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関連挿話③:ダリオ・ヴァルトと終焉の紫燼-後編

「全員! 防御姿勢を取れ! これから繰り出す技は私がこの十七年間で溜めてきた魔力の一部を使う! 正直破壊力の想像がつかない! 繰り返す! 全員! 防御姿勢を取れ!」


セルジアが叫んだ。


その瞬間、守護騎士団の一人が叫んだ。


「撤退ーッ! 全員全力で城門の中に下がれッ! 城門を締めろッ! 命を失いたくないものは全員中に入れ! 住民たちも家の中に避難しろ体を低くしろッ!」


その声を聴くやいなや全員が一斉に城門の内側に駆けていった。伝言ゲームのように言葉が繰り返されていた。


シンたちはあっけにとられていた。ダリオ、トビアス、ノエルは顔面が蒼白であった。


橋が上がり、城門が閉まった。


「フッ……さすがにそれは大げさではないか?」


セルジアが自嘲気味に笑った。


「いや……俺も同じ反応とるぜ……セルジア……普段何も言わないあんたから防御姿勢なんて言われたらどこにいても死ぬと思う……」


ダリオが苦笑いをした。シンたちを振り返った。


「これからの技はマジで死にかねないから絶対に前に出るな!」


ダリオは汗をかいていた。震えていた。


「ああ……わかった」シンは、うなづいた。


「魔法障壁が貼れる方は手伝って……シンさんも壁になってくれると嬉しい……」


ノエルがつぶやいた。


「手伝うぞい……」


ボルゾイが前に出た。


「さて、では……行くぞ……」


セルジアが双眸(そうぼう)を閉じた。目を見開くと右手の炎が激しさを増した。


右肩から右手に握る炎の双剣にかけて赤い炎が燃え上がった。


炎は紅紫色の光を放ち始め、徐々に炎自体が紅紫一色に彩られた。


炎の色の変化に合わせセルジアの右半身を包む光、


眼の色も紅紫へと変化していった。


その光は……炎はセルジアを中心に周囲に広がり始めた。


まるで太陽が昇るような、


夜明を彷彿させるような輝きであった。


セルジアは右手を伸ばした。右の剣の切っ先を正面からくる軍勢の右翼側に向けた。


紅紫の(バーガンディ)イィッ!」


切っ先からまばゆいまでの紅紫の光が広がった。


夜明け(デイブレイク)ゥウウウッ!」


切っ先の光が膨らんだ。次の瞬間光線上の炎がモンスター大群の右側に触れた。モンスターたちは燃えるのではなく消えていた。


セルジアは剣を左に薙いだ。剣の動きに合わせ爆炎が地面を薙いだ。


紅紫色の炎が空に上がると大きな三角形を象った魔法陣が浮かびあがった。


地上の炎が消えると軍勢の四分の一が消失していた。


土煙が消え、足音が聞こえなくなった。


セルジアは大きく息を吸った。額には大粒の汗が浮かんでいた。セルジアが右手を一瞥すると右手の指輪のうち二つが砕けていた。


――チッ……まさか一発で二年分持っていかれるとは……モンスター約一万で二年分か……


セルジアは顔を上げ、左腕を上にあげた。


左腕を包む氷が、氷柱が広がり、セルジアの左腕と剣全体を覆った。セルジアの左頬までが凍り付いていた。


氷柱は蒼紫色の光を放ち始め、徐々に氷柱自体が蒼紫一色に彩られた。


氷柱の色の変化に合わせセルジアの左半身を包む光、


眼の色も蒼紫へと変化していった。


その光は……氷柱はセルジアを中心に地面を凍らせ、静かに周囲に広がり始めた。


周囲が静かな蒼紫色一色に染まった。


まるで夜の訪れのような、


宵闇を彷彿させるような暗さだった。


死を告げるような暗さだった。


セルジアは左手を伸ばした。左の剣の切っ先を正面からくる軍勢の左翼側に向けた。


蒼紫色の息を吐きながら静かに呼んだ。


蒼紫の(ヴァイオレット)……宵闇(トワイライト)……」


