第22話「ルカ(結華):それぞれの想い――新たな旅路」
転生十六日目の夕方。再度四人はギルドのカウンターに集まっていた。
「エレナリアさん、ルカさん、改めましてCランク昇格おめでとうございます。まずはお二人のギルドカードを更新しますのでご提示をお願いします」
「はい、お願いします」ルカとエレナリアがそれぞれのカードを渡した。
―― ルカ・クレイン LV:35 ランク:C
STR:A DEF:D SPD:A VIT:B MND:C MAG:F DEX:A
LUK:B HP:D MP:E
スキル:【中級体術 LV4】【疾風怒濤 LV5】【クイックネス LV4】
【ひねくれ者 LV7】
――
―― エレナリア LV:48 ランク:C
STR:F DEF:D SPD:D VIT:C MND:A MAG:A DEX:B
LUK:C HP:D MP:B
スキル:【中級水術 LV7】【中級風術 LV7】【氷縛 LV5】【嵐の足枷 LV4】
【魔封の霧 LV2】【魔法解析 LV5】【魔力付与 LV3】【看破 LV4】【水癒 LV3】
【清風 LV1】
――
マリアはルカのギルドカードを眺めて言った。
「やはり、ひねくれ者スキルレベルが下がっていますね」
ダリオがそれをのぞき込んだ。
「ほんとだ。前はLV10だったのに今は7まで下がってる。劇的に下がったな。なんで?」
「スキルは、経験に基づく感情の変化などでもレベルが上がることはあります。ひねくれ者という能力の特性上、ルカさんの心境の変化でしょうか」
ダリオはルカの方を向いた。
「もしかして俺たちのこと好きになっちゃった?」
「今、少し嫌いになりました」ルカはそっけなく返した。
「ちょ……冗談だよ!冗談」ダリオが焦って弁明した。
ルカは少し笑ってマリアに答えた。
「心境の変化でいうと今まで悩んでいたんですが、人を探すことを前向きに考えたことでしょうか。あとは、一人では限界があるなと感じました。周りをもう少し頼ろうと思えました。ただ……」
ルカは少し伏し目がちになり、つぶやくように次の言葉を添えた。
「まだうまくできませんが……」
「そうですか。ただ、その心持ちの変化こそが、C級以上の冒険者に必要なことです。仲間を頼れない人間は、他者からも頼られません。信用ができないからです」
マリアはルカを見て続けた。
「あなたは一回目の試験の時、自分本位で周りを見ていませんでした。ただ、自分が役割をこなすことに終始していた。それは間違いではありません。ただ、正解でもありません」
「大きな成功や、大きな結果を残すことは、時には挑戦をし、痛みを伴うものです。二回目の試験では見事に期待を超えてくれました。正直あそこまでやれると思っていませんでした」
「ただ一点懸念があるとすると、あなたはまだまだ未熟です。向上心があるのは認めますが、私が合格を告げたときはちゃんと喜んでほしかったです」
「いや……前回本当に悔しかったので……」
「正直私のことをなめているのかと少し頭に来ました」
「……すみませんでした」
「まあ、その実直さはあなたの強みであり、危うさでもあります。今後は仲間を頼って励んでください」
エレナリアの方を向いてマリアは続けた。
「エレナリアさんの立ち回りや指示は、元Cランクということすら疑いたくなるレベルですね。正直なところAランクでも遜色がありません。過去に高レベルのパーティに所属していたことがあるのではありませんか」
「……ええ。少しの間だけ。遠い過去ですが……」エレナリアはそう返すと下を向いた。
マリアはエレナリアの様子を見て、話題を変えた。
「ルカさん、先ほど人を探すのに前向きになったということですが、Cランクになったことで大きく二点の特典があります。一つはスタティクス大陸内の他のギルドに所属する冒険者の情報開示が可能になります。もう一つはギルドが管理する文書の一部を閲覧可能となります」
「文書?」
「ええ、過去のクエストの情報、秘密保持が必要な情報、魔術書やスキルブックなど様々な種類の情報にアクセスが可能になります」
「そうなんですか。必要な時に相談します」
「そうですね。よろしくお願いします。さて、人探しをしているようですが検索してみますか?」
「お願いします。シン・タキシタで登録されていると思います」
「少々お待ちください」マリアは手元の道具を操作した。
「シン・タキシタ……ありますね。こちらです」マリアは登録されている情報を魔導盤に表示して見せた。
そこには、ラステルのギルドに所属していること、現在はEランクで、直近は採掘場の調査クエストを受けていることが書かれていた。
