14話
あの痴態をさらしてから10分ぐらい経過しただろうか。気を取り直し今度は魔法訓練の続きを行う。
「さて……今度は魔力の検知だな」
俺は冷たい水を飲みこむと、水筒を腰かけていた石の上に置く。
「魔力の検知、てことは他人の魔力をどうにかして感じ取ることができるんだな?」
「その通りだ、まぁ検知する方法は人によって変わるがな」
「人によって変わる?」
そう言うとアニエスはコクリと頷いた。
「そうだ、魔力を目に集め視覚的にとらえる人もいれば、鼻に集め匂いで検知する者もいる。私は肌で感じるのが一番得意だな、代わりに鼻では感じることができない」
「へぇ、やっぱ種族ごとに変わるのか?」
アニエスから聞いた話だと、この世界には人間の他に獣人、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ等沢山の種類の種族がいるらしい。
「ああ、獣人は鼻で感じる事が多いらしい。人間やエルフは目か肌だろう。とりあえずやってみようか、目に魔力を集めてみろ」
俺はアニエスに言われたとおり、前に魔力を集める。するとアニエスと彼女の周りに淡いモヤのようなものがが浮遊しているのが見えた。
「なんかモヤみたいなのが浮遊しているのが見えるぞ……?」
「そう、それが魔力だ」
彼女は手のひらを上にして自分の胸辺りの高さまで上げる。そしてその手のひらの少し上にモヤを集めた。彼女はある程度モヤを集めると何かを呟く。
「よく見るんだぞ?」
アニエスがそう言った瞬間そのモヤの中心から小さな火の玉が生まれた。
「すげぇ、手に集まった魔力が火になったぞ……!」
「そうだ、しっかりと見えていたようだな。じゃぁ今度は……魔法を使う、と言いたいところだがその前に一つやっておきたい事がある」
「なにをだ?」
彼女は火の球を消すと、魔力を体に戻す。そして彼女の体を覆っていた魔力と彼女の周りを漂っていた魔力を自身の体で吸収し、彼女のお腹辺りに集めた。
「今しているのは辺りの魔力を吸収して自分の中に集めたのだが、分かるだろうか?
「ああ、わかるぜ。俺もこれをすればいいのか?」
「そうだ。辺りの魔力を集めるのは重要でな、とりあえずやってみてくれ」
やってみろと言われても、どうやって吸収するのだろう。とりあえず魔力が俺の肌から入り込んでくる妄想でもするか。
クォォォ! 集まれ魔力…………! 体中に無駄に力を込め吸収するようなイメージを浮かべる。ははっ俺も馬鹿だよなぁ、こんなんで出来るわけ――。
「あ、やべ、出来ちまったわ」
――ちょっと待てこの世界色々とおかしくないか? あんなんで出来るとか嘘だろ? 10割ネタだったんだが。
「なんでお前がそんなに驚いているのだ? 私が驚きたいんだが……まぁいい。それができたら少し発展させるぞ。今度は隠密行動をする際の魔法制御だ」
「隠密行動か……」
隠密行動と言えば忍者だろう。忍者カッコいいよな忍者。つか、この世界忍者とか居るのかな? いるわけないか。
「もちろんこんな平原で魔力を垂れ流しにしていると魔力感知が得意な奴にすぐ場所がばれるのは、ヒビキも理解できるだろう?」
「ああ、そうだな。確かに」
「そうならないために、私たちは辺りの魔力と自身の魔力を出来るだけ近づけるんだ」
そう言うと彼女は魔力を体全体まんべんなく回しながら、だんだんと薄くしていく。少しして彼女から魔力は殆ど感じられなくなった。
うん、多分魔力を隠すようなイメージで良いだろう。
俺も彼女と同じように体中に魔力を循環させ、少しづつ薄くしていく。
「よしよし、いい感じだ」
だが、ちょっと待つんだ。魔力を薄くしながら俺はふと思う。
良く考えてみろ。今の俺は違和感の塊なんじゃないか? たとえば辺りが周りが凄く暑いのに、一か所だけ凄く冷たい場所があるのは変だろう? それと同じだ。じゃあ自然見せるにはどうすればいい?
