関連挿話①:ダリオ・ヴァルトと煉獄の業火-前編
シンやルカたちが転生してから十七日目の朝、ルカたちがポルティアからラステルに向かった朝の九時に改めて、ダリオ、トビアス、セルジア、アルノ、ノエル、そして、マリアが集まっていた。机の上にはアルノが準備したハーブティーが置かれていた。
「朝早くからお集まりいただきありがとうございます」アルノが深々と頭を下げた。
「現在の状況を整理させていただきます。昨今、スタティクス大陸内の各地でモンスターの行動が活性化しています。ラステル、セントレグノ、グランバルト等で討伐依頼のクエストを受けて実際に現れたモンスターが上位種であったり、その地域に生息しない魔物であるという例が散見されています」
「確かに俺たちも、ロックウルフの討伐クエストで上位個体のグランロックウルフが出たことがあった」ダリオはうなずきながら答えた。
「つまりこの大陸内の様々な場所で、普段出ない強いモンスターが出ているということだな」セルジアはハーブティーを飲みながら補足した。
「それがカリーナや、魔法教団とどうかかわっていくんだ?」ダリオはテーブルに腕を突いて顎を乗せた。
「……補足もしながら説明させていただきますね。ここから先は他言無用でお願いします。話を聞いたら引き返せませんがよろしいですか?」アルノがダリオとトビアスを交互に見た。
「当たり前だ。そのためにいる」ダリオは即答した。トビアスもうなずいた。
「ダリオさん、トビアスさんは蝕龍ヴェノルクスはご存じですか?」
「ああ……知ってるよ。百年くらい前に英雄ワタルが倒したとかっていう伝説の化物だろ?童話にもなってるし、知らないやつはいないんじゃないか? それがどうした?」ダリオは手に顎を乗せたままの状態で右手を振った。
「その封印があと十年程度で解けます……」アルノは声を潜めた。
「は……封印ってなんだよ。第一存在すんのかよ、その化物」ダリオは唐突なことに眉をひそめて答えた。
「ええ……残念ながら蝕龍は存在します。私も当時戦いましたから」アルノの隣に座っていたマリアが横から話に入った。
「え……マリアさん、あんたやっぱり何者なんだよ」ダリオはマリアの方を苦笑いしながら見た。
「私は、光龍の加護を受けています。そのため普通の方より寿命が長い……というよりも不老なのです」
「あのバカ力も加護の力なのか……?」
「ええ、そうです。カレイドサイズも光龍から授けられたものになります。さて、私の話はさておき、話を続けましょう」
マリアは息を吸って吐くと話を続けた。
「当時、ワタルによって倒されたといわれているヴェノルクスですが、倒されたのではなく、ワタルの能力の一つである転移を使って、別の空間に飛ばしています。しかし、ヴェノルクスはその空間を破ろうとしたため、当時のヴィシア家の当主。つまりノエルさんのご先祖様が魔法で空間を閉じ、魔封玉を媒介として封印を施しました」マリアはそこまで説明するとノエルを見た。
「現在は私の母、フィーネ母様が管理しています。私もゆくゆくは管理を任される立場になるのですが、母様の話によると先ほどのあと十年程度で封印が解けるようで、モンスターの活性化はその影響の可能性があるといわれていました」
「ただ……母様の話によると封印の効力が弱まるのが予定より早く見えているようで、その原因を調査していたのです」ノエルは少しうつむいた。
「それで、これを見つけました」アルノは一枚の紙を机の上に置いた。そこには白い太陽の上に左右から二つの赤い月が重なり合い、日蝕を象るようなマークが描かれていた。
「これはグランサクレ大陸を拠点とした『至聖魔導結社エクリプス』という太陽と月を信仰の対象としている五年くらい前にできた新興団体の印なのですが、これが最近上位種のモンスターが出たところで確認されています」
「現在、グランサクレの土地勘に強いニコラスさんに調査に向かってもらいましたが、そこでよくない噂を聞いたという情報が上がってきています。その教団に新しい幹部が現れたのですが心を操作する類の術を使うそうです。詳しくは確認が必要なのですが、ニコラスさんによるとその人の話を聞いた人間が皆その教団に入団していっているようなのです」