「ラステルのギルドでクエスト中のようですので、ラステルに向かうのが一番会える確率が高いでしょう。ギルドの受付に言伝をしておきましょうか」
「あ……いえ、あの、その人には私が探していることを伝えたくはないんです。ラステルに向かって私から声を掛けます。ギルドへの連絡は不要です」
「……わかりました。あと、事務的なことをもう二点お伝えします」マリアは人差し指を立てた。
「一点目、Bランクへの昇格には王都が認めたギルドで試験を受ける必要があります。現在はスタティクス王国の王都セントレグノ、交易都市ヴァルポート、そして、ドワーフの国グランバルトの三箇所です。もし、昇格をご検討の場合はそのことを念頭においてください」マリアは中指も立てて続けた。
「二点目、Cランクからの調査クエストではAクラス以上のモンスターが出ることも少なくはありません。討伐クエストのレベルも一気に上がります。くれぐれも無茶はしないようにしてください。私からは以上です」そう事務的に告げると、最後にルカの顔を見て一言加えた。
「良い旅を。シン・タキシタさんに会えるといいですね」
「はい……ありがとうございます。マリアさんもお元気で」ルカは深々と頭を下げてカウンターを後にした。
――――――――――
Cランク昇格の説明を終えてギルドに隣接する酒場に集まったルカ、エレナリア、ダリオ、トビアスの四人。
「ラステルに向かうんだよな。申し訳ないけど俺とトビアスはここでお別れだ」
「ラステルには入れないんでしたっけ……」ルカが尋ねた。
「あー……カルラの姉御。ラステルのギルドマスターに『次に街で見かけたら殺す』って釘を刺されているってのもあるけど、実はちょっと野暮用で」
「野暮用?」ルカは物騒な言葉は聞き流した。
「ごめん、それは言えないんだわ。クエスト関連の打診があってね。この後説明を受けることになってる」
「トビアスさんもですか?」
「ええ、私もダリオと一緒に話をすることになっています。本当は心配なのでラステルの近くまでは一緒に行きたいんですが……」トビアスは頭を下げて答えた。
「わかりました」ルカは椅子を引いて立ち上がると、それぞれの顔を見て名前を呼んだ。
「ダリオさん」「トビアスさん」
そして、大きな声で頭を下げた。
「今まで本当にありがとうございました!」
「おいおい……大げさだよ。またそのうち冒険者をやってればどこかで会うさ。レイドクエストっていう大きな王都の依頼もあったりするからさ。そんなところでばったり会ったら仲良くしてくれよ」ダリオが照れながら頭をかいた。
「エレナリアさんはルカさんについていくんですか?」トビアスがエレナリアの方を向いた。
「ええ……ルカと一緒にラステルに行くつもりです。お二人の分もルカを見ておきますね」
「エレナリアさん、よろしく頼む。うちのひねくれ者は危なっかしいからな」ダリオは笑った。
「あ!ダリオさん、そういうこと言わないでよ。ねえ、トビアスさんもなんか言ってよ」ルカが顔を赤くして文句を言った。
「そうですよ。いつもダリオは失礼です」トビアスがすかさずルカを援護した。
「おいおい、いつからそんなに息が合うようになったんだよ」ダリオは笑った。
ルカも、トビアスも笑った。
エレナリアは三人の様子を見ながら少しだけ声を出して笑った。
「ふふふ……」
ルカはその声を聞いて満面の笑みを浮かべた。
「エレナ。これからもよろしくね!」
四人はその後もしばらく談笑した。そして、それぞれの目的に向けて別れて歩き出した。
――――――――――
それから一時間後。ルカとエレナリアたちと別れたダリオとトビアスは、ギルド奥の応接室の前に呼ばれていた。そこにはノエルと、一人の短い金髪の男が立っていた。その男は煌びやかな銀の甲冑に身を包み、長年鍛え上げられたであろう屈強な体で、隙のない佇まいを見せていた。腰には王国の紋章が精緻に刻まれた白銀の長剣を携えていた。
「あら、あなたたちがダリオさんとトビアスさんなんですね」ノエルが二人に気付き声をかけた。
「たしか、ノエルさんだったか。よろしくな。そちらの方は」ダリオが男の方に目を向けた。
「申し遅れました。私はアルノ・ガルディス。セントレグノ王立守護騎士団で副騎士団長を務めております」
「守護騎士団の副団長……殿が俺たちに何の用ですか」ダリオは怪訝な顔をした。
「詳しい話は、団長がいる中でお願いします」
「団長までいらっしゃるんですか」ダリオは苦い顔をした。
「はい……ただ、団長ですが少し特徴的な方で……特にちょっと今日は元気がいいというか、昂っているというか……」アルノが申し訳なさそうに告げた。
「どういうことです?」ダリオは話についていけていない。
