18話
「なぁヒビキ、ユキと契約しないか?」
俺のベットでゴロゴロしながら彼女はそんな事を言う。
「あぁ? 契約?」
契約って何それ? 魔法少女になる奴? そう言えば、あのクソ外道べえも、ユキと同じ白い色だったな。ユキはあんなゴミじゃなくてリアル天使だけどな。
つうかさ、契約って代償がつきものだろ? どんな願いがかなうとしても、代償がデカければやらないぞ?
「そうだ契約だ。ユキと契約することで、ユキと心を通わせることができ……」
「あ、やります!」
ユキと心を通わせる? それだったらどんな代償でも払うね! 腕一本安いくらいだ。なんせもうすでに心はユキちゃんに奪われちまったからな!
「……即答だな。まぁもう仮契約はしているみたいだから、問題なくすぐ終わるだろう」
「は? 仮契約?」
そんなものをした覚えがないのだが?
彼女は俺の枕を抱きしめながらゴロゴロ転がり、俺の方へ顔を向ける。あのさぁ、実は最近お前の匂いが枕と布団に移ってさ、夜にとても悶々としてしまうんだけど……。
「仮契約とは魔力を媒介しないで契約することを差す。お前はユキに名前を付けたんだろう? 多分その時にユキはその名前を受け入れることで契約が成立したのだろう」
そういえばユキと契約した時に、白い幾何学模様が……あったような気がするな。
「言われてみれば、白い魔法陣っぽいのが出てきた覚えがある」
「ああ、それがユキとの仮契約出来たあかしだよ」
俺はベットに寝そべるユキちゃんに手を伸ばし、抱っこする。
「ねぇ、ユキちゃん俺と契約してくれる?」
「コン♪」
ちょっとだけ眠そうなのに、にっこり笑って返事をしてくれるユキちゃんマジ天使。この次元で一番可愛いよ。
「ホントにユキちゃんは可愛いなぁ……!」
よっこらせ、と言いながらアニエスは体を起こすと乱れた髪を手ぐしで直す。おいおい、よっこらせって何歳だよ……ってエルフだったから年齢わかんねぇな。……実は結構年いってる?
「ふむ、では町の外に……いやそこまで行かなくとも今回は大丈夫か」
彼女はそういって立ち上がると俺のそばによって、ベットに腰かけた。そして彼女から今回使う詠唱を教えてもらう。
「よし、言葉は覚えたな? ならば契約の魔法陣だが……ふむ私がお前の魔力を使って作るか。いちいち覚えてもらうのも大変だしな」
彼女はそう言うと立ち上がって俺の横に来る。俺はアニエスの前に立つと、彼女は背中に体を密着させてきた。いつも通りいろいろヤバいです。
「じゃぁ私に魔力を送ってくれ。それを使って構築する」
「ん? そう言えばだがお前の魔力で作った魔法陣じゃ駄目なのか? 俺は使えるぞ?」
「ああ、多分大丈夫だと思うが他人の魔法陣でやるのは前例がない……もしかしたらあるかもしれないが、私が聞いたことがないからな。それぐらい夫婦魔力なんて珍しいのだよ。だからお前の魔力で魔法陣を構築する」
なるほどな。確かにアニエスの魔力を使って魔法陣を作ると、発動の際に使う俺の魔力と混じって変な契約になる可能性はあるな。
「分かった、じゃあアニエス……送るぞ?」
「ああ、来い……!」
俺はゆっくり彼女に魔力を送る。
「んっ……んんぁっ……」
またこれか……マジでその声どうにかなりませんかね。私達かなり変態ですよ。
「んんっ……よし、そろそろ……んぁっ…………つくるぞ?」
「ああ、頼むから早くしてくれ!」
彼女は俺の目の前に半径30センチほどの魔法陣をつくりはじめる。だがしかし、少しまって欲しい。
「お、おい。なんか俺の魔力とアニエスの魔力がちょびっと混じってないか?」
「……みたいだな、だがほんの少し、だろう? 大丈夫じゃないか?」
確かにほぼ俺の魔力だから……まぁ大丈夫か。
30秒ほどしてその魔法陣は完成した。俺が今まで見て来た中でも一番の大きさで、一番魔力が使われていると思う。
「よし、いいぞ」
俺は深呼吸すると先ほど彼女に教えてもらった詠唱を始める。
「我、汝との契約を望むものなり。汝、我が契約を受け入れろ。我、対等な契約を汝に望む。答えよ! 汝、我との契約をするか?」
「コン!」
ユキは俺にそう返答すると何やら青白い光に包まれる。それはユキの体全体を覆ったかと思うと、光はどんどん大きくなって部屋全体を包み込んだ。
俺はあまりのまぶしさに目をつぶり。腕で目元を隠した。後ろのアニエスは俺の背中に顔を押し付けなんとかやり過ごしているようだ。
「お、おい大丈夫か?」
「あ、ああ。私は大丈夫だ……ユキは?」
俺はゆっくり瞼を開く。
そこに居たのは中学生くらいの一人の少女だった。
まだ幼さを残しているような丸みを帯びたこの顔。目はぱっちりしていて少しだけ釣っており、黄色に近い金色。そしてアニエスが明るいブロンドだとすればその子は白に近い銀髪だろうか。
彼女の美しいその白銀の髪から覗かせる狐耳。そして彼女の後ろから勢いよく振られる白銀の尻尾。
俺はその子を見て思わず見とれてしまった。まるで時間が止まったようだった。今まで生きていた中でこんなに綺麗な人を見たことがなかった。
俺は彼女の全身を見つめる。
小ぶりな胸にそのしたは……っておおおおおおおおおおおおお
「おおおおおおおおいいいいいいいいいいいいいいいいい! ふっ服を着ろおおおおおおお!!」
俺は急いで目を閉じると両手で顔をふさぐ。
「あ、アニエス助けて! マジで助けて。大ピンチ、部屋がゴキブリで覆われるくらい大ピンチ、早くマジ早く、この子に……服を!」
「……いや、まさか。う、嘘だろう? 人化しただと!?」
いや驚くのは後にして早く彼女に服を着せてくださぁぁぁい、ヤバいですヤバいです! 何がヤバいって俺がヤバいです!
