13話
「あっちぃぃ」
「……確かに暑いな」
雲ひとつない蒼天に浮かぶ太陽は、自重なんてすることなく世界を照らしつける。大きな木によって作られた日影に座り、熱せられる大地を見つめる。暑そう。いや熱そう。あんなところに立っていたら蒸発しそうだ。
「うぇぇ」
こんなに暑ければハレ晴れしてても一向にユカイにならない。昨日とかこんなに暑くなかっただろう?
「くぉぉぉん」
ユキもどことなく暑そうで、日陰でグーッと体を伸ばしてだれけていた。KAWAII。宇宙一可愛いよ。
「涼むのはこれくらいにして……そろそろ始めるか?」
そう言うと俺の隣に座っていたアニエスが立ち上がる。
「……おう。たのむ」
こっそり魔法の練習がしたいと言う事を話したところ、彼女に案内されたのは町の外だった。もう一生町の外なんて行かないとか思ってたけど、練習のためだ。仕方なくだ。次は無いだろう。
一応町の近くで、更に強い魔物も出ないと言っていたから、多分大丈夫だろう……町を守る壁の外か、巨人出てこないよね? 駆逐する前に駆逐されるぞ。
「さぁーてまずはかるく説明しようか……いやその前に、お前の世界には物に触れる、音を聞く、そういった感覚機能についてどういった解釈がなされているかを聞いていいか」
「ああ、五感の事か? 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。目で見て、耳で聞いて、指で触れて、口で味わって、鼻で嗅ぐ。人間の感覚はその5個あると言われているな」
「ふむ、やはりそうなるか……」
「やはりそうなる?」
「ああ、実はこの世界ではな、お前の言う5つの感覚ともうひとつ、魔覚と言うものが存在している」
聞いたことがない単語が出てきた。でも言葉を聞いて、ある程度予想は出来たが。
「魔覚? ってのはやっぱり魔法を感じ取ることのできる何かがあるのか?」
「ああ、多少おおざっぱに言えばその通りだ。魔覚は魔法だけでなく、魔力を感じ取れるのだ」
「へぇ? 俺にもそれは備わってるのか?」
「ああ、確実に備わってる。お前は気が付いていないだろうが、実はお前は今魔力を垂れ流している。魔力があって魔覚が備わっていないと言うことはありえないから、そこは安心するといい」
え、魔力を垂れ流しているっていわれても、そんなつもりは全くないんだが。
「俺にはなにも感じないんだがな……」
「まぁそれも仕方ない。初めは誰も知らないんだ、今は魔力は自分の中を巡っていると思っていてくれ」
「ふぅん、めぐってるか。それは血みたいなものか?」
「類似点は確かに多いが、違う。一番違うのはその特異性だろう。魔力と言うのはね、自分では持っていることにどうやっても気が付かないんだよ」
なにを言っているのかがさっぱり分かりませんが。
「……どう言う意味だってばよ?」
「血は怪我をすれば簡単に目にする事が出来るだろう? だけど魔力は魔力へじかに触れることによって、初めてその存在を認識できるんだ」
ふむ。幽霊で例えると存在は知っていても、実際に幽霊と接触するまでその存在を認識できない。しかし一度接触してしまえば今まで見ることのできなかった幽霊が、見えてしまうようになる。そんな感じか?
幽霊で例えるとどこかで聞いたことがあるような気がするな。らららぎさんとかでてきそう。舌噛みました。
「なるほどな……とりあえず俺は魔力に触れることが必要なんだな。どうするんだ?」
「なに、簡単だよ。ヒビキに私の魔力を送るだけだ。ヒビキ後ろを向け」
「おう、これで良いか」
俺は彼女に背を向けると前を見つめる。青々とした広大な大地には、ここから見る限りいくつかの動物がいる。まるでキリンのように長い首で、高所にある木の葉っぱを……ぇ?
不意に背中に何かがあたり、体に腕が巻きつく。そして肩から何かの花のにおいと少し汗ばんだ女性の匂いが……って、おーーーーい!
「おおおおおお、おい、ななな、なにしてんじゃい!」
「おちつけ、私だって恥ずかしい。こうするのは初めてなんだぞ! それよりも何か感じないか?」
いや感じるとか言う前に背中から伝わるその温かな体温と、はっきり聞こえる心音でそれどころじゃない。はぁ? 感じる? いろんなの感じてしまってヤバいっつーの、魔法とかそれどころじゃ……え?
