12話
「うむ。予想通りだったな。ヒビキは召喚された人間もしくは転移者、だ」
今までのいきさつを聞いた彼女はそう言いきった。
「……うん? 転移者?」
「ああ、稀にあるのだ。異世界から人や物が突然現れる事がな。それだけじゃない。人、者、動物を転位させる魔術も存在する。それが召喚魔法」
「魔法ってそんなものもあるんだな……信じられないな」
「ああ、あるぞ。だが私にとっては魔法の無い世界の方が信じられないな」
はっはっはと笑いながらそう言うアニエス。
お気楽そうなアニエスのおかげで俺は内心安堵だ。彼女に秘密をバラしたことは良かったかもしれない。
「なぁ、全部話しちまったついでに、色々と相談しても良いか?」
「ふむ? 何の相談だ?」
「人生相談だよ」
第二新聞部でも俺の妹でもしていたアレだ。もしかしたら俺ガイルでもそれらしきことをしていたかもしれない。
「人生相談とは大きく出たな……どれ、人生の相談に乗るのは初めてだが、安心して任せてくれていい。なぁにそこら辺にある大船乗ったつもりでいてくれ」
「そこら辺に大船なんてねえよ。あるんだとしたら泥船か穴開いてる船なんじゃねぇのか? 大丈夫か、なんか不安になって来たぞ……」
「なに、大丈夫だろう。ほら、さっさと話せ」
「そうだな、幾つかあるんだが、まずは俺の正体についてだ。別世界の人間だってことは口をつぐんだ方が良いだろうか?」
もし別世界の人間だって事を公表しても問題がないようだったら、今後もお世話になる人たちには俺がこっちの常識がないことを話しておきたい。
「ふむ。それに関しては然りとも否とも言えないな。ヒビキが今後どうしたいかによって変わるだろう」
「……俺がどうしたいか?」
「ああ、もしお前がその自分自身のもつ異世界知識を利用して儲けたい、目立ちたいだなんて考えれば公表すればいいし、逆に目立ちたくない、ひっそり暮らしたいと思うのなら誰にも言わず秘匿すればいい」
「つまりは俺次第か。ならば圧倒的に後者だな。絶対に目立ちたくない……!」
「そうか。秘匿を選ぶなら、私もお前の秘密を守ることを誓おう。ただ一つ注意がある」
「注意?」
彼女は右手を人差し指を立てると、俺の手に向かって指差す。
「その指輪については誰にも言うな。必ず問題がおこる」
「一応拾った時点で秘匿するつもりだったが、そうするよ……。一応理由を聞いても良いか?」
彼女はユキの頭を撫でながら笑みを浮かべる。
「それはな、勇者が所持していた『アイテムボックス』だと私は踏んでいる」
「ゆ、勇者ぁぁぁあ?」
「そう勇者だ」
まて、彼女の言う勇者は俺の知っている勇者と発音が同じで、違った意味を持つ言葉であるかもしれない。可能性はかなり低いがゼロではない。一抹の望みに掛けようじゃないか。
「ゆ、勇者ってアレだろう? どこかの町中で短期の仕事しながら、日々を何事もなく平穏に過ごす人間の事を差すんだろ? 間違っても戦闘はしない人間だよな?」
それだったら胸を張って言うね。俺が勇者だぁぁぁ!!
「そんなわけがないだろう。そしたら町中が勇者で溢れかえるぞ? 『勇者』とは力、知力、才能に恵まれた、勇気ある人間であって、魔王を倒す運命を帯びた者の事だ。まぁ別の意味もあるが、私が言っているのはこれだ」
「そーですよねぇぇ」
「ああ、ちなみにであるが私はお前が勇者だと思っている。また勇者としてこの世界に呼ばれたとも思っている」
「え? ちょ、ちょっとおかしくないか? 何を言ってるんだお前は! 俺が勇者だと?」
やっぱり俺の知ってる勇者の定義とはずれるんじゃないだろうか? 勇気とかプライドとか社畜時代に捨ててしまったぞ? 中2の頃はあったんだけどなぁ。
「まあ、まあ。おちつけヒビキ。そう考えるのが自然なだけだよ」
「どうして自然なんだよ?」
「その指輪の能力だ。普通に考えてありえないのだよ。確かにその指輪の効力と同じような効果を持つアクセサリーについて知っている。だがなそれはエルフ王家の秘宝なのだ」
「ひ、秘宝?」
え、これそのレベルのアイテムなのかよ!
