3. 事件勃発!犯人の正体は一体何者?!
「準備は出来ているか?」
ホテル近海。小型の潜水艦がゆっくりとホテルの方向へ近づいてきていた。
潜水艦内には4人。中はとても暗く、姿をすべて視認することは出来ないが、4人の内3人は武装をしていることが分かる。その4人の中で一番ガタイの良い男が3人へ聞く。
すると2人は男に向かって頷く。会話は最低限にしているのだろうか。頷かなかった1人は別の事に集中していた。
「作戦は話した通りだ。それと、水中音波探知機から俺達の事は見えないようにしているんだな?」
3人の中で一番奥の方にいた1人へ声をかける。さっき頷かなかった人だ。武装はせず、何やら手には古い『ゲーム機』を持っている。真剣な目つきで主人公を操り、鼻息を荒くしていた。
ちょうど男が聞いたタイミングでガッツポーズをすると、8bitの祝福するような音楽と共に『STAGE CLEAR』の画面を見せた。
「~~っし!!あ、そのことなら大丈夫よ。私にかかればそれくらいのことなんて、ちょちょいのちょい!」
「……そうか。とりあえずそのゲームはもうやめろ。お前それ5回くらい死んでただろ、それで何度も奇声を上げるもんだから堪らん。だからこそ何でそのゲームが好きなのかが俺には分からねえよ。」
「えぇッ?!ちょ、ちょっと取り上げないでよ!このゲームをやることこそが私の人生!あと少しで全クリ出来るから待ってよぉ!!」
身長差を利用して、呆れながらゲーム機をひょいと取り上げると、慌てた様子でゲーム機を必死に取り返そうと何度もジャンプしながら抗議するのだった。
「とにかく、作戦実行は明日の午後だ。」
抗議を無視しながら、男は3人へそう伝えた。
※※※
次の日の朝。
結局朝のウェイター仕事をきちんとこなした後、天弦からホテル内を自由に見て回って良いぞ。と言われ、男は言われるがままホテル内をぶらぶらと歩いていた。
「こりゃ本当に迷宮みてぇだな。案内板がなかったら大変だぜぇ…。」
と独りごちながら、ホテル内を歩いて回る。
無駄に入り組んだ廊下。高低差のある設計。
そして異常な数の監視カメラ。
「……。」
言葉にはしなかったが、男は明らかにこのホテルは"おかしい"と感じていた。
普通のホテルじゃこれだけの設備は必要ない筈なのに、明らかに"何か"から"何か"を守ろうとしているような設備と構造に、男は疑問しか浮かばなかった。
「……ん?」
廊下の突き当りが見えてきたところで、男は何かを発見する。
そこには『関係者以外立入禁止!!』と書かれた鉄製の扉があった。
男は迷わずその扉に手をかけると、ガチャリ。といとも簡単に開き、驚きつつもばれないようゆっくりと中へ入っていった。
中は真っ暗な廊下だった。両側にはこのホテルの色々なエンジンや機能が剝き出しになっており、遠くにはうっすらと光っている出口を見つけた。入ってきた扉を背手に音を立てずに閉め、地面を通る配線ケーブルを踏まないように暗闇の中を進む。
夜目が利くのか、物にぶつかることなく出口までたどり着き、恐る恐る扉を開いた。
開いた瞬間、視界に広がる光景は真っ青な海だった。
出口はちょうど岬の断崖絶壁に出たのだ。しかし、左の方を見るとまだ道が続いていた。その方向へ男は歩を進める。最初は崖ギリギリにできた緑豊かな草原が広がる道だったのだが、途中からは崖から飛び出て建てられた鉄製の階段を下りていく。そして、キャットウォークと呼ばれる網目状の金属板で出来た通路を歩いて行った。
「……」
終始男は無言のまま通路を歩く。すると、男の前にこのホテルに似つかわしくない『制御室』と書かれたスライド式のドアが岩肌の中に現れた。
一度立ち止まり、じっくりとドアの構造を確認する。どうやらこの先へ行くにはアクセスカードを認証装置に触れなければいけないようだ。男はポケットを探り、何やら真っ白なカードを取り出した。そのカードを認証装置に当てようと一歩足を近づけ、地面に着こうとした瞬間。男は足を空中でぴたりと止める。
岩肌の下を見るとそこには迷彩柄の赤外線センサー装置が設置されており、ちょうど足をつこうとした所にセンサーが通っていたのだ。
これ以上はさすがに危険か。そう思った男は中に行くことをやめ、ゆっくりと足を元の位置に戻す。
軽く息を吐き、この場から離れようとした男の背中に、ずっしりとした銃口を突きつけられた。
「動くな。」
低い声が、波と共に聞こえてきた。
「―――ごめんなさあぁぁぁぁぁぁぁぁあい!!!!」
