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【完結】ワケあり大学生は過保護なサラリーマンの愛で救われる  作者: 松下


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22/30

22.次の展開は

「君がオファーを出したい学生なんて、初めてだな」

 課長の驚いた顔は予想通りで、「布石の一つではありますが」と言い置いてから

「九重大の情報科学科の学生で、将来はエンジニア希望です。インターン生として我が社に最適かと」

 と、静かな口調で続けた。

「そうか。君が選んだのなら大丈夫だとは思うが……」

 知っているのは今は学部と名前と年齢で、それを記した紙を手にした課長が、首を傾げた。

「開発部に通してみよう。あっちにも都合があるだろうからな。うちからエンジニア職のインターンについて提案するのは、歓迎されんかもしれんが」

「分かっています」

 あそこの上は昔気質のサラリーマンで、よその部署から口出しされるのを嫌うことは、乙木からも聞いていた。

「ですが、うちにも会議への参加を要求している以上は、営業からの意見も採用の手助けになるはずです」

 考えておいた理屈を口にすると、うむと何度か頷いてから

「君はあそこから引き抜いた柏木くんを育てた実績があるからな、だから会議にも出席させとるんだろう。無視できない推薦だとは俺も思う」

 そう呟いた課長の顔は、今だけはビジネスマンだった。

「よろしくお願いします」

 諒を――――インターン生として、迎えることは。

「しかし、どうやって知り合ったんだ、この子とは。これ以外の情報はないのか」

 大事な人生の節目に、自分が大きく関わることになるかもしれなくても。

「行きつけの居酒屋でアルバイトをしている学生です」

「は?」

 その責任を負うことから、逃げるつもりはない。

「俺がこの目で、確かめたことです」

 社畜、だからな。

 俺は。

「……」

 紙を握ったままぽかんと口を開けた課長を、まっすぐに見つめた。

「どうか、ご検討を」

「……分かった」

 呆然と言葉を落とす顔に頭を下げると、部屋を出た。 



 夏季試験があるのを「無理に出てこなくてもいいぞ」と大将は言ってくれたけど、生活のリズムを変えるのが嫌だったから、諒はシフトの日程を変更しなかった。

「五十里、今日もバイト?」

 いつものベンチに集まって、尋ねる友人たちに頷いたら

「お前はどうせ試験の対策ももう出来てんだろ」

 と一人が軽口を返すから、「やってねえよ」と適当に答えた。

 昨日もその前も、時間が許す限り図書館に通ってノートを開いていたなんて事実は、わざわざ口にすることではなくて。

 友人たち以外からもインターンシップの話題がよく耳に入る研究室は、試験よりそっちのほうが今は大きな関心で、「お前は決まったのかよ」と訊かれるのを、首を横に振った。

「あ、でも何か、一社からオファーが来たって、教授が」

 ふと口にしたら、

「おお、凄いじゃん」

「よかったな」

 と肘で小突かれるから、そうなのかと首を傾げた。

「どこ?」

「アグリー社」

「え、そこお前が気になるって言ってたとこだろ」

「おう」

「なに、その偶然。むかつく奴だよな、ほんとに」

 相思相愛かよ、と腹を突こうとする手を避けて、「うるせえな」と自分も笑った。

 ……真木さんにも、言ったほうがいいよな。

 気にしてくれてたから。

「上手くいくといいよな、皆」

 雨のない金曜日の夕方、オレンジ色の空を見ながら呟いたら、友人たちが頷く。

「もう合コンとか行く余裕はないかもな」

 一人が肩をすくめて、この間は女子たちとの会話も上の空だった自分を、思い出した。

「彼女がいてもさ、お互い就職活動とか、何か気まずくねえ?」

 別の学科に恋人がいる一人が肩を落として、

「それな。同じ会社ってそうないじゃん。希望してるところが別の県とかどっちかは地元とかさ、卒業した後どうやって続けていくんだよって」

「……」

 彼女がいるとこんな時に大変なんだなと浮かぶのを、黙って聞いていた。

 ――相談くらいなら、乗れるぞ。

「俺は遠距離恋愛は否定しないけどさ。でも、将来どうすんのって話になるんだよな、いつかは」

 合コンにも来ていた一人が呟いて、だよなともう一人が肩をすくめる。

「ま、大変な時に一緒に頑張ろうねって、そういう人がいいよな。まずは」

 彼女って、と続けるのを

「……年上の人とか、社会人の、とか」

 無意識に言葉が落ちて、皆が一斉にこちらを見た。

「あ」

「え、なにお前、そんな人いるの」

「どういうことだよ」

 伸ばされる腕を払いながら「そんなんじゃねえよ」と返して、胸に蘇るのはあの海に行った日だった。

 ――一人では、生きていけないんだ。人は。

「いつの間に。この間の合コン、全然やる気がなかったのはそれか」

 あの日、初めてつないだ手の熱は、躊躇わず握ってくれた力は、これまでの自分を肯定してくれた気がした。

「違えって言ってんだろ。思い付いただけだよ」

「あ、確か迎えが来るとか言ってなかったかお前、あの時。マジかよ、年上の彼女って」

 わあわあと騒ぐ友人たちに黙れよと返して、

「バイトがあるから帰る」

 リュックを掴むと、輪を抜けた。

「おい、次は逃さねえぞ」

 と追ってくる声に指で返事をして、自転車置き場まで急ぐ。

 ――正論を通すなら、合コンへ行くなとは言わないだろう。

「……じゃあ、あんたの気持ちは何なんだよ」

 街まで迎えに来てくれて、まっすぐアパートへ帰らず夜の海へドライブに出掛けて、「たまにはこんな時間もいいな」と運転席で笑っていた、あんたは。

 今夜も、来てくれるのかよ。

「……」

 年上の社会人なんて、今まで店で目にすることはあっても、気になる人なんて、誰もいなかった。

 ……逆に、あんな非常識な客がいるせいで、深い関心を持つのを避けていた気がする。

「店に着いたらラインしよ」

 相変わらず数台が重なる中から、どうにか自分のものを引きずり出す。

 今週はラインでも電話でも話せて、そんな時間が待ち遠しかった、自分は。

 この人のために頑張りたいと、静かに湧く気持ちを手放せなかった。

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