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関連挿話④「ダリオ・ヴァルトと煌々の輝剣」前編

 ダリオ、トビアス、ノエル、ゴンジャイはセントレグノのギルドに戻ってきていた。


 到着するなりスクワラに声をかけられた。


「ダリオ君、ごめんよぉ……せっかく戻ってきてくれたんだけど実はマリアとカルラには東門の方に向かってもらっていてね……実はそっちの方でモンスターが出たみたいで……申し訳ないけど蝕の洞穴の入り口の確保は先に四人で行ってもらってもいいかな? ゴンジャイ君がいれば頼もしいし……」


 スクワラはゴンジャイをみた。


「ええ……承りましたよ。スクワラ様」


 ゴンジャイが深々と頭を下げた。


「何? あんたそんなに強いの?」


 ダリオがゴンジャイの方を見た。


「まあそれなりの実力はございます」


 ゴンジャイは眼鏡を右手の中指で少し上げた。


「そうか? まあとりあえず洞窟に向かおうぜ。スクワラさん! ありがとうな」


 ダリオはスクワラに手を振りながら入り口に向きを変えた。


「ああ、がんばって来るんだよぉ……」


 スクワラは四人を見送った。


「カリーナ・ヴァルトの兄かぁ……」


 スクワラは四人の背中が消えるまで見つめていた。


 ―――


 ダリオ、トビアス、ゴンジャイ、ノエルは城門の辺りについた。


 城門の前で大きな音が聞こえてきた。人の叫び声だった。


「ひぇひぇ……ボクにかなうと思うのか……」


 ロクディモフが杖をかざし火炎を操っていた。


 城壁を守る兵士たちがロクディモフの炎に焼かれていた。


「なんてことを!」


 ノエルが前に出ると杖をかざした。杖についた藍色の宝玉が輝くと周囲に冷気が立ち込めた。


 兵士たちの周囲に氷が現れ炎を消した。


「ひぇひぇ? 小さいのに強い魔力だなぁ……それに可愛らしいし、七号……いや、もう五号でいいかぁ」


 ロクディモフは舌なめずりをした。


「相変わらず気持ちわりぃ野郎だな!」


 ダリオが剣を抜き、ロクディモフに切りかかった。


 ロクディモフの背後から女性が現れてダリオの剣撃を受け止めた。


「くっ……カリーナ……」


 ダリオは顔をしかめた。


「ひぇひぇ……三号の兄か……三号、いい加減そいつもうっとおしいから殺してしまえ」


 ロクディモフはダリオを指さした。


「はい……高貴なるロクディモフ様」


 カリーナは赤い眼を動かすことなくダリオを見た。


 カリーナは剣を構え、ダリオに切りかかった。


「カリーナさん! 目を覚ましてください」


 トビアスが手をかざした。


 光の盾がダリオを包んだ。カリーナの剣は弾かれた。


「カリーナぁぁあッ!」


 ダリオはカリーナに向かって走った。


 カリーナの剣を持つ右手を脇にはさみ抑え込んだ。


 地面に組み伏せた。


「ひぇひぇ……それは愚策だなぁ」


 ロクディモフが口元をいやらしくゆがめた。


 カリーナは左手でダリオの腕を握った。力を込めた。


 重く濁った破壊音が響いた。


「ぐぅああああッ!」


 ダリオは腕を押さえてうずくまった。


「殺します」


 カリーナは剣を構えた。ダリオに剣を振りかぶったがまた光の壁が邪魔をした。


「カリーナさん! 聞こえますか!? トビアスです! そいつはダリオ! 貴方のお兄さんなんですよ!」


 トビアスは手をかざしたまま、祈るような眼でカリーナを見つめた。


「……」


 カリーナは剣を鞘に納めた。ダリオをじっと見つめていた。いや、目の前にある光の壁を見つめていただけだった。


「カリーナさん! そうです! お兄さんです」


 トビアスは眉を優しくおろし、見つめた。