「つまり、このエクリプスっていう魔導結社が、何かの目的で蝕龍の封印を解こうとしているということか……?」ダリオは机の紙を手に取ると質問した。
「恐らくそうではないかと踏んでいる。杞憂であればよいし、懸念があるのであれば謀略をつぶさねばならぬと思っている」セルジアはハーブティーを飲みながら答えた。
「それで、そこにカリーナがいたってわけなのか……?」ダリオがセルジアの方を向いた。
「断言はできんが、カリーナ・ヴァルト本人と容姿が類似していることを確認している。ただ、目は真っ赤だったそうだが……」
「……どういうことだ?」
「そのままの意味だ。真っ赤な目をしていたと。目撃情報では上がっている。それ以外の背格好、顔立ち、装備などがカリーナ・ヴァルトのものと類似している」セルジアは目撃情報から作られた人相書きをダリオに渡した。
「……」ダリオは無言でそれを見ていた。
「カリーナ……」ダリオはそうつぶやくと、手で顔を覆った。
――生きているのか……それとも別人か……
トビアスも一緒にその人相書きを見て眉をひそめて下を向いた。
「……」しばらく静寂が続いた。
「俺は何をすればいい……?」ダリオは顔を覆ったまま答えた。
「まずは、ラステルに向かう。そのうえでカリーナの件で対応をしたエミリア・フォーレとの面会、および、当時の調書を確認する。あとは、近隣で上位ランク以上のモンスターの目撃情報があったところを当たる。魔導結社の手掛かりを探すぞ。もし、カリーナと思しき女性と会った時の対処を協力してほしい。まずは本人確認と、説得だな」
「……わかったんだが、一つ聞いていいか?」
「なんだ」
「もし……もしだ……」
ダリオは少し間を置くと顔を上げ、セルジアの青と赤の眼を見ながら質問した。
「カリーナだった場合どうする?」
「抵抗するなら切り伏せる。そうでないなら捕獲する」セルジアはハーブティーを飲むと目を細め、淡々と答えた。
「……その時、俺はあんたたちの味方になるとは限らないぞ。それでもいいのか?」ダリオはセルジアから目を離さなかった。
「戦場ではままある話だ。正常な判断のできない愚物として一緒に殲滅してやる」セルジアは目を開けて猛獣のような眼をダリオに向けた。
「……わかった。カリーナに会えるならそれでいい……それだけでいい……」ダリオは下を向いた。
「私もかまいません。ただ、できるだけ説得させてください」トビアスが重ねた。
「……できるだけな。話は以上だ。もし、なければ午後一番でラステルに向かう」セルジアはそう言うと立ち上がり部屋を後にした。
「宿を引き払ってくる。行くぞ、トビアス」ダリオも立ち上がるとセルジアのあとに続き部屋を出た。
――――――――――
ダリオとトビアスの二人は宿に戻り、荷物を担いで部屋を出ようとしていた。そこでトビアスがダリオに声をかけた。
「ダリオ、どうしましょうか」
「あん?何がだ?」ダリオが靴ひもを結び直しながら答えた。
「仮にカリーナさんだったとして、どう説得するのか、説得に応じない時に本当にどうするかです」
「……こうしたいって思いはある……でも、その時になってみねぇとわかんねぇよ」ダリオは立ち上がるとそう答えた。
「そうですか……そうですよね……ただ……」
「ただ……なんだ?」ダリオはトビアスを見た。
「カリーナが生きているかもしれないと思うと嬉しいと思う自分がいます。同時に怖いと思う自分もいます……」トビアスは下を向いた。
「まあ……そうだな。仮に見た目が同じ別人だったらまだいいが、本人が変わり果ててたら俺はもう耐えられないかもしれない。二度もカリーナを失うのは……な」ダリオはトビアスと同じように下を向いた。
「……」二人の間に沈黙が続いた。
「なあ、トビアス……」ダリオは沈黙を破るようにつぶやいた。
「何ですか、ダリオ……」
「もし、俺が馬鹿なことしたら殴ってでも止めてくれるか」
「もちろん。逆にダリオにもお願いしますよ」
「ああ……もちろんだ」
