17話
二人の残酷な天使のせいで右翼曲折あったものの、結局剣を触ってみることになってしまった。いや正直に言えば断り切れなかった。
ギルドマスターがマジでお願いしてくるし、やらないと次から仕事紹介出来ないなんて言うから……仕方なくだが。まぁ俺の圧倒的な演技力をもってすれば、バレることはほぼ無いだろう。
(なぁアニエス? どうすれば剣の解除できるんだ?)
(なに、さっきも言ったが練習でいつもやってるように、魔力を剣に送って解除と言えば大丈夫だ)
俺とアニエスが近くでぼそぼそしゃべっていると、隣にスッと誰かが近寄って来た。
「どうされたんですかぁ?」
「おわぁ! い、いえ、なんでもありませんよセリアさん」
「そうですかぁ?」
そう言って身を寄せてくるこのエルフ。あの、周りから注目されるんで離れていただけないですかね? 貴方めちゃくちゃ目立つんですけど。
「ふむ、そろそろヒビキの出番ではないか?」
アニエスは前方を見ながらそう言う。彼女の視線の先には一人の男性が騎士から剣を受け取っていたが、あまりの重さに剣を落としそうになっていた。
あれ、あの剣めちゃくちゃ軽くなかったっけ? 片手でぶんぶん振るえたぞ…………?
「ヒビキさんは……次の次です、頑張ってくださいね!」
そう言ってニコッと笑う。おい、その言葉後ろで血の涙流しているアレクサンドリア、何かが違うな、都市になったぞ? ともかくアレに言ってくれ。一応俺の前はアレなんだからな? もしかしたらアレが剣を扱えるかもしれないんだぞ(震え声)
そうこうしているうちに、今試していた人が肩を落とし、雑踏にまぎれどこかへ消えてしまった。するとセリアさんの横から鼻息を荒くしたアレが握りこぶしを作ってセリアさんの方を向いた。
「次は俺の番だな……セリアさん見ていてください。必ずや勇者になってみせます!!」
セリアさんは1歩引きながら口を開いた。
「あ、はい、適当に頑張ってください」
ん、なんかセリアさんアレに対する対応ひどくない? そこまで悪い奴には見えないぞ。ただちょっと筋肉質で、臭そうで、凄くストーカー気質で、気持ち悪い顔をするけれども、慕ってくれるんだぜ……、いやちょっと距離置きたくなったわ。
「あれ、そう言えばアニエスやセリアさんは剣を持ってみないんですか?」
「もう~、ヒビキさんったら。白豚の事を呼び捨てにして置いて、私はさん付けなんですか? 私の事は『セリア』で良いですよ♪」
「なんだヒビキ、こいつとはあまり仲が良くないのだろう? なら名前で呼ばずとも黒豚で十分だよ」
二人とも目が笑ってないです。ここで戦闘始めないでください。つか私の話聞いてました?