 ―――――


 ロクディモフはその様子を尻目に、ノエルに近づいた。


「ひぇひぇ……五号……お前は連れていくぞ……」


 ロクディモフは、両手を擦り合わせながらねっとりと距離を詰めた。


「ひ……何なのよこいつ! 来ないで!」


 ノエルは杖を振るとオレンジに光った。炎弾がロクディモフを襲った。


「ひぇひぇ……可愛い炎だ」


 ロクディモフは黒杖を前に立てた。ロクディモフの前に紫色の壁が広がると炎弾を吸収した。


「な……魔法力が吸われた!? これならどう!」


 ノエルは杖を大きく振りかぶって振った。


 火炎弾が、氷槍が、雷玉がロクディモフ目掛けて放たれた。


 すべてロクディモフに届く前に、紫色の壁に阻まれ消え去った。


「嘘……」


 ノエルは一歩後ろにあとずさった。


「ひぇひぇ……怖がらなくていいよぉ……ボクはやさしいからねぇ」


 ロクディモフは愉悦に肩を揺らしながら一歩ずつ近寄った。


 ノエルは更に後ろに下がった。何かに当たった。


 ノエルは後ろを振り向いた。ゴンジャイだった。


 ゴンジャイは優しく微笑んだ。


 ゴンジャイはノエルをかばうように前に出た。


「ひぇひぇ……ドワーフ風情が何のつもりだ? ボクにかなうと思うのか?」


 ロクディモフが顔をしかめた。


「全く……こんなに品格の無い方がいらっしゃるとは嘆かわしい……」


 ゴンジャイはそういいながら眼鏡をはずし、胸ポケットに入れた。


 懐に手を入れた。


 小さなステッキのようなモチーフを取り出し、握りこむと緋色の光を上げた。


 手の中に重厚感のある、太陽の輝きのような緋色のステッキが握られていた。


「ひぇひぇ!? ボクになんて口をきくんだ。そこをどけ! 僕は五号に用があるんだぞ!?」


 ロクディモフが、唾を飛ばしながら、腕を横に一閃した。


 ゴンジャイの青い眼が光った。


「ワレェ……」


「こんなかよわい子にどんな顔して近づいとるんじゃい!」


 ゴンジャイがロクディモフの方に踏み込んだ。緋色のステッキを振るった。


「ひぇひぇ!?」


 ロクディモフは黒杖でそれを受け止めた。


「おおおおおおらぁああああ!」


 ゴンジャイは全力で振りぬいた。ロクディモフは後ろに弾き飛ばされた。黒杖の中央に微細なひびが入っていた。


「ひぇひぇ!? 黒鉄でできた杖にひびが入るだと!?」


 ロクディモフはヒビを見て目を白黒させた。


「黒鉄ごときで防げるわけないんじゃい。こちとらぁ、ヒヒイロカネでできた魔杖じゃい」


 ゴンジャイはステッキを左右に振るとロクディモフに近づいた。


「ひぇひぇ!? ボクの力がこれだけだと思うなよ!?」


 ロクディモフが杖をかざした。黒杖の赤い宝玉が燃えるように煌いた。周囲の大気が揺れた。


 杖が空気を吸収し、周りに高熱が広がった。


 巨大な火炎が浮かび上がった。


 火炎が徐々に形を変え、龍の姿を象っていった。


「ひぇひぇ! ボクの最強にして、最高に美しい奥義だ! 食らえば骨も残らないぞ!」


 ロクディモフがゴンジャイに向けて杖を構えた。


「ダメ! ゴンジャイさん! 私の後ろに!」


 ノエルは杖をかざし魔法障壁を展開した。


 ゴンジャイは後ろを一瞥し、優しい笑顔を見せた。


「ひぇひぇ! くらえぇ!」


 ロクディモフが杖を振り下ろした。


 火炎龍が轟音を立てながらゴンジャイに迫った。


 ゴンジャイはステッキを腰に構えて、持ち手を握った。


 迫る轟炎を前に、柄を握る指の力をふっと抜いた。


「ゴンジャイさん! 聞こえてるの!?」


 ノエルはゴンジャイの背中に向かって叫んだ。


 ――何をするつもりなの……


 叫びに応じるようにゴンジャイは前傾姿勢で火炎龍へと地を蹴った。


