表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
51/67

第42話「エルフの暴走--ドワーフの拳骨」

「あああぁーッ!」エレナリアは髪を掻き乱していた。


「お、落ち着け……エレナ!」シンはエレナに近づいた。


エレナリアは声に反応した。シンの方をにらんだ。


「シン……どうして私が生きているんですか! 父は! アシェンはどうなったんですか!」


「……アシェンは……」シンは言葉に詰まった。


「……」シンは言葉を選んでいた。


「どうなったかって聞いてるんです!」エレナリアは風の刃でシンを攻撃した。シンの腕に傷が走った。


「ぐッ……エレナ……落ち着け……」シンは肩を押さえた。


「エレナリア様、落ち着いてください……」ゴンジャイが一歩前に出た。


「来ないで!」エレナリアは氷の(つぶて)でゴンジャイを撃った。ゴンジャイは後ろに飛びそれを避けた。


「ははは……参りましたね……自分を見失っておいでだ……」ゴンジャイはうっすらと汗をかいていた。


シンは下唇を噛んで前を向いた。エレナリアを見た。


「アシェンは消えた! お前を生かすために!」


「……やっぱり……」エレナリアは顔を手で押さえて、崩れ落ちた。


地面に座り込んだ。


大きな声を上げて泣き始めた。


「……エレナ」シンはゆっくりとエレナリアに近づいた。


「近寄らないで……ください……」エレナリアは下を向いて、泣きながらつぶやいた。


「だが……」シンは手を伸ばそうとした。


「どうして!」エレナリアが下を向いたまま叫んだ。


ゆっくりと顔だけをシンに向けた。


「アシェンを……父を止めてくれなかったんですか……」


「……娘を助けようとする父を止められなかった……その方がいいと思った」シンはエレナリアの顔を見つめた。


「何ですって……? 今なんて言いました?」エレナリアは目を見開き、シンをにらんだ。


「父親が命を懸けて娘を、仲間を救おうとしたんだ……俺には止められない……」シンは目をそらさなかった。


「私は前にあなたになんと言ったか覚えていますか……」エレナリアは手を握った。指から血が滴り落ちた。


「ああ……残されるもののことを考えろと……」シンは血が落ちるのを一瞥してエレナリアに目を戻した。


「そこまで理解してなぜ……なぜ……なぜ止めてくれなかったんですか……」エレナリアは下を向いた。血とは違う雫が地面に落ちた。


「なぜ! なぜ止めなかったの! 答えて! シンッ! どうして父を止めて! 私を死なせなかったの!」顔を上げた。


「……俺には無理だったからだ……仲間が死ぬ可能性があるなら俺は喜んで命を懸ける……アシェンにもその覚悟があった。第一お前が死んでも残されるものはつらい」シンは唇を噛んだ。シンの口からも血が滴り落ちた。

――それに娘が先に死ぬ方が親はつらい……


「あんなもの私の自業自得じゃないですか……自分が命をないがしろにして使った力の代償をなぜ父が負わなければいけないんですか……私が死ねばよかったんですよ……」エレナリアはまた下を向いた。今度は震えていた。


「お前は自分で言ってて矛盾に気付かないのか? お前は仲間のために自分の命をないがしろにすることはいいといってしまっているんだぞ!?」シンはエレナリアに近づいた。手を伸ばした。


「私の命を私がどう使おうが勝手でしょう!」エレナリアは手を振り払った。


「それを言うなら俺が、アシェンが自分の命をどう使うのかも勝手だろう! なぜわからない!」シンはエレナリアに詰め寄った。


「わかってるわよ! 貴方が理解できてないだけでしょ! 親が死んで残された娘の気持ちが! そんなだから……! そんなだから……」エレナリアは言葉に詰まった。

――娘が近くにいるのに打ち明けてもらえないのよ……


室内に静寂が広がった。


「そんなだから……なんだ?」シンが静かに問い返した。


「……いや……なんでもありません」エレナリアは目をそらした。目が泳いでいた。


「ああ……私……私はなんてことを言いそうに……ごめんなさい……ごめんなさい……」エレナリアはボソボソとつぶやいた。

――ルカ……ごめんなさい……


目が虚ろだった。


エレナリアの周囲を風が包んだ。


手のひらに風の刃が形成された。


エレナリアはそれを自身の胸元にかざした。


かざそうとしたが、シンに阻まれた。


「エレナ! 何してるんだ!」シンはエレナリアの腕をつかむと押さえつけた。風の刃はシンの体に突き刺さった。


シンはそれでも放さなかった。


「イヤ! 放して! こんな私は死なせて!」エレナリアは手足をばたつかせた。シンの顔をはたき、ひっかいた。


「馬鹿! アシェンがどんな気持ちでお前を生かしたか考えろ!」シンはエレナリアを抱きしめて、地面に押さえつけた。


扉の方で、大きな音が聞こえた。


「どっちもいい加減にするぞい……」ボルゾイが扉を破壊した音だった。右の拳からは血が滴り落ちていた。


「おちおち哀しみに暮れて眠ってもおれんぞい、このバカモン共が……」ボルゾイの眉間には血管が浮き上がっていた。顔が震えて紅潮していた。目は赤くなっており、涙のあとが残っていた。


「さっきから二人とも根本的に間違っとるぞい。父親が死ぬべきだ!? 娘が死ぬべきだ!? そんなもんどっちも正しいわけないぞい! 人が死んでいいことなんてあるわけないぞい!」