「……実はな勇者の剣を扱えるのは人間だけなんだ。だからエルフや獣人は除外してるんだよ」
後ろからぼそっと話すのはギルドマスターだった。ああ、ギルドマスター居たのか。とりあえずありがとう。知りたい事が聞けたよ。
「アレクデスも力はあるんだが、どうやら駄目みたいだな。ヒビキ、お前は……剣は扱えないだろうけど……それよりも色々頑張れ……死ぬな」
いやいや貴方私を助けて下さっても良いんじゃないですかね。良ければ変わりますよこの立場。
俺はため息をつきながら前方を見つめる。そこにはパッと見は屈強な剣士であるアレクデスが、息も絶え絶えで剣を持ちあげている。もちあげているがそれだけだ。まともに振る事さえ叶っていない。心なしか体全体がプルプルしているようにも見える。
アレはさっきの挑戦者よりも長い時間剣を持ち上げていたが、どうやら限界を迎えたようで剣を地面に落してしまった。前にいる屈強そうな騎士がその剣を重そうに拾うと、台座の上に乗っけた。ってあの台座どこかで見た事あると思ったら俺が切った切り株じゃねえか。
騎士は何かをアレに話していたが、それを聞いたアレは肩を落とし、とぼとぼこちらに戻ってくる。
「すまねぇ、セリアさん。俺駄目だったよ」
「あ、ごめんなさい。全く見ていませんでしたわ」
おい、セリア。嫌なのは分かるし見ていないのは事実なのだろうけどさ、フォローしてやれよ。なんかアレがかわいそうに見えて来たぞ。
「ふむ、次はヒビキの番か。頑張れよ」
「頑張ってくださいね、ヒビキさん」
「はい頑張ります。アニエス、ユキを頼む」
俺は彼女たちから離れ、剣の前に立つ。すると剣の横に立つ銀色の鎧を着た騎士が、手で剣を持つように示した。騎士が示した剣はどこからどう見ても、俺が捨てたあの勇者の剣だ。
俺は小さく深呼吸する。そして体の中にある魔力を循環させ、ある程度の量を手のひらに集めた。そしてこれからすべきことを頭に浮かべる。
①もちあげられないふりをして地面近くまで剣をおろす。
②解除魔法を使う。
③もう駄目だと剣を地面に置く。
さあ、準備は整った。すべきことのイメージも出来た。ここからは俺の演技力を見せつける時だ! 見ていろ、俺の本気を!
俺はゆっくりと剣に手を伸ばす。そしていままで持てなかった挑戦者たちの顔を思い浮かべた。そう、あの辛そうで、苦しそうで、そして絶対に勇者になると決めたあの表情。俺はそれを"トレース"する。
そして俺が剣を掴む寸前で騎士は不思議そうな表情を浮かべ俺に言った。
「あれ、君はどうして剣を持っていないのにそんなに苦しそうな表情を浮かべているんだい?」
あああああああ、しまった、"トレース"するのがすこし早かった。適当に言い繕うんだ!
「き、気合を入れていたんです」
「え、ええ、そうですか。無理はしないようにしてください」
あっぶねぇー! よし、気を取り直してやるぞ!
俺はゆっくり剣に手を伸ばしそして剣に手を触れる。"トレース"スタート。
「ぐぅぅぅ重い……」
ヤバい! 想像以上に軽いぞ? なんだこれ、前は掃除機くらいの重さだった気がするが、もっと軽くなっている気がする。
だがしかし、演技は最高のはずだ。ほら見ろこの腕の震えっぷりを。配管工パーティゲームで鍛えた、あのボタン連打を応用した小刻み振動。高橋○人も真っ青だ。これならあたかも重い物を持っていますよ状態になっているはず!
現に周りを見てみろ、ほら『ああ、この人も違うんだ』という残念な表情を浮かべているだろう?
ここまでは完璧だ! さあ次は解除魔法を唱えよう。
俺は剣に魔力を送ると、小さく『解除』と呟いた。それは一瞬でとても小さなものであるが魔法陣が浮かび上がった。それはすぐに消えたかと思うと、今度は剣から神々しい白い光が現れた。それは剣全体を1秒ほどおおい、何事もなかったかのように実を潜めた。
(あれえええええええええええええええええええええ? 何この光! ウソでしょ、解除するときに光るだなんて聞いてないよ! いやちょっと待ってくれヤバい、ヤバいぞ! どうすればいい? どうごまかせばいい?)
俺は辺りを見渡す。あ、空気死んでる。あれ、アニエス腹抱えて笑ってる。
いや、おちつけ。今この場の俺の言動が重要だ。ここをごまかせば良いだけだ。さあ最高の一言でこの場を乗り切るのだ。
「い、いやーーまぶしかった。急に太陽の光が強くなるんだもんなぁ~いやー参った参った!」
お、終わったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
何を言ってるんだ俺は、光が反射するだけであんな神々しい光になるわけがないだろう!? 馬鹿か!
