21.口説いてくれたら
その夜は、店までの行きも帰りも綾人が来てくれて、車に乗るのも何だか慣れてきて、
「酒の匂いがあまりしないな。飲んでないのか」
隣でハンドルを握る横顔を見つめることが、自然になった気がした。
「あ、うん。何か、話してばっかりでさ」
……酒くさいって思われたくないから控えたとは、言えなかった。
「そうか。盛り上がったんだな」
前を向いたまま呟く綾人の声は平坦で、
「別に、普通だけど」
と返してから昼間の会話が蘇って、
「あんたが妬くほどじゃねえよ」
そんな言葉をつい返したのは、昼間と違って暗い車内は、二人の距離が近い気がしたからで。
「妬いてない」
すぐに素っ気ない声が返ってくるから、そうかよと笑った。
週末の夜は道路も混んで、アパートまでの帰り道がもっと長ければいいのになんて浮かぶ自分は、単純に浮かれていた。
窓を少し開けたら夜風が流れ込んで、「涼しいな」と呟いたら
「少し、走るか」
隣から低い声が流れて、胸がどんと揺れた。
「……おう」
まだ、一緒に居られる。
「つ、疲れてないのかよ、真木さんは」
「いや、特に」
……俺の部屋でよかったら、上がってくれてもいいんだけど。
そう浮かんで、でも車を駐められないと思い出して、また真木さんの部屋に行きたいなと、どくどくと鳴る心臓を抱えてシートへ背中を沈めた。
「……」
黙ったら、聞き慣れた曲が小さな音量で流れていることに、気が付いた。
「あれ、真木さん」
思わず声が出て、こちらへ視線を投げた綾人に
「これ、あれだ、好きなんだ、俺」
ナビの画面を見たら、スマートフォンと無線でつながれているのが表示で分かった。
「知ってる」
ハンドルを切りながら綾人が答えて、
「言っていただろう、木曜に」
続いた言葉に、ぐっと胸が詰まる。
「え、ダウンロードしたのかよ」
「ああ」
綾人の部屋で一緒に見ていた音楽番組で、そんなことを口にしたのを思い出した。
「……」
――諒。
「いい曲だな、俺も好きだ」
眠くなったふりをして、肩へもたれた、あの夜が。
「……あんた、いつもこうなのかよ」
反対車線を通る車のライトで照らされた横顔は、頬から力が抜けて、唇が上がって。
楽しそうで。
「何が」
まるでデートのようだと胸で持ち上がる熱を、逸らせなかった。
「……」
俺だけかよ。
そう思うのは。
「コンビニでも寄るか」
昼と同じ服で、同じ匂いがして、迎えに来てと送ったらすぐに返事をくれた、あんたは。
「……真木さん」
――行かなければいいだろう。
「なんだ」
……俺と、どうなりたいんだ。
「海がいい」
小さく呟いたら、またちらりと視線だけ流されて、分かったと声が返ってくる。
「夜の海も、いいかもな」
「うん」
…………逃げられない、気がした。
この人からは。
もっと、求めてくれと、思うから。




