第6話 あなたはだあれ
第6話を投稿します。今回は隠れた文字を読み解く視覚パズルです。
ゲストの鷹野晴美は、ここへ案内するはずの今日の主催者の石山美里が遅れるとの連絡が入ったため、黄水仙の会の例会が行われる個室で、一人待ちぼうけを食わされる形になっていた。
しかし、そこは会の他のメンバーたちもよく心得ていて、如才なくゲストをもてなしていた。
栗林敏江や芳賀悦子たちが紅茶を薦め、ゲストもくつろいで椅子に掛けていた。
「石山さんたら、今日の会の主催者だっていうのに、またいつもの様に遅れていて、ゲストのあなたも一人にさせるなんて、会の仲間として面目ないですよ」
栗林が紅茶のカップをゲストに薦めながらわびた。
「大丈夫ですよ。石山さんが約束に遅れてくることは、わたしもよく知ってます。あの人は昔からこんな風でしたから」
「鷹野さんは、石山さんとはずいぶん長いお付き合いのようですけど、いつごろからのお知り合いなんですか」
芳賀が尋ねる。
「歳は私の方が5歳くらい上なんですが、私たち、司法修習生の同期だったんです。ですからその時からとなると、もうかれこれ二十数年の付き合いってことになりますね」
「そのころから石山さんは、講義にも遅刻しそうになるし、グループの勉強会でも遅れがちだし、そのたびに皆から注意されてましたよ。でも、よくよく話を聞いてみると、それこそ毎日寝る間も惜しんで、ほとんど徹夜する勢いで勉強していたからということらしかったんですけどね」
「でも、その成果は確かにあって、彼女の成績は同じ研修を受けた仲間の中では、特に優秀でした」
「なるほど、石山さんはずいぶん努力家だったんですねえ」
芳賀が感心していた。
そんな風に話をしていると、個室のドアが開いて、件の石山が現れた。
「すいません、皆さん。また遅くなっちゃって。それに、鷹野さんも私から招待しておいたのにこんな風に一人にさせちゃって、ほんとに申し訳ないわ」
「大丈夫よ石山さん、皆さんに、司法修習生のころのあなたの話をしていたところなの。紅茶もいただいてるし、全然問題ないわ」
「鷹野さんもああ言ってらっしゃるし、まあ、いつものことじゃないか、気にすることないよ。それよりあんた、いつもみたいにハーブティーを飲むかい?」
「じゃあそうさせてもらいます」
「分かったよ。マリ子ちゃん、石山さんにいつものハーブティーを差し上げて」
「かしこまりました」
マリ子が答え、すぐにハーブティーのカップが石山のもとに運ばれた。
石山はハーブティーを一口飲んで、
「あぁ、落ち着いたわ。あ、それから連絡することが一つあるの。今日は美樹本さんは欠席だそうです。今取り掛かっている仕事が佳境に入って、今日はどうしても抜けられないってことだそうよ」
「あら、残念ですね。今日もまた楽しい話ができると思っていたのに」
と夏目京香がこぼして、美樹本が座るはずの席に目をやった。
氷山麗子も、
「私も今日、美樹本さんに個人トレーニングメニューの案を頼まれてたから渡すつもりでいたのよ。しょうがないわ、メールに添付して送っておきましょ」
と、スマホでファイルを確認していた。
「それじゃあ、これで今日の出席者はみなそろったのね。じゃあ、そろそろ例会を始めてもいいかしら」
ハーブティーを飲んで落ち着いた石山が、まわりを見渡しながら皆に確認した。
「マリ子ちゃん、食前酒のグラスを皆さんにお願い」
「はい、ただいま」
マリ子は銘々にシャンパンのグラスを配っていった。
「それでは、今月も黄水仙の会の例会を始めたいと思います。今宵もおいしい食事と楽しいおしゃべりでひと時を過ごしましょう。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
石山の音頭で、例会が始まった。
いつものごとく、その日の料理も素晴らしいものだった。
マリ子が運んできた今日のメインのメニューは白い大皿に乗った鴨のローストで、薄く切り分けられ、焼いた蕪と銀杏が添えられていた。赤ワインのソースから、ほんのり甘い香りが立ちのぼった。マリ子が大皿から銘々に料理を取り分けていく。
