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第20話「ルカ(結華):笑顔と涙――語られる過去」

 転生十六日目。ルカは目をこすりながらベッドから起き上がる。窓を開けると日が昇り始め、空が白から青に変わっていった。潮風が頬をなでた。


 大きく息を吸い、背伸びをする。息を吐いた。


 ――ダリオたちに謝る。Cランク昇格試験の再戦のお願いをする。みんなで作戦を立てる。簡単なことのはずだけど……


 ルカは遥がいなくなり、家を離れたときのことを思い出していた。胸の奥が傷んだ。


 もう一度大きく息を吸って吐いた。目をつむり、両手で頬をたたいた。


「ルカ、おはよう。大丈夫ですよ」


 エレナリアはささやくように声をかけ、微笑んだ。


「エレナ。おはよう。今日はよろしくね」


 ――――――――――


 四人はギルドの奥の席に座り、向かい合っていた。ダリオがまず口を開いた。


「いや~ごめんよ。昨日は変な雰囲気になっちゃってさ。もともとは俺が油断したのにトビアスが絡むからさ。な!トビアスお前酒飲みすぎなんだよ。控えろよ」


「私は一滴もお酒を飲んでませんでしたが」トビアスはまだ納得していないようだった。


 二人があの後どんな会話をしたかはわからない。しかし、ルカは少し救われた気がした。


「あの……」ルカはそれでも震えていた。そっとエレナリアが肩に手を添えた。


「ダリオさん、トビアスさん、昨日は失礼なことを言ってしまい申し訳ありませんでした」ルカは立ち上がり深々と頭を下げた。


「な……ルカさん、いいっていいって。俺がちゃらちゃらしてるのはほんとだし、女にもてたいのもほんとだから。な!トビアス!」


「いちいち私に話を振らないでください。あと、まじめな話をしてるんだから茶化さない」トビアスはたしなめるようにダリオに告げると、ルカの方を向き、続けた。


「それでルカさんはどうしたいんですか?」


「もう一度一緒に試験に協力をしてほしいです。でもその前に聞いてほしい話があります」


「話?どんな」ダリオとトビアスが声を合わせた。


 ルカは大きく息を吸って……


 吐いた。


 そして、ダリオとトビアスの顔を見て話し始めた。


「私、私は遠くから嫌なことがあって逃げてきました。その時も周りのせいにして自分は悪くないって……被害者のつもりでした。トビアスさんの言う通り私だけが不幸なんだって思ってました。でも実際はそうじゃなかった。それを変えなきゃって思ったのにまた同じようにダリオさん、トビアスさんに嫌な思いをさせてしまいました。本当にごめんなさい。許してもらえないかもしれないけどそれだけは伝えたくて……」


 そこまで言ってルカの目から涙がこぼれた。


「な……泣かないでくれよ!俺たちだって悪いんだから!な!トビアス」ダリオがルカとトビアスを交互に何度も見た。


「だから困ったからって私に話を振らないでください」呆れるようにトビアスが言った。


 しばらく沈黙が続いた。


 トビアスがダリオの方に視線を向けた。


「カリーナさんの話をしてあげた方がいいんじゃないですか」


「……」しばらくダリオの沈黙が続いた。ルカの、頬に涙のあとが残る顔を見た。


「……」頭をがりがりと掻くダリオ。観念したように話し始めた。


「はぁ……カリーナってのは俺の妹だ。年は19歳。トビアスと俺、カリーナの三人はパーティを組んでいて以前はラステルで活動をしていた。カリーナは魔法剣士で俺やトビアスよりも強かった。カリーナを主軸として俺がフォロー、トビアスが支援、それが俺たちのスタイルだった……」


 ダリオは上を向き少し考えた。そしてまた前を向くと続けた。


「俺たちは冒険者として成りあがることを夢見ていた。難しいクエストを受けては上のランクをめざした。あの日はBランクの冒険者と一緒に洞窟の調査のクエストを受けていた。そして、あるモンスターと出会った。それは黒い毛並みのキマイラだった……」


「調査だけだったのでけん制して逃げることにした。俺たちは攻撃を加え走った。必死に走った。とにかく走った……」


「洞窟を出たときカリーナはいなかった。後から分かったことだがBランク冒険者がやられていた。カリーナはその場に残って時間を稼いでいた。中に戻った俺たちが見たのは……」


「……」ダリオは下を向きしばらくうつむいたままだった。うつむいたまま続けた。


「カリーナの変わり果てた姿だった……」


「自分可愛さに俺は妹を置いて逃げたんだ……そして大事な……一人だけの家族を俺が殺したんだ。殺しちまったんだ……」


 ルカはそれを涙を流しながら聞いた。

 ――ダリオも逃げたんだ。つらい過去があったんだ。それなのに私はあんなにひどいことを……


「あれはあなただけが悪いんじゃありません」トビアスがダリオの背中を撫でた。ダリオがうつむいたまま黙った。トビアスが代わりに続けた。


「カリーナさんは明るいけれど無鉄砲な方でした。とにかくどんどん前に進む。でも、結果は出す。だから私たちも頼っていたところがあったんでしょうね。でもなんでも一人で抱えて、悩んでいるところも知っていました。それを当時の私たちは見て見ぬふりをしていた」