大気中の魔力と俺の魔力を一体化、そして同じ濃度で発生させれば良いんじゃないか? 居るか、居ないか分からないように。それくらいなら大丈夫、余裕だろう? 昔のボッチしてた時のように目立たないようにすれば良いだけだもんな。
俺はそれを実践すると、アニエスは小さくため息を吐いた。
「ヒビキ……お前は天才か?」
「……いや、一般人だが」
「そうか、嫉妬してしまいそうなレベルだよ。こんなにも早くそれも一段階上が出来るようになるとは……ははっ。もう何も教えなくて良いんじゃないか?」
「いや、ちょっと。頼むから魔法まで教えてくれ……!」
魔力制御は覚えたよ? でもさ。俺はな、実は魔法使ってみたかったんだ。無くても生活できる、だなんて言っていたけどじつは(震え声)がつく強がりだったんだ。使えるならぜひ使いたい。
「冗談だ……さて今度は魔法についてだ」
「ああ、よろしく頼む」
「まず魔法を発動させるには魔力が必要になる。まぁこれはさっきの火球を見たのならば分かっていると思うが」
彼女の魔力が一瞬にして火の玉に変わったアレだな。
「すごかったな……」
「まず魔法と言うものは基本的には魔法陣と詠唱が必要になる。その点について頭に入れておいておいていてくれ」
「ん? 魔法陣や詠唱が必要になる? 魔法陣を使用しないで出してたが、無くても発動できるんじゃないのか?」
「それに関してだが、ある意味では当りで、ある意味では外れだ。魔法陣や詠唱は必須では無いが必要なのだよ。だけどほぼ必須とみて間違いない」
貴方の言っている事は微妙に矛盾しているような気がするんですが。
「つまり、どう言う事ですかね……」
「実はな魔法陣、詠唱が無いと莫大な魔力を消費してしまうんだ。魔法陣の役割は魔法の効率的発動の補助と考えてくれれば良い。そして詠唱はな、自身の魔力出力をあげてくれる」
彼女は俺の表情を見て理解してない事をの悟ったのか、更に解説を始める。
「つまり、魔法陣が魔法を使うための必要魔力を減らす役割があって、詠唱が魔力を強化してくれるのだよ」
なんかちょっとこんがらがってきた。
「えと。ちょっと待てよ。じゃぁ数字に当てはめると、例えば火の玉を出す魔法に使う魔力を10とすれば、魔法陣が有ればその使う魔力が2減り、8になる。んで俺が例えば6しか魔力を出さなくても、詠唱すれば8の魔力になって、火の玉の魔法が発動する、そんな感じか?」
「ああ、その解釈で間違いは無い。ただ……そうだな、魔法発動に10使うとすれば、魔法陣で5減って、詠唱で4プラスされると考えてくれていい。詠唱と陣が有れば自身の使う魔力は多くても1割、もしくはそれ以下だ」
彼女の言う事が正しければ、魔法陣と詠唱が有るのとないので9割以上変わると言っている……。
「そんなに非効率的ならば使う人も少ない、か」
「そうだ、しかもそれだけでは無いぞ」
「え、まだあるのか?」
「ああ、それだけなら使える奴も使う奴もそこそこ居るだろう、瞬間的に使える魔法はとても便利だからな。しかし何故使えない魔法使いが多いのか。それは魔法陣が肩代わりしている、魔法構築のイメージを自分で作らなければならないからだ」
「イメージを自分で作る?」
「ああ、形や効果なんかだ。魔法陣であればその辺りが既に刻まれているのだが、魔法陣が無い場合はその部分も自分で想像しなければならない。どう言った形? 強さは? 容量は? まぁ詳しく上げればきりがない」
「……なるほどな。じゃあ魔法陣は効率化された設計書……いやそれに基づいて作られた型枠みたいなもんなんだな。その型枠に魔力を与えればそれ通りに魔法が生み出されて……」
「ふふっっ」
不意に笑い声が聞こえて、俺は視線をアニエスを向ける。彼女は眉根を下げ、口に手をあてて笑っていた。
「……ってなんだよ、的外れだったか?」
