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第27話「Cランク昇格試験――"殺神姫"と呼ばれたアサシン」

 転生三十日目朝。シン、ボルゾイ、ルカ、エレナリアの四人の連携は有効に機能し始め、ここ数日間で討伐・採取・情報収集等様々なDランククエストをこなしていた。


「おはようございます。シンさん、ボルゾイさん。昨日までのクエストでCランクの昇格条件を満たしました。Cランク昇格試験のご説明をしてもよろしいですか?」


「ようやくこのときが来たぞい!」ボルゾイがカウンターに手をつき小さく跳ねた。


「ああ……頼む」シンが短く答えた。シンは胸ポケットの写真ケースに触れた。


 ――いよいよCランク。これで結華を探すことができる。


 ルカは後ろからシンの手元がこの世界に似つかわしくない革製品に触れているのに気付いた。


 ――あれは何だろう。定期入れ?財布?この世界のものではないような……


「Cランク昇格試験はギルドの地下にある特殊闘技場においてギルドマスター、つまり、カルラさんと模擬戦を行っていただきます。本試験の目的はCランクになるとBランク以上のクエスト、AランクやSランクのレイドクエストなどに条件付きで参加することが可能になるのですが、そのクエストに参加しても生き残れるだけの技量があるかを図るものになります。合格条件はギルドマスターが認めたかどうかです」エミリアはテキパキと説明した。


「ギルドマスターが認めるというのは基準が曖昧な気がするが……」シンは少し眉をひそめた。


「そこは安心してください。一言で冒険者といっても物理攻撃型、魔法型、補助型、斥候のような特殊技能等様々な役割を担う必要がありますが、その基準に達しているかという観点では、どの分野においても高レベルなカルラさんほど、審査に適した方はいないと思います」エミリアは胸に手を当て自信満々に答えた。


「そうだぜ、なんたってカルラの姐さんは、殺神姫(ゴッドイーター)と呼ばれた伝説のアサシンなんだからな!俺も試験をやってもらって認められたんだ」ガルドが横からにやにやしながら話に入ってきた。


 ――殺神姫(ゴッドイーター)……短剣や、隠蔽を使う高速機動タイプだと思っていたが、魔法も使うのか……どういう攻撃を仕掛けてくるんだ?


「少し不安になった……」シンがつぶやくように言った。ルカがそれを聞いてぷっと笑って慌てて口をふさいだ。


「おい!それどういう意味だ」ガルドは眉をひそめてシンをにらんだ。ルカの方も一瞥した。


「おほん!説明を続けさせてください。ガルドさん、今は取り込み中ですよ」エミリアが咳払いをしながら割り込んだ。


「ちっ……エミリアの顔に免じて見逃してやらぁ」ガルドは離れていくと壁にもたれかかってこちらの様子を見ていた。


「シンさんもいちいち喧嘩を売るようなことを言わないでくださいね」エミリアがシンをじっと見つめた。


「すまない……」


「それでは、試験はすぐに受けられますか?今日はカルラさんは午後すぎにはいらっしゃるので調整がつくと思います」


「受けるに決まってるぞい」ボルゾイはカウンターに手をついて乗り出して答えた。


 シンはエレナリアとルカの方を向いた。二人ともうなずいた。


「わかった……受けよう」


「はい、それでは午後にまたここに来てください」


 ――――――――――


 ギルドカウンターを離れると、エレナリアがシンたちに声をかけた。


「シン、カルラさんの対策についてお話があります」


「ああ……俺もエレナリアと話したいと思っていた」シンは提案に乗り、近くの椅子に腰かけた。


「私とですか」エレナリアが正面に座ると、残りの二人も席に着いた。


「ああ……この数回のクエストでエレナリアは洞察力があり戦略立案ができていた。意見が欲しい」


 エレナリアはその言葉を聞いて目を見開いた。ルカはシンの言葉を聞いて目を伏せていた。


 ――あいつがそんなこと言うなんて……なんか悔しいな……私は昔そういう一面を見たこともなかった。


「お褒めにあずかり光栄です。まずはシンさんの意見をうかがっても?」エレナリアがシンに返した。


「ああ……カルラは盗賊やアサシンのようなタイプだと思う。短剣を武器として使う。あとは隠蔽などの隠密系のスキルを使えることも本人の口から聞いている。総合すると戦闘中に姿を消したり、高速機動でのヒット&アウェイ型の可能性がある」


