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20話


「あぁ……暑い」


「ああ、暑いな……」


 雲ひとつない青々とした空。さんさんと輝く太陽。もし此処が海だったらそれはそれは最高の天気であろう。だけれどここは古いパソコンの背景にありそうな、青々とした草原が広がっていて、涼むものなんて何もない。


「なあ、アニエス……これ、脱いでしまっていいかな?」


 俺は購入したばかりの灰色のローブを摘まむとアニエスを見つめる。

「駄目に決まっているだろう」


 この世界に来てから初めて武器屋へ行った俺は、色々あってこのローブを購入した。ローブは対斬撃用の特殊な糸がつかわれており、更に隠蔽魔法が組み込まれていてとても高かった。お値段なんと金貨12枚。社畜時代の年収の4分の1。そう考えれば安いな。良い車買うのより数倍マシだわ。服としては絶対に払いたくないレベルだが。


 ちなみに武器として、アニエスのお古の杖を貰った。今はアイテムボックスの中に眠っている。


「そう言えばアニエス……以前から気になっていたことがあるのだが」

「ん、なんだ?」


 そう、杖で思い出したのだが、勇者の剣についてだ。


「実は勇者の剣を初めて取得した時に、剣がアイテムボックスに入らなかったんだよ。でさ、仕方なく手で持ち歩いていたんだ」


「ふむ、なるほどな」

「だがなお前の杖とか、そこら辺に生えてた木とかは、入ってしまうんだよ。何故だと思う? ちなみに質量だったら圧倒的にそこらへんの木が大きいぞ」


「ふむ……分からんな。そもそもアイテムボックスを持っている人が多いわけではないしな。まぁ予想で良ければ答えるが」


「ああ、構わない」

 彼女は暑いのかはぁはぁと呼吸しながら、髪を掻きあげると後ろへ流す。その髪は汗でぺたりと肌にはり付いた。なんか官能的。


「多分アイテムボックスは入れるアイテムの魔力量を読みとっているのだろう、たとえば木だったら確かに魔力はあるが、私の杖に比べれば微々たるものだ。そして勇者の剣と私の杖を比べたら私の杖の魔力が微々たるものだろう」


 俺はアイテムボックスから水筒を取り出すとアニエスに渡す。彼女は蓋を開け数口飲むと水筒を返してくれる。


「つまり魔力で決まると言うことか?」

「多分な。もしかしたら質量も関係あるかもしれんがな。質量と魔力の合計が袋の空き容量以下だったら中に入るようになっているかもしれない」


 ふむ。なるほどな。そう考えることもできるのか。まぁ試すのも面倒だからやらないが。


「ん、魔物の気配だな……」

「はぁ? マジかよ。俺全然感じないんだが?」

「まだ見えないだろうが、あっちの方からこちらに歩いて来ているぞ。もっともあちらは私達の事を見つけてはいないようだが」


 俺はアニエスの指差した方角を見つめる。確かに数人の豚のような犬のようなやつらがこちらに歩いてくる。ただすこし……。


「ああ、見えた。なんかふとましいのが2匹こちらに向かってくるな……」


 ぽっちゃり系だろうか。そう言えばいつも思うけど雑誌とかが言う『ぽっちゃり』系って○ブだよな。


 ん、ちょっとまて。良く見てみれば雑誌が言う『ぽっちゃり』で済まされるレベルではないな。ボンレスハムみたいだ。体重100キロはゆうに超えていると思う。古い家だったら足が床を貫通しそう。


「ヒビキ……よく見えるな?」

「そう言えば視力や反射神経やら動体視力が良くなったんだわ……」


 ユキとの本契約によって幾つか変化が起きた。

 一つは、すぐに分かった、ユキの人間化だろう。それから少したって分かった事であるが、俺の目の強化である。どうやら以前よりも遠くの物がはっきりと見えるようになり、それも動いている物がゆっくり感じるようになった。どうやらこれはユキの目の力が俺に宿ったらしい。


「ああ、私にも見えた。アレは多分ボコゴブリンだ。ボコリンと呼ばれている」

「ボコリン?」


 ホブゴブリンなんていうのはゲームや本で見たことがあるな。確か家事を手伝ってくれる善良なゴブリンだとか。だが……ボコか。それは聞いたことがない。可愛い名前だな。ぼこりん! そんな星ありそうだわ。


「気をつけろよ? 可愛い名前だけどな……名前通りとても弱い」

「ってそれどこに気をつけるんだよ……つか、あの体格なら一撃一撃が重いから戦ずらいとかじゃないのか?」


「いや、体のほとんどが贅肉で出来ている所為でそんな事もない。10歳1レベルの男性が武器なしでボコボコにしてしまったからボコゴブリンと名付けられたらしいぞ」


 よわ! ちょっとそれ弱すぎだろ、10歳とか小学生じゃねぇか!


