11話
目を覚ました時に体を襲ったのは、痛みだった。肩や足が何かにのしかかられているように重く、そして体の中からぐっと押されるような痛みがあった。
俺は体を起こすと、掛けてあった布がはらりと落ちる。俺はどうやら四次元ボックスから布を取り出して、地面に寝ていたらしい。
俺は立ち上がると横にあるベットを見つめる。
そこには一人の美しい金髪エルフと、白い狐が仲良く横になっていた。
「はぁぁぁーっ」
俺は大きなため息を吐いた。
美しい金髪から覗くのは白い肌に、羨ましいぐらい整った顔。閉じられたその瞼から伸びるまつ毛は長く、薄く小さいものの弾力のありそうな唇、ツンとした鼻、そして思わず指で触れたくなるような柔らかそうな頬。昨日はローブを着ていてあまり体のラインを見ることは無かったが、思ったよりもほっそりしていた。胸にはどでかい果汁が二つ付いているというのに。
圧倒的美人である。むしろ貴方の顔整い過ぎて怖いぐらいですよ。フランス人形かな?
俺がじっと見つめていると不意にユキちゃんが大きな欠伸をすると目を開き、
のそっと起き上る。そして体をぶるぶる振るわせると俺のそばに寄って来た。俺はユキちゃんを抱えると頭を撫でた。
あ゛あ゛ー、ユキちゃんは可愛いなぁ、世界一可愛いよ(確信)
ユキが起こしてしまったのか、不意にもぞもぞと彼女が動き出す。少しして置きあがった彼女は、目元に皺をよせ頭をポリポリ掻いた。
「おはよう、アニエス」
「ああ……ヒビキか。おはよう。早いな」
確かに起きるのは早かったかもしれない。普段だったらもう少しゆっくり眠っているが、今日は痛みで身が覚めたのだから。多分あたたかいベッドに入ればすぐに眠ることができると思う。
彼女は大きく伸びをして立ち上がると、身だしなみを整え、ベッドの横に置かれていたローブを手に取った。今の俺よりも少しだけ身長が高いだろうか。すらりと伸びた足を見て俺はため息を付く。
(足なげえな俺は……いや比べるのは止めよう。泣きたくなるだろうから)
俺はユキを下ろすと、部屋に落ちている布を畳む。四次元ボックスにしまうのは、アニエスが居なくなってからにしよう。
「なぁヒビキ、真面目な話がある」
俺はくるりと後ろを向く。そこにはアニエスがベッドに腰を下ろしたまま真剣な表情を浮かべていた。二日酔いで頭痛薬でも欲しがっているのだろうか。
「なんだよ?」
そう言って俺は部屋に備え付けられている椅子に腰かける。彼女は小さく深呼吸をした。
「お前は一体何者なんだ?」
彼女の眼はまるで餌を見つめる獣のように鋭く、そして力がこもっていた。
「お前は何を言ってるんだ? どう見ても人間だろう?」
背中に嫌な汗が流れる。アニエスは視線をそらさない。そして俺は今視線をそらせない。そらしたらそれは肯定しているのと同じだ。
「もちろん人間であることに疑いはしないさ。私の考えが迷走していた時は魔族という考えも浮かんだ。しかしその全く鍛えられていない魔力に、ありえないぐらい低いレベルを見て私はその考えを捨てたよ」
「だろう、普通の人間じゃないか?」
俺は両腕を広げ無害アピールをする。どうすればこの場を切り抜けられる? こことは全く違う場所から来ましたてへぺろ、だなんて言って彼女は信じてくれるだろうか? それに簡単に話してしまって良いものだろうか?
「ヒビキは気が付いていないかもしれないが、おかしい事だらけだったんだ」
「何の話だ?」
彼女は小さく息を吐くと俺から視線を外し、髪を手ぐしで整える。
「昨日、『このあたり』それと『森に囲まれたド田舎』、そうヒビキは言ったであろう? だがなそれだったら低レベルとその知識や計算力に説明が付かないんだよ」
なんでだよ、そう言おうかと思ったが、止めた。俺は心の中で舌打ちする。
確かにおかしい事だ。インターネットは無いし、本が馬鹿高いこの世界のド田舎で知識なんか得られるはずがないのだ。俺は昨日調子に乗って色々話しすぎてしまったようだ。
「それとだ。私は紅葉の話しをしただろう? 知っているか? まず第一にここら辺では紅葉なんて見られないんだ」
アニエスにそう言われて、俺はハッとニーナの顔を思い出す。アニエスが『木の葉が赤くなる現象』と言った時に、彼女は不思議そうな顔をしていたのは覚えている。なんで不思議そうな顔をしていたのか今ようやく分かった。
彼女は紅葉を見たことがなかった所為で、そんな現象が有る事を知らないから驚いていたのだ。
「顔に皺が増えてるぞ? 悩むことは髪に良くないんじゃなかったか?」
「ちょ、アニエスの所為だろ……」
「まぁ、冗談は置いといて、だ。私は紅葉の原理を聞いたよな? 君はそれをさも当然のように答えたな?」
「……まさかそれもやらかしていたのか?」
「やらかしたどころじゃない、世紀の大発見だ。まぁお前の話が本当ならの話だがな。お前がさらりと答えたそれはな、まだ解明されていない謎なのだよ、学者の私でさえ知らないのだぞ?」
頭を抱える。あの時は、なんというか彼女の驚いた表情が新鮮で、ついでにひと泡吹かせたくてそんな事を言った気がする。
「確かに一説としてそういった事を主張する学者もいる。だけどな、なんでこんな所にいる人間がそんな事を知っているんだろうか?」
「って事はつまり……ドヤ顔しながらありえない知識を披露してしまった、つうことなんだな?」
「まぁ簡単に言えばそうだ。さて状況も理解したことだろうし、もう一度問おう。お前は何者なんだ?」
俺がどう答えようか迷っていると、彼女は立ち上がってユキのそばに行く。
そしてユキを抱えると微笑を浮かべた。
「実はなお前に関してある程度は予測は立てている。あと、お前が悪い奴でない事に関しては確信しているんだ。なぁに、悪いようにはしない」
「……いや、そのだな? 確かに俺は悪い奴ではないと思いたいが人間的にみてクズでな昔は色々と……」
「いや過去の懺悔は良いからさっさと話せ」
ユキを撫でながらそう言う彼女に俺はため息を吐く。ユキは警戒する様子は一切なくて、喉を鳴らし気持ち良さそうにしていた。
とろけたマシュマロのようにふわっふわなユキの笑顔を見て、俺はアニエスに包み隠さず話す事を決めた。
今日はもう一話更新します。
誤字見つけたら指摘してくれると嬉しいです。そろそろ大量に出てきます。