「鴨なんだね。12月らしいわ」
栗林がそう言ってナイフを入れる。皮目は香ばしく、中はしっとりと赤みを残している。
「蕪が意外に合いますね」
夏目がひと口食べて言った。
「少し焼き目を付けて風味が増すようにしてあります」
マリ子が答える。
「なるほど。それで甘みが出ているのね」
それからしばらく、皆は料理に夢中になった。つい先ほどまでおしゃべりに夢中になっていたのに、今は誰も急いで話そうとはしない。窓の外では、冬の早い夕暮れが静かに夜へと変わっていく。
食事が一段落し、マリ子がデザートと紅茶を配膳していった。
ゲストへの質問の時間である。
進行役を務める石山は、今日は会の主催者と兼任ということになる。
石山がテーブルの上のベルを鳴らし、皆の注目を集めてからゲストの鷹野に向かって言った。
「鷹野さん、私はあなたと友達付き合いがある間柄だから、いまさらと言えばいまさらですけど、この会の決まりなので、これから自己紹介と身の上話をしてもらいます。それから、ここで話されたことは外へ漏らすことは一切ありませんので、心配することはありません。会員全員と給仕のマリ子さんも含めて固く保証します。ですので、どんなことでも気兼ねなく話していただいてけっこうよ」
了解したというようにうなずいて、鷹野が話し始めた。
「鷹野晴美と申します。こちらの地裁で、民事裁判を担当する裁判官をしています。こういう仕事を務めていてなんですが、いつになっても判決を出すときは、自分の判断が本当に正しいのかと迷ってしまいますね。法律に基づいて、厳正、公正な判断だと思っていても、最終的な判断には自分の良心が関わってきますから。それがどこまで正しいか、いつも自分の内面を見つめ直すことばかりです」
「私は、彼女の判決はいつも誠実なものだと思っているわ。わたしも弁護士として、依頼人の正当な権利と利益が不当に侵されないよう、精いっぱい努力しているつもりだけど、常に公正、中立な立場を貫かなきゃならない裁判官の仕事はほんとに大変だと思うわ」
石山は、同じ法曹に関わる立場から、鷹野の仕事を思いやった。
「そんなに気を使わなくても大丈夫よ。お互い、法律に関わる仕事をしていれば、自然と大きな責任を負うことになるのは当然よ」
「ところで、私たちの仕事の話ばかりしていても堅苦しいだけでしょう。今日は、皆さんにもちょっと一緒に考えてほしいことがあるので、それをお願いしたいんです」
鷹野の意外な申し出に皆が驚いた。
「お願いって、それは一体どんなことですか?」
芳賀が聞き返した。皆も思わず身を乗り出した。
「それがね、孫にクイズを出されたんですよ。『私のぬいぐるみの名前を当ててみて。当たったらいっしょに遊んであげる』って」
「まあ、お孫さんから。ぬいぐるみの名前当てですか。でも、それはほとんど当てずっぽうになっちゃうんじゃありませんか?」
「いえ、いちおうヒントはあるんですよ」
と言って、鷹野はスマホの写真を見せた。
そこには小さい女の子が、ピンク色のミッフィーにそっくりなぬいぐるみを両手で持って、こちらに掲げているところが写っていた。
「かわいいお孫さんですねえ。おいくつなんですか」
写真を覗き込みながら栗林が尋ねた。
「私の長女の娘で、美緒っていうんです。いまは4つになりますね」
「それで、このうさぎのぬいぐるみの名前を聞かれたってわけですか」
「そうなんです。最初は有名な”うさ子ちゃん”だと思ってそう言ったんです。でもそれは違って。そう言えば、今はミッフィーって呼ぶんだったと気が付いて、そう聞いたら、それも違うんです」
「それでよく話を聞いてみると、自分の母親にミッフィーのおともだちを作ってほしいと言って、母親が手作りしたものらしいんです」
「この写真にもちょっと分かりづらいんですけど、ぬいぐるみの左胸にワッペンが貼りつけられているでしょう?ここに名前が書いてあるんです。でも美緒の手でほとんど隠れてしまって読めないんですよね」
写真を見てみると、確かにぬいぐるみの左胸のところに、縦長の四角いワッペンが貼りつけられているのが見えた。しかし、女の子の手がちょうどそのワッペンを覆うようにして、名前の文字を隠してしまっていた。
