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第31話「仲間思いとひねくれ者の旅立ち——ラステルを立つ日」

 ボルゾイはカルラに引き連れられ、ギルド奥の応接室に来た。


 中央に置かれた来客用のテーブルにはアルノが座っていた。


「オヌシは確か試験会場で会ったアルノ……だったぞい?」ボルゾイは顎髭を撫でながら確認した。


「ええ……改めまして私は王立守護騎士団副団長のアルノです。同時にAランク冒険者でもあります。よろしくお願いいたします」アルノはボルゾイに向けて手を差し出した。


「ボルゾイ・グランバルトぞい。改めてよろしくぞい」ボルゾイはアルノの手を握り返した。二人は席に着いた。


 カルラは立ったままテーブルに手をつくと二人を見た。


「よし、それじゃあ話を整理するよ。ボルゾイは現在グランバルト家の当主であり、父でもあるブルガイ・グランバルトより、強力な魔力封印に使う魔封玉(まふうぎょく)を作るために、冷鉄石(れいてつせき)と呼ばれる鉱石が必要になる。その鉱脈は岩龍が住み着いている土地にあるといわれている」


「そうぞい、鉱脈のヒントを見つけたのに、爆発したとかで入れんなんてふざけた話ぞい!全く誰がそんなことを!」ボルゾイは思い出したように怒り出して机をたたいた。


 その様子にアルノは冷や汗をかいた。


「あの……グランバルト卿……ボルゾイ様……実は我々がとある調査で坑道を訪れまして……そこでちょっと交戦をした際にうちの団長が無茶をやらかしまして……」


「……どういうことぞい!?」


「詳しくはお話しできないんですが……まあ、団長が爆発させた……んです……申し訳ありません」アルノは立ち上がるとテーブルに頭をぶつけんばかりに深々と頭を下げた。


「王立守護騎士団が国の危機を招いてどうするぞい!?ヴェノルクスの封印が解けたらどうするぞい?あと十年程度で封印が解けるぞい!」


「申し訳ありません……かわりといってはなんですが、あの坑道の先に繋がっているであろう別の坑道がありまして、そちらの調査に同行させていただきます」


「それは渡りに船ぞい……いや、そもそもオヌシたちが坑道を壊さなければリッジウェルに行く必要はなかったぞい……でも、その場合だとCランクのワシはいけないぞい……」


 ボルゾイはぶつぶつとつぶやいた。


「何はともあれ、オヤジにどう報告するか悩んでたところだったので助かったぞい。よろしく頼むぞい」ボルゾイは大きな声で豪快に笑いながら手を差し出した。


「いや……こちらこそ我々の失態だけがグランバルト卿……ブルガイ様に伝わったらどうなることかと思っていたのでご理解いただけて助かります」アルノは頭を下げながら握手した。


