお金、めちゃくちゃかかっちゃう?


「……好きなだけ私の部屋をお使いください、アニエス様」

「なに。ようやく私の偉大さを思い知ったか……なんて言うつもりは無いから安心するといい。それよりも図書館へ行くならば案内しても良いがどうする?」


 彼女は本を閉じて、体を起こすと俺に向き直る。

「それじゃぁ、頼もうかな」


 ふとあることを思い出し、顔を上げる。そこには干された生乾きマントがあった。くさそう。いや、臭い。

 

----

 

 アニエスに連れてきてもらった図書館は、想像していたより大きかった。どれくらいかと問われれば冒険者ギルド並みだろうか。だけど人はまばらで、繁盛していなさそうに見える。まぁ繁盛していなくても良いのだが。


「思ったよりも人が居ないな」

「なに、平日の昼間にこんな場所に来るのも珍しいのだろう。それに、文字を読めない街人も少なからず居るのだし、こんなものだろう」


 そう言ってアニエスは手に持っていたローブを俺に差し出す。俺は黙ってローブを受け取ると、ヒビキのローブと俺のローブをまとめてアイテムボックスにしまった。最近自分が歩く倉庫になっているような気がするのは気のせいだろうか。それより、


「おいおい、普通に受け取っちまったが、こんな高価なもの俺に渡して良いのか?」

「ふむ、安心してくれ。ヒビキやユキ以外に渡すつもりはないからな」


 ああ、そうですか。

「そんな事よりも、さっき読んでいた本を出してくれ。私はソレが読みたい」

「はいよ」


 俺は言われたとおり出かける前まで彼女が読んでいた魔法書? らしき物を取り出す。


 ふと思ったが、彼女はわざわざ此処に来る必要があったのだろうか。俺の持っている本が読みたければ宿で待っていても良いはずだ。


「悪いな」

 だとすれば彼女は俺の為に此処まで来てくれたのだろう。アニエス様様だ。

「なに、気にしていない」


 本を受け取った彼女は一直線に机に向かって歩いていく。俺はこの世界の歴史でも読んでみようかと思い、歴史コーナーに足を向ける。ユキには好きにしていいよ、と言ったがどうやら俺に付いてくることに決めたようだ。


 俺は沢山並んだ本から適当に数冊取ってアニエスの横に行く。俺の部屋でこそ際限ないぐらいだらけていたアニエスだったが、どうやら人目の付く場所ではしっかりしているようだった。姿勢正しく机に向かっている。


 俺が本を置き、ぱらぱらめくりながら読み進める。ユキは俺の持ってきた本の一冊を手に取り読み始めた。


 

 1時間ぐらいしただろうか。俺は隣ですやすや寝息を立てているユキちゃんに上着をかけると、本を戻しに本棚へ向かう。


 そして俺が本を棚に刺そうとしたときに、俺は何かをふんだようで転びそうになる。

 何とかバランスを保ったものの何冊か本は手からこぼれ落ちた。


「なんでこんな所に白紙の紙が落ちてるんだよ……」

 俺は本を拾おうとして手を伸ばすもソレは別の手によって遮られた。


「はい、どうぞ」

 拾ったのはとてつもなく見覚えのある一人のダークエルフだった。俺は何となく嫌な予感がしたのですぐさま本を受け取りお礼を言う。


「ありがとうございます、ではこれで」

 踵を返し脱兎のごとく席に戻ろうと走りだそうとした瞬間、彼女にうでを掴まれた。


「ちょっと、それだけ?」

「? 拾ってくださいましてありがとうございます」


「ほら、久々にあった私に言うことがあるでしょう?」

 そう言って彼女、セリアさんは自分の顔を指さした。なるほど確かに久々に会ったら言うことがあるな。


「お久しぶりです、お元気そうですね。では」

 セリアさんは俺の腕をつかむ手に力を込める。どうやら先ほどの俺の返答は気にいらなかったらしい。笑顔が崩れかけているが気のせいだろう。


「私今日オフなんです、凄く暇だなぁ」


 なるほど。彼女はオフなのか。道理でこんな時間帯に図書館に居るわけだ。そして自ら暇と公言している所を見るに今後の予定が無いのだろう。


 なるほど、ならば俺が言うことは決まっている。よく考えてみろ、こんな若く美人のエルフさんが暇だなと自己アピしてるんだぞ? ならば社会人として、いや男として当然、こう言うだろう?


