16話
中央広場は人ごみのせいで喧騒としていた。この町にはこんなにも人がいたんだと思えるほど、沢山の人が集まっていて、広場の中央を見つめていた。
「なんかあんまり近づきたくないな……」
「その意見には私も賛成だ、だが何が起きてるかは気になるな」
そう言って彼女は背伸びをして前を見ようとする。俺は中央付近からこちらへ歩いてくるおばちゃんに声をかけた。
「あの、すいません。なんでこんなに人が集まってるんだすか?」
「なぁぁに? あんた知らないの? 『勇者の剣』が森で見つかったのよ!」
あ、それヤバい。これ以上聞きたくない、口閉じてくれませんか、おばちゃ、いえおねぇさん!
「なんでも森の一角にある不思議な空間にあった、切り株に突き刺さっていたんですって!」
「あ……そうなんですか」
うわああああああああああああああああああああああああああああ! まじかよ? 切り株に突き刺さった剣? うそだろ? 俺はあいつとサヨナラバイバイしたはずだよなあぁっぁぁあ?
いやまておちつけ、見つけた人が、これは俺のものだTUEEEEEの自慢をしているだけだよな? だったら俺は全く関係がない筈だ。うん、きっとそうだ。
「なんでも、扱える人を探しているらしいわ。扱える人は勇者認定してくれるらしいわよ! それでその勇者を探す為にこの町の人間族全員に剣を持ってもらっているとか。坊やも行って来るといいわ。もし勇者だったらサイン頂戴ね!」
そう言って、おねぇさ、いやババアはウインクしてどこかへ歩いて行く。
え、なにそれ魔法が解けた後のシンデレラみたいな話だな。あのガラスの靴の。つか同じ足のサイズの奴なら腐るほどいそうな気がするんだが。
どうでもいい事を考えながら、去りゆくババアを見て俺はため息を吐く。
「はは……」
ああー、そう言えば勇者しかつかえないとか言ってたな。あれ、ここ俺にとって危険地帯じゃね?
ちらりと横を見ると真剣な顔でプルプル震えるアニエスの姿がった。彼女は自分のお腹を抑え、顔をぴくぴく痙攣させている。
「ぶはっっ、駄目だ、はっはっはっはは、腹が、腹が痛い」
ふきだしたアニエスを、蔑んだ目を作り見つめる。そして俺はどうすればいいのかを必死に考えた。
ここから逃げ出すか? うん、それが良いだろう。
それにしてもクソだなぁ。あの時の俺をぶん殴ってやりたい。現代ファンタジーアート? 何それ。ゴミはゴミだろ。
「いっそのこと土に埋めるべきだったな……」
「伝説の剣を土に埋めるっておまえっっ。ふふっ、私を笑い殺したいんだな。さすがだよヒビキお前のその思考回路に脱帽だ」
だが今更後悔したっておそい。
「まぁ過ぎたことは諦めよう。そうだこれから……バレなきゃいいんだよ」
そうさ、バレなければ何ら問題は無い。
「ふぅ、ふぅ。まぁばれたら帝都の騎士団に入れられるかもしれないな。まぁ入らないのだとしても目を付けられることは確実だ。良かったなぁ、フフッ」
そう言う彼女だが、ちょっと待てほしい。騎士団と言う言葉が俺が知っている騎士団と違う可能性が微レ存。
「あれだろ? 騎士団って城の中をゴロゴロして、貴族の話し相手をするだけの簡単なお仕事のくせに、福利厚生が厚く高給取りなんだよな?」
それだったら今すぐに勇者の剣を奪い取って『この剣は俺のだ!』と叫んでも良いね。騎士団ほぼニート。
「ふふっなんだその税金泥棒は? 面白い冗談だな、そんな職だったら騎士団全員首になっているな。まぁ、どうせヒビキは分かってるんだろう?」
ですよね。分かってるよ、分かってますよ。以前に騎士を一度見たことあるしな、名前忘れたあの馬車に乗ってた美少女のとこで。どうせ戦闘しなきゃいけないんだろ?
