第93話 雪山のお約束です
ずいぶん間が空きましたが、アンドリューです。
<第93話>
オレの名前はANDREW!
最近は長いのより短いのが好きな方、アンドリューです!
あ、スカートの丈かって?
バカ言ってんじゃねーよ、スキーの話だよ。
ファンスキーってのか、あれって。
ウィザリィにも雪国はあるから、買って帰って存在を広めてみるかなあ。
「ヒャッホー!!」
今時誰が言うんだよ、そんなかけ声……と思いながらもつい言ってしまうオレ。
まあ、様式美ってやつだな、うん。
今オレたちは帯広市から高速道路で一時間半ほど行った山の中にある某有名スキー場に来ている。
室内ビーチがあったり、雲海が見られるテラスがあったりするところだ。
「トラもなかなかやるじゃない」
後ろからソラの声がした。
ちょうど見事なターンを決めて停止したところだ。
「ソラも十勝人なのにスキーも上手なんだな」
「偏見よ。十勝=スピードスケートのイメージで捉えるのはやめてよね。どう考えても苦行だし」
「それもある意味偏見だろ」
そう言って笑うオレ。
まあ、オレも苦行だとしか思えないが。
別にけなしてるわけじゃねえからな?
「でも、トラは何となくボードのイメージだったけど違うのね」
「いんや、多分ボードだって問題なくできるぜ」
「すごい自信ね」
「そりゃあな。だってオレ様だぜ?」
「ちょっとイラつくわね……」
仕方ない。事実だからな。
「しかし、こんないいスキー場のわりにはリフト券も安いし、お得感あるなあ」
「でしょ。久しぶりだし、せっかくだからガンガン滑っちゃいましょう!」
最新のスキーウェアを含む装備一式に身を包んだソラは、「ゲレンデ効果」の後押しもあってかなりの美人っぷりを発揮している。
彼女連れじゃない男どもは、みんなソラをチラ見している。
さすが(胸も)エルフ並だな!
「なんか失礼なこと考えたよね、今?」
「ソンナコトナイヨー」
どんどん鋭くなって行くな。
水の精の加護もあってか、人間やめそうだぞ、そのうち。
途中昼飯を挟んで滑り倒すこと5時間。
「これでラストね。ちょっと吹雪いてきたし……」
「そうだな」
ゴンドラで山頂まで向かうオレたち。
さっきから急に雪がひどくなってきた。
「うーん、ゲレンデもよく見えねえなあ」
「そうね…。ちょっと困っちゃうわね」
ほら、北海道の大雪の時に車で走ってたらさ、視界が1mも無くなる時ってあるだろ。
ちょうどあんな感じだ。明らかにやばい感じってのか?
「きゃあっ!」
ちょうどその時だ。
ガクンと衝撃がはしるとゴンドラが急停止してしまった。
「なんかあったか?」
「この降りだもの。乗り場降り場でコケた人でもいるんでしょ」
「視界ゼロだもんな。しゃーねえか」
一気に天候が変わったな。
いくら山の天気は変わりやすいと言っても、さすがにここまでの事は滅多にない。
逆にいい経験になったとでも思えばいいか。
「復旧しないわね……」
「そうだな。付き物のアナウンスもないしな」
停止してからすでに10分近くが経過している。
いくらなんでもおかしい。普通はゲレンデ内に放送くらい入るはずだぜ。
「うーん、こいつはあれだな。ソラのトラブル誘引体質が発揮されたか?」
「ちょっと、人のせいにしないでよね。トラだって負けてないでしょ?」
「いやいや、どっちかっつーと、ソラのが色々引っ張ってると思うんだぜ?」
「それはそれでしょ!?」
まあ、どっちもどっちだって言われりゃそれまでなんだが。
「とりあえず、外の様子がわからねえうちは下手に動けねえよなあ」
そんなことを言っていると、2度目の衝撃が。
「きゃああっ!?」
「こいつはまた……」
一瞬の浮遊間の後に、ズシンと言う衝撃。
どうやらオレたちの乗っているゴンドラがワイヤーから外れて落っこちたようだ。
実際にそんなことがあったら大問題だぜ。
「び、びっくりしたあ〜」
「怪我はないだろ。一応クッションしたからな」
「サンキュ、トラ」
しかし、あたりが吹雪いて視界がないのは変わりがない。
「ゴンドラまで落としたんだ。この後の展開が何もないってことはないよなあ」
「何か言った?」
「いんや、こっちの話だよ。メタ発言ってやつだ」
「ふうん。まあ、このまま動きに変化がないってことはないわよね」
「だな。そうだ、ソラ。水の精にいって吹雪に働きかけてみたらどうだ?」
オレが全部やるんじゃ面白くねえしな!
