第30話「伝えられなかった言葉——夕焼けの裏通り」
シンたちはギルドのカウンターにつき、エミリアと話をしていた。
「カルラさんは戻ってきていませんが、状況はお伺いしています。シンさん、ボルゾイさん、Cランク昇格おめでとうございます。シンさんがギルド登録してからちょうど一か月になりますが、この短期間での昇格はなかなかないですよ。私も嬉しいです」エミリアは微笑みながらそう告げた。
「それでは手続きに入りますので、ギルドカードを出してください」
「ああ……」シンとボルゾイは、エミリアの言葉に従い、ギルドカードを渡した。
シンは後ろを振り返るとルカとエレナリアに告げた。
「少し手続きがあるから二人は休んでいてくれ」
「わかりました。また後程」エレナリアは頭を下げてルカと一緒にギルドの奥にある酒場の方に向かっていった。
エミリアがシンのギルドカードを受け取り魔導盤を操作して内容を確認した。
―― シン・タキシタ LV:40 ランク:C
STR:A DEF:S SPD:C VIT:A MND:A MAG:D DEX:A
LUK:B HP:B MP:D
スキル:【中級剣術 LV5】【洞察力 LV7】【隠蔽 LV5】【仲間思い LV6】
――
「シンさん、結構いろんなスキルのレベルが上がってますね。仲間思いもLV6になっています」
「……何?LV6か?」
「ええ……LV6です。ほらこれを見てください」
シンはエミリアに促されるままに端末に表示されている数値を見た。確かにLV6になっていた。
「……」
――なんだ?今までLVは一つずつしか上がらなかった。何かの経験が立て続けにレベルを上げたか……ルカとエレナとの出会い、ビアの告白、カルラとの戦闘、セルジアとのやり取り、ボルゾイとの名前の件……ダメだ……短期間にいろいろありすぎて検討がつかない。
シンは状況を整理しながら表示を見ていたが、ふとスキルの表示が変わっていることに気付いた。
「説明が増えている……?」
スキル名:仲間思い LV6
効果 :大切な者への想いが、力となる。
——守ると決めた者のために、限界を超える。
サブスキル:《庇護の本能》《守護の盾》《繋がりの残滓》《想いの奮起》
《????》《????》
「……なんだこれは」シンは珍しく動揺していた。今まで見えなかったものが明らかになっていた。詳細は記載がないが、効果説明とサブスキルが増えていた。
ボルゾイがその様子に気付き、スキル表示をのぞき込んだ。
「……」ボルゾイがその表示を見て、少し下を向くと考えてから答えた。
「スキルによってはLVアップやスキルの利用で効果が明らかになるものもあるぞい。たぶん、????というのはまだ発動していないから表示が出てないぞい」
「そうか……名前から想像するに爆発的な加速が庇護の本能、白く光り防御力が上がるのが守護の盾、仲間の気配を察知するのが繋がりの残滓、オレンジ色に輝く味方の強化が想いの奮起……だろうか」シンは過去の現象を思い出しながら整理した。
「不思議なスキルぞい……」
「そうだな……????というのは使えば名前がわかるのか?」
「おそらくぞい……」
エミリアは二人の様子を静かに見つめていた。
「『守ると決めたもののために、限界を超える』、シンさんらしくていいですね。でも、無理しちゃだめですよ? 心配している人もいるんですからね?」エミリアは少し上目遣いでシンを見た。
「ああ……」
――セルジアにも言われた。生きて……守る……
「さあ、次はボルゾイさんの番ですね!」エミリアはそう言うとボルゾイからカードを受け取った。
―― ボルゾイ・グランバルド LV:40 ランク:C
STR:B DEF:B SPD:D VIT:B MND:C MAG:B DEX:C
LUK:C HP:C MP:C
スキル:【中級体術 LV3】【中級杖術 LV3】【中級光術 LV7】【ヒール LV7】
【プロテクト LV5】【鼓舞の聖歌 LV2】【魂の灯火 LV2】
――
「ボルゾイさんも結構いろいろ上がってますね」
「クエストも多かったし、カルラとの戦闘でもいろいろスキルを使ったからぞい。骨が折れたぞい」ボルゾイはそう言うと肩を回した。
「お疲れさまでした。さて、これで手続きはおしまいです。事務的なことをいくつかお伝えしますね。Cランクになったことで大きく二点の特典があります。一つはスタティクス大陸内の他のギルドに所属する冒険者の情報開示が可能になります。もう一つはギルドが管理する文書の一部を閲覧可能となります。あと、Bランク以上の昇格について特定の街で試験を受ける必要があります。現在はスタティクス王国の王都セントレグノ、交易都市ヴァルポート、あとはボルゾイさんの故郷のグランバルトの三箇所ですね」