「なんだこれ?」
彼女が触れているところから、少しづつ俺の体の中に何かが入り込んでくる、気がした。だけど俺の体はそれを弾いているような……。
「体になんかが入りこんでいる、気がする」
「多分それが魔力だ。多分お前はそれを無意識のうちに抵抗しているだろうから、それを受け入れてくれ」
耳元から声が聞こえる。くすぐったい。ぞわっとするぞヤバいって。おちつけおちつけおちつけ! 今は魔法だ、魔法なんだ。
とはいえ受け入れるだなんて……どうすればいいんだ?
「ちょっと待て、受け入れるってどうすればいいんだ?」
「そうだな、力を抜いて……入ってくるそれに抵抗しないような感じか?」
耳もとから聞こえるその声で、力が余分に入ってしまうんですがそれは。
……落ち着こう。ふぅーおちつけ、この体に入り込んでくる何かを……受け入れるんだ。目を閉じて感じろ、そして肩の力を抜いて受け入れろ。
すると彼女の魔力らしきものが俺の体に流れ込むと、俺の中にあった同じような何かがそれと上手く混じり合った。
アレなんか気持ちいい。なんて言うか体全体が包み込まれているような……?
不意に隣からアニエスがブツブツ何かを言い始める。
「……いや、おかしいな。いやありえるか? しかし嘘だろう? 信じがたい。しかし起こってしまっているし、いや現実として納得し無ければならないのか? いやだがあれは……」
「アニエス? どうした?」
「……ヒビキ? お前は何をした?」
「ああ、受け入れたつもりだったんだが、なんか俺の魔力? とお前の魔力? が混じり合ったような気がするぞ?」
「いや、やはりそうなのか。……ま、まぁ気にしないこととしよう。それじゃぁ次のステップだ。お前が感じたのはまず間違いなく魔力だ。その魔力を一か所、心臓やお腹辺りに収束させてみろ」
俺はその混じり合った魔力を体の中に流れていくのをイメージしてみる。するとそれはゆっくりと体中をめぐり始めた。俺は今度は魔力を腹のあたりに集めるように意識してみる。するとどうだろうか、体全体を覆っていた魔力は俺の下腹部に集まった。
「ずいぶんと呑み込みが早いな……」
「そうなのか?」
いかんせん良くわからない。まぁ初めてやってみた事だしな。
「まぁ良いことだな……じゃぁ今度は体全体を循環するよう…………ん? ヒビキ、君はなんでもう出来るのだ?」
俺は体中をめぐらせ、今度は魔力を心臓に集めてみた。つかさっきの収束の応用で何とかなると思うんだが……。
「まぁ出来るんだもん」
後ろから呆れたようなため息が聞こえたのは気のせいだろう。てかさ、ため息一つで密着してる背中と耳元に気持ちいいのが……。
「……じゃぁ次だ。その集めている魔力を私に流してくれ、魔力を私に合成させるようなイメージかな?」
そう言うと、彼女から魔力の注入が無くなる。俺は彼女に向かって俺と彼女の混ざった魔力を送るイメージをする。まずは自信の魔力を背中に、そして彼女の体へ……。
「くっ……んっ……んぁ…………あぁぁっ。」
ってちょっとまてぇぇぇぇ!
「お、おい、ばかやめろ、エロイ声出すな! 意識しちまうわ!」
お前なんて声出してんだ、アホか! いろんな意味でヤバいわ!
「す、すまない……その思った以上にお前の魔力が私に入ってきて……それがすごく気持ちよかったんだ」
そりゃ仕方ねぇな、ってなるわけねえだろう! んな告白されても困るわ、俺どう返答すればいいんだよ! そんなこと言われたら俺の頭が沸騰するわ、お前分かってんの? ただでさえ美人で凄くスタイル良くて、それが俺の後ろで体温感じる距離にいて、耳元に息がふきかけられるんだぞ? そんなこと言われたら俺爆発しちまうわ!
「……わわわ、分かった。分かったから早く次どうすればいいか教えてくれ。お、俺はどうすればいいんだ?」
「あ……ああ、そうだな。えーとそうだな。ああ……あれ、もうないな」
「じゃぁさっさと離れろよおおお!」
アニエスがばっと俺から離れると、俺はその場に崩れ落ちる。
「はぁぁぁぁぁ」
よく耐えきったと思う。
「コン」
心配そうにそばに寄ってくるユキちゃん。天使だな。俺は頭を撫でながら大きく息を吐く。
やったよユキちゃん。俺、耐えきったよ。
悟りを開くどころか新世界の神になった気分だ。