 緋色の杖が、白色の光を放った。


 ゴンジャイの手が消えた。消えたように見えた。


 そう錯覚した瞬間。


 一条の白い閃光が火炎龍を真っ向から捉えていた。


 ノエルが気付いたときには、ゴンジャイの腰には緋色の鞘があった。


 右手には、緋色の柄と、純白の刀身が煌く仕込み杖が握られていた。


 火炎龍は白色の一閃の残光が消えると同時に両断された。


 姿が崩れ、空に消えていった。


緋々色一刀流ひひいろいっとうりゅう壱の剣……」


 ゴンジャイが緋々色の剣を振った。


 手首を返し腰の方に切っ先を向けた。


緋々色(ひひいろ)白妙(しろたえ)……じゃい」


 ゴンジャイが刀身を鞘に納めた。


 同時に、ロクディモフの体も横一閃に裂け、崩れ落ちた。


「ゴンジャイさん……かっこいい」


 ノエルは頬を赤らめていた。


 ――――


 トビアスはダリオに駆け寄り、腕の治療を行っていた。


 カリーナは無言でその様子を見つめていた。


「カリーナ……意識が戻ったのか?」


 ダリオはカリーナの様子をみていた。


 カリーナは無言で、ダリオを見た。


 カリーナが手を前にかざすと、手のひらに眩い白光が集まり始めた。


 光は徐々に密度を増しながら剣の形を象った。


 周囲の大気を狂おしく震わせた。


 空気をつんざくような高音を放ちながら激しく揺らめいていた。


「……」


 カリーナは無言で光の剣を振りかぶった。


「な……」


 ダリオはトビアスを突き飛ばした。それと同時に横に転がった。


 カリーナが握る光の剣は、光の壁がその場に存在しないかのように通り過ぎた。


 光の壁が両断されていた。


「カ……カリーナ……俺だよ……ダリオだよ……わからないのか?」


 ダリオが立ち上がるとふらふらとカリーナの方に近寄った。


「兄さん……」


 カリーナが短く答えた。


「そうだよ!? 俺だ!」


 ダリオが目を潤ませ、腕を広げた。


「殺します……」


 カリーナが剣を振りかぶった。


「馬鹿! 何やってんですかダリオォオオッ!」


 トビアスが地面を蹴った。前のめりになりながら飛びついた。


 剣は無音で振り下ろされた。


 地面が静かに割れた。


 ダリオはトビアスとともに転がっていた。


「いてて……すまねぇ……トビアス」


 ダリオは体を起こした。


 トビアスの返事はなかった。


 辺りに赤いものが広がっていた。


 トビアスのおびただしい血だった。


 カリーナはその血を見つめていた。


 赤い眼から涙を流していた。


「「トビアスーーーーッ!」」


 ダリオと黒髪の女性の叫び声があたりに響いた。


 ダリオの視界は真っ白になった。


 ――――


 ダリオは周囲を見渡した。視界が真っ白になったのではなかった。


 真っ白な空間の中にいた。


 上下左右すべてが白の空間だった。


 自分の腕の中にいたトビアスがいなかった。


「トビアス!? カリーナ!? ノエル!? ゴンジャイ!? どこだ! どこだよぉおお!」


 ダリオは走った。何もない空間を走った。叫んだ。叫び続けた。


「全く! なんて大きな声を出すんだ! ボクのこの空間はデリケートなんだから紳士的にいてくれ給えよ。全く!」


 背後から軽快な声が聞こえた。


「だ……誰だ!?」


 ダリオは声の方に向き直った。


 眼を見開いた。


 声の主は、純白のタキシードを完璧に着こなす優雅な紳士的な出で立ちをしていた。だが、その頭部は滑らかな曲線を描く「白い三日月」の形をしていた。衣服の隙のない品格とは裏腹に、顔の奥では金色の縦裂けの瞳を持ち、その瞳が怪しく爛々(らんらん)と輝いていた。


