第21話「ルカ(結華):超えなければ――"破壊者"との再戦」
ルカたち四人はマリアに連れられてギルドの地下にある大理石の広場に到着した。
拳を握るルカ。白くなるほど握りしめていた。エレナリアがそれを見てルカの拳に手を添えて静かに首を横に振った。
「エレナ……」ルカは拳の力を少し緩めた。
マリアは四人から少し距離を取るように歩き、部屋の中心につくと振り返った。
「さて、準備はよろしいですか? 説明は省略します」
マリアは一呼吸だけ間を置いた。
「それでは、始めます」言い終わるや否やマリアが四人に向かって駆けだした。マリアが蹴った地面が凹んでいた。
それと同時にダリオが前に出た。エレナリアとトビアスが距離を取った。ルカはダリオの左側からマリアに回り込むように走った。
マリアはダリオに向かって右拳をふるった。
ダリオは剣の背でそれを受け流すと、マリアのがら空きの胴を薙いだ。
「うまいですね。でも甘い」マリアは左手の親指と人差し指だけでその刃を防いだ。つまんでいた。
ダリオが距離を取ろうとするが剣が離れなかった。腕をひねり何とか離れたが、その一瞬のすきをマリアは見逃さなかった。再度マリアが拳をふるった。
部屋に衝撃音が響いた。何かが砕ける音がした。
ダリオは後方に飛んでいた。無傷だった。
トビアスは距離を取りながら、ダリオの前に光の壁を作っていた。
「トビアス。ナイス」ダリオは態勢を立て直しながら静かに告げた。
「一発で壊されるってどういう拳をしているんですか」トビアスが額をぬぐった。
再度マリアがダリオに近づいた。その時、大型の風の刃がマリアを襲った。
マリアはそれを腕ではじいた。弾いたその後ろから同じ規模の風の刃が飛んできた。それを腕で受け止めた。腕から血があふれた。だが傷は浅かった。
エレナリアはもう一発同じ刃を放った。また弾かれた。ダリオが前傾姿勢で風の刃の影から駆け寄り、マリアの足を薙いだ。マリアはそれを小さく跳躍して避けると体をひるがえし、その勢いでダリオを蹴った。
ダリオは刃でそれを受けた。吹き飛んだが受け身を取った。
マリアはダリオを追いかけた。
「ルカ!」エレナリアが声を上げた。大きな氷塊が静かに、だが勢いよくマリアの上に落ちた。マリアはそれを飛んで避けた。
「なかなかの連携と威力ですね」マリアは感心したように、ダリオとエレナリアを一瞥した。
その時、影がマリアに近づいた。
ルカがマリアの飛んだ先を遮るように近づくと、側面から腹部に一撃、二撃、三撃、四撃と連打を叩き込んだ。マリアの腹部は硬かった。マリアは五撃目で顔をゆがめたが、すぐに反撃した。ルカはその攻撃を距離を取って避け、氷塊の裏に隠れた。
「先日よりは頭を使っているようですね」マリアはルカに話しかけた。
「ええ。前は頭に血が上ってました。それより……」
「大鎌は使わないんですか?」ルカは姿を現し、マリアを見つめ尋ねた。
「……あれはあなたに身の程を知らせるために使っただけです。昇格試験には過剰です」マリアは冷ややかな声で答えた。
「使ってください」
「……今……何とおっしゃいましたか」
「使ってくださいと、お願いしました」
「過剰だと伝えましたが、聞こえませんでしたか」マリアが眉をひそめた。
「聞こえています。使ってくださいと伝えましたが、聞こえませんでしたか?」
「……」マリアは答えなかった。
「あれを超えなければ前には進めない」ルカは続けた。
――勝ってこい。あいつがいたらそういうだろうか。勝つよ。今度は勝つ。
「……」
マリアはルカから距離を取りながら、左耳のイヤリングを外した。そして握りこむと大鎌が現れた。
「後で文句を言っても知りませんよ」
「そんなこと言いません。勝ちますから」ルカはマリアを見据えて言った。
「……口では何とでもいえます。結果で……」
マリアは体全体をひねり、大きく振りかぶった。
「示してください……!」
マリアが体を回すと大鎌はマリアを離れ、ルカに向かって放たれた。
ルカはマリアが投げると同時に左に走った。ダリオは鎌の方に走り、上に打ち上げた。
「これが例の……しかし重い……何度も弾けねぇな……ルカさん!短時間で攻略するぞ!」
「はい!」
「大口を……」マリアは不快そうにそのやり取りを見た。
マリアはルカの方を向き、駆けだした。
「おっと!お嬢さんの相手は俺だ」ダリオがマリアの前に回り込んで立ちふさがった。
「呼んでいませんよ」ダリオに向かって拳をふるった。ダリオはそれを避けた。
トビアスは支援魔法を使い、ダリオの身体能力の強化に集中していた。
「みなさん、長くはもちませんよ」トビアスは周囲を見渡した。
弾かれた大鎌は二本に増えていた。大鎌はルカを狙って飛んだ。エレナリアがそれを風の刃で勢いを殺した。
大鎌が二本、四本、八本と増えた——エレナリアが必死に軌道をそらし続ける中、ルカは隙間をかいくぐりながら前に進んだ。徐々にだがマリアへの距離を詰めた。
