26話
ヒビキ:主人公。気分屋。性格がひん曲がってる。かなり斜め上思考。
ユキ:主人公と契約した狐。見た目も性格も天使。
アニエス:白エルフ。主人公が異世界人であることを知っている。
セリア:黒エルフ。美人ではあるし性格もそれほど悪いわけではないけど、扱いが酷い。
ファブリス:勇者で勘違男で意識高系。10人とすれ違えば10人が振り向くことは無く記憶から抹消される容姿。
「お、今日は魔法の訓練か?」
「違いますよ……とは言い難いですかね。珍しく、珍ぁぁしく今日は冒険者としてお仕事です」
そう言うと彼は俺の全身をマジマジと見つめてくるが、あまり見つめないでほしい。照れるじゃないか。
「なんだ、本当に珍しいな。以前は魔法の訓練でよく町の外に出ていたのは見たが、最近はもっぱら接近戦の訓練ばかりだったからなぁ」
確かにそれ以外で町から出たのは勇者との一件だけである。うーん、勇者? 誰だっけそれ。ちょうど今記憶から削除したわ。
「まぁいい。気を付けて行って来いよ?」
そう言って門番のおっさんは俺の背中を叩くと、笑いながらいつもの場所、門の横に戻って行った。
俺は門に背を向けると一言も口をきかず、ぼぅっとしている二人に話しかけた。
「いやすまん。行こうか」
ユキはニコニコ笑顔を浮かべると、ふわふわの尻尾を振りながら俺の横に来る。KAWAIIよ。見てるだけで心が満たされる。
と俺が心をいやしていると、ポツリとアニエスは呟いた。
「……ヒビキを見ていていつも思うが、なんだかんだでお前は社交的だな」
「そうか?」
「ああ。お前が一部の人間をわざと人を避けているせいで、そう見えないがな」
「んー、確かに人を遠ざけている感はあるな。ま、最低限の知り合いさえいれば良いんだよ。顔を広げすぎるのも面倒事を拾うことの方が多いしな」
アニエスは一瞬何かを考えるように、首を傾げた。
「まぁ、そういうものか?」
「そういうものなんだよ……」
俺は彼女の返事を聞く前に歩き出した。
たわいもない会話をしながら1時間くらい歩いたところだろうか。そう言えば聞いてなかったけれど、かなり重要な事があったことを思い出した俺は、ユキとおしゃべりしながら楽しそうに歩くアニエスに声をかけた。
「ところで今日は何処へ行くんだ?」
アニエスは言ってなかったか? とばかりに顔に疑問符を浮かべ、俺に言う。
「ああ、今日は北だ。ずぅっと行けば小さな村があるんだが、今日はそっちの方へ行く途中の山に用があってな」
「山か。何するんだ?」
「なに、そこにはな珍しい薬草や花が生えているのだよ。今日は魔物を狩りながら『イワカゲウスユキソウ』という薬草を取りにいくぞ」
「ふうん。そうか山か、っておい山って……こんな装備で大丈夫かよ?」
確かにテントやらある程度の食料やらを、アイテムボックスに入れて持って来た。だけどそれはピクニック気分で、だ。みんなで遊べるかな、なんて思ってオセロみたいなおもちゃを見つけてノリノリで買ってしまったぞ? 仕事(笑)正直に言えば半分遊びに来たようなものだ。
「なあに、気にする事は無い。頂上まで登るわけではないし、頑張れば一日で往復できる距離だ。心配はいらないだろう」
「なんだー、一日で往復できる距離かあ。びっくりしたぜ。余裕じゃないか」
「薬草はちと取りずらい場所に生えていることが多いが、それだけだ。天気も良いしなにも心配することもないだろう」
と俺がアニエスが話していると、不意にユキが服を引っ張る。
「何か、来るよ?」
ユキに言われ俺は辺りを見渡す。俺には何も見つけることができなかったが、アニエスは違ったようで、彼女は北の方角に首を固定して真剣な表情を浮かべていた。
「ふむ。どうやら数体の魔物が一直線にこちらに向かっているようだな」
