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23話

 

「勇者という者はね、常に民衆を守らなければならないんだ、だからこそ力が必要となる。だが魔物だって日々成長をしていてね……」


「はぁ、そうなんですか?」

「そうだ、だからこそ僕もイノベーションして――であるから――」

 お前ちゃんと言葉理解して話してるんだよな?


(マスターコイツ黙らせてくれませんか?)

(何か言うと変に意地はって面倒くさいんだよ。だけど誰がどう言おうとこいつは勇者である事は確か。だから対応も勇者にしなければいけないんだぜ。上からの命令でな)


(ひぇー、ピラミッド社会では上に逆らえないんですね。マスターも大変ですね)


 俺も社畜時代はそうだった。

(分かってくれたか……! なんでこんな奴が勇者なんだか。勇者を決めるが神だとしたら、俺は神の目を疑うぜ)


「――そう、ならばこそ、僕たちは、立・ち・上・が・ら・な・け・れ・ばならない!! そう、強いられているんじゃない、僕たちが先陣を切って進まなければいけないんだ」


 こぶしを握り力説する勇者のために、俺は笑顔をつくる。セリアさんに負けないぐらいの仮面笑顔だと思う。


「うわすごいですーそんけいしてます、がんばってください!」

(おい、ヒビキ。さすがにそんな適当に褒めても、貶されてるように感じるぜ。さすがに勇者もキレ……)


「ふむ。君は勇者の心と言うものをしっかり理解できているようだな。頑張れば君も勇者ぼくに限りなく近づくことができるだろう!」


(ああ、そうか、こいつは一般的な人間じゃなかったな、俺とした事がうっかりしてい……)


 ギルドマスターが口を半開きにした瞬間、俺は自分の肌に微弱な魔力の揺れを感じた。すぐに視線を凝らし、辺りを見渡す。


「僕が勇者である限り、君が勇者になるこ…………どうしたんだ?」

 未だに異変に気が付いていない勇者に俺は答えた。


「いた。北北西、2匹。全部ゴブリン」

 俺は二人を手招きし、おいしげった草の所まで歩くと、そこにしゃがむ。


「ふむ、俺はまだ気配だけしか感じれなかったんだがな。よし……そうだな、ヒビキ魔法なしで2体いけるか?」

「あー無理です」

 『無理』はっきりそう答えておこう。

 

 この『無理』とはっきり言うことは俺にとって重要だ。

 実を言えば、3匹なら多分楽に倒せると思う。だがここで無理と言っておけば俺の評価は下がるだろう、それが目的だ。

 

 そうだ、低評価をされることは大切なんだ。それは日本で骨身に染みた。

 

 人間の世界は不思議なもので、毎日コツコツする人よりも、たまに仕事をする人の方が評価される場合がある。学校で例えるとこうだ。


 品性高潔で真面目なやつが、毎日丁寧にやっていた掃除を急にさぼったとしよう。その時彼は教師にはこう言われた。『何をやっているんだ? 今までのお前はしっかりしていたのに』。


 だけど毎日掃除をさぼっているヤンキーイケメンYくん(バスケ部)がめずらしく掃除をしたとする。するとどうだ? 『ほう、Y君は偉いな! 見なおしたぞ!』となる。それにクラスの女子なんかは『掃除するYくん超COOL、すてき!』となぜか超高評価を得る。

 

 意味が分からない。なんで毎日掃除を頑張っていた俺が一度のサボりで貶されて、クソチャラ男のY・Sは1度しか掃除をしていないのにあんなに高評価を得るんだ? ○研のついてくる漫画の『勉強してたらクラブ活動がうまくいって、ついでに彼女ができました』という超展開並みに意味が分からない。こんなのを何度も経験すれば俺はひねくれるわ。クソが。あのクラスメートの女子、俺の片思いの子だったのに……!

 

 一時期は高評価を得るためには顔が勝負の決め手だと思っていたが、違う。顔じゃない。たしかに人によっては顔も重要だが、本当に重要なのはそこじゃなかった。

 

 重要なのは自分に対する期待を持たせてはいけないことなのだ。

 

 期待をもたせてしまえば何を成功させたとしても

 『何だ色々出来るのか → まぁコイツできるっつてたしな、当り前か』


 と当り前になってしまうが、期待を持たせなければ


 『なんだコイツ全然使えねぇのかよ? → 実はコイツ出来んじゃん、見なおしたぜ』

 となるからだ。

 

 そう、重要なのは『期待のコントロール力』。

 

 常に出来ない人間を演じておいて、降りてくる簡単な仕事をゆっくり丁寧にやればいいだけ。初めから俺出来るぜ的に行ってしまうと、仕事が雨のように振ってきて、どんどん溜まる割にはこなしてもさほど評価されない。もちろん見てくれる上司もいるけどネ、絶対いるわけじゃないんだよネ。

 

 しかし会社でトップとかエリートをねらうなら、実を言えば圧倒的に後者の方が良い。理由も条件もいろいろあるが。


 だが、トップを狙うなんてそんな面倒なことをしたいか? 俺は絶対にしたくないね。責任重そうじゃん。適当にやって日々を過ごせるだけの金が手に入れば何でもいいんだよ。トップ? 洗剤かな?

 

 だったら基本的に低評価でいい。そうここで俺は期待のコントロールをするんだ……! 