「うっわぁ、騎士団とか絶対に嫌だ……」
ならば今すぐあの剣に背を向けて、見なかったことにするのがいいだろう。
「ふむ。ならヒビキ。ここはひとつ、あの剣をわざと触りに行くのはどうだ?」
「はぁ? わざと触りに行く?」
お前はなにを言ってるんだ? そんなことしたら俺が勇者認定されるぞ?
「そうだ、そして勇者にしか使えない制約を解除するんだ」
「そんなの……出来るのか?」
「ああ、今のお前なら出来る筈だ。魔力を送り解除を唱えるだけだしな」
確かにそれはアリかもしれない。実は演技には自信がある。
実は俺は昔、劇で本のタイトルにもなってる重要な役をやったことがある。そうあれは小学2年生の時だったか。『ジャックと豆の木』の劇で、『豆の木』の演技をした。ジャックに切り倒された時の演技は最高だったと思う。だからこそ演技には自信がある。
だが、しかしだ。万が一と言う事がある。100パーセント成功させられるわけではないだろう。それに今回は練習すらしていないときている。どこでほころびを見せてしまうか分からない。
「いや、危険だ。俺は演技が得意だと自負しているが、もしバレてしまったら目も当てられない」
「ふむ、残念だ。お前の演技が見れると少し期待していたんだがな……プッ」
おい笑ってるぞ。絶対ネタで言ったなお前。まあいい。
「じゃぁ、ここにいる必要もないし、見なかったことにしてさっさと宿に……」
『帰ろう』、そう言おうとした時、かぶせるように横から声が聞こえた。
「あら、ヒビキさんではありませんか。こんにちは!」
俺は一瞬顔を歪めたがすぐに営業スマイルを浮かべるとそちらに顔を向ける。
そこいたのはダークエルフのセリアさんだった。更に横にはストーカーのアレゴミデス……やっぱ何かが違うな。とりあえずアレと、そしてギルドマスターであるおっさんの三人がいた。
「こ、こんにちはセリアさん」
セリアさんはアレの横から離れると、目をキラキラさせながら小走りで俺の隣に寄ってくる。え、なに? ギルドカード作った時意外セリアさんとは話してないよね? なんかフラグ立てただろうか。いや、ないはずだ。俺いつもギルドマスターのとこで受付してた。うんうん、受付はおっさんだよな! やっぱりおっさんは最高だぜ!
ふと俺は視線を感じてアレに視線を向ける。そこにはさっきまで顔を真っ赤にしながらニヤニヤしていたはずのアレが、無表情で立っていた。
ちょま。こ、こ、こ、こええええええええよ! なんだよアレ。怒るなよアレ。前も言ったと思うが俺は何もしていないからな、彼女が近づいてきただけだからな!
「お、お久しぶりですね!」
俺は引きつりながらもなんとか挨拶をする。
「はい、ヒビキさんはご機嫌いかがでしたか? ギルドではたまにお見かけしていましたが、タイミングが悪いようで……」
当り前だろう。その悪いタイミングを狙っていってるんだからな! 誰が人気受付嬢と仲良くお話しなきゃいけないんだよ。
「あらその横にいるのは……? ぁん? ホワイトエルフ?」
あれ、一瞬顔が歪まなかったか? それとドスをきかせたような声が……?
「ほぉ、ヒビキに近づく物好きなんていないと思っておったが……ふむギルドのダークエルフか」
「へぇ……ヒビキさんはこのホワイトと、どう言った御関係なんですか?」
ほええ、二人とも顔は笑顔なのに目がすわってるんだけど? あれ、おこ? 激おこだよね? え、なんで、ダークエルフナンデ? もしかしてホワイトエルフとか言うのとダークエルフって対立してんの?