「はぁ……」ノエルはため息をついて空を見上げた。
「と……とりあえず会っていただければわかります。中にどうぞ」アルノがドアノブに手をかけると、ダリオとトビアスに中に入るように促した。
中に入ると応接室の長椅子に、一人の長身の女性が腰掛けていた。
燃えるような赤髪を高く結い上げ、赤と青に分かれた双眼を輝かせていた。彼女の横には同じく赤と青の双剣が置かれていた。軽装の奥に双剣使い特有の均整の取れた肉体を宿し、見る者を圧倒するような鋭くも美しい威風を放っていた。
「来たか……」そういうと女性は立ち上がりダリオを見た。
「俺はダリオ・ヴァルト、こいつはトビアス・ヘルツです」ダリオが会釈をして、トビアスも続いた。
「王立騎士団長にして、Sランク冒険者"王国の守護者"のセルジア・ヴァイゼンだ。よろしく頼む。ところで……」
セルジアは立ち上がり、ダリオたちに近づいた。赤と青の瞳をきらめかせると尋ねた。
「君たち!殲滅しているか!」
「……はい?」ダリオとトビアスは何を聞かれているのかわからなかった。
「殲滅しているのかと聞いている。冒険者たるもの街を守るために、敵を討伐するために、情報を集めるために、依頼をこなすためにモンスターを殲滅し、殲滅し、殲滅しつくしているのだろう!?」
「え……ああ……えっと……殲滅……かどうかはわからないですが、一応モンスターを倒してはいます」ダリオがたじろいだ。
「よい!実によいな!私は先日の遠征では、同行した冒険者が優秀すぎて、私の元には敵が回らず、全く殲滅できずに終わったからな!うらやましくて仕方がない!」セルジアは鼻息を荒くして天を仰ぎ、叫んだ。
「……あの……失礼を承知で聞くんですが」ダリオが頭をかきながら恐る恐るセルジアに尋ねた。
「守護と殲滅は真逆な気がするんで……」
セルジアはダリオが言い切る前にかぶせた。
「何を言っている。民を守るため、国を守るためには殲滅せねば。モンスターを殲滅せねばいつかは守護も破られてしまうだろう。貴殿は馬鹿か」セルジアは肩をすくめて首を振りながら答えた。
「えっと……ああ、もういいや。馬鹿でいいです。それで御用というのは……」ダリオはアルノの方をにらむように見た。
「んんっ!」アルノが咳ばらいをすると横から割って入り、ティーカップをセルジアに差し出した。
「団長。しばらくハーブティーでも飲んで落ち着いていてください」
「む……そうか。いただこう。いい香りだな」セルジアは穏やかな顔で、茶を楽しんでいた。
「さて、ダリオさん、トビアスさん。カリーナ・ヴァルトさんはご存じですよね」アルノが気を取り直して続けた。
「……」ダリオは少し間を置いた。
「ご存じも何も俺の妹だ。それがどうした」ダリオがアルノをにらんだ。
「実は最近王都の周辺で強いモンスターが増えているんですが、その近くでカリーナさんと思しき方の目撃情報があります」
「……は?」ダリオは言葉の意味を理解できなかった。
トビアスの方を見た。
「……え?」トビアスも混乱していた。
「ですから。カリーナさんの目撃情報があります」アルノは重ねて説明した。
ダリオが机をたたき立ち上がった。
「でたらめを言うな!妹は、カリーナは一年前に死んだ!ギルドにも報告して……遺体も処分した。俺がこの目で見たんだ……」
ダリオは拳を握りしめ、わなわなと震えていた。
「ギルドへの報告は確かに上がっていますが、遺体を回収した記録がどこにもありません」
「……何だと。そんなはずがあるか。俺が洞窟に派遣された職員と話をして回収してもらったんだぞ!?」
「その職員の名前を憶えていますか」
ダリオは目を見開いた。記憶を探るように目を動かした。
「いや……あの時は必死で……」
「報告を受け取ったのはラステルのエミリア・フォーレという女性ギルド職員ですが、彼女の元に遺体の処分という指示は降りてないようです」アルノは一枚の紙をダリオに差し出した。
「そんな……そんなわけがあるか。じゃあカリーナはどこにいるっていうんだよ」
ダリオは紙に目を通すと、狼狽したままうなだれた。
「それを探して原因を殲滅するのが、私たちの役割だ。隣の大陸、グランサクレの魔法教団がスタティクス王国にちょっかいを出しているようだ。それに関係があるのではと、私たちはにらんでいる。カリーナのことを知ってる二人に調査の協力をお願いしたい」セルジアは空になったティーカップを、くるくると回しながら言った。
「おいおい、話のスケールがでかすぎてついていけねぇぜ。あいつは死んだんだ!第一、万に一つ生きていたとして、カリーナがそんな教団に協力なんかするわけがない!」再度机をたたくダリオ。
