22話
「紹介しよう……勇者のファブリスだそして、こいつがヒビキだ」
「こんにちは、ファブリスです」
「わたくし、ヒビキと申します。本日はよろしくお願いします」
日本から離れて既に何週間も経過してはいたが、俺にしみ込んだサラリーマン時代の能力は健在で、体が無意識に動く。完璧な挨拶をしてしまった。
ファブリスと呼ばれた人は見たところは普通の人だった。少し赤みがかった茶髪に細い目。顎がシュっとしていて、野菜で例えると人参みたいなやつだった。また、彼は銀に輝く鎧を着、腰にはあの勇者の剣がくくりつけられている。
それにしてもこいつの名前、布にシュシュッとする奴に似ているな。
「今日はお前ら二人と俺で狩りに出てもらう。内容はいたって簡単だ。ゴブリンを倒す。それだけだ」
ギルドマスターはそう言うと、ため息を吐いた。
ファブリスは腕を組むとニヤリと笑いながら口を開いた。
「君の無事は99パーセント僕がコミットメント(約束・保障)しよう……ふふ、勇者である僕と一緒に狩りに行けるんだ。光栄に思うと良い」
まだ出会って1分も経過していないけど、以前アニエスがこいつとは関わりたくないと言っていた意味を理解した。
「……まぁこう言う奴だ」
俺の顔を見て何かを悟ったのかギルドマスターは暗い表情でそう言った。
「本来ならば勇者の僕がイニシアチブ(先導・主導権)を取るのではあるが、今回は経験の厚いギルドマスターが取ることとなった。僕たちはギルドマスターから技術を奪わなければならない。そして僕たちの力の礎とするんだ」
……やっぱコイツ面倒だわ。コミットとかイニシアチブなんて久々に聞いたわ。つかこの世界にも意識高い系いるんだな。しかも上から目線。いや意識高い系は、たいてい全員上から目線に見えるけどさ。
あーあ。意識高い系か。一緒に居ると疲れるんだよな……。しかも意識高いからと言って仕事出来るわけじゃないし。稀に使える奴も居るけどまじで稀なんだよな。
あーあこれだったらアレに勇者の剣を抜かれてた方がまだましだったかもしれない。俺がアレよりも先に解除をしていれば、アレが勇者認定されただろうに。
「ふむ、どうやら君は僕の剣が気になっているようだね? そんな君には君にはこの剣と僕の慣れ染めを話してあげよう。光栄に思うといい。僕とこの剣がめて出会ったのは数日前でね、僕が一つの依頼をリスケして別の依頼を入れたんだ。そしてこの町に来たら丁度勇者を探しているではないか」
あー。なんかコイツ語り始めたんだけど。しかもすげぇめんどくさそうなんだけど。っておいマスター呆れ顔で離れるな、コイツの暴走どうにかしろ。
「『運命』だと僕は思ったよ。だってさ考えても見てくれよ。僕があの依頼をリスケしなければここに来ることは無かったんだ」
はぁーあ。回復魔法をかけてもらったとはいえ、まだ少し体痛いわ。そう言えば今日の訓練はきつかったな。明日また筋肉痛になりそうだなぁ。こう言うのってどうすれば明日に引きずらないんだろうか。
「それだけじゃない。あの美しい切り株の台座に乗っかっていたこの剣は、俺に言ったんだ『君が僕を手に取るんだ』と。確かにそう言ったんだ。僕には聞こえたんだ! だけどその声を聴けたのは僕だけのようで他の人は聞こえなかったみたいだ」
やっぱマッサージなのかな? それとも風呂に入ってあっためた方が良いのかな? あーあ、スマホがあれば検索するんだけどな。
「だから僕は剣の前に行ったんだ。するとどうだ。僕が近付いたせいか、剣が神々しい光を放ったんだ。まぁ少しタイミングは早かったが、アレは僕の魔力に反応して光り輝いたのだろう! 僕の心は、血は、体は湧き踊ったよ。気持ち良すぎて吐きそうだった」
そう考えるとスマホってすげえ便利だよな。どこに居たってなんだってネットで検索できるんだもんな。昔は知識人、おばあちゃんが知恵袋で一世を風靡していたのに、今は『検索>おばあちゃん』だもんな。