「あ、いえ彼女には魔法を教わっていて、今日はたまたま一緒になったんですよ」
「はぁそうなんですか? あ、私達あの勇者の剣の持ち主を探すのに協力を依頼されたんです。それでヒビキさんはもう試されました?」
「いえ、まだですけど……?」
あ、ヤバいこの返答は失敗したかもしれない。もう試したって嘘を言えばこの場からすぐ去れたかもしれないのに。
「なら、よろしければ一緒に見に行きませんか? それと一度剣を持ってみましょう!」
そう言って彼女は笑顔を浮かべて少し顔を傾ける。そして俺の手をぎゅっと握った。彼女のほっそりしているけれど、柔らかで少し冷たい手、そしてこの笑顔。
ん、え、ちょっと手……えぇー? マジで。うひょぉぉぉぉおおおおおおおおおおお。それもこぉぉぉんな美人と一緒に勇者の剣を見に行けるだと? もちろん返答は決まっているじゃないか!!
「あ、いえ結構です」
即答だ。当り前だろう。なぁ、お前さ。出会って2回目だぞ? 全然お互いを知らない仲なのに誘うとか何考えてるんだこのド・ビッッッチダークエルフ。頭の中が砂糖で出来てるんじゃないか? おあいにく様。俺は甘い食べ物は好きだけど胸やけしそうな女は勘弁だね。
俺は彼女の手を払いのけようとも思ったが、ちょっとかわいそうな気もして、掴まれていない手で優しくほどいた。
「だそうだ、諦めるんだな」
そう言ってアニエスは俺の横に立つと、俺の腕に自分の腕を巻きつける。ん? なんでアニエス勝ち誇った顔してるの? しかも俺の手抱いて。ちょ、胸あたってるんですけど!
ん? ピクリとセリアさんの口元が釣り上ったような? それとアレなんとかさんは、どうして梅干を10個一気に口に入れたような顔で、俺を見ているの。恐い通り越して面白いんだけど。顔芸かな?
「残念ですけど、誰が剣を扱えるかは分かっていませんので一応全員ためして貰ってるんです。申し訳ないですが行きましょう! ね。ヒ・ビ・キさん!」
そう言ってアニエスとは反対側の腕を取るセリアさん。
「ちょ何してるんですかもう、離してください!」
「だそうだぞ、ふむ。ギルド職員とはこの程度の言葉も理解できないほど頭が弱いのか? ああ、失礼、エルフ語で通訳してあげた方が良かったかな?」
「あら、流暢に共通語を話す私の声が聞こえないようですね。飾りの耳であればお取りするのはどうでしょうか? すっきりすると思いますよ。なんなら今この場で切り落としてさしあげましょうか?」
「ほぉ……どうやらこのダークエルフは口も悪いようだ。私が二度と話せないように縫い合わせてやろう。なに、心配するな。裁縫は苦手ではない」
ちょ、こぇぇぇえよ。なんだこいつら、物騒すぎるだろう! それに、俺は二人に言ってるんだけど。なんでこいつらは自分に言われてるって気が付いてないんですかね?
「あ、あのぉ。ふ、二人とも腕をはなしていただ……」
そう言った瞬間二人の顔がものすごい勢いで俺に向いた。正直恐いです。これ以上話すのは無理です。
「な、なななな何でもないです!」
すると先ほどから黙っていたギルドマスターが俺に声をかける。
「まぁ、ギルドに命令が下ってな。ギルドカードを所持している人間は全員為して貰ってるんだ。多分お前も勇者ではないと思うが、一応剣を持ってみてくれ」
なるほどな、全員か。ギルドも大変そうだな……って、おーい! そんな話は後で良いから、さっさとこの二人をひっぺがえしてくれよ! 知ってる? さっきから腕に込められる力がだんだん強くなってるんだけど。確かに初めは天国だったよ。今何? 両腕がミシミシ言ってる上に彼女達の爪が食い込んでるわ。見た目だけ天使だな。いや顔も般若の面だったわ。
俺はため息を吐きながらユキちゃんを見つめる。
「コン……」
心配そうに俺を見つめるユキちゃんマジ天使。この時間平面上で一番可愛いよ。
「もぉぉ誰か助けてくれ……」