畜生、今までの生活ができなくなる。そして今度は城に軟禁されて、奴隷のごとく戦闘させられる生活になるのだろう? いやだぁぁっぁあ絶対に嫌だあぁぁ。
俺は絶望を想像しながら、あたりを見渡す。
「なんだ、太陽の光かぁ~」
「んだよびっくりさせやがって~」
「一瞬勇者かと思ったわ……」
「期待させやがって!」
辺りはまるで俺に興味を失ったかのように、失望を顔に浮かべていた。
うそだろおおおおおおおおおおおおおおおおおお! お、俺SUGEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!
ぱっとアニエスを見つめる。彼女は震えながら腹を抑えしゃがみこんでいた。アイツ戻ったら蹴り飛ばしていいかな。
不意に横から騎士の声が聞こえる。
「あれ、君はずいぶん軽そうに剣を持っているねぇ?」
「あ、いや、これはその!」
ヤバい気がゆるんでしまったせいで剣を持っていることを忘れてしまっていた!
「ぐぅぅ、重いっっっ!」
俺はすぐに剣を放り投げ、腕を抑える。
「はぁ、はぁ。く。う、腕が…………! くっ。どうやら違ったようです」
「そ、そうか。残念だったね……」
騎士の人がとても引いているけれど、なんとかなったな。俺が森で剣を捨てる練習をした成果が今ここで現れた。やっぱああいった小細工は練習しておくものだな。いつ使うか分からない。
俺は投げた剣を拾うと急いで台座の上に戻す。自分で戻さないと騎士さんが剣を持った時に色々ばれちゃうからね。
俺は騎士さんに背を向けると俺は急いでアニエス達の元へ戻る。
「残念だったな……」
「俺様が持てなかったんだ、当り前だろう?」
マスターとアレは全くおかしな所に気が付いていないようだった。ただセリアさんは少し訝しんでいたが、『残念でしたね』と言ってくれたので多分ごまかせたのだろう。
俺は視線を地面に向ける。
そこには涙を浮かべながら笑い転げるアニエスの姿があった。
殴りたい。この笑顔。
俺はアニエスに手を伸ばすと彼女は俺の手をつかみゆっくりと立ち上がった。
(フフ、いやぁ、笑った笑った。最高の演技だったぞヒビキ。私は君の大ファンになってしまったようだ)
(うるせえ。もう2度とやらねーよ)
「じゃぁ俺達はこれで、皆さんさようなら」
「はい、ではまたギルドで!」
笑顔でそう言うセリアさん。
「そういやあの商人がお前に来てほしいっつってたから、近々顔を出してくれ」
そんな事を言うマスター。そして俺が居なくなることが嬉しいのかニコニコしているアレ。
「はい、分かりました」
俺はそう返事をすると俺はユキを抱えアニエスと一緒に人ごみから離れようとした。その瞬間だった。
「わぁぁぁぁぁぁあああ!」
「キャァァァァァアアア!」
何やら後ろから歓声が聞こえた。多分俺の次に挑戦したやつが、剣を扱えたのだろう。当り前だ俺が封印解除したからな。おめでとう。今日から君が勇者(笑)だ。俺には近づかないでくれ。
「あ……あぁー」
後ろを向いていたアニエスは小さくため息を漏らす。
「ん、アニエス? どうした」
「いやなに、面倒な奴が勇者になったなぁとそう思っただけだ」
「ん? だれだそいつ?」
俺は後ろを振り返るも、人ごみで茶髪の男というところまでしか見えなかった。
「ああ、一度ギルドで言い争いをしているところを見たことがあるのだが、ナルシストというか自分が絶対と言うか。うむ……粘着性のある面倒そうな奴だ」
「まぁ、関わりあわなければいいんだよ、うん」
「そうだな、絶対関わらない方が良い……まだダークエルフの方がましだ」
「アニエスがそこまで言うか……」
うん、絶対に関わり合いたくないな。
でもさよく考えてみろ。俺から近づくことは無いし、そもそも近づこうと思わないし、絶対に関わらないだろうな。
うん、そうだよ。勇者(笑)なんかと俺が関わるわけないじゃないか。天地がひっくり返ってもありえないぜ。