俺が目を閉じて悶えていると、前方から高いソプラノの声が聞こえる。
「ぱぱ? どうしたの?」
「ぱ、ぱぱぁぁぁぁあああ? ちょっとまて。何言ってるんですかこの子はぁぁぁぁぁああ! 何言ってるか分からないんだけど、日本語でおk。パっパ、パパ、ぱっぱぱぱぱぁぁぁぁぁああ!」
「お、おおおおい、ヒビキおちつけ! 確かに混乱するのも分かる。だが今は意識を落ち着かせろ。今ユキをシーツで包んだ。落ち着いてゆっくり目を開けろ!」
そ、そうだ。まずは落ち着くんだ。おちつけ。深呼吸、深呼吸、すぅぅぅぅ、はぁぁぁぁ! よ、よし。
俺は恐る恐る目を開き、両手を顔から外す。
そこに居たのは布団にくるまった銀髪の獣少女だった。無論先ほど見た少女だ。
「え、えと。なんですかこれ?」
俺は何度も瞬きをしたり、自身のほっぺをつねる。しかし、見間違いでも夢でもないようだ。
アニエスは頭を抱えながらポツリとつぶやく。
「分かってるんだろう?」
「……ゆ、ユキ?」
俺はそう言うとその獣娘は嬉しそうに笑うと、俺に飛びついて来た。
「ゆ、ゆゆゆゆユキちゃん、ちょっと今君はね、世の中の男性にとって刺激的でクレイジーでファッキンでオープンな格好をしているんだ、すすすす少し落ち着こう」
「ヒビキ、お前もおちつけ……とりあえず私は部屋に戻ってユキの服を見つくろってくる。少し待ってろ」
「アニエス早く、俺いろんないみで爆発しそう。ヤバいから音速をこえる速さで頼む」
「分かった……すぐ戻ってくるからおとなしくしてろよ?」
彼女はそう言うと急いでドアを開け自分の部屋に行く。俺は目の前に居るユキをじっと見つめた。ふわっふわな白銀の耳と、プニプニで柔らかく弾力のあるほほを俺の体に押し付けて、ぐりぐりしてくるユキ。
だめです。早くしてアニエス! 助けてアニエス! お願いアニエス!
丁度その時だった。
この宿屋の店員である彼女が少し苛立った声で叫ぶ声が聞こえたのは。
「ちょっとうるさいわよ? あんた何してんのよ!」
だんだん近づくニーナの声。だけど逃げる場所のない俺。目の前にはシーツ1枚と言うほぼ全裸のユキ。
ヤバい、今の状況をニーナに見られたら絶対に勘違いされる。
「ん、ドア空いてるじゃない? ちょっとヒビキにアニエス、うるさ……」
覗きこむニーナの顔。交差する俺との視線。
一瞬ニーナも俺も凍りついた。
「お、おはよう!」
挨拶はビジネスシーンにおいてとてもじゅうよ――。
「あ、あああああああんた! な、な、な、な、なにしてんのよぉおぉぉおおおおおおおおおおおおおお!」
宿屋の一室でニーナの叫び声が木霊する。まずいと思い俺はすぐに弁解をはじめるが、
「い、いや違うんだこれは……その、あの」
それは既に遅かった。
俺の目前には迫りくるニーナのこぶし。なぜかスローモーションで再生されるその近づくこぶしは、もちろん俺が避けられるわけがない。
電光石火の右ストレートが顎にクリーンヒットし、視界はブラックアウトした。