「そうか……」――ついに結華を探せるのか……
「シンさん、ユイカ・タキシタさんを探されますか?」エミリアはメモを見ながらシンに提案した。
「ああ……頼む……」
「少々お待ちくださいね……」エミリアはそう答えると何やら魔道具を操作していた。
「……ユイカ・タキシタ、ユイカではヒットしませんね……タキシタは一件出ましたが、シンさんですね」エミリアは、残念そうな顔をしてシンを見た。
「そうか……」シンは下をみた。
――やはり、名前は変えているか。姿や年齢まで変えられていたらどう探せばいいんだ。結華は多分俺から逃げるだろう……
シンが下を向いたまま、じっと端末を見つめていた。
「……情報がないということはユイカさんが冒険者登録をしていない、あるいは、別の大陸で登録をしている可能性があります。別の大陸の場合は、Aランクになれば、王都で専用の魔法具を使って情報を調べることができます。冒険者登録していない場合は、ギルドに依頼をして捜索をお願いする形ですが……ただ、お金もかかるのであまり現実的ではないかもしれません」
「Aランクか……」
――また、振り出しか……ただ、やれることはある……カルラは権限があればBランクやAランクにしてもいいといっていたな……
「わかった……Aランクを目指す」
「シン……この流れで申し訳ない話をするぞい」ボルゾイがシンの方を見た。
「ボルゾイ、どうした?」
「前に岩龍と遭遇した坑道があったぞい?」
「ああ……」
「あの坑道の奥におそらく探している鉱石があるぞい。前にも話した通りとても大事な国からの依頼のためワシはそれを優先しなければいけないぞい……」ボルゾイはそこまで話すと長い息を吐いた。
再度、息を吸うと話し始めた。
「……だから、ワシはラステルに残って、上位ランクの冒険者に調査に連れて行ってもらうぞい。幸い、依頼するための金はもってるぞい」
「……そうか。残念だが、仕方ないな……」
「すまんぞい……」
「あの……しんみりしているところ非常に申し上げにくい話があるんですが……」エミリアは小さく手を挙げた。
「なんぞい?」
「その坑道ですが……先日大爆発がありまして……」エミリアが目を泳がせながら説明をした。
「爆発ぞい?……まさか……」ボルゾイが眉をひそめた。
「坑道の入り口がつぶれてあそこからは入れなくなりました」
「え……え……、エミリア!? それはほんとぞい!?」ボルゾイがギルドカウンターに手を突き、前に乗り出した。
「ええ……ですので、依頼をいただいても坑道の調査はできません。申し訳ありません」エミリアは深々と頭を下げた。
「だからあの時! ワシは!! 何としても!!! 行きたいといったぞい!!!!」ボルゾイは地団太を踏みながら大声を出した。
「……ごめんなさい。それでも規則ですので……」エミリアは再度頭を下げた。
「あー!! どうするぞい、まずいぞい……オヤジに怒られるぞい……」ボルゾイはカウンターの前でぐるぐると回り始めた。
「ボルゾイ、声がでかいよ。そんなに騒ぐとエミリアが怖がっちまうだろ?」カルラが戻ってきていた。
「カルラか……なんぞい、今は虫の居所が悪いぞい」ボルゾイはカルラをにらんだ。
「おーおー。そんな態度取るのはあたしに勝ったからかい? 調子に乗るんじゃないよ」カルラが睨み返した。
「ケンカ売ってるぞい?」ボルゾイはカルラに一歩近づいた。
「そうだけど、そうじゃないねぇ……いい話があるんだ。ボルゾイ、あんただけついてきな」カルラはボルゾイの顔を見て、目を細め、口角を上げた。
「いい話……ぞい?」ボルゾイは毒気を抜かれて一歩下がった。
「すまん、シン、ちょっと行ってくるぞい。エミリアもすまなかったぞい」ボルゾイはシンとエミリアに会釈した。
「ああ……」
シンはボルゾイを見送るとエミリアの方を見た。
「エミリア、大丈夫か?」
「え!? ええ……大丈夫です。シンさん、ありがとうございます。ちょっと悪いことをしたかなと思って……こういうのあると凹みますね」エミリアの目は少し潤んでいた。
「いや、エミリアの判断は正しい……守るための規則だろう?」
「ええ……そうです。シンさん、ありがとうございます……」エミリアは下を向いた。
「いや……気にするな」
「さて! これで今日の説明は終わりです。シンさん、後ろが混んでるので待たせているお二人のところに行ってください!」エミリアは顔を上げると元気な声を出した。