「ああ、いや。すまない。あまりにも的確に言うものだからな、やはり君は頭が良いな」
「……そうですか、俺よりアニエスの方が頭が良いんじゃないか?」
「いや、君の方が良いと思うのだがな。まあいい。言い方を変えよう、頭の回転が早いだ。話していて本当に楽しい。効率化された設計書に型枠か。本当にうまい事を言う……いやすまない。話をそらしたな」
アニエスはこほんと咳払いすると、水筒を手に取り一口水を飲む。アレ、それ俺のだしっぱにしていた水筒じゃね? 間接キスだぞ? いや、そんなこと気にする年でもないか。
「……ふぅ、つまりだ。魔法を発動させるのに必要なのは魔力。ただそのまま使おうとしても消費が激しいから、実用化するために魔法陣と詠唱を利用する、といったところか」
なるほどな。分かりやすい説明をありがとう。
「さて、とりあえず魔法使ってみたいだろう? 陣は私が用意するから軽く魔法を使ってみようか」
アニエスはそう言うと俺の後ろに回り込み、体を当てる。ヤバい。もちろんアレが。
「魔力を私に送ってくれ」
俺は言われたとおり、自身の魔力を彼女におくる。
「んんっ……あぁ…………ぁっ」
だからその声やめてくれ。さっき開いたはずの悟りが閉じてしまったぞ。
「た、頼む早くしてくれ」
「ん、あぁ、はぁはぁ。すまない。すぐ作るよ」
彼女は俺の前に魔力を使って何やら見たことがあるような無いような何かを作り出す。
もし魔法陣を作る事を別の言葉で言いかえるならば、俺ならこう言うだろう。モヤで図形作り。
「よし、これにお前の魔力を注いで、『ファイア』と唱えてみろ」
「分かった」
俺は言われたとおりに『ファイア』と言うと、目の前の魔法陣から小さな火が生まれた。
「す、すげええええぇぇ!」
その火は小さいながらもオレンジ色で、熱があり、しっかり火となっていた。
「よし、上手くいったな。なら……」
彼女は俺から離れると、今度は俺の魔力を利用せず魔法陣を作り出す。そして俺を手招きした。
「さっきと同じようにやって見てくれ」
俺は先ほどと同じように『ファイア』を唱えると、これまた同じように火の玉が出現する。ただ使えたのにアニエスは頭を抱えていた。
普通使えたのなら喜ぶべきものではないだろうか。
「使えてしまったか…………」
彼女は乾いた笑みを浮かべながら俺の前にできた火の玉を見つめる。あれ、俺なんか変なことしただろうか?
「なんだよ、使えたらまずいのか?」
「……いやそう言うわけではないが、いずればれるだろうから言ってしまおう。多分私の魔力とヒビキの魔力は異様な親和性があるんだ」
「異様な親和性?」
「ああ、本来ならば回復魔法でない限り、魔力と魔力は抵抗しあうものなのだ。具体例をあげれば私が作った魔法陣を他の人間は使用できない。だがお前は使えてしまった……こういったことは稀にあるのだが」
「つまり、お前の魔力と俺の魔力は?」
「相性が良い。それも私も違和感無いぐらいに混じり合っていた。そういったように上手く混じり合う魔力同士は夫婦と呼ばれる。ちなみに混じり合うことはせず、反発しない物は親友と呼ばれる」
ん、なんか変な言葉が聞こえたような……?
「ふ、ふうふ?」
俺とアニエスが夫婦? アニエスがエプロンを着て……おかえりなさいアナタって感じで……待て、いかん、いかん。俺は何を考えているのだ。ありえない妄想はよせ。
「へ、へぇ、じゃぁ俺らの魔力は夫婦だってわけか」
「……ああそうだ。そう呼ばれることもあると思っていてくれ。あと本当に珍しいから、誰かに言うと噂になるかもしれない」
「だ、黙っていようか……」
恥ずかしくて目線を彼女に合わせられない。だけどそらしながらもやっぱり気になって彼女を見てしまう。彼女も俺と同じように顔をそらしながらも、チラチラとこちらをみているようだった。
「そうしてくれると私も恥ずかしくないな」