 

 だからこそ俺はここで自分出来ませんアピールだ。完璧だ。これでおっさんも俺に変な期待は持たなくなるはずだ。


 俺は眉根に皺をよせ口をすぼめると『非常に残念』的な顔を作り、ギルドマスターを見つめる。


「…………いやお前何言ってるんだ? 余裕でいけるだろ。てめぇは誰と訓練してると思ってんだ、俺がお前を見てるんだぞ」


 ……ソウイエバソウデシタ。しまったな、言われてみればこの人に俺の実力モロバレじゃないですか。なんとかごまかせないだろうか?


「にに、2体はちょっと……」

「あっそ…………わかったわかった。ファブリス、力を貸してくれ。ヒビキの経験を積ませるためにも1体は彼に回してくれないか」


「いいでしょう。僕一人で複数なんて余裕ではあるが、今は我慢して彼に経験を積ませる。そうすれば強くなって僕のフォローが出来るようになる。というように彼の成長はアライアンス(提携・同盟)を結んでいる僕にも有益だからね。これは一種の投資だね。頑張ってくれたまえ」


 あ、なんかむかつく。やべぇ心底殴りたい。以前セリアさんやアニエスを殴りたいなんて思ったけどアレはもちろん冗談だ、だけど今は冗談じゃない。殴りたい、その笑顔。


 ギルドマスターは俺の顔を見て口元が引きつっているが気のせいだろう。


「……じゃ、じゃあ1体はファブリスで1体はヒビキだな」

 そう言うとマスターは視線をゴブリンの方に向ける。

「ふむ……もうすぐ奴らと接触するが、まだ相手は気が付いていない。もちろんこの場はどうするか分かるよな?」


 そう問いかけるギルドマスター。いや、この状況ならあれだろ? わかるに決まってんじゃねえか。


 ここはあれだ、気配を消しながら後ろからスッと一撃で――。


「もちろん正々堂々名乗りを上げて、正面から戦いを挑むのだろう!」


 ――しとめる…………ぁぁん、なんだって? 


「すみません、ファブリスさん。私の頭が現実を拒否してしまったようで……もう一度言ってくれませんか」

 そう俺が問うと、勇者はやれやれと言った様子でため息を吐く。


「しっかり聞いてくれ、正々堂々名乗りを上げて、正面から戦いを挑むのだ。む、そろそろ来るぞ!」


 俺が彼を止める暇はなかった。

 彼はすでに立ち上がり駆けだしていたからだ。そして駆けながら大きく息を吸い込み大声をあげた。


「我こそは勇者であるファブリスである、ゴブリン共、今からお前らを倒してやる、覚悟しろ!」


 え、ちょっとまって、俺隠密で行くつもりだったんだけど、ちょっとさ、何叫んでんのコイツ? お前は戦国武将か! 相手は人間の言葉が通じないだろ、馬鹿か? そんなことしたら名乗りを上げている間に攻撃されて……。


「ゴ、ゴブゴブゴブ! ゴブゥ! ゴブブブゴブゥ!」


 え、ぇぇぇぇー! ゴブリン名乗り返すのかよ、名乗り返しちゃったよ、ゴブリン実は武士もののふだったわ。つか言葉通じるんだな!


「ふむ、なら正々堂々僕と勝負だ!」

 あ、あれ。や、ヤバい俺出遅れてね? ちょっと急いで1体倒そう。


 俺はスッと立ち上がると、なけなしの金で買った剣を抜いて、勇者達を横で見ていたゴブリンに向かって駆けだす。


「ゴブブ!」

 後十メートルほどと言ったところか。ゴブリンは近づいてくる俺に気が付いたようで、手に持った棍棒を構えた。


 ゴブリンはまるでジャガイモのように顔が凸凹していて、その顔の中心部にはまるで洋梨のような鼻が付いていた。また身につけている物は腰と頭に巻かれたぼろきれのみで、凄く不潔そうだ。

 怪我をしたら除菌しないと病気になりそう。

 

 そんなゴブリンは俺に向かってその棍棒を振り下ろす。


 魔力で強化した耳に、『ブウン』と空気を斬る音が聞こえる。


 ファンタジー系のゲームや小説をよく読む奴はゴブリンが雑魚魔物と認識する奴が多い。確かにこの世界でも扱いは雑魚だ。しかし雑魚とはいってもその筋肉は平民の大人並みにあって、今の俺なら一撃でもまともにくらえば大けがをおうだろう。レベルが上がれば話は別らしいが。

 

 俺はその勢い良く振り下ろされる、危険な攻撃を剣で受け流すと、すぐに剣を構えて攻撃……するふりをした。

 

 ゴブリンは慌てて棍棒を横にして、俺の剣に備えるも俺は剣を振る事はせず、足払いをかける。


 ゴブリンはまんまとフェイントに引っ掛かり足払いを食らいその場に転ぶ。


 尻もちを吐いたまま口を半開きにしたゴブリン。俺は迷うことなく剣を振って首を切り落とす。まちがいなく絶命しただろう。


 攻撃がヤバくたって、あたらなければ意味がない。最近もっと攻撃速度の速いギルドマスターの相手をしていたんだ。はっきりいって余裕である。


「いっちょあがりだな……」

 その瞬間俺の目の前に光の粒子が舞う。どうやらレベルアップしたようだ。


 俺は視線を勇者に向けると、そこには一つのゴブリンの死体とバラバラに切り裂かれた棍棒が落ちていた。どうやら彼もゴブリンを倒すことができたらしい。


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