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27話

ヒビキ:主人公。気分屋。性格がひん曲がってる。かなり斜め上思考。

ユキ:主人公と契約した狐。見た目も性格も天使。

アニエス:白エルフ。主人公が異世界人であることを知っている。


 

 登山なんて何年振りだろうか? 学生時代友人のアホなノリに付き合って登ったあの時以来だから、10年は経過していると思う。あの時は何も調べずに2000メートル級の山を登ったな。もちろん舐めてるんじゃないかって装備で。すれ違う人々がなかなかの装備をしているのに、俺ときたら――。

 

「ふむ、では登山は初めてではないのだな?」

「まぁ2000メートル級だがな。今より軽装備で挑んだぜ」


 登山服? 何それ。適当な服と適当なリュックで挑んで楽勝で登ったわ。ただ、下っている最中に地元の中学生っぽい奴が、鞄も持たずダサいジャージでひょいひょい登っていく姿を見て俺は負けたことを悟ったわ。


「なら問題あるまい。今日のぼる山はもっと高いが、頂上に行くわけではないし、急斜面と言うわけでもないからな」


 そう言って彼女は丸い板のようなものを取り出すと、それに時計の針のようなものを置き、魔力を込める。するとくるくると針が回り、一つの方向を差した。


 アニエスはゆっくり顔を上げるとその方がうを見つめる。アニエスを見ていら俺とユキは彼女と同じ方向を向いた。


「ふむ、こっちのようだな。よし私が先頭を歩く。しんがりはヒビキ、頼んだぞ」


 彼女が向いている方角は森になっていて、正直に言えば歩きたくない。遠くから見た限りでは森は山の中腹まで生えていたので、途中からは木々から解放されるだろう。だけど面倒そうなことに変わりは無い。


「……あいよ」

 そう言って先を歩くアニエスとユキの後ろをついて、森の中へ入っていく。

 

 その森に感想を出せと言われれば『ユキと出会った森に比べれば多少マシ』、その程度だろうか。俺は以前と同じように適当に拾った棒に名前を付けて、俺の杖として働いてもらっている。


 この棒はなぜか先が少し曲がっていて、背中を掻くのにちょうどよさそうな点を考慮し、『バックスクラッチャー』にした。カッコよく聞こえるけど孫の手である。むろん車の方じゃない。


「やっぱこの棒便利だわ」


 俺は石の椅子に座ってバックスクラッチャーをバトンのようにくるくると回す。横に座っていたアニエスがため息をつきながらバックスクラッチャーを見ていた。


「バックスクラッチャー、にしたんだったか?」


 アニエスは名前を付けているときに珍しい生物を見るような目で、俺を凝視していたのは記憶に新しい。俺は珍獣ではない。


「そう言えば孫の手で思い出したのだが、昔の貴族は孫の手をファッションの一部にしていたんだぞ?」


「……え? それ本当?」

「ああ、本当だ。当時はな象牙や銀なんかで作られていたんだ。とは言え先端の部分は取り外していたがな」


「へぇ、取り外して。じゃぁ棒みたいなのを持ち歩いていたのか?」

「ぶら下げていたり、くくりつけていたな」


 不思議だ。なんで孫の手を? 

「それにはないくつか理由があったんだ」


 俺が尋ねようとした時、アニエスは説明を始めた。彼女は俺の心読めんのかな?


「なんの理由だよ?」


「下着類がな全部オーダーメイドのせいで、ぴっちり肌とくっついていたんだ。あの時代は毎日体を洗う事もなかったし、仕方のないことなのだろう。いや今も毎日洗う奴は珍しいか」


 なるほど。そう言った理由なら痒くなるのも仕方がないか。シラミ大量発生してそう。ん、いやちょっと待て。アニエス達は大丈夫だよな? ユキは人化してから、俺は洗ってないな……。


 いやでも彼女たちにこの事を聞いていいのだろうか? さすがに失礼か?

「……ちゃんと洗っているぞ?」


「え? 俺喋ってないよね? 無意識に何か言った?」

 何コイツやっぱり俺の心読んでるんじゃ?


