6. 俺が正しいと思った"世界"のため
コンピュータから黒い煙が立ち込め、周囲一帯に緊張が走る。
男は亜人集団のリーダーの男へ、右手を銃の形にして向けていた。
「今なら見逃してやる。俺の言う通りにしろ。」
さっきまでの口調ではなく、低く。そして圧を掛けるように男は言う。
モニターには『99%』と映し出され、そのまま動かない。寸前の所でハッキングを阻止したのだ。
状況が一転し、追い詰められた亜人集団。絶望したのか、リーダーの男はがくりとライフルを構えるのをやめ、顔を下げた。
「……ふ。」
「ん?」
しかし、次の瞬間。リーダーの男は顔を上げた。
「ハァ――ッハッハッハッハァッ!!」
「…何が可笑しい?」
豪快に笑うリーダー。疑問に思い、男は聞く。すると、壊れたコンピュータのモニターにノイズが走った。
「人間にしては中々賢い奴だったな!!だが、これを見たうえで追い詰めたとでも言えるかな?」
リーダーの男は親指を立て、モニターを見ろと促す。
画面に映っていたのは。
「なっ……!?」
「一体……なぜだ…?!」
男と天弦は、その光景に理解が追い付いていなかった。
何故なら画面に映し出された数字が『100%』になっていたからだ。次第に兵隊長や兵士達もそのことに気づき、ざわざわとし始める。
「99%で止まったんだぞ?何故100%になった…?!」
「――お兄さん、ここまでよく頑張ったね。」
天弦がそう零した途端、少女が口を開いた。
「どうして『100%』に変わった?」
男は少女に聞く。
「どうせ人間さん達がハッキングを途中で妨害してくるって思ったの。
…だから。」
少女はにこりと微笑んで答えた。
「モニターに映る数字を『5%』だけ遅らせてたんだ。」
「「!!?」」
「なん……だと……?」
少女の想像もしなかった答えに、天弦は呆然として声を落とす。
笑い声をあげながらリーダーの男は天弦を見下ろした。
「つまり数字が『95%』の時点で、お前達の負けが確定していたのだ。残念だったな。天弦、それに凪ィ…!!」
突如、ゴゴゴゴゴ…。と音が聞こえてくると、コンピュータの隣にあった頑丈な扉が開き始めた。
少女が『95%』の時点で扉を"1分後"に開けるようプログラムを入れていたのだ。
「よしっ、ちょうど1分ね。はいこれ。情報を抜き取るためのカセット。私は人間さん達の相手をするから、早く行って。」
「おう。任せたぞ、"N"。」
「っ!待てッ!!」
少女からカセットを受け取ると、3人はライフルの弾倉を入れ替えながら、悠々と扉の向こうへ歩きだす。
天弦が咄嗟に拳銃をリーダーの男へ構え、引き金を引いた。
「させないよ」
「「!!」」
しかし銃弾はまたしても少女から現れる紙によって防がれてしまう。
「クソ…が……クソがああああああッ!!!!」
「フフフ……ハァ――――ッハッハッハッハァ!滑稽だ…実に滑稽だ天弦よ!!」
亜人にかすり傷すら与えられなかった天弦は、無力感に打ちひしがれて叫ぶ。その姿を横目に高笑いをし、リーダーの男。そして"A"、"L"は扉の奥へと姿を消していった。
そして部屋に残る亜人は、少女。只一人だけとなる。
「小娘が…調子に乗りおって……!!」
天弦の隣にいた兵隊長が片手をあげる。すると、一斉に兵士達はライフルを少女に向け構えた。
「へえ。また一斉に撃つつもり?さっき私達に全然当たらなかったのを知ってるでしょ?」
「さっきはコンピュータを壊すため、お前達には銃を殆ど向けていない。だが今回はお前に向けて撃つ。」
少女一人に対し、生き残りの兵士40人余りが一斉に銃口を向ける。しかし少女はいつも通り表情は穏やかな儘だった。