「奇遇ですね僕もオフなんです。ではこれで……」


 ふん、誰がお前なんぞと一緒に過ごすかボケが。だからてめぇは自分の人気をしっかり把握しとけってんだ。ほらあそこの見覚えのあるおっさんが俺を殺すんじゃないかって目でにらんで…………あいつアレ何とかデスじゃないか? あいつマジもんのストーカーだな。少し同情しちまうわ。


「って、痛い痛いっ」

 どうやらまた俺の発言が気にいらなかったらしい。彼女は俺の腕をへし折るんじゃ無いかってぐらい力を込めた。


「お・ね・え・さ・ん・は! きょ・う! ひ・ま・な・ん・で・す!」

 目がマジだ。下手なことは言えない。俺は出かかる言葉を飲み込む。


「そ、そうなんですか。自分は暇をつぶさなきゃいけないので忙しいんです」

 あ、危なかった。もう少しで『お姉さん? 見た目は20代でも中身は年老いたババアだろ』だなんて本音を出してしまうところだった。そうすれば俺はボロ雑巾になるのは避けられなかった筈だ。


「ではこれ……って痛い!」


 今度は爪で肉をつまんできやがった。なんだこのババア。そんなに暇なら老人ホームでも行って来いボケが。介護される側だけどな。


「何ですかもう!」

「ヒビキさんも暇じゃないですか! 一緒にどこかに行きましょうよ!?」

「無理ですよ、今日はアニエスもいるし」

「あん? あの白豚ぁ? そんな豚はほっといて美人なおねいさんとどこかいきましょう」


「ババ……ううんっ。お姉さんと行きたいのは山々ですけど……っていたい!」

「あ? バ、なんだって?」


 し、しまった! や、ヤバい。マナが彼女の周りに集まってる。おい、此処は魔法御法度じゃぁないのか。いやそれよりも今の現状を何とかしなければ! 


 だが、どうごまかせばいい? ばで始まる何か……ば、ば、ば、ばぁ? ヤバい何も思いつかない。でも何か言わないと腕が引きちぎられそうだ。


「い、いえ。ば、バーサーカーと言おうとしただけで……」

「あ゛あ゛ん? 誰がバーサーカーだって?」


 しまった! でもあながち間違っていない!

「……まぁ良いわ」


 何を思ったか分からないけれど、セリアはそう言って手の力を緩める。そして先ほどの怒りはどこへやら、肩を落としため息をつく。


 ちょっと、急にさみしそうな顔を浮かべるの止めて下さい。うわぁ、罪悪感いっぱいじゃないか。ああ、顔がくしゃとなっていて今にも涙がこぼれそう。まるで小動物のように縮こまって、上目づかいでこっちを見るとか……卑怯だろう。


 そんな顔されたら……。

「あ、そうですか、では」


 当然無視してしまうにきまってんだろ。寂しそうな顔? アホか、知ったこっちゃねえ。つーかめんどくせぇんだよ、てめえは構ってちゃんか。一歩間違えればメンヘラだぞメンヘラ。んな奴と付き合ってられねえっつうの。あーあ、早くユキちゃんで癒されよう。


「あ・ん・た・は! なんで勝ち誇った顔してるのよ!」

「ってちょっとおまっ、く、首を閉めるな、っっって、首は駄目だ、首は駄目、だ、首、は――――」


 アニエスの時も思ったが、何故自分の腕よりも細い腕のくせにこんなにも力があるのだろう。

「タッ、プ……タ……ッ…………プ」


 俺の意識が持ったのはそこまでだった。

 

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