氷塊の影を走り、ダリオの反対側からマリアに向かった。
マリアはダリオと応戦しながらちらりと後ろを見た。
その瞬間をダリオは見落とさなかった。
「うおおぉらぁ!」
マリアの腹に渾身の突きを放った。
マリアは剣を握り、止めた。手のひらから血が噴き出した。
「こ……これを止めるかよ……」
「おしかったですね。終わりです」マリアは剣と一緒にダリオを引き寄せた。
その勢いのままダリオの顔に蹴りを繰り出した。
トビアスが光の壁で防ぐが、蹴りは光の壁ごとダリオの顔を打ち上げた。何かが割れるような嫌な音が広場に響いた。
それと同時に無数の風の刃と、氷の礫、いや、氷の塊がマリアを襲った。
「な……」マリアはルカの存在は意識していたが、エレナリアからの攻撃は想定外だった。
両手を使い刃と氷塊を防いだ。意識がエレナリアに移った次の瞬間、
ルカの拳がマリアの顔をとらえた。
こめかみに一発。
「くっ……」人体急所への衝撃にさすがのマリアも揺らいだ。
ルカは拳を握りこんだ。
——手ごたえはあった。効いた。畳みかける。
マリアが揺らいだ数瞬の間にルカは顔面、顎、人中、こめかみ、そして、みぞおちに五連打を叩き込む。合計六発。
「ぐっ……」マリアの体が少しだが、くの字に折れた。
マリアは前かがみになりながら腕を振った。ルカはまた距離を取って氷塊の裏に消えた。
「……」
マリアは自分の腹を撫で、手の平の傷を見た。
一呼吸おいて空を見上げた。
鎌の数は十六本に増えていた。
「合格です……」そういうとマリアは手をたたいた。大鎌は一本を残し霧散した。残りの大鎌はマリアの元に戻り、手の中でイヤリングに形を変えた。
「え……」ルカは唖然としていた。トビアスはダリオに駆け寄っていた。エレナリアは警戒を続けていた。
「おー、いてて……トビアス。俺の首……ついてるよな」ダリオは首を鳴らした。
「ええ。なんとか」トビアスは治癒魔法をかけながら返した。
「合格です。Cランク昇格試験は以上で終わります」
マリアはイヤリングを付けなおしながら事務的に告げた。
「え……でも、まだ……」ルカは理解が追い付いていないようだった。
「はぁ……」ため息をつくマリア。右耳のイヤリングを触りながら説明した。
「前線を離れたとはいえ、私は元Sランク冒険者。それに私の大鎌、カレイドサイズはイヤリング一つにつき最大六十四本まで増えます。本気を出せばSランクの冒険者が相手でも防ぐのが難しいほどです。Cランクレベルで十六本も使うわけにはいかないです」
「六十四本……」エレナリアはそうつぶやくと警戒を解き、四人に近づいていった。ルカの肩に手を添えた。
「合格……ですか」ルカは納得していない様子だった。
「正直なところ驚いています。見違えました。一日で何があったんですか」
「……別に何もないです」ルカは恥ずかしそうに答えた。
「ルカさんが俺たちにすべてをさらけ出してくれたんだよ。な、トビアス」ダリオが茶化すように言う。
「そういう言い方はしない。あと、巻き込まないでください」トビアスはダリオに治癒魔法をかけながら続けた。
「不潔ですね……」マリアは少し眉をひそめた。
「ちょっと!ダリオさん!変なこと言わないで。マリアさんも誤解です。ちょっと昔話をしただけです」ルカは両手を振りながら顔を真っ赤にして弁明した。
「……」マリアはルカを見つめた。
「いずれにせよ今日の連携は見事でした。その調子で精進してください。いつか横に並んで戦える機会があるといいですね」マリアは淡々と事務的に伝えた。
「さて、試験は終わりです。私はここを直してから戻るので皆さんはご退出を。午後に事務的な説明をするので、また後程ギルドに来てください」
マリアは大きな氷塊を見上げながら、そう告げた。
ルカは大きく息を吐いた。
「はい、よろしくお願いします。ありがとうございました!」姿勢を正し、深々と頭を下げた。エレナリア、ダリオ、トビアスとともにギルドの一階に向かう通路を歩き始めた。
マリアはそれを見送るが、「ルカさん、また笑ってんじゃん」というダリオの声を聞き、小さく微笑んだ。
========== 【作者より】
読んでいただきありがとうございます。
今回は前回と違い戦闘描写の多い回でしたがいかがでしたでしょうか。正直テンポよく描写をするのは難しくて、悩みながら書きました。ルカは戦闘や人との会話を通じて少しずつですが成長していっています。さて、彼女は今後どう成長していき、シンとどういう風にかかわっていくんでしょうか。楽しみで仕方ありませんね。
本日、以下スケジュールで更新予定です。
17時10分~22時10分まで1時間おきに23話まで公開。
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