「おいやめろお前等!それやったら本気であの子が死んじゃうだろうが!!」
珍しく男が怒号に似た声で兵隊長へ一喝。
「これには、我ら"人間"の未来がかかっているのだ。そのためにあの女を殺す。」
「っ…!!」
兵隊長の一言に、男は何も言い返せず、天弦へ顔を向ける。しかし天弦も同意見だとゆっくりと頷いた。
「ふぅん。そっか。」
すると、少女は軽く俯いた。
次の瞬間。
「……ぐあッ!!」
「「「!!!」」」
ひとつの紙がくるりと丸まり、一本の長い針のようになった紙は、天弦の左耳を掠め、背後の兵士の首を貫く。兵士の体は、紙によってふわりと宙に浮かび、兵士は紙を掴み必死に藻掻く。
しかし、無残にも丸まった紙は次第に緩み、体の中で広がり始めた。
「ごめんなさい、兵士さん。…あなたを見せしめに使っちゃって。」
「う、うああああああああ!!」
少女は空中に浮く兵士に向かって拳を出し、ゆっくりと花咲くように拳を広げていった。
紙もそれに合わせ広がっていき、拳が完全に開ききった時には、兵士は既に死んでいた。
「実はね。この能力は手を使ってある程度操作できるんだ。しかも、そっちの方が思い通りに動いてくれるの。」
少女は上を向いた掌をくるりと下にし、その後素早く、掌を段々と握りながら後ろへ引く。それに反応し、兵士を貫いた紙はひゅっと少女の元へ戻った。
ぐしゃり。兵士の死体が地面に落ち、やがて出血による血の池が完成する。
「どうする?お兄さん達、このままじゃこの兵士さんと同じになっちゃうよ?」
「「「……!!」」」
周囲には恐怖という空気が漂う。
少女は背中から無数の紙を出現させ、兵士達の恐怖を煽るかのように不気味にゆらゆらと空中へ漂わせた。
「死にたくなかったら銃を置いて。今なら見逃してあげる。」
「ほ…ほらぁ、嬢ちゃんはこう言ってるんだよ?さ、早く銃を置こう…ね、ね?」
表情は穏やかなまま、少女は兵士達に選択を与える。男も少女の意見に賛成だと促した。
少女に対する兵士達の今の感情は恐怖。怯え切った何人もの兵士は、震えながら少女の言葉の通りライフルを置こうとした。
その時だった。
「総員、構えろ!!!」
「「「「「「「はっ!!!」」」」」」」
「っ!!?おい!何言ってるんだ――…」
誰かが兵士達へ命令する。命令は絶対で、ライフルを置こうとした兵士も全員、条件反射でライフルを少女に向けて構え直した。
兵士達へ命令をした、その声の人物は…
「――"天弦"…!!」
「今、目の前にいる敵はあの女只一人だ!この数なら必ず殺すことが出来る!!ほら、お前。後ろへ行くぞ。」
「あ、ちょ…ちょっと待てよ天弦!!」
天弦は兵士、そして兵隊長。その全員を動かす。その間に男の革ジャンを掴み、少女に背中を向けないで兵士達の後ろへと移動。後ろへ下がっていく時すら、怒りに満ち溢れ、大きく目を見開いていた天弦の姿を見た少女は、また少し。俯いたように見えた。
「…そう。分かったわ。」
直後。出現させていた紙の数を何倍にも増やし、少女は右手を天弦達、"人間"へ向けた。
「じゃあ、死んで。」
「総員、撃てェェッ!!!」
それが引き金となり、両者一斉に攻撃を開始した。
部屋は再び、銃弾が飛び交う。ものの数秒で、守る必要のなくなったコンピュータはいつの間にか完全に破壊され、『制御室』とは名ばかり、一瞬にして廃墟と化した。
銃弾の雨により、少女はもはや蜂の巣状態だ。天弦は命令をする直前までそう思っていた。
が、しかし。
「なっ……!!?」
「だから言ったでしょ?私には絶対に当たらないって!!」