「俺でも楽に勝てそうだな……」

「ああ、楽に勝てるだろう。魔物の中でも最弱と言って良いだろうからな。練習にはちょうどいいだろう。じゃぁそろそろこちらも戦う準備をするか」


 彼女は俺の横に立つと魔法陣を作る。俺は彼女の作る魔法陣をまねして魔法陣を作り上げた。


「うーん。まだまだだな」

「そうだなぁ、アニエスみたいにまだ綺麗に作れないぜ……」


「なに、練習すれば出来るようになるだろう。ただな、前にも言ったがお前は剣士も並行してするのも良いと思うぞ?」


「剣士かぁ。俺、剣とか握れなさそうなんだけど……」

 剣の重さで俺が潰れてしまうんじゃないかな?


「いや、勇者として呼ばれたのならお前は剣の才能がないわけがないっと、そろそろ発動の準備を」


 俺は視線を前に向ける。目の前にはアニエスの作った魔法陣をいびつにした不思議な魔法陣が浮かんでいた。


「同時に行くぞ。ゴー!」

 俺はそれを聞いた瞬間に魔法を発動させる。

「くらいやがれ、ファイアぁぁぁぁ!」


「と言ったら発動させ………………おい。なぜお前は発動させているのだ?」

 俺の魔法陣から小さな火球が1匹のボコリンに飛んで行く。

「いやお前フェイントかけたよね!?」


 だって『ゴー』強調して言われたら発動しちゃうでしょう? 何それ、お前学生レベルのボケしないでくれませんかね。


 アニエスがため息をつきながら魔法を発動させる。俺の火球はボコリンの左腕を掠り、アニエスの火球は俺とは反対側のボコリンの顔に直撃した。


「ヤベぇ……かするだけだった」

「ああ、それなら大丈夫だ。ほら、お前はあいつを無視して次の魔法陣をつくれ」


 俺は彼女にいわれたとおり魔法陣を作り始める。だがしかし大丈夫なのか?

 アイツ激おこでこちらに突撃してくるんだけ……あ、石ころにつまずいた。え、泣いてるんだけど?


「アニエス……?」

「そういう魔物なんだ……」


 泣きながら立ち上がると足を引きずりながらこちらに近づいてくる。ちょっと待ってくれ、アイツ見てるとすごく庇護欲がかきたてられるんだけど……。


 俺は魔法陣を作り上げるとのろのろとこちらに向かって歩いてくるボコリンに向かって魔法を発動させた。どうやらトドメをさせたようで、ボコリンはその場に倒れ込んだ。


 そして俺の周りには青白い光が浮かび俺を包みこむ。ギルドカードを見る限りどうやらレベルが上がったようだ。


「何これ。凄く、罪悪感があります……」

「……まぁこんな魔物はそうそう居ないから、これが普通の魔物と思わない方が良い」


「まぁ、前魔物と戦ったことがあるからこいつが異常だと言うことは分かるよ」

 オイルラッドはまだ魔物してた。でもこいつは魔物してない。近所の小学生苛めてるような気分になったわ。


「だけどさ、戦闘って手に汗握るものじゃないの?」

「ふむ。なら逆に問おうか、そんな戦闘したいか?」


 想像してみよう。


 1秒が長く感じる睨みあい。一瞬の油断が死を招く。全神経を相手に向けて、少しの動きも見逃さない。迫りくる牙、腕、魔法。持ちうするべての技術を使い相手の攻撃を防ぎ、全身全霊をかけて相手に反撃を仕掛ける。そんな手に汗握る戦いとか……もちろん、


「絶対にしたくないな!」


 当り前だろう。ただでさえ普通の戦闘が面倒とか思っている俺だぜ? なにそれアホ? そんなんするくらいだったらどこかの商店でアルバイトするわ。

 

「だろう? 私はお前がそう言うと思ってここを選んだんだ。ここならそんな戦いはないからな」


 アニエスはさすがだな。俺の考えをよくわかってる。

「あーあ、何か簡単に経験値を稼ぐ方法とかないかなぁ」

「あるわけがないだろう? だが今日はユキの為に頑張るんだぞ?」


「そうだなユキの為に!」

 

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