「他には何かありますか?」エレナリアが質問した。


「……ここは推察だが、隠蔽のレベルによっては目の前から消えたように錯覚するかもしれない」


「それはどういうことぞい?」ボルゾイが質問した。


「俺が隠蔽スキルを使うとき、近くの敵がこちらの存在に気付いていないように動ける。当然攻撃をしたり、物音を立てれば気付かれるが、レベル4でその効果だ。高レベルになると姿自体を認識できなくなる可能性がある」


「そんなことが可能ぞい?」ボルゾイは質問を重ねた。


「シンの予想の前提で動いた方がいいでしょうね。それに加えて一つよいですか」エレナリアがうなずきながら答えた。


「ああ……頼む……」


「カルラさんですが、風魔法を使えると思います。しかも中級の高レベル以上、あるいは上級で。他にも何属性か使える可能性もありますが、まずそれは間違いありません」


「どうして知ってるぞい?」


「前に部屋に呼ばれたときに、部屋で中級風魔法を打ち込んだら一発目は弾かれて、二発目は消されました。その時に彼女の手に風魔力の残滓(ざんし)を確認しました」


「エルフは乱暴ぞい……ワシに粗暴なんていえないぞい……」ボルゾイは半歩後ろに下がりたじろいだ。


「必要なことでしたので」エレナリアは短く返した。


「室内で風魔法をぶっ放す必要性がわからんぞい……」


「わかった。他に魔法のことで何かわかることはあるか?門外漢(もんがいかん)なので意見が欲しい」シンはボルゾイの声は聞こえていたが、話を続けた。


「風魔法はスピードタイプとの相性がいいです」


「どういうことだ……」シンは質問をした。


「風は推進力やブレーキに使えます。高速機動や急な切り返しなど、人間離れした動きをする冒険者もいます」


 ルカがエレナリアの方を見て口を開いた。


「エレナはできないの?」


「私はどちらかというと広域での攻撃や、魔力を圧縮して刃にかえて放つような制御が得意なので、推進力にかえたりするのは得意ではないのです。逆に推進力に変えるタイプの術者は遠距離攻撃が苦手な可能性があります」


「なるほど。スピードの場合は私に任せて!結構早いんだから」ルカは右こぶしと左の手のひらを合わせて鳴らした。


「そうですね。今回は普段のフォーメーションを工夫して、ルカにカルラさんに貼りついてもらって、私が魔法で動きを止める。そこにシンやボルゾイが攻撃を仕掛ける形がいいと思います。どうでしょうか」


「ああ、それでいこう。あともう一ついいか」


「はい……どうぞ……」


 シンが皆に静かに作戦を説明した。


「確かにそれはいいぞい」「そうですね……それで行きましょう」「私の役割は変わらなそうなのでとにかくカルラさんに貼りつきますね!」それぞれが返事をした。


「じゃあ、午後まで少し動きを確認させてくれ」


「ぞい!」「ええ……」「はい!」四人がギルドを後にした。


 ――――――――――


 そして午後、ギルドカウンターにて。


「シン、ボルゾイ、いよいよだね。胸を貸してやるからドンと来な」カルラが左側だけ口角を上げて笑った。


「ああ……」シンが短く返した。


「ついてきな、会場に案内するよ」そう言うとカルラはギルドの奥に四人を案内した。左右に龍の装飾がなされた鉄製の大きな扉を開けると、下に向かう階段が現れた。


 階段を降りると長い廊下が現れ、左右に燭台(しょくだい)がずらりと並び、火が揺らめいていた。


 ――風がある。 シンの洞察力が、わずかな風の流れを感じていた。


 廊下を抜けると大きな広場についた。ポルティアのギルドの地下と同じような大理石の床、そしてギリシア調の大きな柱が並び、部屋の正面中央部には大きな玉が浮いていた。


「ポルティアと同じですね……」ルカがつぶやくように言った。


「ああ、エレナリアとルカは経験があるから知ってると思うが、シンとボルゾイのために説明するよ。この空間では戦闘不能になったとしても傷は回復する。死ぬようにはできてないから安心しな。どこかの誰かさんは試験の際に試験官の安否を確認してくれたけど、ここじゃあ、試験官も試験を受ける側も死ぬ心配はないよ」カルラはシンの方をじっと見た。


