第45話「災厄の足音--至聖魔導結社エクリプス」
「さて、一つ一つ状況を整理したいところだがその前に一ついいか……」セルジアが手を挙げた。
「セルジア姐さん、構わねえけど、どうしたよ?」リーヴァが首を傾げた。
セルジアは立ち上がると感情をかみしめるようにシンたちの方に歩いてきた。
セルジアはビアの隣に跪くと、ビアの手を握った。ビアの顔を見た。
「よく……よく戻ってきてくれた……」セルジアはビアをじっと見つめていた。
セルジアの赤と青の眼が揺らいでいた。
——本当に……本当によく生きて戻ってきてくれた……
「セルジアさん……シンさんたちのおかげですかね……」ビアは目に涙を浮かべた。
セルジアは一度下を向くと、顔を上げる前に頬を拭い、立ち上がった。
「シン……お前にも礼を言わねばな。ありがとう」セルジアはシンの手を握った。
「いや……ビアは俺たちの仲間でもある……当然のことだ……」シンはセルジアの手を握り返した。
「さて、状況の整理だ」セルジアは自分の席に戻った。立ったまま話を続けた。
「今、確認できている中でも、『至聖魔導結社エクリプス』が蝕龍の復活に関与していることが分かっている。まずはロクディモフという男。この男はそこにいるダリオの妹、カリーナ・ヴァルトを三号と呼び、二号は岩龍、一号は黒いキマイラを差していた。それぞれが赤い目をしており、その男の命令に従っていた。一号、二号は討伐済で、カリーナ・ヴァルトは捜索中だ」セルジアはダリオの方を目線だけ送った。ダリオは目をそらした。
「あとは、それ以外にも一人直接会っている。ギルド職員のヨーゼフに化けていた男、ビアをさらった張本人だ。名前はわかっていない」セルジアは続けた。
「ちょっといいがい?」ブルガイが手を上げた。
「ああ……いいぞ」セルジアが一度席についた。
「ロクディモフという男はエルフの里にきたがい。その時の状況はこのシンがよく知っておるから話してもらおうと思うがい。シン、頼むがい」
「ああ……まずロクディモフという男、ビアのことを四号といって洗脳して……いた。それに加え、ロクディモフ自身が言っていたのだが、聖女という存在がいるようだ。洗脳もその聖女が行っている可能性が高い。あとは魔封玉を一つと、それを操作するための導きの手鏡は押さえてある……あと……」シンはダリオを見た。ダリオと目が合った。
「……なんだよ? 俺の顔に何かついてるか?」ダリオは怪訝そうな顔をした。
「いや……ロクディモフが……ビアに対して四号も三号や、二号のように……殺してから使えばよかったという趣旨の発言をしていた……洗脳されているビアの眼は普通だった。岩龍、二号については能動的な動きがなく、ロクディモフの命令に従っていただけだったのでそのあたりも何か関係あるのかもしれない……」シンは言葉に詰まりながらダリオを見ていった。
――おそらく、あの岩龍のように、この男の妹も既に……
「おいおい……なんだよそりゃ……シンといったか? あんた妹がすでに死んでるとでも言いたいのか?」ダリオは机に手を突いて立ち上がった。
「……気を悪くしたならすまない……情報提供をしたまでだ……」シンはうつむいた。
――本当にすまない……だが、知っておくべき情報のはずだ……
「チッ……一旦わかったよ」ダリオは吐き捨てるように言うと、イスに乱暴に座った。
――俺も、それは薄々わかってんだよ……ロクディモフに回収されたが確かに俺はカリーナの死体を見たんだ……
トビアスは不安そうにダリオの横顔を見ていた。
ルカはその様子をみていた。
――ダリオさん、トビアスさん……カリーナさんをせっかく見つけられたのに……
ビアがおずおずと手を上げた。
「私が言うのも何なのですが発言してもよろしいですかね?」
「ああ! かまわねぇよ」リーヴァがメモを取る手を止めて答えた。
「ヨーゼフに化けていた男の名前はわかりますかね……エゲツェンコと呼ばれていましたかね。あと、聖女様ですが、ちょっと様子がおかしいというか、エゲツェンコに言葉巧みに騙されているような印象を受けましたかね」ビアは頭を押さえながら話をしていた。