「その教団には心を操る何らかのスキル、例えば洗脳のスキルを持った幹部がいるという噂があります。まだ調査中ですが……」アルノがセルジアのハーブティーを注ぎ足しながら補足した。
「守護騎士団はカリーナが生きていて、洗脳された挙句、悪事に手を貸してるって言いたいのか?」ダリオは震えながら、セルジアとアルノの両方をにらみつけた。
「その可能性はあると考えている」セルジアはハーブティーを堪能しながら、淡々と答えた。
「……ちょっと考えさせてくれ。頭が追い付かない」ダリオは両手を組んで下を向いた。
「ああ……だが、君たちにとって悪い話ではない」セルジアが告げた。
「……」トビアスはその話を終始無言のままじっと聞いていた。
そして、口を開いた。
「ダリオ、協力しましょう」
「ああ!?トビアス、何を言ってる」ダリオは顔を上げてトビアスを見た。
「仮に彼女が生きていれば、私は彼女が悪事を働いていたとしても会いたい。ダリオもそうでしょう?」トビアスも同じようにダリオを見た。
「……ああ」
「それであれば答えは一つです。彼女を探して悪いことをしていたら説教してあげましょう」
「……そうだ……な」ダリオは目をつむった。
「……」
目を開き、セルジアとアルノの顔を見た。
「わかった。団長さん、副団長さん。この話受けるぜ。協力させてくれ。妹を探す。取り戻すために全力を尽くすぜ」
「賢明だ。よろしく頼む。具体的な話はまた、明日以降に」
セルジアは手を差し出した。ダリオはその手を握った。トビアスが静かに手を重ねた。
――――――――――――
ダリオが扉を開けて外に出ると、ノエルが待っていた。
「どうなりましたか」ノエルは心配そうにダリオとトビアスを見た。
「……協力することになった。ノエルさんも調査に参加するのか」ダリオが答えた。
「ええ……少し、私も関係がありますので」
「そうなのか。あ~あ……いろいろおかしな話が多そうで嫌になるよな」ダリオは背伸びをした。
「本当にそうです。これから忙しくなりそうですね」
「ああ……本当に……クソったれめ」ダリオは吐き捨てるように言うと、ギルドホールの方に続く道を歩き出した。
――――――――――
転生十七日目の朝。ルカとエレナリアはラステルに向かう馬車に乗っていた。
「いよいよですね」エレナリアは少しずつ小さくなるポルティアの街を眺めながらルカに言葉を投げかけた。
「うん……」ルカは頭を触った。銀のヘアピンを指で撫でた。
「不安ですか」
「うん……」
「あの変なことをお願いするんだけど……」
「何ですか」
「シン・タキシタさん。あいつにあっても私が探していることや、私があいつを知っていることを言わないでほしい」
「それはなぜですか」
「……知られたくないから。まだどう接していいかわからないから」
――エレナにも実はあいつが父親で、あいつが私を探していること……私たちが別の世界から来たことはまだ言えない。
「……わかりました」
「ありがとう」
「ルカ」
「ん?どうしたの?」
「以前にも伝えましたが、言葉は伝えなければ腐ります。後悔のないように。私もあなたを支えます。信じてください」
「うん……信じてるよ」ルカは少し目を伏せて答えた。
「そうですか」エレナリアは少し悲しげな眼で返すと、それ以上は何も聞かなかった。本を手に取り、眺め始めた。
同じようにルカはヘアピンを外し、眺めた。
――あいつが「強い子です」と一言だけ店員さんに伝えて選んだ……お母さんの形見。あいつはいつも一言だった。会ったらどんな話をするんだろうな。ポルティアからラステルまで約一週間。一週間後にあいつに会う。七百日間も逃げ続けたあの時から考えると短い。短いけれど、向き合うと決めた今は長い一週間になるんだろうな。やっぱり怖い。でも、前に進まなきゃ。乗り越えなきゃ。
========== 【作者より】
読んでいただきありがとうございます。
いよいよルカがラステルに向かいます。それと同時にダリオ、トビアス、ノエルの物語も動き出しそうですね。彼らの活躍はしばらく先になりますが、今後の楽しみとして頭の片隅に置いておいてください。セルジア、アルノの登場で新たな勢力も明らかになりました。今後どのような動きになるのかも楽しみですね。余談ですがセルジアのキャラは書いていて楽しいですが、勝手に走り出すので困ったものです。
独立挿話として結華の過去の話も同時公開しています。そちらも一読ください。
本日、以下スケジュールで更新予定です。
17時10分~22時10分まで1時間おきに23話まで公開。
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