第24話「初めての連携――謝罪と和解」
ルカとエレナリアが去った後、エミリアに紹介されたクエストを終えたシン、ボルゾイ、ビアはギルドの酒場スペースで話をしていた。
「シン~……ワシが悪かったぞい。いい加減に機嫌を直してほしいぞい」ボルゾイは机に突っ伏して、酒の入った樽ジョッキを持ったままうなだれている。
「どうするつもりだ……」シンは、ボルゾイをにらみながら言った。
「シンさんが怒るのも無理ないですかね、煮え湯を飲まされるといいますが、シンさんはまさにそんな気分だと思いますかね。今、飲んでるのは水ですが」ビアはジョッキを口に運びながら重ねた。
シンはそれには返さなかった。ボルゾイはぐっとジョッキを口に運び酒を飲み干した。
「わかったぞい……明日、ちゃんとあのエルフに謝るぞい。それでいいぞい?」
「いいも何も、当たり前だ」シンが冷たく言った。
「ぐっ……ドワーフとしては最大の譲歩ぞい」
「そのエルフと、ドワーフとの確執って何ですかね?」ビアがフォークで燻製肉をつつきながら聞いた。
「……わしのひいひい爺さんが若いくらいの時分の話だが、ミスリルの鉱脈がエルフの森の近くにあったぞい。そこを掘らせてもらう代わりに、ドワーフが矢じりや生活備品を提供する約束になってたぞい。ただ、エルフの長老が変わるタイミングと、ひいひい爺さんが急逝したのがかぶって口約束がうやむやになって、種族がらみのけんかになったぞい。そこから大小さまざまないさかいがあって、仲たがいが続いているぞい」
「えー……そんな子供じみた話でそんなことになるんですかね……」
「種族の文化的な問題もいろいろあるぞい。説明すると長くなるし、それを知っても仕方ないぞい。特に交渉はグランバルト家が中心に担っていたので、エルフのお偉いさん方には根に持っているやつも多いぞい」
「……だからといって先ほどの非礼が許されるわけではないと思うが……」シンは、ボルゾイを見て言った。
――社会人にもボタンの掛け違いのような話は多いが、流石に種族レベルの問題になるとは……想像しづらいな。
「ぐっ……わかっとるぞい。冷静になればワシが悪かったぞい……明日、頭を下げるぞい」
「……頼むぞ」シンはグラスに入った水を飲み干すと席を立った。
「素振りをしてくる」
「いってらっしゃい。いつも精が出ますかね」ビアは燻製肉を口に運び舌鼓を打ちながらシンを見送った。
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シンは素振りをしていた。
――明日はまた、新しい仲間が加わる。魔法使い、体術使い、今まで組んだことのない組み合わせだ。大丈夫だろうか。いや、大丈夫にする。何としてもだ。
その時、シンは、楽しそうな、悲しそうな感情の余韻を近くで感じた。
――何だ……前にもこんな感じがあったが……少し違うか……ビア、ボルゾイ、また別の誰かか……?
シンは剣を振る手を止め、ポケットから写真入れを取り出した。
じっと見つめて息を吐くと、ポケットに写真入れを戻し、剣を振り続けた。
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次の日の朝、ギルドのテーブルにシン、ボルゾイと、エレナリア、ルカが向かい合って座っていた。その横に昼のギルドには珍しいバーバラもいた。
「昨日いろいろとあったと聞いてるわよ。シンさんから話し合いの場を持ちたいとギルドに相談があったので私が立ち合いをさせてもらうわ。夜勤明けなので早く終わらしてほしいのだけれど、何か言いたいことがある人はいるかしら……」バーバラが眠たそうに四人の顔を見ながら話を切り出した。
「……ごほん」ボルゾイが咳払いをする。咳払いをするが話が続かない。
「……」エレナリアが眉をひそめてその様子を見ている。ルカは不安そうにエレナリアの袖を握っていた。
「……昨日はすまなかった」シンが先に口を開いた。頭を下げた。そして横目でボルゾイを見た。
「お、おい。シン……オヌシが謝る必要はないぞい」
「そうです。あなたは紳士的にふるまっていたと思います。その隣のひげもじゃとは違って……ね」エレナリアがボルゾイの方をじっとりと一瞥した。
「……!」ボルゾイがそれを聞いて無言で立ち上がった。顔が引きつっていた。
「……エレナ!」ルカがすかさずエレナリアの袖を引いた。そして首を横に振った。エレナリアが少し慌てて、咳払いをした。
「……んん!あの……私も……その大人げなかったです。申し訳ありませんでした。あの……ボルゾイさん、今のことも含めて申し訳ありませんでした」エレナリアが深々と頭を下げた。
「……申し訳なかったぞい」ボルゾイがぼそりとつぶやくように言った。
