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関連挿話④「ダリオ・ヴァルトと煌々の輝剣」後編

「それは本当か!? カリーナを生き返らせることができるのか!?」


 ダリオはムーンさんの方に顔を向けた。


「全く……話が進まないなぁ、ダリオくぅん……キミは本当にバカだなぁ……そういってるじゃぁないっか?」


 ムーンさんは座ったまま左右に両手を広げた。


「ああ! バカでいいよ! で!? ……五つ目は何だ……」


 ダリオはムーンさんをにらんだ。歯を食いしばっていた。顔に青筋が浮かんでいた。


「五つ目! そうだなぁ! この願いが叶うという仕組みを人にばらしたとき、キミは死にまーす! あと、その願いの対象者と、キミの血族と、その人たちが死ぬ模様を見てた人も全員死にまーす! 爆散しまーす!」


 ムーンさんは、両手で拳を作った。握った両拳を胸の前から一気に突き出し、十本の指を広げ、派手に弾けさせた。


「おいおい……何だよそりゃぁ……ばれたら何人死ぬんだよ……?」


 ダリオは額から冷や汗を流して青ざめた。


「さあ? 実際そんなことになったことはないからね?」


 ムーンさんは空中を手のひらでひらひらと扇いで見せた。


「スキル表示ではほかの人には見えないし、他の人が知る機会もないから。そういう意味では実質リスク……ゼッ! ロッ! だと思うよ!」


 ムーンさんは大きく両手を斜め上に掲げると指先をくっつけゼロを作った。


「……わかった……加護を受ける」


 ダリオは下を向いた。きつく握りしめた拳が、怒りと情けなさで小刻みに震えていた。大きく息を吐いた。


 ――こいつは癪だが……カリーナを生き返らせるためだ……


「グッド! 流石だよ、ダリオくぅん……バカでノロマでマヌケかと思ったけど決めるところは決めるね! さっすがカリーナちゃんのお兄さんだ! じゃあ話はここまでだからあとはよろちくび~!」