それに、ソラも水の精の力くらいはもっと使いこなせるようになった方がこれからのためだ。
「そんなことできるんだ?」
「多分な。この世界での上級の精霊の力だ。雪くらいには働きかけられてもいいんじゃねえかな」
「そういうものなのかしらねえ」
「そういうもんだよ。イメージイメージ」
何やらごにょごにょと精霊と話し始めたソラ。
「やってみるってさ」
「そうしろそうしろ」
精霊力がゴンドラの周囲に満ちて行く。
「お、吹雪が一気に弱まったな」
「何だか自然じゃない力が働いてるらしくて、完全には止まないんだってさ」
「そうか。じゃあ、この吹雪を作り出してる奴がいるってことか」
「そういうことになるわね」
「そんじゃ、吹雪が弱まってるうちにその相手を探し出してとっちめるとするか」
「そうしましょ」
そうしてオレたちはゴンドラの外に出た。
辺りを見回してみても、雪と雪に覆われた木が見えるだけだ。
しかも、完全に日も落ちてしまっているしな。
「ゴンドラの鉄塔も見えやしねえ。どうやら現世とは違う場所だな」
「何だかそのくらいなら驚けなくなってる自分にびっくりするわ… …」
何だかソラが落ち込んでいるが気にしないことにする。
「ねえ、あっちに明かりが見えるわよ」
ソラの指差す方向を見ると、確かに明かりが見える。
「とりあえず行ってみるか」
「そうね。じゃないと話も進まないでしょうし」
進行ありがとうございまーす。
「洋館?」
「そうだな。どうみてもな」
明かり目指して進んだオレたちの前に現れたのは、立派な羊羹、もとい洋館だった。
何ていうんだ、その、小説とか映画とかで出てくる「洋館」ってイメージにピッタリのやつだ。
「さあ、行くわよ、トラ」
「どうし、やる気だな」
「こういうの、結構好きなのよね!」
そういや、よく家族ぐるみでB級ホラーとかパニックものとか見てるよな、清水家は。
「怖くねえの?」
「うーん、それほどでも。しかもトラも水の精霊さんもいるし」
「さよか」
信用してもらえてなによりだ。
大きな両開きの扉を押し開けて館の中に入ると、立派なエントランスが。
巨大なシャンデリアが吊るされ、向かって左右には緩やかなカーブを描いた階段が。
「あれだな、花言葉は復讐ってゲームみたいだな?」
「お父さんは鎧で、お母さんはミイラなのね、きっと」
「よく知ってるな」
「お兄ちゃんの影響でね」
エントランスへ足を踏み入れると、フカフカの絨毯に足が沈み込む感触。
と、お約束通りシャンデリアが突然落下した!
「お約束ね」
「だな」
慌てることなく障壁を頭上に展開し、あっさりと防ぐオレ。
「どれ、館の探索と行こうか」
向かって右側の階段をゆっくりと登って行き、2/3に差し掛かったあたりで、階段が突然崩落。
「お約束ね」
「だな」
浮遊魔法で落下をまぬがれるとそのままフワリと二階へ到達。
『待て待て待てぇいっ!!』
突如館に響き渡る怒声。
「なんだよ、いきなりうるせえな」
「ホントね」
『そりゃあ反則じゃろうっ!?』
なんだか怒っているようだ。
「何がだよ?」
『さっきといい、今といい、どうやった!?』
「どうやったもなにも見ての通りだろ?」
『貴様ら、人間か!?』
「失礼ね。私はれっきとした人間よ」
「オレは微妙なところだなあ」
なんせ大魔術師様だからな!!
『くそっ、ここからは本気で行くぞ!』
「いくらでもきやがれ」
『ふぬー!!』
何だか火に油を注いでしまったようだ。
その後。
『食らえええっ!!』
「はいはい」
廊下の奥から次々に飛んでくる矢を風魔法で吹き散らし。
『これならどうじゃあああっ!!』
「えいやっ」
左右の扉を突き破って飛び出してくるゾンビ的な何かを、ソラが水の魔法で押し流し。
『どりゃああああっ!!』
「そらよっと!」
鍵のかかった部屋に閉じ込められて水責めにされるところを部屋ごと吹き飛ばし。
『ムキいいいいいいっ!! 何じゃ何じゃそれは!! 反則にもほどがあるじゃろうっ!!』
「自分の持ってる力を使って罠を突破して何が悪いんだよ?」
「……まあ、番組的にはダメよねー」
『……やってられるかああああっ!!』
突然、あたりに満ちていた謎の力が昇天していく気配を感じた。
「あ、消えた」
「だな。あまりの理不尽さに耐えられなかったようだな」
「人生、納得できることばかりじゃないわよねー」
「全くだなー」
いつの間にかあたりは雪景色に戻っていて、空には美しい星たちが。
どうやら現実に戻ってきたようだ。
「……帰るか」
「そうね。寒くなってきたし」
時計を見たら、すでに19時を回っていた。
「ま、雪山遭難に謎の洋館はお約束だしな」
「そうね。不思議なことってままあるものよね」
「そういうこった」
妙にさっぱりした雰囲気でオレたちは帰路についたのだった。
え、ヤマもオチもないって?
そういうこともあるさ。
納得できることばかりじゃないってことだなー。
ヤマもオチもなくてごめんなさい。
アンドリューのすることなので笑って許してくださいませm(_ _)m