「誰だ……か……そうだな! 親しみを込めてボクのことは『ムーンさん』と呼んでもらおうかな!」


 男は両の手のひらをダリオの方に向け、左足の裏を右ひざにくっつけるように立ち、満面の笑みを浮かべた。


「ば……バケモノめ! お前は何者だ!?」


 ダリオは剣を抜いた。


「ノンノン! ボクのことは親しみを込めて『ムーンさん』っと呼び給ッえ! 何者かって……そうだな。光龍……とでも名乗っておこうかな」


 ムーンさんは口元で人差し指を左右に振った。


「光龍だと!? あの……マリアさんやスクワラさんが加護を持ってるってやつか? ホントかよぉ……」


 ダリオは顔をしかめた。


「全く! 心外だ! ボクのようなこの出で立ち! 光輝く満面……ではなかった三日月を見て疑うと!? 全くどういう感性をしているんだ!」


 ムーンさんは地団太を踏んだ。


 ムーンさんは空を見上げた。


「まあいいか! そんなこともあるな! 全く! ダリオくぅんはおもしろいな!」


 ムーンさんは自己解決して話をつづけた。


「……ああ……いいや。それで光龍様が俺を何でここに呼んだんだ!? 早く戻してくれ! トビアスがあぶねーんだ!」


 ダリオはムーンさんに近寄った。


「全く! せっかちだな。ダリオくぅん! ここは止まった時の世界だから時間は気にしなくて大丈夫だよ! 君に加護をあげようと思ってね!」


 ムーンさんは銃口を構えるように指を向けた。


「止まった時間の世界……? 加護……? すまねぇ話についていけねぇ……」


 ダリオは頭を振った。


「全く! 理解力が足りないなぁ。本当にどうしようもないなぁ、ダリオくぅん……」


 ムーンさんは肩をすくめ、三日月頭を左右に振った。


「いいかい? この世界は先ほどいたところとは独立したボクが作っている世界だ。精神だけがここにきているから時間は流れない。そして加護を与える……まあ要はボクが力を貸すってことだ。ここまではいいかい?」


 ムーンさんはダリオに手のひらを向けた。


「ああ……続けてくれ」


 ダリオはうなずいた。


「良! 全く理解が早いのか遅いのかわからないな、ダリオくぅん! それでね加護の効果ですが……なんと5つあります! ぱちぱちぱちぱち!」


 ムーンさんは大げさに五本指を見せた後で、手を叩いた。


「……それで?」


 ダリオは地面に座って胡坐をかいた。肘をつき拳を握り、その上に顎を置いた。顔はひきつっていた。


「一気に行くよ~! 一つ目、不老になりま~す! 不死ではないので注意でーす! 二つ目、とても体が硬くなります! 強くなります! 三つ目、カリーナちゃぁんが持っていた煌々の輝剣(バニシングソード)をプレゼントしまーす!」


 ムーンさんは指を折りながらダリオに説明した。


 ダリオは立ち上がった。


「おいおい! カリーナの煌々の輝剣(バニシングソード)はあいつの固有スキルじゃないのか!?」


「全く! 察しが悪いなぁ! 彼女に加護としてボクが与えたに決まってるだろ、ダリオくぅん? キミちゃんと脳みそ入ってるのかな!? カリーナちゃぁんの死亡が確認されたからキミに引き継ごうっていうのに!」


 ムーンさんは頭を人差し指で叩いた。


「オイ……なんだって!?」


 ダリオはムーンさんの胸倉をつかんだ。


「カリーナがどうしたって今言った!?」


 ダリオは震えていた。


「全く。死亡を確認した。といったんだよ。ダリオ君。君の妹は死んだ。死亡した直後に魔道具で操られていたため、こちらからは確認ができなかったが。先ほど確認したよ。話を続けてもいいかな?」


 ムーンさんの眼が、黄金の縦に線の入った眼がダリオを見据えた。


「……いや……続けてくれ」


 ダリオは膝をついた。


 ――やっぱり……そうだったのかよ……畜生……畜生……


「四つ目! ボクの加護以外の六大災厄の加護をすべて集めたらなんでも願いが叶う! すばらしい特典だね! 願いの種類は巨万の富を得る、別の世界に行く、最強の肉体を得る、不老不死になる……」


 ムーンさんは指を四本立て、座り込んでいるダリオの方に向けた。


「あとは……」


 ムーンさんはしゃがみこんでダリオの顔に自分の三日月頭を近づけた。


「死者を生き返らせるということもできるよ、ダリオ君」


 金色の龍の眼が怪しく輝いていた。

 =============【作者より】


 読んでいただきありがとうございます。


 強烈なキャラ、光龍=ムーンさんが出てきましたね。

 この後が気になります。

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