 ムーンさんは胸の前に両手をかざし、親指と人差し指で丸を作った。


「ちょっと待てよ!? まだ聞きたいことが……」


 ――――


「ある……」


 ダリオの腕の中にトビアスがいた。


 ――あの野郎……言いたいこと言い放題言って、こっちに戻しやがった……


 ダリオはトビアスの体の向きを変えた。傷を見た。トビアスの背中は縦に大きく切り裂かれていた。


 意識はない。血が止まらない。


「トビアス! 大丈夫か!? ノエル! ゴンジャイ! きてくれ!」


 ダリオは叫んだ。


「今行くわ!」


 ノエルとゴンジャイがダリオとトビアスに近寄った。


 ゴンジャイはトビアスの傷を見て眉をひそめた。


「これはひどいですね……」


 ――どんな鋭利な刃物で切ればこんな切り傷になるのでしょうか……


 ゴンジャイは懐から薬瓶を取り出した。


「気休めかもしれませんが……」


 瓶の蓋を口で開けた。瓶の中身をトビアスの背中に振りかけた。


 白い煙を上げ、淡い緑色の光がトビアスの傷を包んだ。大きな傷は残っていたが、血が止まった。


「私も少しなら治癒魔法は使えるわ! トビアスは任せて」


 ノエルは傷に手をかざした。緑色の光がトビアスを包んだ。


 ――傷が深すぎる……このままじゃあ……


 その時、今まで静かに動かなかったカリーナが声を上げて崩れ落ちた。


「あああああっ!」


 カリーナが頭を抱えた。煌々の輝剣(バニシングソード)は消えていた。


「カリーナ!? 大丈夫か!」


 ダリオがカリーナに近寄った。


「兄さん……兄さんなの……?」


 カリーナの眼が、黒色の瞳が潤んでいた。


「カリーナ……お前目が……」


 ダリオは涙を浮かべた。金色に縦に線の入った眼から一滴の涙が落ちた。


「兄さん……その眼……そう、そうなのね……」


 カリーナは眼をそらした。


「カリーナ……? どうかしたか?」


 ダリオは目を丸くした。


「ううん……何でもないわ……」


 カリーナは静かに首を振った。目線を落とした。


 カリーナは目線の先の自分の腕が、


 ひび割れ崩れていくのに気付いた。


 ゆっくりと目を閉じた。


 ゴンジャイはその様子を静かに見ていた。


 唐突に後ろから女の声が聞こえた。


「あらあら……ロクディモフ、あなたそんなところで寝て、何してるの?」


 ゴンジャイが振り返った。


 ロクディモフの横に女性が立っていた。背中に太陽の意匠のある白色のローブを着た女だった。


 女はロクディモフを足で転がした。傷を見て顔をしかめた。


「あらあら……こんなにやられるなんて……」


 女性が手をかざすとオレンジ色の光がロクディモフを包んだ。


 横一閃の傷が、ゴンジャイがつけた傷がみるみる消えた。


 ロクディモフが目を開けた。


 女性と目があった。


「ひぇひぇ……ヨウシャニア……姉さん……申し訳ありません……」


 ロクディモフはヨウシャニアから目をそらし、全身を震わせていた。顔面は蒼白だった。


「あらあら……謝る暇があるなら早くあいつらを殺しなさい? 私、役に立たないものに時間は割きたくないの? お肌に悪いじゃない?」


 ヨウシャニアは自分の腕を見た。スクワラにつけられた傷を気にしていた。


「ひぇひぇ……お任せください! 必ず……必ず殺します!」


 ロクディモフは黒杖を持ち、体を支え、立ち上がった。


「何やってくれとんじゃい!」


 ゴンジャイが地を穿つように踏んだ。緋々色(ひひいろ)の杖から白銀の太刀を滑らせ、ヨウシャニアを薙いだ。


「あらあら……ロクディモフに任せたいのに……」


 ヨウシャニアは興味なさげにゴンジャイを見つめた。


 ヨウシャニアがゴンジャイに向けて手をかざした。


 黒色の光が周囲を照らした。


「な……何じゃい!」


 ゴンジャイの体がすくんだ。冷や汗が出た。


 ゴンジャイは咄嗟に地面に剣を刺した。


 勢いを殺し、光を避けるように体をひねった。


 次の瞬間、一本の線がゴンジャイの脇を捉えた。


 ゴンジャイの動きが止まった。


 体をひねった勢いのまま地面を滑り、崩れ落ちた。


「ぐぅっ……今のは……何じゃい……」


 ゴンジャイは脇腹を押さえて震えていた。辺りが赤に染まっていった。


「あらあら……心臓を狙ったのに……勘がいいのね」


 ヨウシャニアは振り返り、歩き出した。


「あらあら……ロクディモフ動き出すのが遅いのね……私はエゲツェンコの様子をみたら帰るわ。あとはよろしく……ね」


 ヨウシャニアはロクディモフの肩に手を添えた。


 次の瞬間、忽然(こつぜん)と姿を消した。


「ひぇひぇ……さっきはよくもやってくれたな……」


 ロクディモフはゴンジャイを見下ろしていた。


「ぐっ……」


 ゴンジャイは白銀の太刀を杖代わりにして立ちあがろうとした。


 ロクディモフは黒杖で打ち据えてそれを阻止した。


「ひぇひぇ! さっきは勝ち誇ってたのに今はやられてどんな気持ちだぁ!? ねぇ……どんな気持ちだぁ~っ!?」


 ロクディモフは舌を出しながらゴンジャイに顔を近づけた。


「野郎! ふざけやがって……」


 ダリオは立ち上がった。


 次の瞬間、七色の光の奔流がダリオたちの周りを通り抜けた。


「ひぇひぇ!? 何だ今の光は?」


 ロクディモフが手を止めた。


 ダリオたちの頭の中に男の声が響いた。


 ――セルジア、ボルゾイ、エレナリア、ルカ。もう無駄だ。このスキルを発動した以上、俺はもう六十秒も経たないうちに死ぬ……すまない……


 ダリオは周囲を見渡すように首を振った。


 ――何だ? 気のせいか?