あれから時は経ち、現在12時過ぎ。男は用意してくれた部屋のベッドの上に置かれた鉄格子の檻の中で、涙を流しながら泣き喚いていた。
「お前なぁ……いくら自由に散策しても良いって言っても、関係者以外立入禁止って書かれた場所に行くかぁ?あえて鍵を開けていたが、まんまと入っていきやがった。」
天弦の住む大きな部屋。吹き抜け建築で出来たこの2階部分が今は男の仮部屋として使われている。兵士2人を後ろに連れていた天弦は、呆れ口調で男に言った。男はただ南京錠の掛かった牢屋の中で何度もごめんなさあぁぁい!!と言い続けるばかり。
天弦は男が持っていた白いカードを取り上げた。
「こんなものよく持っておいたな。俺が昔作った"ハッキング用のカード"なんてよ。」
「うぅぅ。だって…どっかで使えるかもしれないと思ったから……」
「どうしてこういう所には頭が回るんだよお前…ったく」
めそめそと泣き続ける男を見て頭を搔く天弦であった。
「とにかく!!今日はもうウェイター仕事やらなくて良いから、そこでおとなしくしてろ。」
「おぉッ!天弦先生の太っ腹ァ!!言われた通り、おとなしくここでゆうだんでもやっときまぁす!!ちょうど昨日ミスして最初からになっちゃったから、一気に進めちゃうぜぇ!!」
元気に胸ポケットからゲーム機を出して天弦に見せる男に、天弦は呆れた様子でため息をつき、持っていた白いカードをズボンのポケットに入れた。
「お前…本当にそのゲームが好きだな。」
「俺にとっての人生の教科書さ。」
それから数時間。男はたまに顔を出す天弦と会話をしながら、着々とストーリーを進めていった。
何も起こらない、穏やかに過ぎていく平和な時間。
天弦が業務を一度中断し、休憩がてら2階へ上がって、男の隣で革張りの装丁が施された少し分厚い本を読んでいた時のことだ。
小走りで2階へ上がってきた兵士が、天弦へ声をかけた。
「天弦さん…今時間大丈夫でしょうか。」
「ん…急ぎの話か?」
「今しがた知らせが入ってきておりまして…。」
息を荒げながら報告する兵士に、少し今までとは様子がおかしいと察した天弦はすぐに本を閉じる。
「分かった、下で聞こう。」
「天弦…大丈夫なのか?」
少し心配そうに男が聞く。
すると、天弦は本を内ポケットに入れてから男を見た。
「多分大丈夫だろう。」
そう言って、天弦は1階へと下がって行った。
「それで、知らせというのは――…」
天弦と兵士の会話に聞き耳を立てながら、男は牢屋の中で寝っ転がってまたゆうだんを始めた。
「それが、ホテル周辺に謎の潜水艦が停泊しているのを先ほど見つけました。」
1階のリビングで兵士を2人後ろに立たせ、天弦は置かれたソファに座りその話を聞く。
「潜水艦が…?」
「はい。小型の潜水艦で、しかもこの岬に取り付けられたソナーは潜水艦の存在を探知できなかったんです。」
「意図的にバレないようにした、と。」
そうですね…。と兵士は返す。
天弦は両手の指先を合わせた。少し焦りが見える様子だ。
「つまり、その潜水艦に乗っていた誰かは、この施設にある物の存在に気付いている可能性が高いのか…。」
「嫌な予感がしますね、天弦さん。」
カツカツと天弦の方へ歩きながら兵隊長が言った。
「ああ。だとしても、それを狙う奴というのは一体……。っ!まさかっ!」
天弦の額から汗が一滴垂れ、地面に吸い込まれていった。
そんな不穏な空気を感じながら、男はピコピコとゆうだんをプレイ。あれから数時間、本気の集中プレイにより、なんとか昨日と同じところまで進められたようだ。
再びゲーム内で主人公とボスが睨み合う状況になる。
「……ん?」
いつ攻撃が始まってもおかしくない。そんな状況にもかかわらず、男はふいに画面から目を離し、1階のベランダの方を見た。
「………音が聞こえる」
そう言うと、男は身体を起こし、ゆっくりと瞼を閉じて聞こえてくる音に集中した。
1本…いや2本か……?昨日とは変わってカーテンで閉められたベランダの方から、シュリ……シュリ……と薄い何かが擦れる音が男の耳に聞こえてくる。
「――まさかっ!」
それは、1階で天弦が潜水艦に乗ってきた人物の正体に見当がつき、声を荒げていた時だった。
『テレレレッ!!!』
ゲーム機からボスが攻撃を仕掛けた音が聞こえてきた。
その瞬間。
何かに気づいた男は1階にいる天弦達へ向かって大声を出す。
「伏せろ!!!!」
「「!!?」」
その声が聞こえた途端、天弦と兵隊長は素早く地面へ伏せた。
パリィィインッ!!
