表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/45

新たな従者

「今日は従者の休みに付き合わなきゃいけないんだ」

『そうか。残念だ。またな』

「ああ」

「ご主人、誰からだ?」

「レイスから」

 念話では考えるだけで伝えれるが、魔道具はそうもいかない。今のは電話に似た、しかし形状は古い携帯のように、分厚いもので、『携帯しにくい携帯電話』と呼ばれるらしい魔道具である。

 ネーミングセンスが皆無のこの道具は、刃が作ったと、嬉々として仲間に配っていた。

「ご主人、私の事はいいぞ」

「いや、今日はお前に大事なプレゼントがあるんだ。その場所へ行くから、着いてきてくれ」

 首を傾げ、怪訝そうに「わかった」と言った。

 リサは、いつも長い髪を下ろしている。時々、鬱陶しそうに右腕でかきあげるのだ。見かねたツキが、髪を切るか、布で縛るかと聞くも、髪を触られるのが嫌いなリサは、いつも拒否する。

 髪がどうという話ではないが、見てるこちらが気の毒で仕方ない程である。

「着いた」

「普通の草原だぞ?」

 頭を動かし、魔物がいる、広大な草原を見渡すリサに、巡は適当に返事して、レジャーシートを敷き、そこにリサを座らせた。

「なにするんだ?」

「とっておきのプレゼントだ。待ってろ」

 詠唱をする。長く難しい詠唱で、魔力の消費から、本来人間には使えないものである。

「《女神の息吹》」

 リサが強く発光した。刹那、酷い脱力感が襲うも、すぐに魔力が戻り、治まった。

 驚愕の悲鳴を挙げるリサに、巡は内心不思議な感覚を覚えた。

 子供が悪戯を仕掛けた時、母の日に、母へ感謝の手紙を送る、プロポーズするとき、そのどれもうまく当てはまらないが、三つを足したような感覚だった。

 光が止むと、右腕よりか細く、色も白い左腕が生えていた。

「なんだ……これ」

 リサが絞った声を出す。

「左腕をプレゼントだ。いつも不便だろうと思ってさ」

「…………」

 いつまでも俯き、閉口するリサに、巡はだんだんと迷惑ではないのか、と不安に駆られていく。しかし、間違いではなかったのだと、次の瞬間に自信が持てた。

「ありがとう巡……なんて言ったら良いかわからない。けど、本当にありがとう。私達なんかにここまでしてくれて……」

 巡は、嬉しくなった。やはり、大事な者からの『ありがとう』は良いものだ。

「俺の力不足で右腕と全く同じ筋力とかではないけど――」

「力不足なんてもんじゃないぞ! こんな魔法私は知らない……巡は、神じゃないのか?」

 リサの言葉に、慌てて否定する。

「そんな大層なものじゃない。種族としては人間だ」

「巡、本当か? 私には到底同じ人間とは思えないよ。勿論良い意味でな」

 からかうように笑うリサに、巡は先程からする違和感に気づいた。

「ご主人じゃないんだな」

「あ……すまない、ご主人。どうも気分がたかぶると……」

「いや、寧ろ巡と呼べ。これは命令だ」

 やはり、歳上の人に敬語を使われるのは慣れない。これは日本人の、根っからの性なのだろうか。

「……改めてよろしくな、ご主人改め、巡」

「よろしく。リサ」

 巡は左手を差し出す。新しく生えた、右腕に比べると細く、不自然な左腕で、迷いなく巡の手を握った。

「本当は筋力とかも一緒だと思ったんだよな。それで、新しい腕を使って魔物と戦ってもらおうとしたんだけどさ、無理だったよ」

「いや、巡が言うなら愛する左腕で魔物を倒して見せよう」

 両手を挙げ、参った、と言わんばかりの仕草をして、巡は自宅に転移した。

「おかえ……リサ……?」

「ただいま」

「愛する妹達よ、巡が左腕を生やしてくれたぞ」

 冗談めかした声色と、言動。ツキもヤミも、あまりの驚きで声が出ない様子だ。

「リサはこれから慣れない左腕で作業することになる。サポートしてやれ。あと、今日の内にツキの実家でメイドを雇ってくる」

 今まで奴隷を買おう、メイドを募集しよう、等と検討してきたが、どうも乗り気になれなかった。しかし、三人ばかりに負担をかけられない。

「か、かしこまりました。お気をつけて」

「いってらっしゃいです……」

 ヤミの種族や属性については、誰にも言わないでおこうと考えた。従者達の事だ、大してなにも思わないとは思うが、ヤミ自身のメンタルが心配である。ヤミには内緒にして二人に教える案も浮かんだが、ばれる可能性も否めないと判断した。