「オヤジはそんなに気にすることないと思うぞい? それより明日、仲間にもリッジウェルについてきてもらえないか相談してみるぞい」


「ええ……お願いします」アルノは再び席に着くと深くため息をついた。


「じゃあ、話はまとまったみたいだね。ボルゾイ、あんた私に言うことあるんじゃないかい?」カルラは手をたたきながらそう言うと、ボルゾイに向かって不敵に微笑んだ。


「……さっきはすまんかったぞい……エミリアにも改めて謝るぞい」ボルゾイはバツの悪そうな顔でカルラを見た。


「ああ……そうしな。道中気をつけてな」カルラはボルゾイを見た。


「そうするぞい」


 ――――――――――


 転生三十一日目の朝、酒場にシン、エレナリア、ボルゾイ、ルカがいた。


 全員がお互いの様子を伺いながら何かを話そうとしていた。


 口火を切ったのはルカだった。


「シン……さん。昨日は、その。いきなり怒鳴ってごめんなさい。私、少しイライラしてて」


「いや、こちらこそすまなかった」シンも深々と頭を下げた。


「ルカ、何があったぞい?」


「いえ、ひねくれ者というスキルを持っているんですがそのレベルが一気に2も下がっていて理由がわからなくて混乱していたところに声をかけられてつい……」


「ふーん……多分シンは言葉がド下手クソだから、変なこと言ったぞい?ルカは悪くないぞい。だから気にするなぞい」ボルゾイは肩をすくめた。


「おい……ボルゾイ……」シンはボルゾイの方を眉をひそめながらみた。


「シン、言い訳はいいぞい。両方ごめんなさいしたから辛気臭い(しんきくさい)話は終わりぞい」ボルゾイはそう言うと手を目の前で一度大きく叩き、豪快に笑った。


「……まあ、そうだな」シンはルカを見た。ルカは小さくうなずいた。


「少し俺から話をしてもいいか」シンが切り出した。


「ワシもあとで話があるぞい。まずはシンの話を聞くぞい」ボルゾイがうなずくと、エレナリア、ルカもそれに続いた。


「すまない……エレナやルカには初めて話すが、Cランクをめざしていた目的は実は人を探していた。ユイカ・タキシタという知り合いなんだが、今回ギルドで情報を調べても見つけられなかった。この大陸にいない可能性、冒険者ではない可能性がある」


「Aランクになると王都セントレグノで別の大陸の情報を探せるようだ。だから俺はAランクをめざしながらユイカを探したい。そして王都に行きたい。できれば手伝ってほしいとも考えている」


「だが、ボルゾイは難しいといっていた。二人はどうだろうか」


「ああー……シン、それについては大丈夫ぞい。ワシも手伝うぞい」ボルゾイは顎髭を引っ張りながら賛同した。


「鉱石の捜索はいいのか?」シンはボルゾイの方を見た。


「実は例の坑道に入れなくなってリッジウェルという街に向かう必要ができたぞい。リッジウェルは王都の途中にある街ぞい。ユイカさんを探すのを手伝うから逆にシンにも手伝ってほしいぞい」


「それは願ったり叶ったりだ。二人はどうだ?」シンはルカとエレナリアを見た。


 エレナリアはルカの様子を確かめるように一瞥するとルカが答えた。


「私も、ボル爺とシンの手伝いをする。鉱石を探すのも、ユイカ……さんを探すのも手伝うよ」ルカはシンの目から顔をそらすようにボルゾイを見て答えた。


 ――自分に「さん」をつけるのは変な感じがするな。


「リッジウェルの坑道に入るうえで、Aランクの冒険者の協力も得てるぞい。紹介してもいいぞい?」


「何?かまわないが……」シンがそう言うと、エレナリア、ルカの二人もうなずいた。


 ボルゾイは手を上げるとアルノに合図を送った。アルノが四人が座っている席に近づいてきた。


「先日は失礼しました。改めまして私は王立守護騎士団で副団長を務めているアルノと申します」


「ああ……先日セルジアと一緒にいた。俺はシンだ。改めて頼む」


 ――誠実そうな男だ。それによく鍛えられている。副団長というのも伊達ではないか。


「エレナリアです」「ルカです……」エレナリアは静かに頭を下げ、ルカは少し緊張した様子で名乗った。


「アルノはAランク冒険者でもあるんだが、調査に協力してくれることになったぞい。まずはリッジウェルをめざして、そこで坑道の内部調査、ユイカさんを探すぞい!」


「ああ……」


「リッジウェルまではここから馬車で一週間ほどです。王都までは三十日前後かかる道のりになりますのでしっかり準備をしていきましょう。明日の朝に改めて集合ではいかがでしょうか」アルノが提案した。四人はうなずいた。


 ――――――――――


 ルカとエレナリアは銀狼亭に戻って、荷物の整理をしていた。


「なんか……自分でユイカを探すっていうの変な感じ……」


「まあそうですよね。普通そんなことありませんから」


「あいつは多分、気付いてないよね」


「おそらくは……ただ、シンは慎重に物事を見るので可能性は感じているかもしれません」


「あー……やっぱりそうなのかな。私、正直あいつが何考えてるのかよくわかんないんだよね……昔から家にいてもいるのかいないのかわかんなくて、その癖いないときに、いるような感じもして、気にかけられているような気もするし……放っておかれているようなそんな感じ」