ダリオとトビアスは向かい合うと小さく二人で微笑んだ。
――――――――――
話し合いの翌日から移動を開始して現在二日が経過した。ダリオとトビアスはノエル、セルジアとともにラステルに向かう馬車の中にいた。馬車の側面には盾に双剣が十字に重ねられた模様が象られていた。王立守護団のマークのようだ。
アルノは御者台に座り、通信石で何やら話をしていた。
「団長さん……ちょっと言いづらい話があるんだが……」ダリオが頭をかきながらセルジアの方を向いた。
「なんだ?言ってみろ」セルジアが眉をひそめた。
「ラステルなんだが……ついても俺は馬車の中にいてもいい……ですか? ラステルの中のことはトビアスに任せる……」
「それは何故だ?」
「いやー……実はギルドマスターのカルラの姐さんたちともめてて、多分会ったら殺されかねない。比喩とかじゃなしに。マジで」
「何があったんだ……?」セルジアが両手を組み顎を乗せてダリオの方を見た。
「……昔いろいろちょっとあって……」
「いいから話せ」
「……くだらない話なんですが……ちょっと二股がばれまして……」
「どういう意味だ? 話が理解できないが。カルラとお前に何かあったのか?」セルジアはダリオの方に身を乗り出した。
「いやー……俺、カルラの姐さんと付き合ってたんです。一時期。それで二股がばれて……ラステルに足を踏み入れたら殺すと宣言されてます」
「……カルラとはあのカルラだよな? 殺神姫の……」セルジアは口に手を当てダリオを見た。
「ええ……その殺神姫です」
「……」
「ぷ……はっはっはっはっ! お前! 妹のためにあんなに怒れるやつが! ただのアホウではないか!」セルジアは膝を叩いた。
「いやー……それは否定できないです。俺もどうかしてました」
「ところでダリオよ。お前、カルラの何が良かったんだ? あんな気の強い、行き遅れ女の……」
「いや、それが存外付き合うと尽くしてくれるし、かわいいところもあるんですよ。ってこのこと言ったら殺されるんでやめてください。マジで」ダリオは頬をかいた。
「……大の大人が二人そろってもう少しまともな話はできないんですか……特にセルジア姉様、カルラさんのこととなるとほんとに嬉しそうに話しますよね」ノエルはため息をついた。
「馬鹿な……カルラとは腐れ縁だがそこまで喜んではいない」セルジアはノエルの方を目を細めて見た。
「嬉しそうですよ? いつも」
「そんなことはないだろう……」セルジアは自分の髪を撫でた。
「あの皆さん……盛り上がってるところ申し訳ないんですがよろしいですか? 少し大事な話があります」アルノが御者台の方から中に入ってきた。
「ああ……話せ」
「先ほど通信が入りまして、ラステルの北の坑道でCランクのリトルストーンドラゴンが出たそうです。普段は岩トカゲやジャイアントバットくらいしか出ない洞窟です」
「何……それは本当か?」セルジアはアルノの方に身を乗り出した。
「ええ……そのため至急調査に向かいたいのですが……」
「ああ……かまわん。方向転換しろ。しかし上位種ではなく、別種の高ランク。しかも龍か……」セルジアは顎に手を当て、目をつむった。
「わかりました。至急向かいます」アルノはそう告げると御者と話をしに御者台に戻った。
ダリオは無言でセルジアの横顔を見た。そして息をのんだ。
「……殲滅ができるかもしれんな」セルジアは、蒼と紅の両眼を爛々と猛禽類のように輝かせながら、行く先を見据えていた。
========== 【作者より】
読んでいただきありがとうございます。
このお話は22話でルカがポルティアを去った直後から始まります。
もともとこの辺りの物語の核心についての情報開示はシンと、ルカの物語の中でする予定でしたが、セルジア×アルノ、ダリオ×トビアス、ノエルというサブキャラたちが可愛すぎて作者がストーリーを少し追加しました。
彼らは放っておいても勝手に話し出すので会話劇の部分はほぼ頭を使う必要がなく自然に出てくるので作者としては楽でいいです。
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