次の瞬間地面に広がる氷が一気にモンスター大群の左側に伸びた。蒼紫の氷柱を突き出しながらモンスターの軍勢に向かっていった。


モンスターたちはその氷柱に触れると一瞬で粉々に砕け散り、跡形もなく消えていた。


セルジアは剣を右に薙いだ。氷柱が地面を走った。辺りが静寂に包まれた。


蒼紫色の氷が砕け、その粒が空に上がると大きな三角形を象った魔法陣が、紅紫色の魔法陣に重なった。


軍勢の四分の一が消失していた。


空には紅紫と蒼紫の六芒星(ろくぼうせい)魔法陣が浮かんでいた。


セルジアは大きく息を吐いた。額の汗は凍り付いて砕けた。セルジアが左手を一瞥すると右手と同じように指輪が二つなくなっていた。


セルジアは一度双瞼を瞑って深呼吸をした。


目を開き、空を見上げ、両手を掲げた。


セルジアが両手を掲げると、両腕に宿る「夜明け」と「宵闇」が一つに溶け合った。その色は、不気味なほど美しく、明るい、白に近い「紫」へと変貌し、周囲を昼夜の区別すらつかない紫電の光で塗りつぶした。


六芒星の紅と蒼の三角形が高速で回転を始めた。


それぞれが逆方向に回転し、色が重なると白紫の光を周囲に放った。


全方位へと白紫の波動が伝播した。


「……消えろ……終焉の紫燼バーガンディ・ヴァイオレット……」


その呟きと共に放たれた光は、熱も冷気も超えた「無」を権現していた。


モンスターの軍勢に静かに落ちると球状の白紫の光が広がった。


その光は蝕の洞穴のなかにまで入り込んでいた。


一切の爆音もなく、光に触れたものすべてが粒子となって霧散していった。


光が収束したあと、そこには瓦礫すら残らなかった。


ただ、風に舞う紫の(じん)だけが、かつてそこに敵がいたことを証明していた。


「……モンスターの気配がなくなった……わ」


ノエルが震えていた。魔力の粒子を周囲に張り巡らせながら声を上げた。


「五万の軍勢が……一匹たりとも気配を感じないわ……」


「ちょっと待ってくれ……確かに土煙が消えたがほんとかよそれ?」


ダリオが額に手を添えて、目を凝らした。


「探査魔法自体が阻害されている可能性もあるけど……」


ノエルがダリオの方を見た。


次の瞬間、怒号のような歓声が上がった。


「やったーッ! モンスターが去ったぞ!」


男が両腕を上げた。


「セルジア様! ああ! セルジア様がいればこの国は安泰だわ!」


ドワーフの女性たちはお互いに手を握り合った。


「なんという力だッ……百年前の氷風の魔女(ブリザード・ウィッチ)様の五千でもすさまじかったのに……その十倍とは……」


エルフの老人は涙を流し、震えていた。


「流石は団長だ! しかしあんな力初めて見た! 普段の爆発より静かだったしな!」


守護騎士団員たちも笑みを浮かべていた。


その歓喜の声を切り裂くような鋭い檄が飛んだ。


「馬鹿者ッ! 気を抜くなッ! まだ戦いは終わってないぞ!」


「王都にいる民よ! 時間は稼いだ! 少しでも今後に備えた準備をしろ! 焦るな! 落ち着いて周りを助けながら備えろ!」


「守護騎士団よ! さっさと城門から出てこい、防御を固め第二陣に備えろ! これで終わりという保証はないぞ」


その檄にまた叫び声が上がった。それは今までの恐怖や焦燥、怒りといった負の感情はなく、希望に満ちた声だった。


「フンッ……」


セルジアは息を吐いた。指輪は指には残り二つ。耳に二つ、ネックレスが五つだった。セルジアの両腕の戦装束ははじけ飛んでおり、肩まで裂けて、胸がこぼれそうだった。


――残り九つか……これで蝕龍にかなうのか……


「戦装束を変えて来る。準備ができ次第洞穴に行くぞ。シン、ボルゾイ、ルカ、エレナリア、準備しておけ。ダリオ、トビアス、ノエル、カルラと合流しろ……急げ! 敵は待ってはくれないぞ!」