 ――ルカは、「勝って来い」と言った時のこと、一言だけメッセージを送ってきていたことを思い出した。胸がチクリと痛んだ。


「シンはルカや他の仲間のことをよく見ていると思いますよ。常に注意を払っている、そういう気配を感じます」


「そう……なのかな。他人だから、逆によく見てくれてるってことかな?」


「それは私にはわかりませんが……」


「はぁ……まあいいや。とりあえず気付かれないように気をつけながらリッジウェルに行こう」


「ええ……シンのことはボルゾイにも聞いてみるといいですよ」


「ボル爺に?」


「ええ、彼もシンのことを心配していたので」


「心配?」


「ええ……言葉が少ないこと、自分で抱えることを気にしている様子でした」


「ああ……そう……うん……わかった」


 ――――――――――


 シンはラステルの郊外を歩いていた。マルタの家についた。


 ちょうどマルタが家の前を掃除していたところだった。


「マルタ」


「え……? ああ、シンさん。ご無沙汰しています。今日はどうされましたか?」


「明日、しばらくラステルを離れることになったので挨拶にきた」


「そうですか。寂しくなりますね。ちょっと待ってくださいね」マルタは家の中に入るとリオを連れて戻ってきた。


「シン兄ちゃん、久しぶり!」リオはあふれんばかりの笑顔でシンに声をかけた。


「ああ……久しぶりだな」シンはそう言いながらリオの目線に合わせるようにかがんだ。


「シン兄ちゃん、どこかに行っちゃうの?」リオは少し寂しげな顔を浮かべて聞いた。


「ああ……家族を探しに行くんだ」


「離れ離れなの?」


「ああ……昔けんかをしてしまってな」


「そうなんだ。ちゃんとごめんなさいできる?」


「……そうだな。しないといけないな」


 ――結華に。まず俺から謝らなければならない。できるだろうか。


「シン兄ちゃんなら大丈夫だよ。強くてカッコいいもん!」


「……そうかな」


「絶対そうだよ!」


「そうか……ありがとう。またな、リオ。マルタ」


「うん! またね! 絶対帰ってきてね」


「約束する」


 ――――――――――


 転生三十二日目。日があたりを照らし始めて薄暗い中で五人は馬車に荷物を積み込んでいた。そこにエミリアとカルラがやってきた。


「シンさん、ボルゾイさん、エレナリアさん、ルカさん、アルノさん。お気をつけて……」エミリアが目を潤ませながら皆に挨拶をした。


「ああ……エミリアも無理はするな……」シンはエミリアの方を見てそう答えた。他の四人も銘々(めいめい)が挨拶をした。


「シン、困ったことがあればいつでも相談しな。アルノに話せば何とかしてくれると思うから」カルラはアルノを指さした。


「ええ……無茶ぶりは困ります」アルノは心底困った顔をした。


「通信用の魔道具くらい持ってるだろ?」


「いや、使うにしてもあくまで騎士団との連絡用なので手続きが必要で……」


「そこも含めて何とかしな」


「……はい、わかりました」


「……いいのか?」シンはカルラに確認した。


「ああ……なんだかんだであいつは優秀だし、セルジアもいる。なんとかなるさね」


「そうか……」


「ユイカ・タキシタが見つかるといいな」


「ああ……」


「さあ、長い旅路だ。行ってこい!」カルラはそう言うと、シンの隣に立っていたルカの背中を力強くたたいた。


「いった! いきなり何するんですか……」ルカは背中をさすりながらカルラの方をにらんだ。


「あんたも頑張るさね。次は負けないよ」カルラは舌を出してにやにやとルカを見た。


「……次も勝ちますから」ルカは舌を出し返すと、馬車に乗り込んだ。


「カルラ。また会おう」シンはカルラに手を差し出した。


「また、すぐ会えるさね。野暮な別れの挨拶は無しだよ。さあさっさと行っちまいな!」カルラは差し出された手は握らず、拒絶するように手を振った。シンは差し出した手を静かに下ろすと、馬車に乗り込んだ。


 カルラはシンを見送りながら、ルカとエレナリアのことをじっと見ていた。そしてわずかに微笑んだ。


「ボルゾイ、ルカ、エレナリア! シンを助けてやるんだよ!」カルラは小さくなっていく馬車に向かいそう叫んだ。


 ――全く変わった父娘さね。


 カルラは空を見上げ、徐々に上り周囲を照らしていく太陽を見ていた。

========== 【作者より】

 読んでいただきありがとうございます。

 シン・ルカ達の旅が始まり物語は次の舞台に移ります。

 次は少し視点が変わり、ダリオたちの旅の一部を関連挿話としてお送りします。


 毎日7時10分、18時10分に更新です。


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