何十本ともいえる紙を操り、少女は弾丸一つ一つを全て防ぎきっていたのだ。恐らく紙は全て少女の意思で操っているため、自身に当たる弾丸を目で確認して防いでいる。つまり人間とはけた外れの動体視力を持ち合わせた亜人にしか到底出来ない技だ。
「――ぐぁっ…!!」
刹那、少女が右手を衝撃をかけて前へ突き出す。
それに反応した一本の紙は、中を空洞にした円柱型に変わると、一人の兵士の胸を貫いた。切断面はとても綺麗であった。心臓部分を完全に兵士の体と分離させると、少女は右手をぎゅっと握り、それに反応して紙は勢いよく縮小。心臓をぐしゃりと潰したのだった。
「……!!」
言葉を発せなくなった兵士は、持っていたライフルをかちゃんっ、と落とし、地面へ倒れていった。
その瞬間を見ていた周囲の兵士達は、ライフルを撃ち続けながら絶望した。
乱射音でうるさい中、少女は兵士達に聞こえるように大きな声を出す。
「人間さん達――!?今から"一人ずつ"選んでから殺すね――!!だけど、死にたくないよね?そこで、"5秒"数えるから、死にたくなかったらその秒数の中で銃を撃つのをやめて地面に落としてね――!!」
元気にそう伝えると、左手を兵士へ見えるように上げ、そして広げた。
「じゃあまずは、そこの人間さんから!カウントダウン、始めるよ?5,4,3,2,1……――」
右手を今から殺す兵士に向けると、カウントダウンと共に指を曲げていく。しかし、兵士は逃げずに、いや逃げられずにライフルを撃ち続けた。少女の右手に立っている指は小指だけになった。
「――ゼロ。そっか、じゃあバイバイ。」
小指を曲げ、右手はグーになる。その瞬間に右手をひらりと動かした。兵士はその動きにびくりと動き、がくがくと震え始める。しかし少女は紙を操り、紙は兵士の額を貫くのだった。
その後、兵士は即死。体は力なくばたりと地面に倒れた。
「どうしてあそこまでしてでも銃を撃ち続けたのかなぁ…じゃあ、次の人間さんへいこっか―!」
そうして、少女はまた兵士を選び始めた。
しかし、その後も
「――ゼロ。」
今度は頭部半分がごっそりと抉り取られる。
「――ゼロ。」
今度は肺。
「――ゼロ。」
腹部。
死体の数は5秒に一回増えていく。誰一人として兵士は逃げ出さず、ライフルを撃ち続ける。確かに、次は自分なのではないか。少女がいった通り、恐怖に駆られてはいるだろう。
だが、全ては天弦の命令。逃げようにも逃げられず、全てを諦め、ライフルを撃ち続けていたのだった。
「何が……どうなってるんだ……?!」
全く攻撃が通らず、そして確実に兵士の数を減らしていく少女の姿を、兵士達の隙間から天弦は見ていた。どうすればこの女を殺して、残りの3人の所へ行けるんだよ……!!?と考えているのだろう。
「あーあ。命令は絶対。全ては天弦のために。って考えなんでしょ。本当、これだから命令って言葉は嫌になるの。」
「……!!」
そう言いながら、少女はそれでも次々と殺していった。
すると、ふいに天弦は、自身の足が震えていることに気づく。
「おい…どうして震えてんだ。……もしかして俺は、あいつの強さに腰抜かして…恐怖してんのか…?おい…?なあ!!」
自身の震える両足を何度も殴る。しかし震えは止まらなかった。
「止まれ…止まれよクソがっ!!」
次第に足を殴る力は強くなっていく。それでも震えは止まらなかった。
途端に殴る勢いは収まり、天弦は俯く。
「クソが……どうして亜人如きなんかに……。」
絞り出した声で、天弦はそう言った。
すると、今の状況を見た男は、小さく呟いた。
「……もういい。分かった。」