セルジアは城門の中にある見張り塔に向かった。


ダリオはその背中を見た。足元に落ちていたセルジアの外套を拾うと、ゆっくりと後を追った。


「なんか、すさまじかったね……あの人一人で蝕龍倒しちゃうんじゃないかな……」


ルカが息を吐いた。


「あまりにすごすぎてよくわからんぞい、ただ、それを考えると百年前に五千を倒したというエルフの魔女様もすごいのがよくわかるぞい」


ボルゾイはエレナリアの方を向いた。


「まあ……そうですが、私の場合は命を懸けてましたからね……彼女は自身で溜めた魔力を使ったようですし、備えが良かったんだと思います。それでもすさまじい力には変わりありませんが……」


エレナリアは目を瞑った。


「いずれにせよ、蝕龍は倒さないといけない……」


シンは蝕の洞穴の方を見た。


「全員、生きて、この国を、仲間を守るぞ」


――セルジアがいれば大丈夫な気がする……だが、それだけではいけないような胸騒ぎがする。


―――――


セルジアは見張り塔につくと守護騎士団員に着替えるので場を離れるように告げた。


見張り塔の中に一人になり、戦装束を脱ぎ捨てた。体を締め付けるような装束から解放され大きく深呼吸をした。


「ぐはッ……」


セルジアは血を吐いた。


壁にもたれかかって下を向いた。その場に崩れ落ちた。


――クソッ……まさか一発で八つも、八年分も持っていかれるとは思わなかった。我ながら恐ろしい魔力暴走だな……仮に魔力が持ったとしても、体が反動に耐えられるか……あと何発打てる? 蝕龍討伐まで持ってくれよ……


「全く……見てらんねぇぜ」


ダリオが立っていた。


「なっ! 着替え中だぞ! 馬鹿者ッ!」


セルジアが顔を上げ、体を隠した。顔が真っ赤だった。


「セルジア……あんたうまく隠してるつもりかもしれねぇけど無理しすぎだぜ……脚が震えてた」


ダリオが外套をセルジアの体にかけると横に座った。


「流石はダーリン! 気付かれてしまったか! だが乙女心というもんが分かってないな! 惚れた男の前では強がりを見せたいんだ! 気付いても言わないのが粋というものだろう?」


セルジアは外套を羽織ると、明るく大きな笑顔を見せた。頬は震えていた。


「セルジア……あんた、ほんと面白れぇ女だな……何がそんなにあんたをそこまで追い詰めてる?」


ダリオはセルジアの顔を見た。


「追い詰められてなどいない……必要なことだ……力がないものを守るために殲滅するのが守護騎士団長である私の勤めだ……」


セルジアは顔を伏せた。


「あんたはめちゃくちゃだけど筋は通ってる、守ろうとする意志は感じられる。だから俺もあんたに生きてほしい。演説しびれたぜ……俺はカリーナだけじゃなくあんたの笑顔を守りたいと思っちまった……」


ダリオはセルジアの肩を撫でた。


「だからさ……俺もそのあんたの負担を半分でももらってやろうと思ってよ……」


ダリオが頬を掻いた。


「なんだって……それはまさか……」


セルジアが顔を上げた。紅と蒼の双眸が潤んでいた。


――まさか……プロポーズというやつか? 齢三十二にして!? こんな決戦の時に!? カルラにカルラになんて言おう!?


一雫。涙がこぼれた。


「ああ……」


ダリオはセルジアを見つめた。


手を伸ばすとセルジアの涙を指でぬぐった。


「守護騎士団の副団長になってやる!」「ダーリンになってくれるのか!?」


「「え……?」」


二人の間に長い長い静寂が訪れた。


========== 【作者より】


読んでいただきありがとうございました。


ダリオは本当に空気が読めないよな!


おもしれぇ女発言をしたうえでのこのずっこけ展開はセルジアを不憫に思います。 ただ、死亡フラグは回避できたのでは……?とも思ったり思わなかったり。


さて、蝕龍との戦いはこの後大詰めとなります。セルジアの運命はどうなっていくのか……

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