 トビアスの体が光っていた。


「嘘……傷が治っていく……」


 ノエルがダリオの方を見た。


「ダリオ! トビアスさんが!」


 ダリオたちからは離れた場所にいるはずのビアの声が聞こえた。


「何ですかね……この声……シンさん……?」


「お……おい、どうなってんだこりゃ。ビアの声が聞こえるぞ。しかも……体の傷が消えただって……? トビアス……大丈夫か……?」


 ダリオが心配そうにトビアスに駆け寄った。浅い呼吸を繰り返しながら、駆け寄った。


「ええ……大丈夫です……」


 トビアスが弱々しい声で返した。


「そうか……トビアス……行って来るぜ……カリーナを頼む……」


 ダリオはトビアスの肩を一度叩いた。


「カリーナさんが……?」


 トビアスは首を振った。カリーナと目があった。


「カリーナさん……」


 トビアスはゆっくりとカリーナに近寄った。


「トビアス……会えてうれしいわ」


 カリーナはゆっくりとトビアスに近づいた。静かにトビアスを抱きしめた。


 ノエルはその様子をみていた。トビアスを抱きしめるカリーナの腕が崩れ始めていることに気付いた。トビアスを抱きしめて愛おしそうにしているカリーナの顔にひびが入るのに気付いた。


 ――ああ……カリーナさん……この人はもう……


 ノエルは杖を握りしめ、下を向いて小さく声を出した。嗚咽を漏らした。


 ノエルの頭の中にシンの声が響いた。


「シンさん……私……今日みたいなことにならないためにも……がんばり……ます……明日から毎日……ううぅっ……ぐすっ……」


 ダリオは地面を蹴った。自分の体ではないような速度に困惑した。


 ――これが光龍サマの、ムーンさんの加護ってやつかよ!?