「何? それは本当か?」セルジアが立ち上がった。
「あまり思い出せないことも多いですが……本当ですかね……」ビアは少し汗をかいていた。ルカがそれに気づき肩に手を添えた。ビアはルカの眼を見て少し微笑んだ。
「整理すると……ロクディモフ、エゲツェンコという野郎たちがいて、聖女が洗脳能力を持ってる。聖女は何らかの理由で騙されていて、洗脳されているのは今のところはカリーナ・ヴァルトのみ。死んだまま動いている可能性もあるということでいいかい」リーヴァはメモを確認しながら情報をまとめた。
「ああ……」セルジアが答えた。ダリオが膝を揺らして苛立ちを隠そうとしていなかった。セルジアがその脚をつねった。ダリオが眉をひそめて足を下ろした。
「私からもよろしいですか? 封印の状況についてです」藍色の眼をした女性。フィーネが手を上げた。
「ああ……頼むがい」ブルガイがフィーネの方を見た。
「現在、蝕龍の封印に使っていた魔封玉十一個のうち一つがなくなっています。おそらく先ほどシンさんが回収したといったものでしょう。あとは他の魔封玉も力が弱まっており、下手するとあと十日程度で封印が解けます。急ぎ封印の重ね掛けが必要です」フィーネは時々手元の資料に目を通しながら発言をした。
「それについてはわしからもあるがい。魔封玉は急ぎ三つほど作ってきた。あとは、追加で持って来させる予定がい。三つあれば時間稼ぎはできるがい。シンがさっきいった通り導きの手鏡もあるがい」ブルガイはシンの方を一瞥して伝えた。
「それでは、明日以降に早速封印を行います。ブルガイも協力してくれますか?」
「もちろんがい」
「わ、私もいってもいいですか!?」ノエルが立ち上がった。
「……貴方にはまだ早いわ……」フィーネが目をそらした。
「そうですか……わかりました」ノエルは下を向いて、ゆっくりと席に着いた。
ノエルが着席するのに合わせて静かに扉が開いた。
「話はまとまったかなぁ?」スクワラが部屋に入ってきた。
「兄さんか……遅いぞ」セルジアが少し不満そうな顔を浮かべた。
「ああ……セルジア……ごめんよぉ。グランサクレに行ってるニコラスと連絡を取る予定だったんだけど。取れなくてねぇ……」スクワラが頭をかきながら答えた。
「ニコラスに何かあったのか?」セルジアが立ち上がった。珍しく手が震えていた。
「いやぁ……連絡が取れないだけだと思うよぉ……早々ニコラスに何かできる奴はいないからさぁ」スクワラは椅子を引いた。
「そうか……それならいいが……」セルジアは、いすに座りなおすと、顎に手を当てていた。
スクワラは気怠げにリーヴァの隣の席に座ると、メモを受け取った。
「え~っと……じゃあ、明日はブルガイと、フィーネで封印の対応を。セルジアはマリアと、カルラを呼んでくれるかなぁ。彼女らの力も必要だよぉ。他の人たちはギルドの来賓室を貸すので休んでいいよぉ。来たるときに備えておくれぇ」スクワラは端的にまとめた。
「質問がある人はいるかなぁ?」スクワラは周囲を見渡した。
「あの……一つ確認したいですかね」ビアが手を上げた。
「はい、どうぞぉ。若いのに積極的でえらいねぇ」スクワラが手をかざして発言を促した。
「魔封玉がなかったのは一つだけですかね……あの……非常に言いづらいんですが、私の記憶だと魔封玉は二つ。取りましたかね……私が……洗脳されてた時に……」ビアが目を伏せた。
「それは本当ですか?」フィーネが身を乗り出した。
「ええ……間違いないですかね……ロクディモフと一緒に、蝕の洞穴に入った際のことは結構覚えているんですが、確かに私が罠を避けて二個持ち出しましたかね……」
「トラップが大量に仕掛けられてたはずですがどうやったんですか……」フィーネが眉をひそめた。
「すみません……私は感覚がかなり過敏なのでトラップの類は引っかからないですかね。あとは魔法トラップもロクディモフが持っていたアイテムで回避しましたかね。申し訳ありませんですかね」ビアは頭を下げた。
「おかしいですね。確かに魔封玉は十一個のうち十個はあったはずです」フィーネは上を向いて記憶を追っていた。目を瞑った。フィーネが淡い薄い青色の光に包まれた。