「ああ……」エミリアに会釈をするとシンはギルドの奥の方に向かった。
――――――――――
ギルド奥の酒場にてルカとエレナリアが、座っていた。
「ルカ……ちょっと気を付けた方がいいことを伝えておきます」エレナリアが少し低いトーンで話し始めた。
「何? 何かあった?」ルカは少し身を乗り出し、エレナリアの顔に耳を近づけた。
「カルラさんとの戦いの最後で、オス?というような言葉を叫んでいたの覚えていますか?」
「え……私そんなことした?」ルカは眉を少し上げ、小声で話し始めた。
「ええ……腕を十字に切って、大きな声で言っていました」エレナリアはそれに合わせた。
「えーー……しまった。あれは元の世界の挨拶みたいなもので……あいつにばれちゃうかも」ルカは頭を抱えてうずくまった。
「ごまかした方がいいですか……?」
「エレナ……何かできる?」
「話の流れで……何とかしてみます」エレナリアは顎に手を当てて考えながら伝えた。
「ごめんね! エレナ。私、この辺り全然意識してなかった」ルカは両手を前に合わせた。
「気付かれたくないのであれば気を付けてください……」
「ごめんなさい……」
「いいのですよ……」エレナリアは小さく微笑んだ。
ルカは銀のヘアピンに一度だけ触れると、何気なくギルドカードを手に取った。魔力を込めてひねくれ者スキルのレベルを見た。
「……嘘……」
「どうしました?」エレナリアはギルドカードを見つめた。
ひねくれ者のスキルLVが4に下がっていた。
「何で2も……?」
――思い当たるとしたら、あいつと合流して、歩道橋から落ちたときのことを思い出して、兄妹みたいって言われて、ボル爺って呼んで……あとなんだろ。いろいろありすぎてわかんないや。私、そんなに何か変わった?
いや……もしかしてさっきの件であいつにばれた……? もし、そうだとして私はどうするの……?
その可能性を想像したとき、ルカの顔は蒼白になっていた。
「ルカ……大丈夫ですか」エレナリアはルカの背中に手を添えて心配していた。
「ううん……なんかよく分からなくなって……頭の中ぐちゃぐちゃになっちゃった……」ルカは頭を押さえていた。
ちょうどそこにシンがやってきた。
「エレナ、何かあったのか?」シンはエレナリアに声をかけると、ルカの様子に気付いた。シンはルカの方に近づき、声をかけた。
「大丈夫か……?」
ルカはシンの方を見た。
――大丈夫か……? 大丈夫なわけないよ! このわけのわからないスキルに振り回されて、自分がどうしたいかもわからなくて……第一今更優しくなんてしないでよ……ムカつく……ムカつく!……ムカつく!!
「近寄らないで……」ルカはシンの胸を押して遠ざけようとした。
「どうした……本当に大丈夫か……何があった?」シンは心配そうにルカを見た。
ルカはその言葉に目を見開いた。
――だから……なんでその言葉を……今更……今更、繰り返すのよッ!。
「あんたに心配される筋合いなんかない! 近寄らないでっていってるでしょ!」ルカはそう叫ぶと机をたたき立ち上がった。
シンのことをにらむと、外に向かって走り出した。
――大丈夫……なわけない。学校でいじめられても、お母さんが亡くなってもそんなこと言ってくれなかった癖に! 大丈夫なわけ……ない……
ルカは走った。ギルドの外に出てすぐ左に向いて走った。銀狼亭の方に向かったが、帰る気にはなれなかった。走り続けた。逃げた。逃げたのだが、何から逃げているのかわかっていなかった。
――最悪……最悪! 私、また逃げてる。監視するってそう思ってきたのに、結局逃げてる。何なのよこの気持ち! どうすればいいのよ……
お母さん……エレナ……
ルカは、銀狼亭の裏通りの樽に手をつき、涙を流しながら息を整えていた。
――せっかく会ったのに、こんな態度取っちゃって明日からどうすればいいの……もう……わかんないよ……
ルカの嗚咽が裏通りに残響を広げていた。
――――――――――
「……」シンとエレナリアは酒場のテーブルに取り残されていた。
「行かないと……」シンが立ち上がると、エレナリアはシンの手に手を重ね、首を横に振った。
「私が行きます」エレナリアはシンの顔を見た。
「だが……」
――あの娘を傷つけたのは俺だ。距離が近づいたと勘違いして踏み込みすぎた。
エレナリアは、シンが言い切る前に、再度首を横に振った。
「今は一人にしてあげてください。いろいろあって混乱しているのです」
「……」
――エレナが何を言っているのかはよくわからない。だが、二人の関係から任せた方がいい……のか……?