「おい、ボルゾイ……」シンが刺すような眼でボルゾイをにらんだ。
「……っ」ボルゾイが数瞬考えたのちに大きく息を吸った。
「エレナリアさん、ルカさん、申し訳ありませんでしたぞい!ごめんなさいぞい!」ボルゾイが深々と頭を下げた。大きな声がギルド内に響いた。
「……」ボルゾイの声量とは裏腹に、その場に沈黙が続いた。
「終わったのかしら。私はもう行っても大丈夫なの?」バーバラが困ったように、だがけだるげに声を上げた。
「Cランク昇格のために協力してほしい」シンはルカとエレナリアに向かって頭を下げた。
「ワシからも頼むぞい」ボルゾイも同じように頭を下げた。
「はぁ……わかりました。まずは連携を確認しましょう。シンさん、ボルゾイさん、よろしくお願いします」エレナリアが頭を下げた。ルカはそれを見て慌てて頭を下げた。
「ふぅ~……もう大丈夫なようね。私は帰らせてもらうわ。クエストは掲示板を見てエミリアに声をかけて頂戴。眠いったらありゃしないわ。みんな仲良くするのよ~」バーバラは、手を振りながら、くねくねと体を揺らし、いなくなった。
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エレナリアはDランクの依頼書を眺めていた。シンも同じようにいくつかの依頼書を眺めていた。
「これなんかどうかしら……」エレナリアが手に取ったのは、ワイルドウルフという草原に生息する狼のモンスターの討伐依頼だった。
「狼か……」シンは依頼書をのぞき込んだ。
――狼型のモンスターは足が速そうだ。今まで戦闘経験がないが、問題はないか……
「ルカと私は、山に生息するロックウルフを連携で倒したこともあるので比較的やりやすいです」
「そうか……具体的にはどういう連携だ」
「私は、氷と風の魔法を得意とします。氷で足止めをして、ルカが連打で倒したり、ルカが陽動して私が風の刃で倒したりとそういう連携をしていました」
「俺は守備型だがその場合はどう戦う」
「そうですね。シンさんが囮、私が牽制や捕縛をして、ルカに死角を狙ってもらい、ボルゾイさんには回復や支援に専念してもらう形です。これも同じようなフォーメーションでの経験があります」
「……異論なしだ」シンはうなずいた。
――よく考えられている。このエレナリアというエルフは戦略立案ができて、洞察力も高い。初めはボルゾイと同じような直情型かと思ったが、そうでもなさそうだ。
そのやり取りを横目にボルゾイとルカは話をしていた。
「ルカさん、エレナリアさんとは長いのかぞい?」
「いえ、まだ一か月に満たないくらいです」
「そうかぞい?仲が良さそうなのでかなり長い付き合いかと思ったぞい」
「そうですか? まあ……いろいろありましたので……」
「いろいろぞい?」
「ええ……いろいろ」
「どんなことぞい?」
「えーっと……」少し答えにくそうな顔をするルカ。ボルゾイはその様子を不思議そうに眺めていた。
――初対面でこの人エレナと喧嘩するし、距離が近い。でも、ダリオみたいなちゃらちゃらした感じでもない。今までにいなかったタイプだな……ちょっとやりづらい……
「ボルゾイ、クエストが決まった。カウンターに行くぞ」シンが二人に声をかけた。
「わかったぞい!ルカさんも行くぞい」ボルゾイは話を切り上げてシンの方に向かった。
「あ……はい!」ルカも後に続いた。
ギルドカウンターでエミリアが四人が並んでいる様子を見つけると、安心したような声を出した。
「ああ、皆さんよかったです。話はまとまりましたか」
「ああ……助かった。ありがとう」シンはエミリアにお礼を言った。ルカは後ろからその様子を複雑そうな顔で見ていた。エミリアはその視線に気づき、ルカを見たが、ルカはすぐに視線を外した。
エミリアは話を続けた。
「クエストですか?」
「ああ……四人でワイルドウルフの討伐に向かう」
「かしこまりました。Cランクのお二人もいて、シンさんとボルゾイさんなら余裕があると思いますが油断しないでくださいね」
「ああ……わかっている。ところでビアは見なかったか」シンがあたりを見ながら質問した。
「えーっと……ビアさんならカルラさんが話があると言って今はギルドマスターの部屋にいますね。相談事があるようでした」
「そうか……」
「あ。そうでした。エレナリアさん、ルカさん」エミリアが思い出したかのように、二人の方を見て声を上げた。
「え、私ですか?」ルカが驚いた。エレナリアも声に反応して前に一歩出た。
「ええ、お二人です。夕方にカルラさん、この街のギルドマスターが話をしたいといっていました。お時間いただけますか?」
「どんな用ですか?」ルカが尋ねた。