「……やはり魔力反応は十あります」フィーネは目を閉じたまま答えた。
「……以前、ロクディモフとあったリッジウェルの坑道で、冷鉄石が掘られた跡があったぞい……」ボルゾイが口を開いた。
「……冷鉄石があれば魔封玉ってだれでも作れるの?」ルカがボルゾイに質問した。
「ドワーフであればできるぞい……封印の維持が大変なだけぞい」ボルゾイが答えた。
「いずれにせよ、そこも含めて明日、調査します」フィーネがボルゾイに会釈をした。
「じゃあ……大枠は変わらずで大丈夫かなぁ……あと、ビアちゃん。洗脳されてたのは君の落ち度ではないんだから、そんなに申し訳なさそうにしなくてもいいよぉ……無事で良かったって喜んでいればいいさぁ。そんなことで怒る人はここにはだれもいないからさぁ」スクワラは細い目をさらに細くしてビアに微笑んだ。
「ありがとうございますかね……」ビアは下を向いて、肩を震わせた。
「さて、解散だぁ……僕はまだまだ仕事があるよぉ……ほんと救われないなぁ……リーヴァちゃん、助けてよぉ」スクワラは手元の資料をまとめると、リーヴァの方を見た。
「スクワラの旦那……締まらねぇから今は勘弁してくれるかな……」リーヴァはツインテールをくるくると指に巻き付けた。
――――
会議は終わり、ダリオ、トビアス、ルカ、エレナリア、ボルゾイ、シン、ビアの七人が残っていた。
「ビア……よく戻ってこれたな……大丈夫だったか?」ダリオはビアに近づきながら声をかけた。
「……まあ、大丈夫ですかね……」ビアは下を向いた。
「……そうか……ロクディモフの野郎……!」ダリオは机をたたいた。
「ダリオ、ビアさんが怯えます。気持ちはわかりますがやめましょう」トビアスが、ダリオの手に手を添えた。
「あ……わりぃ……ビア」ダリオは小さく頭を下げた。
「……ダリオもトビアスも優しいですかね……怒ってくれるだけで嬉しいですかね……」ビアはそのまま机に突っ伏して大きな声を上げて泣き始めた。
「……そのくらいにしてやってくれるか?」シンがダリオに声をかけた。
「ああ……わりぃ……安心してつい声をかけちまった……えっと……シン……だったよな? 俺はダリオ、こっちはトビアス。よろしくな。そっちのルカさんとエレナリアさんとも一時期パーティを組んでた時期がある」
「そうなのか?」シンはルカとエレナリアを見た。
「うん……ダリオさんとトビアスさんはCランク昇格の手伝いをしてくれたんだ。すごくいい人たちだからまた会えて嬉しい!」ルカは前歯が見えるほどの笑顔をダリオたちに見せた。
「おいおい、ルカさん、そんなこと言われたら嬉しくて泣いちまうじゃねーか……」ダリオは鼻をかいた。
ダリオはシンとルカを見比べた。
「そういえばルカさんが探してたのって、このシンのことだよな。ポルティアでマリアさんに相談してた。シン・タキシタって人」ダリオはシンを指さした。
「え……探してなんか……ないよ? 別の人じゃない? ダリオはたまにそういう変なこと言うよね?」ルカは真顔で答えた。
――ダ……ダリオー! なんてこと言うのよー!
エレナリアはそのやり取りを見てため息をついた。
ボルゾイはひげを引っ張った。
ビアは泣いていたが一瞬動きが止まった。
「え……? どういう……」ダリオが混乱していると、トビアスが袖を引いた。ダリオがトビアスの方を向くと、トビアスは横に首を振った。
「あ……あー……ごめん。俺の勘違いだったわ。変なこと言ってごめん。ルカさん」ダリオの目は泳いでいた。
――あっれー……これビアのこと以上にやらかしちゃったかもなー……
「いや……大丈夫」ルカは目を伏せた。
――こ……これはまずい……思わぬところで……
ルカはシンの方を目線だけで確認した。
シンと目が合った。シンはわずかに目をそらして固まった。動揺していた。
――探しているというのはどういうことだ。まさか……
=============【作者より】
読んでいただきありがとうございます。
ダリオの爆弾発言が飛び出しましたね。関連挿話の時といい、いつもいい意味でやらかしてくれます。
次回をお楽しみに!