「馬鹿もの。言わずとも顔に書いてあるわ」

「私も洗ってる」

「そ、そうか」


 ならばいいんだ。ならば。

 アニエスから陰湿な視線が飛んでくる。ユキちゃん見てみろよ、何も気にした様子は無いぜ。純真無垢のユキちゃんマジ天使。


 いえ、すいません。私が悪いのは分かっています。

「まぁ口に出さなかったことは褒めてやろう。だが、今後は顔に出すな」

「……申し訳ありませんでした。肝に銘じます」

「まあ、これくらいにしといてやろう。……よし食事してもう少し休憩したら先へ進もう」


 俺はすぐにアイテムボックスから食事を取り出すと、アニエスとユキに渡す。二人に渡し終わった俺は自分用にまあるいそれを一つ取り出すと、二つに割った。


 それは硬くて粉っぽいクッキーみたいなものだった。ぱっと見は濃い茶色ではあるが、二つに割って横から見ると中心部はベージュだ。


「やっぱりあまり美味しくは無いな……」

「ヒビキ、これは保存食だぞ。あたり前だろう?」


 確かにそうだ。だが食べようと思えば、別の物を食べられる。アイテムボックスには宿屋のおやっさん作のサラダだって、クロードさんの肉料理だって、ニーナの茶だって入る。それも時間経過が止まっているらしく腐らない。だけど冒険中の食事に関してはアニエスと色々考えて携帯食料兼保存食にした。


 理由は幾つかある。でも一番は小さく簡単に食べられてかつ、栄養価が高い、しかも腐りにくいからだ。


 たとえばこんな森の中や大草原の真ん中で、机とか皿とか出して手の込んだ料理食ってみろ。アホか。魔物に狙われるぞ。そんなことする奴は頭を疑うね。


 それに食事中に冒険者と鉢合わせしてみろ。変な目で見られちまうぜ?

「ふむ。香辛料や塩がアイテムボックスにあるのだから、それで味付けすればどうだ?」


「おいアニエス、適当に言ってるだろ。これに香辛料とかありえないぞ」


 味の無くパッサッパサのクッキーに胡椒をかけてみろ。むせるわ。

 俺は水筒を取り出すと一口飲む。すると横から手が伸びてきたので俺は持っていた水筒をアニエスに渡した。


「パサパサ……」


 どうやらユキもこの食事には不満のようで、眉根に皺を寄せている。

 うぇぇ、ごめんよ! くそ、仕方がない。


 今すぐにでも隠して持ってきたクロード手製のお肉を出してしまおう。魔物? 通りすがりの冒険者? 知ったこっちゃないね。ユキちゃんがすべてだからな。


 よし取り出そう。そう思ったが寸前で取り出すのを止めた。断腸の思いで止めた。やったらアニエスに怒られるどころか呆れられるだろう。それにこっそりクロードさんの店に顔出してた事がバレてしまいそうだし。


 不意にアニエスが苦虫を噛み潰したような表情で、口を開いた。

「……出しても良いぞ? それと私の分はあるんだろうな?」


 何も言ってない筈だけどなぜかアニエスには分かってしまっているようだ。顔には出していないつもりだったんだが。


「一応三人分あるが……だが一食分しかなくてな。今は我慢しよう。して、何故わかった?」

「ユキを見つめながら百面相していれば、な?」


 もろ顔に出てるな、そりゃ分かりやすいわ。

「ならば後10分ほどしたら先へ進もう。なに、もうすぐ到着するだろうし、すぐに仕事を終わらせて町に戻る途中にでも食べようじゃないか」

「そうだな」


 そうだよ。どうせすぐに仕事は終わるんだ。そしたら俺達はこの豊かな大自然を堪能しながら、クロードさん特製の料理を食うんだ。

 

 


 ――そう思っていた時期が俺にもありました。こんなの何度目だろう。

 

「いや、すまないな……」

「別にお前のせいではないよ。俺だって気が付いていたのにここまで来たんだから……」


 『イワカゲウスユキソウ』を見つけ回収するのは問題無かった。地面が見えるほど透き通った美しい湧水の横に、小さな花畑があって、そこにたくさんのイワカゲウスユキソウが生えていた。ちなみにその花の見た目は普通のウスユキソウだった。


 本来ならばもう少し高地に生えるらしいのだが、今回はラッキーだったのか比較的早く見つけることができたとか。まぁたまたまだっていい。早く帰れるのならば。


 俺はそこに生えていた白い花を摘んでアイテムボックスにしまい、意気揚々と下山しようとした、その時だった。

 

 どでかいウルフの気配をユキが察知したのは。


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