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28話

ヒビキ:主人公。気分屋。性格がひん曲がってる。かなり斜め上思考。

ユキ:主人公と契約した狐。見た目も性格も天使。

アニエス:白エルフ。主人公が異世界人であることを知っている。


「それにしてもでかいウルフだったな……」


 息を整えながら同じように息を整えるアニエスにそう言う。山をひょいひょい登っていたアニエスも、大急ぎでの移動はこたえたようだ。


「ああ、あの足跡の大きさも納得だ。ユキが察知してすぐに隠れなかったら私たちが危なかった」


「もう、気配は無い」


 肩で息をする俺達をよそに、唯一ユキだけが平然としていて俺と格の違いを見せつける。ユキちゃんマジアスリート。


「それにしても困ったな。あんな大きくて魔力のあるウルフにであったのは初めてだ」


 確かにあのウルフはとても大きかった。全長何メートルだろうか? 人間より大きいのは確実で、背中にまたがれるだろう。つか、あいつに似た奴もののけ○に出て無かったかな?


「見たかよあの顎、俺なんか一瞬で噛み砕かれるわ」

「私だって何ら抵抗できず咀嚼されて、胃袋に一直線だ」


 そういうアニエスと視線が交差する。息も落ち着いたようで、普段の彼女と同じような雰囲気だった。未だに息を整えている俺とはエライ違いだ。


「……どうするよ?」

「勝算がないわけではない。距離さえあれば勝てるかもしれない。前衛一人を犠牲にして私とユキの魔法で倒すのだ」


 いやそれ俺が肉壁になれと言ってるよな。無理だ。あんなん耐えきれない。


「ふむ、お前は無理だと思っているようだな? だがしかしだ。そういった考え方は、冒険者においてよい考え方だろうか? やってもいないのだぞ? それなのに無理だと決めつける必要はない」


「まぁ、確かにそうだな」

「もしかしたらあの図体は見せかけだけで、ウルフよりも動きが遅いかもしれない。それならどうだろうか? ヒビキだってなんとかなりそうじゃないか?」

「確かにそれなら……いけそうな気がしてきたな!」


 と俺が言うとアニエスはこれ見よがしにため息をつく。ああ、なんかデジャヴが。


「はぁ残念だ。そう楽観視して命を落とした冒険者が何人居たことか……」

「なんだかんだでアニエスには余裕があるよな」


 展開を予想できていた俺はため息をつく。まったく結構ピンチな様な気もするのだが……どうしてこうも冗談を言えるのだろうか。


「いや、正直に言えば私だって興奮しているし、思考がまとまらない。落ち着かせるためにわざとそう言っているだけだ」


「へーそーですかー」


「ふむ、まぁいい。しかし戦って倒す、と言うのも今取れる選択肢の一つであることは本当だ。多分あのウルフは私たちの通過した森に住んでいるのだろうから、出会う可能性は高い。ゆっくり安心して帰るならば倒してしまって良いだろう。結構な魔素けいけんちを手に入れられるだろうしな、さてどうする?」

 

 あの大きなウルフとの戦闘……か。


 それはそれはさぞかし激しい戦いになるだろう。したたる汗、舞う血しぶき、閃光のような斬撃と交差する白銀の牙。血湧き肉踊る、そんな戦闘になるだろう。


 どうするかって。アニエスにそう問われれば、俺の選ぶ選択肢は決まっている。

 当然じゃないか。

 

「全力で逃げよう!!」


 当り前だろう。馬鹿か、避けられる戦いは避けるべきだ。戦闘するとか考えてるやつは、頭が筋肉で出来ているのかな? 怒ると筋肉膨張して血管圧迫しそう。


 アニエスははっはっはと笑い、ニヤリと笑みを浮かべる。

「ヒビキならそう言うと思っていたよ」

「当然だな」


「ふむ、ヒビキは案外冒険者が向いているような気がするな」

「……それは冗談でもやめてほしいな」


 冒険者? 何それゴミだろ。誰がなるか。そんなんハイリスク過ぎてやらねーわ。


「はは、絶対に素質はある。それにユキだってたまには戦闘したくなるときだってあるだろう? 兼業冒険者でも良いからやってみるのはどうだ?」


 俺はユキに視線を向ける。ユキは耳をヒョコヒョコ動かしながら、小さく口を開いた。

「たまには町の外で走りまわったり、魔法を使ったりしたい」

「よし、定期的に行こう、いや毎日行こう。冒険者最高だね。前々から思ってたんだ、あれは夢のある職業だよ!」


 俺がそう言うとアニエスがぷっと吹き出し笑いだす。

「はーっはっは、やはりユキには勝てんか!」


 手をお腹に当て大口を開けて笑いだす。なにも喋らなくて、大笑いしなければ綺麗だし上品にみえるんだけ――いや見えないわ。上品な人は他人の部屋で美容体操みたいなことしないわ。


「うるせぇ、そんな笑い方してると婚期逃すぞ?」


 すると笑っていた彼女から笑みが一瞬で消えうせる。軽い冗談のつもりだったが、どうやらヤバいレベルの失言をしてしまったようだ

「……」

「ごめんなさい……」

「……いや、いいんだ…………」


 そう言って沈黙したアニエスに俺は何の言葉をかけてやればいいのか分からなかった。


「大丈夫、ママなら大丈夫」

「おお、ユキ!」


 ひしっとユキを抱きしめるアニエス。こんな空気を一瞬で解決してくれるユキちゃんまじ――。


「大丈夫、ヒビキが責任取ってくれるから」


 ゆきちゃんマジてん……なんだって?