ボルゾイは叫びながら二人に近づいた。掴み合っているシンと、エレナリアをにらんだ。


ボルゾイは自身の顔をエレナリアの顔に近づけた。


「エレナ……お前は大馬鹿ぞい! 父親がどんな気持ちでお前を生かしたかも考えず、甘えたガキのように泣きわめき、人の家を壊す始末ぞい! ゴンジャイも可哀そうぞい! 花も可哀そうぞい! 反省するぞい!」


「え……あ……はい……申し訳ありません」エレナリアはうなだれた。


ボルゾイはシンの方に顔を向けた。


「シン……お前もお前ぞい……エレナは父親を失ってつらいぞい。その人間に対して父親が死ぬべきだったとはどういう物言いぞい! 言葉が下手くそどころか、腐っとるぞい! 『錆びた心に言葉を塗るな。ただ隣で、共に鉄を叩け』という言葉があるぞい! そういう時は何も言わずにただ抱きしめるぞい! 反省するぞい!」


「……すまない」シンは下を向いた。


「二人ともちょっと頭をこっちに寄せるぞい」ボルゾイは二人の方に手招きをした。


「なんでしょうか」「……なんだ」二人はボルゾイに頭を近づけた。


「親父譲りの……」


ボルゾイは両手を振りかぶった。


「拳骨ぞい!」


エレナリアとシンの頭に拳を落とした。


「痛いッ!」「ぐっ!」


二人は頭を押さえていた。


「反省するぞい……あとで二人でごめんなさいぞい。わかったら部屋の片づけぞい」


ボルゾイはそう言い残すと扉の在った場所に向かった。


ゴンジャイに何かを告げると部屋を出た。


ボルゾイが部屋を出るとエレナリアが(せき)を切ったかのように泣き始めた。子どものような泣き声だった。


「どうすればよかったのよ! どうすればいいのよ! お父さんがあたしのせいで死んじゃったのにー……」


シンは、


言葉が腐ったと称された男は、


無言でエレナリアを抱きしめた。


ゴンジャイはその様子をみて、室内を見渡した。


凄惨(せいさん)な光景だった。


入口の方に向かった。


粉々になった扉の破片が散乱していた。


ゴンジャイはゆっくりと眼鏡をはずした。


胸ポケットからハンカチを取り出し、眼鏡を拭いた。


「片付けどうするんじゃい……」


―――――


ビアとルカは鼻をすすっていた。


「泣いたら少しすっきりしたですかね」


「私も……でもやっぱちょっとやだな」


「何がですかね?」


「自分の親がキスをするところを見るの……単純に気持ち悪い」


「あはは……それは申し訳なかったですかね。私もまさか実の娘が目の前にいるとは思わないですかね。でも、私はルカさんがうらやましいですかね」


「え? 何が」


「シンさんとキスしてるとき、シンさんの心の声以外にも昔の記憶が流れ込んできたですかね、あんなに家族のために頑張れる人はいないですかね。毎日探してましたかね。ポケットに入れた結華さんの絵を毎日のように大切そうに見てましたかね」


「そうなの……絵ってどんな絵?」

――あいつの記憶か……私も見てみたいような気もするし、怖い気もする……


「見たままを描いたきれいな絵でしたかね、多分遥さんと、結華さんあとは年を取ったシンさんが描かれてましたかね。皮のケースにはいってましたかね」


「ああ……そっか、そうなんだ」

――家族写真か何かかな? いつのやつだろう……


「……」


「お腹すきましたかね……さっき外に出たのは食堂に行こうとしていたところだったですかね」


「あ……じゃあ、案内するよ。まだ、体ふらふらでしょ?」


「助かりますかね……」


―――――


二人は外に出ると廊下に木片が散らばり、廊下に扉が倒れているのを見つけた。


「え……なにこれ」


二人が恐る恐る部屋の中をのぞくと、ゴンジャイが部屋の片づけをしていた。


「おや、ルカさん、ビアさんおそろいですか」ゴンジャイが二人に気付き声をかけたが、二人の視線は別の所で固まっていた。


部屋の中央でシンがエレナリアを抱きしめて、エレナリアはシンの胸に顔をうずめていた。


「エ……エレナと何やってるのよ!?」


「シンさん……私のことは相手にできないとか思いながらエルフには手を出すんですかね!」


「い……いや……これは誤解だ」シンが立ち上がろうとした。


「行かないでください……」エレナリアは顔をうずめて離さなかった。


「ビアさん、私、決めたわ。あいつのことをサンドバッグだと思うわ」ルカは腕を回した。


「それはいいですかね……人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて死んでしまえといいますが、浮気男はルカさんに殴られて死んでしまえばいいですかね」ビアは口角を上げた。


ルカが腕を鳴らしながらシンに近づいた。


その様子をみていたゴンジャイが眼鏡をはずした。


胸ポケットに入れると靴の音を鳴らしながら中央に立った。


息を吸うと叫んだ。


「てめえら! いい加減にするんじゃい! 人が片づけしとるのに何をギャーギャーわめいとるんじゃい! ビア! てめえ! 病み上がりの癖に何しとるんじゃい! 飯はあとで部屋にもっていくから寝とるんじゃい! ルカ! てめえは部屋の片づけを手伝うんじゃい! エレナはさっさと寝るんじゃい!」


紳士的な態度を崩さなかった男の一喝に、全員が息をのんだ。


「なんじゃい? 聞こえとるんじゃい? さっさと動くんじゃい!」大きな音を立てて手を叩いた。


「は、はい!」「わかったですかね!」「ええ……」


蜘蛛の子を散らすように三人が動き出した。


ゴンジャイは眼鏡をかけなおし、シンに近づくと小声で話しかけた。


「ボルゾイ様がお部屋でお待ちです」

========== 【作者より】

読んでいただきありがとうございます。


エレナリアの暴走でとんでもないことになってしまいましたね。次回はどうなるんでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