「具体的には聞いておらず、少し面会をしたいと。新しくギルドに来た方には、過去の経歴の確認も含めてお話をする機会も多いのであまり硬く考えなくて大丈夫です」
ルカは不安そうにエレナリアの方を横目で見たが、エレナリアが小さくうなずいた。
「そうですか……わかりました。夕方ですね」ルカもうなずいた。
「お願いします。それでは皆様お気をつけて」エミリアに見送られ、四人はギルドを後にした。
――――――――――
四人は草原についた。早速ワイルドウルフの群れに出会った。狼は五体いた。中央前方に二体、左右に一体ずつ。奥に一体。すべて中型の個体だった。
「シンさん、ボルゾイさん、ルカさん、説明した通りの布陣でお願いします」エレナリアが氷の魔法を展開して左右の二体を足止めした。
シンは中央の二体の前に走り、挑発した。二体がシンに近づいた。一体の狼が飛びついた。シンは剣で牙を受けると横に受け流し、態勢を崩した。
もう一体が近づいた。それを身をかわして避けると同時に、ボルゾイは光術を打ち込んだ。二体目の狼に当たり、動かなくなった。
シンが、体勢を崩した狼の方を向くと、ルカがすでに側面から攻撃していた。一撃、二撃、三撃。
その狼も動かなくなった。シンはルカの方を目だけで見た。
――速い。しかも、急所を狙った精度の高い連撃だ。相当研鑽を積んでいる。
二体の狼はエレナリアの氷に地面へ足を固定されもがいていた。シンはゆっくり近づくととどめを刺した。
もう一体の狼は逃げて行った。
「……問題ないな」シンは三人を見つめて言った。
「ええ……そうですね。珍しい剣の使い方ですね。この辺りの剣術ではないようですが」エレナリアがシンに近づきながら聞いた。
「……ああ。昔、遠い地で剣を習っていた。半分は独学だ」
――このエルフの女性も相当できる。魔法の知識がないから底が見えないが、何より見透かされるような感覚がある。注意したほうがいいか。
ボルゾイは、そのやり取りを聞いてルカに声をかけた。
「ルカさんはその体術はどこで習ったぞい?」
「え、遠いところでですね。故郷が離れた場所にありましたので」ルカは少しごまかした。
「シンと同じようなことを言うぞい」
「そうなんですか……」ルカは目をそらした。
「あ、そうだ、エレナ。素材を取った方がいいんだよね」話を変えるようにエレナリアの方にかけていった。
「なかなか難しいお嬢さんぞい」取り残されたボルゾイがつぶやいた。
――――――――――
その後も三回ほど数体の狼の群れに遭遇したが、同じように連携で退治した。
ギルドに戻り精算を終えると、シンとボルゾイは二人に挨拶を交わしてどこかへ去った。
エレナリアとルカは、カルラに会いにギルドマスターの部屋に来ていた。
「入りな」カルラが扉の向こうから声をかけた。
エレナリアが扉を開け、ルカがそれに続くように部屋に入った。
カルラは机に肘をつき二人を見上げた。
「まあ楽にしな。あたしはラステルのギルドマスターのカルラ・ゼーリングだ。よろしく」
「よろしくお願いします」エレナリアとルカは同時に答えた。
「私はエレナリア、こちらがルカ・クレインです」
「ああ、知ってるよ。ちょっと話を聞かせてもらいたくてね」
「どんなお話ですか……?」エレナリアが少し警戒した様子で質問した。
「ああ、そんなに変な話じゃないよ。マリアから二人がラステルに来るからよろしくといわれていてね。ついでにいくつか聞きたいことがある。一つは「ひねくれ者」というスキルのこと、もう一つはルカ、あんたにかかわることだ。エレナリアには席を外してもらった方がいいかもね」
「私のこと……?何ですか……?」ルカが不安そうに尋ねた。
「それは今は言えないね。あんたにかかわる重要なことだ」
「……エレナと一緒の方がいいです」ルカはエレナリアの方を見て手を握った。エレナリアはその手を握り返した。
「後悔はしないかい?」
「……するかもしれません。でもエレナならいいです」カルラの方を見据えた。
「は……どこかで見たようないい目だね。じゃあ聞こうかね」
カルラが机から立ち上がるとゆっくりとルカに近づいた。ルカの指に力が入った。エレナリアはルカの手を指でそっと撫でた。
「ユイカ・タキシタ。あんた転生者だろう」
突然の質問にルカは目を見開いた。静寂が周囲を包んだ。
========== 【作者より】
読んでいただきありがとうございます。
シン、ボルゾイ、ルカ、エレナリアがついにパーティを組みました。挿話を含めて約30話かかりましたが、ようやくここまで来ました。
長いなと思われる方も多いと思いますが、それぞれの成長がなければうまく出会うこともなかったのかなと思っています。
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