「そうだな、パパに責任を取ってもらおう」


 おいおい、アニエスさん。もちろん冗談だよな。その瞳にどす黒い混沌の炎が宿っているのは俺の気のせいだよな。

 

---- 

 

 足場の悪い森では、さすがに速度を出せないだろう……その考えは甘かった。

 巨大ウルフはなんと木に飛びかかると、その木をまるでジャンプ台のようにして他の木へ飛び移っていた。まさに縦横無尽である。


「おい。お前は忍者か? こんなカッコいい三角飛びなんて初めて見たわ。つかよく木折れないな!」


「ふむ、ヒビキの世界にはあんなのがゴロゴロいるのか?」


「現代には多分居ないがな。いるのは次元を隔てた世界に、それも美化された空想忍者だがなっと、アイエエエエとととと」


 俺は一瞬バランスを崩すもすぐに体制を立て直し、後ろから俺を追い抜いていくアニエスについて走る。


「なるほど。それはさぞかし凄そうなやつだなっ、ヒビキそこ大きな石が落ちてる、気をつけろ」


 後ろからものすごいスピードでこちらに走ってくるウルフをしり目に、俺とアニエスは走りながらくだらない話をしている。唯一ユキだけが真剣に状況を分析していた。


「もうすぐ追いつかれるよ? このままじゃ逃げきれない。……戦う?」


「正直、戦いたくないわ。アニエス、どうするのが良いと思う?」

「ウルフだからな、一度察知された以上、鼻と目を潰さないと逃げきれなさそうだ」


 ぱっと聞く限りだと、見た目通り犬みたいなやつのようだ。つか森に入る前にしっかりコイツの情報頭にいれとけよって話だな。

「弱点は何かあるか?」


「ふむ。火……だろうか? もちろんこんな場所で使うわけにもいかないがな」

 だろうな。こんな場所で火を使ってみろ。大火事になりそうだ。最悪俺らも一緒に燃えそう。


「vaaaaaaaaaaaaooooooooooooooooooooonn」


 後ろからバイクみたいな声聞こえるけど大丈夫? 大丈夫だよね?


「ふむ。仕方ない戦うか。ヒビキ、お前がオトリだな」

「いやアニエス、ちょっとまて。アイツの動き速すぎて俺が持つ気がしない。やめよう」


「おお、ヒビキもついにボケれなくなってきたか」

「そう言うお前の余裕はすげぇよ」

「いや、私も結構つらいぞ、そうそう、荷物アイテムボックスに入れてくれ」


 アニエスはそう言うと俺のそばに寄り、走りながら荷物を投げる。

 俺はそれをすぐにアイテムボックスにしまうと、アニエスを睨みつけた。


「おま、走りながらはあぶねえよ!」

「なに、ヒビキなら出来ると思っただけだ。それに。なんだ。あのアイテムボックスの曲芸は案外役に立っているではないか」


 確かに、今の荷物の受け取りは、普通に成功した。アニエスは身軽になったからか、少しだけ走る速度を上げる。


「ユキ!」


 ユキもアニエスと同じように荷物を俺に投げると、俺はそれをアイテムボックスに入れる。


「さて、どうするかだが…………ヒビキ、来るぞ!」


 俺は後ろを振り向くと、そこには木を蹴って俺の10メートルほどまで近づいているウルフがいた。俺はアイテムボックスから剣を取り出すと急ブレーキをかけ、振り向きざま回転斬りをする。


 あたると思っていなかったが、それは予想通りであたることは無かった。ウルフは横に跳躍して俺の斬りを難なくかわし、すぐにこちらに寄ってくる。


 俺は剣を構え近づくウルフをじっと見つめる。すると後ろから声が聞こえるのと同時に、俺はその場にしゃがみこんだ。


「ヒビキ、しゃがめ。アイスランス!」


 アニエスが作りだした幾つかの氷の槍は、俺の頭上を越えウルフに向かって一直線に飛んで行く。ウルフは一旦足を止め大きく後ろへ跳躍し、その槍を避ける。


 だけどそのウルフに向かって、いつの間にか発動していたユキの風の刃が飛んで行った。ウルフは避けようとはしなかった。なんと魔力を口に集めたかと思うと、その場で大きく咆哮した。