彼女がそう言った時にようやく俺もその気配を察知することができた。
「なんでお前らはこんな早くモンスターの居場所を察知できるんだよ……」
「ユキは匂いや気配に敏感だからだろう。それと私は凄いわけではないぞ? 今回ユキに言われるまで全く気が付かなかった」
ふむ、とりあえずユキは察知だか索敵の才能があると言う事だな。可愛くて天使なユキちゃんに才能まで与えちゃうなんて、神は最高だな。もっと与えても良いぞ。
「そんで敵が結構な速さで近づいてくるが……どうするんだ?」
「多分相手はウルフだろう。なに、ヒビキ私ユキの三人が魔法を使えるのだ。正面からいっても楽に倒せるだろう」
ウルフ、か。前にも名前は聞いたことがあるが、実物を見たことは無いな。
「ウルフとはどんな魔物なんだ?」
「ただの大きい犬だ。上位種になれば顔が3つになって火を吐きだすらしいが、ここらには居ないだろう、私も見たことないしな」
顔が3つとか何処のケロベロスですかね。ケロちゃんって呼んだら怒るかな。俺食われそうだな。
「大きい犬って……どんなもんなんだ?」
「確かに想像しずらいかもしれんな。何か例えれるものがないか……ふむ」
そうアニエスが言うと、地面を見つめながら、アニエスは歩き出す。
「ほう、丁度そこにウルフの足跡があるぞ? これで大体の大きさをそうぞ………………うむ……」
俺はアニエスのそばによると、その足跡をじっと見つめた。そして言葉を失っていたアニエスに声をかける。
「…………いやコレでかくね? こんなの俺らに倒せるのか?」
俺が見たのは自分の手を広げても全然足りないほど大きな足跡だった。俺の顔のひとまわり、いやふたまわりはありそうだ。つかこの足跡でかすぎやしませんかね? 足がこれだけでかいんなら、全長が俺の身長の倍くらいありそうなんだが?
アニエスは顎に手を当てじっとその足跡を見ていたが、不意に大きく頷くと一歩下がった。
「ふむ、ヒビキ。空を見てみよう、うむ。すがすがしい天気だ! こんな良い天気だと先ほどの事は忘れてしまうよな?」
「……」
俺はあえて何も言わず、アニエスの瞳をじっと見つめる。
「そ、空は雲ひとつない快晴で、これから冒険へと行く我々への……」
「……」
顔をそらし俺から目線を外すも、俺はじっとアニエスを見つめる。ぜってぇ目をそらしてやらない。
「ど、どうした。そんなに見つめて? ふむ……さ、さては私に惚れてしまったか?」
「……」
いつもならツッコミを入れるところであるが、今日は入れない。入れてやらない。
「来る……よ? それほど大きくないみたい」
俺とアニエスがアホなやり取りをしている間、じっと警戒していてくれたユキの頭を撫でる。そして俺は目に魔力を集め走ってくる4匹のウルフを見つめた。
「確かにあの足跡で想像できる大きさに比べればマシだな……だけどやっぱでかいぞ?」
「うむ、一般のウルフはあんなものだ」
アニエスの何気なく言ったその一言、俺は逃さない。逃すわけがない。
「ほう、一般のウルフは、ね?」
「さ、集中だ、集中。こちらに来る前に魔法で片づけるぞ?」
そう言って彼女は魔力を活性化させ、魔法陣を作る。隣ではユキも魔法陣を作っていた。
俺はため息を吐くと魔法陣を作り、迫りくる狼を見つめた。
結論から言わせてもらえば、ウルフは可哀そうだった。近づくウルフは三人の魔法の餌食になったからだ。
近づいてきたウルフに対して、最初攻撃したのは俺だ。アニエスに言われ、火球を作り1匹のウルフに当てる。そして続いてユキが魔法を発動させ幾つかの風の刃が獣たちを襲った。そして最後にアニエスの火球が切り傷だらけのウルフにトドメを差した。
ただでさえユキの魔法でほぼ半壊していたのに、アニエスの追い打ちである。この世界に動物愛護団体がいるのだとしたらマジギレしそう。俺の魔法? 飾りだよ。