男は天弦の方をゆっくりと向いた。
「天弦。拳銃を一丁。……それと火を貸せ。」
「何だ急に……お前なんかに…この状況を覆すことなんて出来ないだ…」
「いいか。俺が合図したら――」
低い口調で、男は天弦の声を遮った。
既に死亡者は10人を超え、残っている兵士は30人もいないだろうか。
兵士は戦う気力を失い、恐怖に包み込まれ始めていた。
「怯むな!!!」
「「「!!」」」
そんな状況下で、兵隊長は声を上げる。
「まだこちらの方が人数は上だ、いつかきっと当たる!!銃を下すな!!弾が尽きたものから後ろへ移動、まだ撃てる者は前へ出ろ!!」
兵隊長の言葉は、弱り切った兵士を鼓舞し、再び兵士は気力を取り戻し始めた。
「はぁ…あの兵隊長さん、うるさいな…」
溜め息交じりに、少女は右手を兵隊長に構えた。
「じゃあ、次はあなたね。」
「なっ…!?」
「カウントダウン。5,4,3,2……」
5秒後に死ぬという未来が確定した兵隊長は、少女の折り曲げていく左手を見て、汗を流す。
「う、うああああああああああああああ!!!!」
段々と立っている指の数が減り、兵隊長の体は徐々に震えだす。
そんな恐怖を打ち消すかのように、兵隊長は大声で叫ぶしかなかった。
「1,」
少女の立てた指は、ついに一本だけになった。
「ゼ……ヴッ!!」
突然の事だ。
最後の一本を曲げようとした瞬間、少女の"背中"辺りに激痛が走る。
汗がだらりと垂れ、少女の体は膝から崩れ落ち、地面に手をついた。
「総員、撃ち方止め!!」
天弦の合図とともに、兵士達はライフルを撃つのをやめる。
すると、少女の体から生まれた無数もの紙が、一度体へと戻っていった。
一体何が起こったのか。少女は乱れる呼吸を整えながら、未だ激痛の走る背中に手を当てた。瞬間、手にはぬるぬるとした感触が伝わった。見てみると、掌に大量の血がべっとりと付いていたのだ。どうやら少女はいつの間にか背中に弾丸を食らっていたらしい。
「どういう…こと……?!一体誰が………!!」
頭を上げ、誰が撃ったのかを確認する。そこには、真っ先に目がいった人物が一人いた。
「っ!!……"お兄…さん"…が…?!」
兵士達の列。その一番後ろ。出入口にいた人物は、サングラスをかけた"男"だ。左腕を土台にし、右腕を上に置き、手にはグロック17を構え、静止している。銃口からは煙が上がり、男が少女に向けて撃ったことが分かった。
「……何故お前には当てることが出来たんだ?!」
冷静にいられなかった天弦は、男に声を荒げる。しかし、
「兵士連れて先に行け。」
と一言を返すだけだった。
「…っ!」
その後も天弦の顔すら見ず、少女の方を見ていた男へ、くそがっ…!天弦が小さく呟いた。
「総員!今のうちに扉の奥へ、"3体の亜人"に奇襲をかけるぞ!!」
兵士達はその命令に従い、次々に少女の横を通り過ぎて扉の奥へと走って行った。
「そうは…させない……!!」
背中からの出血を、何本もの紙を包帯代わりにして抑え、通り過ぎていく兵士を見ると、左手を扉に向ける。
それに合わせて3本の紙がゆらりと揺れ、扉目掛けて動き始めた。
「……。」
しかし、男は冷静にその3本に向かって、ドンッドンッドンッ!!!と連続して引き金を引く。グロック17から撃ち出された銃弾は、まっすぐと3本の紙へ撃ち込まれ、紙は明後日の方向へ弾き飛ばされた。
「…お兄さんッ……!!」
「悪いな…嬢ちゃん。」
依然として銃を構えたまま、男は左腕を下ろし、ズボンのポケットから煙草の箱を取り出す。口の方へ持っていくと、軽く一振りして箱から煙草を一本咥えた。天弦から貰ったライターを使って火をつけ、一気に煙を吸った。