「リサ、これからは左腕が筋肉痛になったら言えよ」

「ああ、気を付けてな」

 左腕で手を振るリサ。右腕が退化しないか心配になった。


「おかえりなさいませ、ツキのご主人様」

「ただいまとは言い辛いな。ツキのご家族と修行中のメイドさん」

 執事長と副執事長が居ない。王の所にいるのだろうか。

「ご自宅のように寛いで下さいませ」

「ありがとうございます。今日、メイド雇用をお願いしたいんですけど……」

 安易に、『良い子居ますか?』等と口には出来ない。慎重に言葉を考える。

「あら、そうでございますか。私以外はご主人様が居ませんわ。ご自由にお選び下さいませ」

 ずらりと並ぶメイド達を一瞥する。ツキの姉は最前列に居た。

「誰を選んでも……?」

 圧巻の光景に、巡は息を呑みながら尋ねた。

 すると、母は首を縦に振りながら、「はい」そう答え、途端になにかを思い出したようで、手を叩きつつも「巡様にお飲み物とご案内を」とメイド達に指示した。

 こうなると、もてなしを断るのは無粋なので、素直に案内される。

「こちらにお掛け下さい」

 姉と母は監督らしく、他のメイドが飲み物を聞き、持ってくる。

「お母さんとお姉さんもお構い無く」

「いえ」

 間もなく断られてしまった。

「お姉さんはうちで働く気はありますか?」

 上からに聞こえるだろうか、緊張で頭が回らない。

「巡様が私をご指名下さるならば、私に断る権利はございません」

「いえ、副メイド長としてではなく、お姉さんの意思を聞いてるんです」

「おそれ多くございます」

 母に助けを求めるように視線を向けるが、本人はにこにこと微笑んでいるだけである。

 流石はツキの姉。氷のように冷たい。

「では、俺の従者になってください」

 一礼する。

「よろしくお願いいたします、巡様」

 淡々とだが、姉が従者になったので、巡はある作戦を決行した。

「お姉さん、命令です。俺の所で従者になるのは、嫌か良いか、はっきり言ってください」

 周りのメイドはざわつき、母はくすくすと笑う。姉は少々呆気にとられながらも、母を見た。母は頷く。

「巡様のような、最高のご主人様の下で働けるのでしたら、願ってもない事です。ただ……」

「ただ?」

 躊躇うように何度も呼吸している。

「私はこの性格故、ツキに嫌われていないか……」

 巡は安心した。もっと深刻な事だと思っていたが、これなら心配いらないだろう。

「それなら心配ありませんよ。俺が言える事ではないですが、ツキは貴女の事を尊敬していると思います」

「本当でしょうか……?」

 声は悲痛そうなのに、表情があまり動かないのは感心する。

「ええ。まあ、よろしくお願いします。あと二人居てくれたら助かるんですが、お姉さん選んでください」

「……かしこまりました。ルマクル、サナフィア、いらっしゃい」

「はい」

 声を揃えて、メイドを掻い潜って来たのは発育の良い同い年位の女の子と、全体的に細い女の子だった。

「ルマクル、サナフィア、貴女達も着いてきてくれるかしら?」

「かしこまりっ!」

「お姉さまとご主人様の為に、粉骨しゃい心頑張ります」

「……ん?」

 元気なのはピンク色のショートボブである、ルマクル。楽しげなのが伝わる特徴的な声だ。

 舌が危うげな、所々跳ねた、癖っ毛のサリーより暗い茶髪セミロングがサナフィア。こちらは少しハスキーがかった、低いとも言えず、高いとも思わない声である。

「二人はどうだ?」

「ルマクルは特に考えず着いて行きますよー!」

「あたしはお姉さまに着いていくん。だからよろしくなん」

「……ん?」

 サナフィアも中々に特徴的な口癖だ。ついさっきのは無理に言葉使いを変えていたからだろうか。

 その事に、姉が指摘する。

「ご主人様にはそのしゃべり方はよしなさい」

「いや、出来れば自然体でいてほしい。俺にもあまり遠慮しないでいいし、呼び方も好きにしていいよ」

「巡はわかってるのんな。あたしが敬語を得意としないことが」

「サナちゃん、そこは威張るところじゃないって、ルマクルは思うな……」

 ルマクルも苦笑いである。

 姉は呆れから来る頭痛に、額を押さえた。

「お姉さんの名前は?」

「申し遅れました。私はサムクレアでございます」

「じゃあクレアと呼びますね」

「出来れば、いつもの言葉使いをお願いしたいのですが……」

「クレアだな。よし、帰ろうか。向こうで色々説明するからな」

 これから、少し忙しくなる。夏休みをすぐに消費してしまうかもしれない。

 だが、嫌な気分ではない。確かな充実感に満たされた気分だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