 ダリオはロクディモフの目の前に来ていた。


 ロクディモフは、ヨウシャニアの恐怖と、七色の光の困惑から立ち直りきれておらずダリオと目が合うと間の抜けた声を上げた。


「ひぇ……ひぇ?」


 ダリオはロクディモフの腹に全力でケリを入れた。


「ひぇひぇーーーーッ!」


 ロクディモフは地面を転がり、弾みながら吹き飛んだ。


「ゴンジャイ……大丈夫か?」


 ダリオはしゃがみこみ、ゴンジャイの体を支えた。


「大丈夫じゃい……それよりもやつを……」


 ゴンジャイは意識を失った。


 ダリオはロクディモフの方に向かった。右手を横に伸ばし、空を掴んだ。


 ダリオの拳が白く光った。電流が弾けるような音を立てながら白色の光が形を成していった。


 ダリオの手には無音で白い煌きを放つ剣が握られていた。


「ロクディモフ……お前を殺す……殺してやるぞ! ロクディモフーーーーッ!」


 ダリオが走った。


 ロクディモフは体を起こした。


「ひぇひぇ……た……助けてくれ……」


 ロクディモフが眼をつぶった。


「これは……カリーナの剣だぁッ! 俺と、トビアスと、ビアの怒りを受け取れぇええッ! ロクディモフゥウウウウッ!!!!!!!」


 ダリオが両腕を高く上に掲げた。


「ダリオッ! やっちゃってください!」


 トビアスは崩れゆくカリーナの体を支えながら、大粒の涙を流しながら力いっぱい叫んだ。空を見上げて大きな声で叫んだ。


「兄さん……トビアス……ごめんね……ごめんね……」


 カリーナのひび割れた顔から涙がこぼれていた。


 ダリオが剣を振り下ろした。


 ロクディモフのローブが縦に裂けた。


「チッ……!」


 ダリオが忌々しげに唾を吐いた。


 ――体の感覚がずれていて踏み込みが浅かった。布一枚切っただけだ。


「ひぇひぇ……なぜか知らんが助かった……危なかった……だが、ハルカさまからもらった聖なるローブを貴様はなんてことしてくれたんだ!」


 ロクディモフが黒杖を構えた。


「逃がすかよロクディモフーーーッ!」


 ダリオがロクディモフに駆けた。


「ひぇひぇ……逃げる前に溜飲(りゅういん)は下げさせてもらうよ!? 使えないゴミは処分だぁ!」


 ロクディモフはトビアスたちの方に杖を向けた。


 大きな火炎弾を放った。


「な……何しやがるロクディモフーーーーッ!」


 ダリオは足を止めた。地面が削れ煙を上げた。


 地面に手を突きトビアスの方に走った。


「ひぇひぇ! この距離で間に合うかよぉ! ダリオ・ヴァルト! お前は必ずボクが殺してやるからなぁあ!」


 ロクディモフが黒杖を空に掲げた。


「お前は絶対に俺が殺してやる! ぶっ殺してやるからなぁッ! ロクディモフゥウウウーーーーッ!」


 ダリオは叫びながら地面を踏んだ。


 踏み抜いた。


 地面が大きくえぐり、地面を飛ぶように走った。


 一気にトビアスたちの前についた。


 ダリオが爆炎の前に立った。


 炎は前まで迫っていた。


 ダリオは両腕を振りかざすと、煌々の輝剣(バニシングソード)で炎を切り裂いた。


 炎は両断され、トビアスたちを避けるように爆発を起こした。


「ま……間に合った……」


 ダリオは腰を抜かし、へたり込んだ。


「ダ……ダリオ? 今のは何ですか? それにその目は?」


 トビアスがダリオの目を見つめていた。金色の龍の眼を。


「ああ……いろいろあってな……」


 ダリオは目をこすった。


「そ……そうですか……」


 トビアスは目を落とした。


「そんなことよりカリーナは……?」


 ダリオがトビアスの腕の中を見た。体と顔だけになったカリーナがいた。


「兄さん……ごめんね……私、いっぱい悪いことして、いっぱいイヤなことしちゃった……」


 カリーナは涙を流していた。


「……いいんだ……いいんだカリーナ……お前のせいじゃない……俺もお前を置いて逃げた……ごめんよ……ごめんよ……カリーナ」


 ダリオはカリーナの頬に手を添えた。


 ――こんな……こんな姿になって……あの時よりもひどい……


「兄さん……トビアスと仲良くね……トビアス……兄さんには言えなかったけど……ちゃんと言ってね? 二人とも愛してるわ……今まで……ありが……」


 カリーナの顔が崩れた。


 白色の灰になり周囲に広がっていった。


 一瞬の静寂のあと、その静寂を切り裂く男の叫び声が響いた。


「カリーナ……ああ……カリーナアぁぁーーーーーッ! 私もッ! 私も愛していましたッ! 愛して……愛しています……」


 トビアスがもぬけの殻になった腕の中を抱きしめていた。


 腕の中に、手の中に、体に付着した灰を抱きしめていた。


 普段は静かで、誰よりも空気を読む男が大きな声で泣き崩れていた。


 ノエルはその様子を見つめていた。


 ただただ静かに見つめていた。


 目に溜まった大粒の涙をこらえ、


 指先から血が出るほど強く杖を握りしめていた。


 その横で無言で涙を、鼻水を垂れ流し、静かにたたずむ男がいた。


 その男の縦に線が入った目は未来を見据え、金色に揺らめいていた。


「ダリオ、あんたいい顔するようになったさね」


 ダリオは体を跳ねさせた。


 声がした方角を見た。


 カルラが、風の玉を無数にしたがえ、腕にマリアを抱え、飛んでいた。


「捕まりな! ラスボス退治と行こうじゃないか!」


 カルラは手を差し出した。


「カルラの姉御!? 行くってどこに!」


 ダリオは顔を拭うと、カルラの手を掴んだ。


「決まってるさね!? 蝕の洞穴最深部! シンたちを助けに行くんだよーッ!」


 カルラの周囲に浮かんだ風の玉の数は五十を優に超えていた。


 カルラの背中で高速回転すると周囲に風が渦巻き始めた。


「ダリオ……耳をふさぎなさい……鼓膜が破れるわよ」


 マリアが事務的にそう告げた。


「え……ちょっ!? ま!?」


 ダリオはカルラの腰にしがみつくと耳をふさいだ。


「ちょっとダリオ! あんたどこ触ってんさね!? ふざけんじゃないよ!」


 カルラはダリオの顔を張った。


「痛ぇ……本日二回目だよ……ったく」


 ダリオが毒を吐いた。


 ――しかもセルジアと、カルラの姉御ってSランクの女からかよ……


「舌ぁ、噛むからしゃべるんじゃないよ!」


 カルラの体が緑に光った。


 次の瞬間、風の音が消え、三人は姿を消した。


「ははは……全く規格外の人たちだ……」


 ゴンジャイは眼鏡をかけなおし、空を見上げていた。

 =============【作者より】


 読んでいただきありがとうございます。


 トビアス……ダリオ……ノエル……カリーナ……ゴンジャイ……


 君たちは、当初の物語では全員ちょい役、あるいは、存在すらしなかったのに


 こんなに胸を熱くさせてくれるなんて。最高だよ。ほんと。

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