かろうじて見えるのは、ワッペンの上の方には、左右の間の空いた縦線が2本とその右側に濁点らしい短い線が2つ。ワッペンの下の方には、これも左右に間の空いた縦線が2本見えるだけだった。
ワッペンの大きさから、名前の文字は3文字か4文字程度だと思われた。
「今あるヒントはこの写真だけなんですけど、皆さん、何とか名前を読み取ることってできないものでしょうか」
鷹野の言葉に、石山が、
「なかなか手ごわそうだけど、挑戦してみましょうよ。わたしは親友とお孫さんにクイズの正解をプレゼントしたいわ」
と意気込んだ。
夏目も、
「美樹本さんなら得意そうな謎ですけど、私たちでも頑張ってみましょう」
と言い、他の会員も皆同意した。
「マリ子ちゃん、メモ用紙とペンを用意してもらえるかしら」
石山がマリ子にお願いした。
「かしこまりました」
マリ子が答え、すぐにメモ用紙とボールペンが用意された。
「それじゃあ、私が書記をやるよ」
芳賀が書記を買って出た。
「まず上の方から考えてみようか。濁点があるのはたぶん間違いなさそうだから、それで縦線が2本ある文字っていうと、『ザ』と『バ』があるね。他にはないかい」
とメモ用紙に書き出しながら、芳賀が皆に聞いた。
「芳賀さん、『ゾ』もありますよ。左側が縦線に見えるかどうか微妙ですけど。でもこれで全部だと思います」
夏目が補足した。
「じゃあ、これで、1文字目の候補は決まったね。『ザ』、『ゾ』、『バ』だよ」
「『ザ』、『ゾ』、『バ』で始まる名前ねえ。あんまりぬいぐるみの可愛い名前の感じはしないわね」
石山がつぶやいた。
「『バニー』っていうのはどう?うさぎちゃんのことだし、ぴったりだと思うの」
氷山が手を挙げていった。
「でも、ワッペンの下の方には縦線が2本見えてるのよ。最後の文字は伸ばす線じゃないわよね」
石山が残念そうに言った。
「そうかぁ、そうよね。じゃあ下の方に見えてる最後の文字は何なのかしら」
「縦線2本でしょ。『ハ』と『リ』あと『カ』と『オ』、『サ』あたりはそう見えるんじゃないかい?」
芳賀がメモ用紙に書き出しながら言った。
「ということは、『ザ』、『ゾ』、『バ』で始まって、『ハ』、『リ』、『カ』、『オ』、『サ』で終わる名前ってこと?そんな名前ってある?」
石山が皆に問いかけた。
「ピンクのウサギのお人形に付けるような名前は思い浮かばないねえ」
栗林が、半分あきらめたように言った。
「だれか何か思いつかないかい?」
「一応2つ名前になる言葉は見つけましたけど、たぶんこれは違ってると思います」
夏目が自信なさげに言った。
「それでもいいよ、とりあえず言ってみておくれよ」
栗林が促した。
「それじゃ、いいですか。『バッハ』と『ザネリ』です。ね、これじゃお人形の名前にはならないでしょう」
「たしかにそうだねえ。それに『バッハ』はともかく『ザネリ』っていうのは何だい?」
「宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に、いじめっ子で『ザネリ』っていう子が出てくるんですよ。でもこのクイズの答えじゃなさそうですね」
「皆さん、これはやっぱり無理かもしれないですね。美緒には降参して、ぬいぐるみの名前を教えてもらいます」
鷹野はほとんどあきらめたようだったが、
「まだ議論は始まったばかりですよ。あきらめるのは早いです」
と氷山が力強く言った。
「やる気だねえ。何か考えがあるのかい」
芳賀が聞き返す。
「ええ、少し別の方向から考えてみたらどうかしら」
「別の方向って?」
石山が興味深そうに聞き返した。
「この上の方に見えてる濁点だと思ってる短い二本の線があるでしょ。これが濁点じゃなくて、これだったらどう?」
と言って、氷山は自分の顔の横で左右の手でピースサインを作り、二本の指をくいくいっと曲げるしぐさをして見せた。
「ダブルクォーテーションマークよ。つまりね、このワッペンに書かれてるのはアルファベットの可能性もあるんじゃないかってこと」