「それを聞いて安心した」シンはカルラの目線に答えるように見据えた。


 エレナリア、ボルゾイ、ルカが構えた。


「それじゃあ、始めようか」そう言った瞬間。カルラが視界から消えた。


 カルラが消えると同時にエレナリアが氷の壁を四人の前に貼った。静寂があたりを包む。次の瞬間、大きな音が辺りに広がり、部屋を揺らした。氷の壁が削られていた。


「開始と同時に氷の壁で、視界と進行方向をふさぐとは、なかなかいい判断だね」


 カルラが氷の壁を突き破り姿を現した。現れると同時に氷の壁は崩れ落ちた。手には短剣を握っているが、氷が螺旋(らせん)状にえぐられていた。


 シンは、カルラの周囲の穴を見た。

 ――なんだあの痕跡は。明らかに短剣のものではない。風か……?


 ルカが動き、カルラのわき腹に拳を振った。カルラはそれを短刀で受けた。ルカの手甲に当たり金属音が響いた。ルカは気にせず二発、三発と打ち込んでいく。カルラはもう片方の短刀をつかむと両手で応戦した。金属音が響く、響く。


「なんだこれは!おもしろいねぇ!」カルラは笑いながら連打を短刀で受け止めた。


 連撃が加速しながら十発を超えたタイミングで、カルラの短刀をすり抜け、拳がカルラの顔を捕らえた。


 捕らえたかに見えたが、拳は空を切り、カルラは数十歩離れたところを靴の音を鳴らしながら歩いていた。


「いやあ怖い怖い。なかなかの攻撃速度だね」カルラは不敵な笑みを浮かべた。


「でもねぇ……シン、ボルゾイ。この二人の試験やってるんじゃないんだよ。あんたらもなんかやりなよ」


 そう告げるとカルラは再度消えた。辺りがまた静寂に包まれた。シンは辺りを見回し、警戒をしていた。カルラはシンの後ろに回り込んでいた。


 ――どこを見てるんだろうね……終わりだよ……

 消えたままカルラは後ろからシンの首筋に切りかかった。攻撃の瞬間、足元で氷が割れる音が響いた。


 そして、鈍い音が辺りを包んだ。


「がっ……!?」


 カルラが腹を押さえて、後方に飛んだ。シンの剣の柄が腹にめり込んでいた。


「な……なんで気付いた?」カルラが顔を上げるとボルゾイの光術がカルラの顔めがけて飛んできた。カルラはのけぞって光術をよけた。立て続けにエレナリアの風の刃と氷の礫の嵐がカルラを襲った。


 カルラはそれを短刀ではじきながら左に転がった。転がった先にはルカがいた。ルカの拳がカルラのみぞおちに刺さった。カルラが吹っ飛んだ。吹っ飛んだが、カルラが地面に落ちることはなかった。そのまま宙に浮いていた。カルラの周りに四つの風の球体が渦巻いていた。風は部屋の中を流れていた。


「危ない危ない、様子見の遊びでやられるところだったよ。あたしは耐久力はそこまでないからね。シンの一発は結構響いたさね」腹をさすりながら浮いたままの姿勢でカルラは周囲を見渡した。


「なるほどねぇ。最初に崩した氷の壁が罠だったわけだ。あたしの隠蔽でも氷を踏み抜く音は聞こえるからね。それを元に位置を特定して攻撃してたわけだ。即興の作戦にしてはやるじゃないか」


「……」シンはそれには答えなかった。


「さて、試験はここからが本番だよ。遊んでやるからせいぜい死なないように……いや、倒れないようにしっかりきばりな!」カルラがそう叫ぶと突風とともに、ルカの目の前にカルラが現れた。


「え……速……」ルカが認識した瞬間に、カルラの短刀がルカを襲った。

========== 【作者より】

 読んでいただきありがとうございます。


 シンとボルゾイのCランク昇格試験がいよいよ始まりました。


 シンは娘の結華を探す決意を胸に、思い出の写真ケースに触れながらギルドカウンターでエミリアの説明を受けていますが、「シンー!後ろ!後ろー!」と言いたくなるようなそんなワンシーンでしたね。


 次回、ルカはダリオの二の舞になってしまうのか(笑)次回が楽しみですね。


 毎日7時10分、18時10分に更新です。


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