その間に天弦と兵隊長率いる特殊部隊は全員奥へと走っていった。
「……まるで、『ゆうだん』みてぇだな。」
少女に対して、そう語りかける。
「俺が"凪"で…そしてお前は、凪に立ちはだかる"敵"だ。」
「……。」
背中の傷を労わりながら、少女はゆっくりと立つ。そして、両手を広げ、紙をまた出現させた。
その光景を見ながら、男は静かに煙草の煙を吐いた。これから始まる戦いに向けて。
「俺は"凪"のように生きる。だから俺は、俺が正しいと思った"世界"のために、俺は銃を撃つぜ。」
咥えていた煙草を口から飛ばし、"凪"は、宙に飛んだ煙草の吸殻を撃ち抜く。
そして、それが開始の合図となった。
「面白いッ、受けて立つわ!!」
左手をくいッと上へ動かし、6本の紙を上へ。天井付近にいった瞬間、掌を凪へ向ける。
反応し、6本の紙は分散して凪へと一斉に向かった。
瞬間。サングラスでよく見えないが、凪の目が大きく見開く。左ポケットからスナイパーライフルの弾丸を6個手に持った。同時進行で右手に持った拳銃から弾倉を落とす。
突然、革ジャンを勢いよくはためかせると、内側に隠しておいた"特殊仕様の弾倉"が勢いよく外へ飛び出した。
「準備は整った。」
左手に持っていた6発の弾を一気に空中へ投げる。しかし、6発の弾は全て6本の紙に向かってズレもなく狙いが定まっていた。
拳銃は外へ飛び出した弾倉を捉え、見事ノールックでリロード完了。そして、空中に滞空する6発の弾の中心で構え、引き金に手を掛けた。
ダァァンッッッ!!!
引き金が引かれた瞬間、轟音と共に無数の"散弾"が撃ち出された。空中に浮く6発のスナイパーライフルの弾底に同時に直撃し、見事誘発。火を噴いた弾丸は、迫りくる紙全てに命中した。
「なっ…!?」
撃ち抜かれた紙は弾丸の勢いに負け、破れることは無かったが、天井へと弾き飛んでいく。
少女が目の当たりにした光景に、理解が追い付いていなかった。何故なら、少女が放った紙が凪へ向けて飛んでいくこのほんの数秒で、凪は今の行動を電光石火の如く、全てやり終えたからだ。
額から汗が一筋流れ落ちていく。
「――もし、今のがその状態で操れる最大の本数だってんなら…」
「っ!!」
その姿を見ながら、凪は拳銃を構えたまま言った。
「嬢ちゃんは俺に傷一つもつけられねえな。」
少しの間、唖然とした少女はその言葉で我に戻り、今度は8本用意した。
「ふざけないでッ…今のは序の口よ!!行けッ!!」
「8本か…流石に多いな。」
紙はそれぞれ異なるタイミングで凪へ向かって飛んでいった。凪は冷静に特殊仕様の弾倉を取り外し、9mm口径の入った弾倉に変える。その間に1本の紙が、凪へと向かった。
「じゃあ。」
直後、服の袖に隠されていたナイフが左手に渡り、紙に向ける。
「っ!!?」
衝突直後、激しく火花を散らしながら、力ごなしに紙をはじき返した。その後も何本と凪へと向かっていくも、全て防がれ、少女の体へとシュルルルル…と力なく戻っていく。
「なんでそんなことがッ!?」
「俺特製ナイフ。なんでも切れるとは言えないが、硬度はダイヤモンドと同じくらいだぜ」
そして、最後の一本が凪へ向かって飛んでいく瞬間。拳銃を構えた。
「――ッ!?」
撃ち出された弾丸は、紙とは大きく"外れた場所"へと飛んでいった。
飛んでいく銃弾を見つめながら、何故そんなことを?少女は困惑する。しかし銃を撃った後、凪は最後の一本ナイフで弾き飛ばそうとしていた。
つまり今のは何かしらの意図があった筈。少女は限られた時間で思考を巡らせる。じゃあ、本当の目的は一体…。