「なるほど、英語ってことね。アルファベットだと何がありそうかしらね」
芳賀が問い返した。
「最初の文字で一番ありそうなのは『H』よね。あと少し無理やりだけど『W』と『X』もあるかもしれないわ」
「それじゃあ、最後の文字は?」
文字をメモ用紙に書きだしながら芳賀が聞く。
「これも『H』と『X』に『M』と『A』もあてはまりそうだわ」
「つまり、『H』、『W』、『X』で始まって、『H』、『X』、『M』、『A』で終わる名前ってことね。でもこの文字の並びでも、これって名前は浮かんでこないわね」
石山が当惑した声を上げた。皆も思案顔である。
「待って、『HAM』っていうのはどう?ちょっと変かもしれないけど、名前に使ってもおかしくないんじゃない?」
氷山が強気に発言した。
すると夏目が、
「氷山さん、右上の点々がダブルクォーテーションだとすると、左下にもダブルクォーテーションの点々がないとおかしいと思いますよ。アルファベットの説はちょっと厳しいんじゃないでしょうか」
と疑問を呈した。
そこを指摘された氷山は、
「やっぱりそう思う?わたしも少しは疑問だったんだけど、いちおう可能性として英語説もありかなぁと思って、、、やっぱりだめかなぁ」
と意気消沈してしまった。
「そんなにがっかりすることないよ。いまのでアルファベットじゃないってことははっきりしたわけだから。それだけでも一つ前進さ」
と栗林が氷山を慰めた。
「それじゃあ、日本語に戻ってもう少し考えてみようか」
そうして、みんなでもう一度『ザ』、『ゾ』、『バ』で始まって、『ハ』、『リ』、『カ』、『オ』、『サ』で終わる名前がないか、考えてみた。
『バンサ』、『バンリ』などの意見が出たが、どうにもしっくりこない。少し休憩しようということになって、石山がマリ子に声をかけた。
「マリ子ちゃん、紅茶のお代わりをお願いできるかしら」
「かしこまりました」
マリ子が答え、一旦奥に下がった。
すぐにマリ子が紅茶のポットを持って戻り、銘々のカップに紅茶を注いで回った。
皆は紅茶を口々に飲んで一息ついた。
「このクイズ、なかなか難問だわ。だんだん正解が出ないんじゃないかって気になってきちゃった」
弱音を吐く氷山に、石山が、
「大丈夫よ、私たちには強力な助っ人がいるんだもの。今日もまだ意見を言ってないけど、彼女に聞けばきっと解決の糸口が見つかるわ。鷹野さんも期待していていいわよ」
「彼女って?」
鷹野は不思議そうだ。
石山がマリ子に向かって聞いた。
「マリ子さん、私たちで考えても答えはとうとう分からなかったわ。でも今までいくつも謎のヒントに気づいたあなただもの、何か気づいたことはない?」
マリ子は少しためらうようなそぶりを見せたが、控えめに口を開いた。
「ひとつ気になっていることがございます。皆さまは、カタカナとアルファベットでお考えになっていましたが、ひらがなでは試しておいでになりませんでした。もしやひらがなでしたら、お人形の名前に当てはまるものがあるかもしれません」
「「ひらがな!」」
芳賀と夏目が同時に声を上げた。
「そうだよ。どうしてそこに気がいかなかったんだろう」
芳賀が失敗したという感じで額に手をやった。夏目も、
「きっとミッフィーがカタカナだからそれに引っ張られてしまったんですね」
と盲点だったという風に下を向いていた。
「それじゃあ改めて、ひらがなで考えてみようよ。芳賀さん、書記、お願いよ」
栗林が音頭を取った。
「ひらがなだと最初の文字は『ば』か『げ』だね。このほかには何かある?『が』も可能性としてはありそうか。でもこの3つでいいね。最後の文字は、『い』か『け』か『か』のこれも3つでいいかい。つまり『ば』、『げ』、『が』で始まって、『い』、『け』、『か』で終わる名前だ」
「どうだいみんな。わたしゃこれしかないっていうのをさっそく思いついたよ」
「私もです」
夏目も自信ありげに言った。
「じゃあ、一緒に言ってみようか。他にも思い付いた人がいるだろう。皆で拍子を合わせて言ってみようよ。きっとそれしかないと思うかから」
「せーの」