「Vaaaaaaaaa」


 その咆哮の力は絶大だった。ウルフに向かっていた風の刃は、空気の振動によっであろうか殆ど打ち消され、ウルフに届いたのはそよ風だった。


 また咆哮の影響はそれだけではない。それは俺自身に大きなダメージを与えた。


「やべぇ。耳と頭がいてぇ」


 まるで頭を金づちでたたかれたようだった。ウルフから放たれた爆音は痛みへと変換され、俺の両耳を中心に頭まで広がった。俺は皆が大丈夫かと思い、後ろを振り返ると、そこには平凡な顔をしていたアニエスとユキの姿があった。どうやらもろにダメージを受けたのは俺だけだしい。なんで俺だけなんですかね。

 

「ふむ。かなり厄介だな。逃げるにしても追いつかれる」


 黒板とかガラスを引っ掻くような音が頭の中で鳴り響き、アニエスの声を邪魔をするがなんとか聞き取れた。


「なんか眼つぶしの魔法とかねぇのかよ?」


 ウルフはこちらに視線を向けながらまるで弧描くように歩き、足元に魔力を集めていた。多分飛びかかるタイミングをはかっているのだろう。


「光魔法にあるが、やってみるか?」

「やるっきゃないだろ」


 ウルフが飛びかかるのと同時に俺は前に飛び出し、剣を突き出した。しかしウルフはそれを余裕を持ってかわし、俺に向かってその俺のふともも以上はありそうな腕で、俺を引っ掻こうとした。


 すぐに俺は突いた剣を引きながら、ウルフに向かって振り下ろす。


 ガキン、とまるで鉄と鉄がぶつかるような音が辺りに響く。俺の剣は奴の爪に防がれ、それ以上動かせはしなかった。

「ヒビキ!」


 後ろからアニエスの声が聞こえると同時に、俺は剣から手を離し目を瞑りながら横へ転がる。


「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」


 目を閉じていてもその光はわかった。暗かった目元に、まるでライトを当てられたかのように光がともる。俺は起き上がりながらゆっくりと目を開く。


 そこには目を閉じ、その場で暴れているウルフの姿があった。

 俺はすぐに後ろに下がろうとしたが、横に飛んだ。ウルフが一直線にこちらへ向かって跳躍したのだ。


「なんで目瞑ってんのに俺の方飛んでこれるんですかね?」

「ヒビキ、匂いだ! 多分お前の匂いをたどって飛びかかってきたんだ!」


 俺は急いで辺りを見回し、とある場所へ向かって一直線で駆けだした。


「ユキ、ウインドカッター準備しててくれ!」


 俺はそう叫ぶと急いで目的の場所へ走る。後ろからは先ほど追いかけられた時よりはゆっくりな速度でこちらに向かうウルフ。


 ドスッドスッ、と後ろから聞こえる音がだんだんと強くなる。


 俺はアイテムボックスから子袋を取り出し、真上に投げる。そしてその木と木の隙間に飛びこんだ。

「ユキ!」


 ユキはすぐにウインドカッターを発動させたようで、俺の後ろに灰色の粉が舞った。そしてすぐに辺りに大きな衝突音が鳴り響いた。


 どうやらウルフはその粉を吸い込みつつ、木に激突したようだ。

 

 俺が向かったのは細い隙間のある木々の間だった。俺はなんとか通れたものの、馬鹿でかい図体のウルフはもちろん通ることは出来ない。また俺の投げた胡椒の入った袋は、ユキのウインドカッターによって斬り裂かれ中身が辺りにまきちらされた。


 その場で苦しむウルフをしり目に、俺はアニエスたちの方へ走る。


「今のうちに逃げるぞ!」

 俺は走り出すアニエスとユキの後ろをついて行った。

 

 

「もう大丈夫だろう」

 アニエスの言葉にユキが頷く。二人がそう言うなら多分大丈夫だろう。

「死ぬかと思ったぜ……」


 走り出してどれくらい経過しただろうか。普段の数十倍は動いたせいか体中が汗びっしりで、出来る事なら今すぐにでも湖にダイブしたい。


「いや、ヒビキの機転がなかったら危なかったな」

「……無我夢中だったから何したかあんま覚えてねぇわ」


「おいおい、目をつぶっているのをいいことに、ウルフを木に激突させたではないか。それにすぐに故障を使って呼吸器官を潰す。あんなの浴びたら匂いどころじゃない」


 言われてみれば、そんな事をしたかもしれない。そう考えてしまうと言うことは、

「次やれって言われたら無理だろうな……」

 たまたまだろう。つかこんなこともう起きてほしくは無い。


「やっぱ俺は町中で普通の仕事してる方が性に合ってるぜ」

「ふふ…………」


「どうしたよ?」

「いや、なに。またすぐに今日みたいな日がきそうだなと思ってな」


 俺はため息をついてアニエスを見つめる。


「やめてくれ、マジで起こったらどうすんだよ……」

「起こるかもしれないぞ? そう言えばだが、ヒビキ。ここ最近モンスターの数が少し多いと思わんか?」


「いや俺そんな外歩きまわらないし……つかマジで不吉な事言うのやめてくれ」

「ふふっ、冗談だ。なに、それこそたまたまだろう」


 まったくビビらせるのは勘弁してほしい。



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