「わかった……頼む。明日話したいことがある。ギルドに九時に来てくれ」
「わかりました。それでは」エレナリアは会釈をすると、ギルドの入り口に向かい歩いて行った。
シンは一人取り残され、酒場の中の喧騒を聞いていた。
――俺は何をしてしまったんだ。ビアといい、ルカといい、結華といいこの年代の娘たちの気持ちがよく……わからない……
――――――――――
ルカはまだ泣いていた。その時後ろから声をかけられた。
「探しましたよ……こんなところにいたのですか」
ルカは顔を上げて声の方向を見た。
夕焼けの逆光に彩られ、オレンジがかった銀髪のエルフが立っていた。
「エレナ……ごめんね……」ルカは涙をぬぐいながら答えた。
「いえ……気にしないでください……」エレナリアは小さく首を横に振った。
「なんかいろいろ考えてたら昔のこと思い出しちゃって……私、変なこと言ってなかった?」
「ええ……それは大丈夫だと思います。シンは何が起きたのか理解できていない様子でした」
「そう……ならよかった」
――よかった……よね?
ルカは少し下を向いた。
「……ルカ、今は無理はしなくてもいいと思います。言葉は伝えなければ腐るといいましたが、伝えるべき時というものもあります」エレナリアはルカに近づき肩に手を添えた。
「時?」ルカは顔を上げてエレナリアを見た。
「ええ……自分の想いがはっきりしていない時に伝えると思わぬ結果を生んで後悔します。私は伝えたかったのにあえて伝えなくて後悔をしました」
「それって……どんな話なの……」
「面白い話ではありませんよ」
「いい! 聞かせて?」ルカはエレナリアに顔を近づけて目をじっと見た。
「……ふぅ」エレナリアは小さく息を吐くと続けた。
「わかりました。長くなるので手短にお伝えすると、私は100年くらい前にある人たちと冒険者をやっていました。その際にパーティのリーダーだった人間に恋をしたのですが、私はエルフ。彼と過ごす時は違います。そのため、自分の気持ちを隠そうとしました」
「うん……」ルカにとって種族の違いによる時間の流れの違いはイメージがつきづらかったが、離れ離れになるつらさは知っていた。
「しかし、想いは募るばかりで、ある日私は時の流れの違いなんかよりも彼と短い間でも一緒に生きることを決意しました。ただ……」
エレナリアは少し言葉に詰まった。
「ただ?」ルカは目を細めてエレナリアを見た。
「そう決心した次の日に大きな戦闘があったのですが。そこで彼とは離れ離れになってしまいました。それ以来彼とは会っていません……私の想いは伝えることができませんでした」
エレナリアはそこまで話すと、下を向いた。
「……」ルカはエレナリアの肩に触れて、目をつぶると小さくうなずき、息を吐いた。
しばらく沈黙が続いた。沈黙のあとエレナリアが言葉を続けた。
「だから、ルカ。納得がいく形をまずは作ってください。そして、気持ちが整ったら必ず伝えてください」
「……今は約束はできないかも……」ルカは少し考えたのち目を伏せて答えた。
「フフフ……」エレナリアは笑った。
「もし、どうしても嫌になったら私と旅をしましょう。私の時間は長いです。ルカの気が済むまで付き合いますよ」
「え……いいの?」ルカは顔を上げた。
「ええ、もちろん。これでも千年以上生きていますからね。10年、20年なんて短いものです」
「え! 千年!? エレナっておばあさんていうよりも神様かなにかじゃないの!?」ルカは口を大きく開き、手を当てた。
「それはさすがに大げさですよ……エルフはみな長寿ですから……」
「フフフ……わかった。エレナ! 話しにくいことを話してくれてありがとう。あいつと一緒にいるのが嫌になったらすぐ相談する! その時は二人で別の大陸に行ってみようよ!」ルカは目を爛々と輝かせた。
「それもいいですね……私もこの大陸を出たことはないので……」
「ほんと!? じゃあさエレナ……」
先ほどまでの嗚咽をかき消し、二人の笑い声が夕焼け空に溶け込んでいった。
========== 【作者より】
読んでいただきありがとうございます。
仲間思い、ひねくれ者のレベルが大きく動きました。そして、シンとルカは物理的には近づきましたが、心の距離はそうはいかないようです。
私自身はシンに近い立場ですが確かに子供の心はなかなかわからないものですよね。逆も然りだと思いますが……
毎日7時10分、18時10分に更新です。
ブクマや、リアクション、感想、★評価をいただけると執筆の励みになります。引き続きよろしくお願いします。