「ああ、王家の秘宝レベルのその指輪は世界にそう何個もない。そのうち一つを持っていた勇者が行方不明になったのだ」
「勇者が行方不明? つか勇者なんていたのかよ?」
「ああ、勇者は存在していた……お前は指輪の横で人骨を見つけたと言っていたな? それが多分勇者だと思う、でなければそんなもの持っているやつなんぞいないだろうからな」
「ゆ、勇者が死んでたのか?」
「死んだのだろう。確認だが勇者は『骨』になっていたんだよな?」
「そりゃまごうことなく骨だったさ」
理科室にあったあれと同じだったな。今の学校にあるのかは分からないが。
「勇者はお前を召喚しようとしたのだ、だが魔力が足りずに死んだのだろうな。召喚の失敗は死。聞いた話によれば、魔力が足りなければ肉体で代用するらしい。だが肉体を全て消費しても足りず力尽きてしまった。それで骨さ。本来は勇者の横に召喚されるはずだったんだよ」
「もしかして、召喚の途中で力尽きたから俺はあの森に?」
「まあ、私の予測だがな。まぁほぼ確定しているんじゃないかと思う。お前の言葉が通じる理由もそれで証明できるからな」
言葉が通じる事は、俺が一番疑問に思った事だ。文字だってなぜか読める。
「やっぱ通じるのはおかしいよな……」
「それに関してはおかしくもあり、おかしくないとも言えるな。召喚の魔法陣に翻訳といった内容を盛り込めば話しや文字を読めることはあり得る、ただ召喚ではなく転移したとなれば話は別だ。言葉は通じない」
「じゃぁ俺が言葉が通じているのは召喚されたからんだな?」
「だろうな。ああ、しかし安心してくれていい。勇者は魔王を封印したらしいからな、仮にお前が勇者として戦うことは無いだろうし、勇者も必要ないだろう」
「マジかよ! よ、良かった、本当に良かった」
魔王と戦ったら見せられないレベルで体中からいろんな体液流しまくってたと思う。
「それと勇者じゃないかと疑っている理由はもう一つある」
「まだあるのかよ……?」
「お前が拾った剣だ。実はな勇者はな、氷のマークが描かれた剣を使用していたそうなのだ。なんでもそれは封印を解かない限り、勇者にしか扱えないそうでな、一振りすれば見えない刃が飛び敵を切り裂くらしい」
な、なんだって! やっぱ捨ててきてよかったぁぁぁぁぁぁぁ! あぶねぇ、持ってきていたら勇者認定されてたってことじゃねえか。
「やっぱあの剣はゴミとして捨てた俺の判断は、正しかったってことか……!」
そう言うとアニエスはぷっと吹き出し笑い始めた。
「ははは、ゴミか、ゴミと来たか! いやお前は最高に面白いな。普通なら拾って自分の物にしているだろう?」
「違う、俺が普通なんだよ。アンケート取ってみろ。俺の意見が大多数の意見に属するだろ」
目の前にありえないぐらいのチート剣があります。この辺りに魔物は多分いません、安全です。貴方は拾いますか、拾いませんか? 結果は見るまでもないな、9割は拾わないだろう。
ましてやそれが勇者の剣と分かったらどうする? 踵を返して見なかったことにするだろう?
「フフッ、そんなわけないだろう。もちろんみんな拾うさ。それに私だって拾って調べるだろう」
「……お前は変わり者なんだなぁ」
真剣にそう言ったんだが、彼女は俺の顔を見ながらお腹を抑え、爆笑する。失礼ではないだろうか……。
「く、はは、はああ、お前な、私をこんなに笑わせてどうする! 笑い殺す気か。変わり者なんて言葉をお前にだけは言われたくないな!」
「いや、笑い過ぎだろう……」
俺普通だよな? めちゃくちゃ一般的な思考を持っていると思う。普通すぎてつまらないレベルだぞ?