「……ハッ!!」
何かに気づいた途端、少女は瞬時に自身の"後方"に紙で盾を作り上げた。
その瞬間、盾から強い衝撃が打ち寄せる。
「…まさかこれを見破っちゃうってね。最近の子ってのは理解が早くて困るよ。」
驚いた様子で両手を上げると、凪は肩をすくめて首を振った。
盾には、シュウゥゥゥ…と煙があがった弾丸が受け止められている。まさに、背中に当たった時と同じ状況になっていた。
「"跳弾"を利用していたのね……!!」
少女はごくりと唾を飲んだ。舐めていた、あの男がこんなにまで強いなんて。思わず、身震いが起こってしまった。
「さっきまでの兵士達の乱射のおかげで、壁に丸みを帯びた場所が出来たのさ。後は嬢ちゃんに当たるように撃つだけ。」
淡々と述べながら、左手にナイフ。右手に拳銃を構え、少女に向けた。
「だが、それが分かったとしても。お前の戦況は変わらないぜ?」
そして、凪はゆっくりと歩き出した。
「ひっ…こっちに来ないでッ!!」
少女が小さく悲鳴を上げると、それに反応するように、何本もの紙が出現。凪へと突っ込んでくる。
しかし凪はそれでも歩みを止めなかった。軌道はもう読み切ったのか。サングラス越しの視界で一本一本の紙を目で追って、拳銃を使ってはじき返し、弾がなくなれば、ナイフではじき返しながら弾倉を入れ替えていた。
時々、牽制するかのように跳弾を利用した後方への攻撃をする。少女は凪への攻撃。そして跳弾の警戒。この2つを同時にこなさなければ勝てない状況になってしまったのだ。
「こっち来ないでって言ってるでしょ!!」
「すまんがそれは出来ないな。」
今にも泣きそうな表情をみせる少女。それでも凪は歩みを止める気はなかった。
そして距離はおよそ5m程に。弾倉を入れ替えると、凪はナイフをしまい込み、掌を少女へと向けた。
その時だった。
「……引っかかったわね。」
「ん?!」
突然、辺りに粉塵が巻き起こる。少女から出現する紙が起こしたものだ。あと少しの所だったが、凪は一度後方へと背中を見せずに退いた。
「一体何をやるつもりだ?」
粉塵によって少女のことを視認できなくなるも、凪はまだ冷静であった。すると、遠くから"ゲーム機"を起動する音が聞こえた。
「とっておきのを見せてあげるわ。」
「…とはいっても俺からは嬢ちゃんのこと見えてないが。」
冗談交じりにそんなことを凪は言った。
刹那。
『テレレレッ!!!』
「ッ!?」
聞き覚えのある音が聞こえた瞬間、1本の紙が男の2m前で出現。粉塵のせいで視認できていなかったからだろう。凪は咄嗟で目を見開くと、銃を使い防いだ。直後、2本目が出現。銃を構え2本目に向けて引き金を引く。
『キィィン!!』
また遠くから、いかにもレトロな効果音が鳴り響いた。
「……まさか、これって…。」
凪は小さく呟く。
段々と紙の数とスピードは速まっていき、凪にも余裕が無くなっていった。
僅かな時間で弾倉を入れ替えては紙に向かって引き金を引く。
「ほらほら!早くしないと弾丸が無くなっちゃうよ?!」
凪を煽るように少女は言う。しかし全神経を集中させ、最低限の動きで全ての紙を寸前で防ぎきる。
そんな時、凪はあることに気づいた。それは、攻撃に法則性があること。そしてその攻撃は8種類しかないこと。そして1番重要なこと。それは8回連続攻撃をした後、次の攻撃までに"1秒"ほどクールタイムがあったこと。
つまり、1秒だけ少女に"隙"が生まれるということだ。
「…一か八かだッ……!!」
ちょうどその8回目の時に弾倉の弾が尽き、与えられた1秒であえて"残弾数ギリギリの10発入り"の弾倉に入れ替えた。