「僕の番になってすぐ、剣に手を振れたんだ。するとどうだろうか。前の人があんなにも重そうにしていた剣が羽根のように軽いではないか!」
ああ、ネット環境恋しいなぁ。調べたい事がある時とか暇つぶししたいときには神アイテムだったな。
「僕は剣を天に掲げた。そしたら僕の体に雷が落ちたんだ。まぁもちろん本当に落ちたわけではない、だけどそれくらいの何かが体中を走ったんだ」
スマホとか携帯で革命的だったのは他にはテレビかな。昔は出かけるとなればビデオやDVDに録画して、休日潰して見たもんだ。今はあのちっこい端末にテレビ付いてるし、それどころかネットで視聴できるしな。まぁどこかの放送局が暴走して金取ろうとしている点はアホだと思うが。
「僕は衝撃と感動で震えたよ、剣も僕に触れてもらってとてもうれしそうだった。僕はゆっくり剣をブルースカイに掲げた! その時の辺りの歓声は今も耳に残っている」
つーかあのクソ会社は、なんでこんなに必死になって受信料金集めようとしているんだろう。実はテレビ業界の闇が深すぎるから、テレビ離れをさせるために政府がわざとそんな事をしているんじゃないか? だなんて思うレベルだよな。まぁ無いと思うけど。
「ふふ、そういった事があって僕はこの剣と唯一無二の存在になったんだ」
「へぇーすごいですね!」
さっきからうるせえな。とりあえずそう言っておこう。この言葉使う奴の5割くらいはどうでもいいやと思ってんだろうな。俺なんかがそうだし。あ、それと君は精神科行った方が良いんじゃないかな?
そう言えばプロジェクト任されてしばらくした時本気で精神科行こうかと考えたな。つかあの上司はなんでヒラの俺にプロジェクト押し付けんだよ、自分でやれ。
「そうか、そうか。君は向上心があるんだな、ならばその後の話もしてあげよう!」
どこに向上心のある要素が見受けられたのか説明を求めたいんですが。つかまだ話す気なんですか?
俺は視線をギルドマスターに向ける。マスターは座りながらお茶を飲んでいたが、ため息を付いてこちらに歩いてきた。おい、セリアさん手を振られても困る。お前はこのギルドでの人気っぷりを知らないのか?
「おい、もう良いだろう……そろそろ仕事の話をしよう」
「ふむ、ギルドマスターにそう言われてはな、ではこの話は次回にしよう」
次回? もうありませんよ。俺はもういろんな意味で貴方と関わりたくない。
「じゃぁこれからの流れをこのアジェンダ(議題・行動計画)を見ながら話しあおう。ああ、このエビデンス(議事録)は君に任せるよ、しっかり取るようにね」
なんでこんな日雇いの仕事にアジェンダ(議題・行動計画)用意して話しあいしなければならないんだよ。エビデンス(議事録)も必要か? 要らないだろ。
俺はギルドに備え付けられているテーブルの一つへ向かっている勇者を見つめる。そして隣いるマスターに聞かせるようにため息をついた。
(本当にすまん。普通の冒険者と組ませると、冒険者がマジギレするんだ)
(それは目に見えるな……)
(俺だってこんな奴の子守りなんてしたくない。だがな貴族の命令で、勇者にいろんな経験つませなければならないんだよ……。普段の訓練手伝っている分として今日は我慢してくれ、それに経験値も稼げるだろう)
(経験知だけじゃなくてストレスも稼げるわ。はぁ、マジで今日だけだろうな……次は絶対にパスだ)
(助かるぜ。お前ぐらいしかあいつと出来そうな奴がいないんだ)
まぁ今日は仕方なくだがやってやろじゃないか。今回だけだぞ、今回だけだからな。
今日からしばらく1日1回更新もしくは2日に1回更新となります。
またMF大賞応募予定でしたが3千文字足りず、諦めました。締め切りまであと三日という所で3万文字近く足りないのに、なんで私はギリギリまで頑張ったんですかね。そこで諦めればよかったのにorz
後半一部適当に書いてしまったところがありますのでそこは後日なおします。ごめんなさい。