その直後。ガラスの破壊音と共に、伏せるのに遅れた3人の兵士の頭を、3本の"何か"が貫いた。
血の混じった脳の肉片が飛び散り、びちゃりと地面に落ちていく。兵士達の身体がビクンッと動いた後、次第に体は重力に逆らえず、崩れ落ちていった。
「今のはッ!?」
「まずいな、事件勃発だぁ…!」
男はズボンのポケットから針金を取り出し、南京錠の鍵穴へ入れた。ものの数秒で南京錠はガチャリと音を出して外れる。ゲーム機の電源を切り、再び胸ポケットに入れ牢屋の扉を蹴破った。
「天弦ッ!無事か!?」
「ああ、なんとか俺たちは無事だ。だが…。」
急いで1階へ降りてきた男は、目の前の惨劇に驚愕する。
「こりゃあ酷ぇ……。」
「脳天を何かが貫いた。そのおかげで苦しまず即死できたのが幸いだが。」
天弦が冷静に分析する中、男は3人の死体に向かって手を合わせた。
合わせていた手を離すと、天弦はいつの間にかここにいた男に向かって
「というかお前どうやって牢屋から出てきた?!」
「こんなの俺にかかればちょちょいのちょいってもんよ!…それより。」
どや顔で針金を見せ、すぐさまポケットにしまうと、男は冷静な口調に変わった。
「ああ。ベランダに誰かがいる。」
天弦はすぐさま、兵隊長へ至急部隊の戦闘準備を行わせるよう指示する。了解すると、この部屋から出て行った。
「やーっぱおかしいと思ったんだよねぇ、このホテル。今起こった事で、何でお前がこのホテルのオーナーなのかがなんとなく分かったぜ。」
「その話は後でする。とにかくベランダへ行くぞ!」
机に置いていた拳銃を取り、天弦と男はベランダへ向かった。
「動くな!!無駄な抵抗はやめ、そこで手を上げ…て……」
ベランダへ出るや否や、天弦はアウトドアチェアに座っている兵士を殺した犯人を捉え、拳銃を構えた。しかし、そこに座っていた人物の姿を見て、2人は唖然としてしまったのだ。
「…本当にあいつが殺ったのか?」
「そう…だとしか考えられないが……。」
「……だってよ…。」
思わず、天弦は構えていた拳銃をおろしてしまった。
「……高校生ぐらいの、"少女"…だと…?」
アウトドアチェアでくつろいでいたのは、17歳ぐらいの少女だった。
「あいつじゃねえんじゃないか?」
「ここにいるのは俺達とあの少女だけだぞ?」
「いや、いやいやいやまさか、まさかだよ天弦」
「じゃ他に誰がそんなことできる?!」
そんな会話を続ける2人に目もくれず、少女はアウトドアチェアで何かをしていた。
黒髪のショートヘア。服装は半袖のカッターシャツにパーカーを羽織り、下は夏服のスカートと、いかにも高校生のような姿をしている。
すると、ようやく少女は2人の方に顔を向けた。
「「!!」」
途端に2人の言い争いは、ぴたりと止まった。それはなぜか。
少女の額の左側に小さな"角"が生えていた。そして、にこりと笑顔をして見せた少女の目は、猫のような縦長の瞳をしていたのだった。
「ありゃあ…これは確定しちゃったかぁ……。」
「……ああ。そして俺の予想が当たったようだ。」
天弦は、持っていた拳銃を再び少女へと構えた。
「兵士を殺したのはこの少女、そしてその正体は……『亜人』だ。」