「はぁ、はぁ、やっとおさまってきたよ。そうだヒビキ。一つ試したい事があるのだが、その指輪を貸してもらって良いか?」
彼女はアイテムボックスを指さしたので、俺は指輪を外し彼女に渡した。彼女はその指輪を握ると目を閉じる。
「うむ、やはり私には使えないな……。少し予想はしていたがこれも使用できるのは勇者だけなのだろうな」
彼女は指輪を俺に差し出すと、小さく息を吐いた。
「そう言えば、俺これ勝手に使っているけど大丈夫かな? 中身も結構消費したし」
「なに、持ち主は無くなっているんだ。別に問題ないだろう、まぁそれがアイテムボックスとばれたときは面倒になるかもしれんがな」
確かにばれたら面倒そうだ。王家の秘宝レベルだしな。でもこんな便利なもの手放すことはもう不可能だ。
「うぇぇ、指から外してヒモで首にかけるかな……? アニエスはパッと見てこれがアイテムボックスに見えるか?」
「ふむ。見えないが……万全を期すならば首から掛けていた方が良いかもしれないな」
アイテムボックスに何かヒモは入ってるか? ……駄目だな頑丈そうなロープしかない。
「後で何かヒモ買うか……」
青い奴が良いな。ってそれどこの例のヒモだよ。
「まぁ普通に付けていても誰も気が付かないと思うがな、私もその指輪については言われるまで気が付かなかったのだし」
とは言うものの何かの拍子に気が付かれたらまずいしこれは隠しておこう。あとは……。
「あと、お願いしたい事があるんだが」
「ふむ、なんだ?」
「俺に常識と魔法を教えてくれないだろうか? えっとアイテムボックス内にあるお金渡すから……」
「……なに、お金は要らないよ。こう見えても私は薬士でもあってね、道中に採取した薬草で薬を作って売ったりして結構稼いでいるんだ。だから生活に困らないくらいのお金はある」
「いやでも知識を教えて貰うのにタダってわけには……」
「ふむ、お前がそれを気にするならば、そうだな……知識の交換をしよう」
「知識の交換?」
「お前の持つ異世界の知識と私の知識の交換だ」
確かに異世界の知識は価値があると思う。だけどこの世界においてどれだけの価値があるのだろうか。小説なんかでは知識チート物だってあるけれど、俺はそんな立派な知識を持っているわけではない。彼女に有用性のある知識を与えられるかもわからない。
「俺の知識って……役に立つか分からないぞ?」
「ああ、それでいい」
それで良いって……ただのお人よしさんなのだろうか……?
「そうか……ありがとう。じゃぁどうする? アニエスはいつ空いてるんだ?」
「昨日依頼を消化し終えたから、今のところ予定はない。私は今日からでも構わないぞ」
「俺もいつでも大丈夫だ。なるべく常識は早めに知っておきたいから、今日から頼んでも良いか?」
「ああ、いいだろう。まぁとりあえずは」
「とりあえずは?」
「朝食を食べに行こうか」
「……そうだな、あーぁ。はぁぁぁぁぁあ、いやぁぁぁマジでよかったぁぁぁぁ」
俺はだらしなく椅子に座りため息を吐くと、一緒に気の抜けた声が漏れた。
「ん、どうかしたか?」
「いや、なんかずっと貯めてた心のつっかえが取れたんでな……力が抜けただけだ。本当に良かったよ」
本当にそうだ。出なければ今後どうするかであんなに悩まなくて済む。悩み過ぎてハゲるんじゃないかと本気で心配していたし。それどころか上手く町に溶け込めないんじゃないかとも思った時もあったわ。
「ははは、良かったじゃないか。私に出会えて」
彼女は笑いながら、冗談めかすようにそう言った。
だけど本当にアニエスに出会えて良かったと俺は思う。もしイカれてるやつに正体がばれたら? もし法外な金を要求してきたら? 最悪を考えるときりがない。
「ああ、本当だよ。本当にありがとうアニエス」
俺はそう言うときょとんとしたアニエスだったが、にっと笑う。そしてユキを撫でながら小さく呟いた。
「なんだ、……そんな真剣に言われると照れるな」
照れられても困る。これは俺の悩みのほとんどを解決してくれたお前への、偽りない感謝だっつうの。