「「「ばにい!」」」
ほぼ全員の声が一致した。
芳賀がメモ用紙に『ばにい』と書きつけた。
「なんだぁ、私の言った『バニー』はすごく惜しかったんじゃん」
氷山は悔しそうだ。
「『ばにい』ちゃんね。それならぴったりだわ」
鷹野は、思いがけず正解らしい答えが出てとてもうれしそうにしている。
でも、これがほんとに正解かどうか、今は確かめる方法がない。次に孫の美緒ちゃんに会う時まで答え合わせはおあずけだ。
そこへ、
「鷹野さん、今はまだ8時半だから、お孫さんはまだ起きてるんじゃないかしら。この際だから、電話で確認してみたら?」
と石山が声をかけた。
「大丈夫かしら。でも私もとっても気になるのよね。娘には怒られるかもしれないけど、電話してみます」
鷹野が娘の携帯に電話する。呼び出し音の後に電話がつながった。
「ああ、優子、、、ごめんね夜分に、、、いえ大した用事じゃないのよ、、、うん、実は美緒ちゃんに用事があるの、、、そう、ぬいぐるみの名前のクイズを出されてたでしょう。答えが分かったから確認したくって、、、美緒ちゃんは起きてる?、、、お風呂から出たとこ、、、そう、悪いけど美緒ちゃんに代わってくれる?、、、うん、ありがとう、、、美緒ちゃん、ばあばよ、、、はいこんばんは、、、ちゃんと挨拶できて偉いわね、、、美緒ちゃんのピンクのウサギのぬいぐるみ、名前が分かったの、、、今から言うから、合ってるか教えてね、、、うさぎちゃんの名前は『ばにい』ちゃんね、、、合ってる?、、、ほんと!合ってるの。良かったわ、、、すごい?ううん、ばあばのおともだちとみんなで考えたのよ。それでやっと分かったの、、、うん、今度また遊んでね、、、じゃあね、ばいばい、、、優子、ありがとう。クイズに正解したわ。今度また遊んでくれるって、、、夜分に悪かったわね。うん、おやすみなさい」
鷹野はスマホをしまった。
「私たちの出した答えで正解でした。ほんとに皆さんのおかげです。ありがとうございました」
「お礼なら、マリ子さんに言ってあげて。彼女がひらがなだってことを言ってくれなかったら、答えは出なかったと思うわよ」
石山が鷹野に向かって言った。
「ほんとにそうね。給仕さん、あなたにはもう一度お礼を言うわ。ほんとうにありがとう」
「とんでもありません。私の思いつきで皆様のお役に立てたのなら、私の方こそうれしいです」
「またそんな謙遜しちゃって、マリ子ちゃんの観察力が鋭いことは皆とっくに承知してるわ」
芳賀の言葉に皆が頷いた。
「でもマリ子さん、よくそこに気づいたわね。何がきっかけだったの?」
夏目はマリ子が気づいたきっかけが気になるようだった。
「はい、お孫さんくらいの歳だと、まだひらがなしか読めないんじゃないかと思いまして。それで、ぬいぐるみのワッペンもひらがなで書かれているんじゃないかと思ったんです」
「すごいわ、マリ子さん。見事だわ。そんなところに気が付くなんて」
「マリ子ちゃんは、黄水仙の会の名探偵だよ。ね、みんなそう思わないかい」
栗林が誉めたてた。
「そんな探偵なんて。私はただの給仕です」
と言って、マリ子は顔を赤らめた。
「それじゃあ、今日はこの辺でお開きにするのがよさそうね。最後に締めの乾杯をしましょうか。皆さんどうですか?」
主催者の石山が皆を見渡したが、もちろん誰も反対しなかった。
「それじゃ、マリ子ちゃん、シャンパンのグラスを皆さんにお願いね」
「かしこまりました」
すぐさまマリ子が、皆にグラスを配っていく。
グラスが行き渡ったところで、石山が音頭を取った。
「今夜も無事に謎が解けました。マリ子ちゃんの大きなヒントと、我々の努力に乾杯したいと思います。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
グラスを掲げる会員たちとゲストの顔はみな笑顔だった。
乾杯のグラスの中のシャンパンが明かりにきらめき、例会の個室の中はあたたかな空気で満たされていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。