そして、目を見開き、凪の反撃が始まる。
「まずは…1ッ!!」
弾丸は撃ち出さず、ナイフと拳銃で正面から来る紙攻撃を跳ね返す。
「2ィッ!!」
ナイフを捨て、右ストレートのように迫る紙へ銃弾を一発。
「3ッ!!次いで4ンンッ!!」
頭上から貫こうとする紙へ体を勢いよくそらしながら撃ち抜く。その瞬間、4本目が体すれすれを通過。至近距離で引き金を引き、撃ち出された弾丸の反動で紙の軌道を上へそらした。
「ほらほら、まだ行くよ!!」
「来いよ5本目!!」
少女の声に合わせ、斜め上から凪へと突き進む紙を確認し、タイミングを合わせて寸前のところでバク転。紙は地面に突き刺さった。
「なっ……くッ!まだまだァッ!!」
段々と異変に気付き、少女の声は徐々に荒っぽくなっていく。
「6ゥッ!!」
姿勢を戻した瞬間、天井スレスレを通り背後へと回った紙が襲い掛かる。しかし凪はそれにも反応し、バク転を決めた時には既に銃口は背後に向いていた。引き金を引き、6本目を防ぎきる。
「なんで…なんでこの状況でそんな動きが出来るのッ!?」
「7…それに8ィッ!!」
7、そして最後の8本目は同時に来る。胴体を狙って両端からクロスするように突き進んでくるので、それを跳んで躱した。
「ぬうゥッ!!」
2本が交差する地点に銃弾を撃ち、地面に打ち付けたと同時にその上へ着地。銃弾は残り4発、8連続攻撃を6発で見事防ぎ切った。
次の連続攻撃まで1秒…。凪はすぐさま銃を構え、少女の方向へ銃口を向けた。
ドォォンッ!!!
「きゃあっ!!」
弾丸は少女の肩を掠め、壁に直撃。わざとギリギリで外したのだろう。弾丸が通過した右肩は、赤く腫れあがり、少女は左手で右肩を抑え、痛みに悶えていた。
「残り3発…いける。今だあァッ!!」
凪は少女へ向かって走り出す。
このチャンスを逃してしまったら、次は対策されるかもしれない。粉塵の中で抜群の方向感覚で少女へと突き進み、やがて少女の影がうっすらと見え始めた。
「これで…終わりだァッ!!」
凪はその影へ向かって左手を突き出した。
その時。
「それは…こっちのセリフよッ!!」
「なっ…!!?」
突如として粉塵が消え、少女の姿を確認出来た。が、しかし少女の前には巨大な円錐の形をした物体があったのだ。
何故こんなにも巨大な円錐が…?!凪は少女の方を見る。すると、背中に巻いていた紙がなくなっていた。
おそらく今まで避けていた8本の紙、そして背中の流血を止血していた紙、全てを1つに収束して出来たものなのだろう。
走っていた足を急に止めたことで、思わずしりもちを付いてしまい今までの戦況が一気に逆転。
凪の額から、初めて汗が垂れていくのが見えた。
「このタイミングを待っていたわ。…これでも……喰らいなさいッ!!!」
少女は両手を上げ、思い切り下に振った。
円錐はそれに合わせ、ドォォンッ!!!と回転しながら凪へと突き進む。その円錐は暴風すらも起こし、それは辺りに転がっていた死体すらも吹き飛ばすほどの力だった。
「う、うおおおおあああああァッッ!!!」
ごうごうと風を切り、一直線に突き進む。凪は、その光景に叫ぶしかなかった。
少女の表情は、勝ちを確信し、喜びに満ち溢れていた。
次の瞬間。轟音ともいえる衝突音と共に部屋にまた粉塵が巻き起こるのだった。
リーダーって書くと、城島さんがちらつくようになってしまった。
てことで次回最終回です。果たして男と少女の戦いの結果は!?そして未だ書けていない最終話は投稿されるのか?!絶対8話構成の方が正解でした!
ではまた明日。あややとぅーやー