「……俺魔法使わなくても良かったんじゃね?」
「いや、必要だ。確かにせん滅するなら私一人でも十分かもしれないが、ヒビキの魔法の練習になるだろう」
「なるほどな……」
アニエスは山に向かって指さし、俺を首で促した。
一瞬町へ帰ろうかとも思ったけど、アニエスは行く気満々のようだったので、山に向かって歩きだした。そして俺はため息をつきながら先ほど少しだけ頭に引っ掻かていた事を尋ねる。
「なあ、アニエス。練習つっても二人に比べると、俺の魔法弱過ぎないか? なんでだろう?」
「なに、レベルが低いのと経験が足りないのが原因だと私は思うぞ? 普通の人間族の中でも上位に来る素養がある。それに比べる相手が私やユキだからだ」
確かに言われてみればユキとアニエス以外の攻撃魔法なんてほぼ見たことないんじゃないか? 剣とか斧でゴリゴリ戦うのは何度も見ているが。
「その辺は安心しろ。今はまだ仕方ないとしても、後々使えるようになるだろう。どうして強い魔法を使いたいならば、必殺技みたいなの教えても良いぞ?」
「え、マジ。必殺技?」
「そうだ。お前の魔力からしたら一度しか使えないだろうがな」
一度しか? 反動が強いとかそう言ったのだろうか? それだったらもちろん嫌だ。片腕犠牲にしてとかじゃないよな? 何それちょっとカッコいい。
「……ちなみにどんなのだ?」
「無詠唱魔法だよ、前に話しただろう?」
確かに以前聞いた事がある。だがしかしアレは……。
「無詠唱とか俺の魔力で耐えられるのかよ?」
使用魔力が多いことと、想像するのが大変だとかなんとかだったような気がするのだが。
「後先考えずでの一度くらいなら大丈夫だろう。それに魔法陣構築がまだ下手なヒビキだからこそ、威力が高くなるはずだ。無詠唱では想像が全てだからな」
確かに歪な魔法陣しか作れない俺にしてみれば、魔法陣を使わないでの魔法発動はある意味効率良い気がする。もちろん魔力の消費以外の効率だが。
「そうかぁ、後でやってみるか……」
俺はアイテムボックスから水筒を出し一口飲むと、それを空中にほおり投げ、アイテムボックスにしまう。今度はナイフをアイテムボックスから取り出すとそれを宙に放り投げ、落ちてきたのをアイテムボックスにしまう。
「ああ、一度やってみるといい……それと気になっていたんだが、お前がたまにするアイテムボックスから荷物を取り出したりしまったりしてるのは、なんでなのだ?」
「ああ、すまん。貧乏ゆすりみたいなものだと思ってくれ。なんか癖なんだ」
学生時代はペン回しやスマホを回転させる、会社員時代はキーボードの『半角文字キー』や『カナキー』を連打しれしまう癖。変な癖だと分かってるんだけどやめられない。
俺は背中に手を回すとそこにアイテムボックスから水筒を出す。そして上に放り投げると今度は足元に枕を出すと、それは足で空へけり上げる。更に今度は反対の足に、コインを出すとそれを上に蹴りあげた。そして同時に振ってくるアイテムのうち枕とコインだけアイテムボックスにしまい、水筒を手でキャッチした。
「ふむ……これなら大道芸で金がとれそうだな」
「パパ……凄い!」
俺は目をキラキラさせているユキちゃんの頭を撫でる。
「初めはポケットに硬貨を違和感なく出せるようにと、危ない人に絡まれた時に荷物を隠せるよう練習してただけだけなんだがな……」
俺は水筒をアイテムボックスにしまい、小さく息を吐く。
「ふむ。何かに使えそうにも見えるが、何も使えなさそうにも見えるな」
「だから癖みたいなもんだって、気にしないでくれ。つか目障りならやめるよう努力するが……」
アニエスは首を振ると首を振った。
「いや、少し気になっただけだ。さあ、進もうか」