「だからルカさん、あなたが心配なんです。あなたは人と距離をとって、何でも一人で抱えている。だから私たちは助けたい。カリーナさんの……ようになってほしくない」


 ルカはそれを聞いてまた涙を流した。ダリオとトビアスを見てただ泣いた。エレナリアは目を閉じて二人の話を聞いていた。


「ごめんなさい。私、何も知らずに本当にごめんなさい」ルカは再度大きく頭を下げた。


 ダリオはその声を聞いて顔を上げた。目が赤かった。


「いいんだ、いいんだよ。俺たちは確かにろくでもない人間だ。トビアスにいたってはクレリックの癖にカリーナのことが忘れられなくて酒に溺れちまってる体たらく(ていたらく)だからな」ダリオは笑った。


「な!それを言うならダリオだって人恋しさに何股もしてそのせいでラステルにいられなくなったんでしょうが」


「えー……」ルカは椅子を引いて少し距離を取った。エレナリアはその様子を見て口角を上げた。


「何がいいたいかっていうと……俺たちはこの話もしてないし、こんな人間だから謝る必要はないってこと。助けたいってのも俺らが勝手にやってることだからルカさんは気にしてなくていいってことだよ」ダリオはまた頭をかきながら言った。


「ありがとうございます」ルカは頭を下げた。


「なんか……そういう風に気にかけてくれたことも、話をしてくれたことも嬉しいです」ルカは少し笑った。それを見たダリオが目を見開いた。


「……笑った」


「え?」


「今、ルカさん笑ったよね!?」


「え……いや……」ルカが目をそらした。


「笑ったって!ルカさんが笑ったよ!なあ、トビアス!」トビアスの肩をつかみ揺さぶった。


「ええ……そうですね。ただ、振りすぎです。服が破れちゃいます」


 そして……トビアスの袖が音を立てた。


「あ……わりぃ……」


「あなた、ほんとに何やってんですか!」トビアスがダリオの肩をたたいた。


「ぷ……あはは!何それおっかしい。コントみたい」ルカは声を上げて笑った。


「コント……?」言葉の意味は理解できていなかったが、トビアスとダリオはその様子を見て笑った。


「ほらほら。笑ってるよ!ルカさん!」ダリオが体を前に乗り出した。


「だって……おかしいんだもん……ぷ、あはは、ダメだ、笑うの止まんない……」


 ――久しぶりにこんなに笑った。お母さんがいたときは笑っていたと思う。お母さんが亡くなってから声を出して笑ったことはなかった。こんなに温かいものだったんだ。


 同時に涙があふれた。


「あれ……私なんで泣いてるんだろ……おかしいのに、変だな……」


 ――わかっていた。お母さんがいたころの温かさだった。


 ダリオとトビアスがまた困惑している様子だったが、気にせずに泣いた。エレナリアは何も言わず横にいてくれた。ただ、その空間が温かかった。


 ――――――――――


「ふう……」ルカは水を飲み一息つくと続けた。


「改めてCランク昇格試験に協力してください。お願いします」


「もちろん」ダリオが返すと、トビアスはそれに無言でうなずいた。その様子を見ていたエレナリアが口を開いた。


「マリアさんのカレイドサイズ……数が増える大鎌の威力は強いですが、直線的な動きが多いです。本数が少なければ避けられなくはありません。私が軌道をそらします。ただ、正直マリアさん単独でも十分脅威なので、ダリオさんはマリアさんの動きをできるだけ止めてください。トビアスさんはプロテクトを中心にダリオさんのケアを。マリアさんの攻撃力、フィールドの特性から回復は捨ててもいいです」


「わかった。異論なしだ」ダリオが返し、トビアスがうなづいた。


 エレナリアはルカを見て続けた。


「ルカは、スピードを活かして側面や背後から連打を狙ってください。チャンスは私とダリオさんで作ります。あなたの本領はスピードによる全方位へのかく乱と、死角からの攻撃、そして連打の威力です」


「わかってる。昨日はどうかしてた」


 そこまで話してエレナリアは間をおいて続けた。


「カレイドサイズは三十本くらいになると聞いたことがあります。聞いた話ですし、今回の試験でそこまで出すかはわかりませんが……ただ、その想定もしておいてください」


「三十……」ルカとトビアスは息をのんだ。


「そのカレイドサイズってのはそんなにすごいのか?」ダリオが首をかしげながら聞いた。


「気絶していたので知らないかと思いますが、三本でも十分脅威でした。それが十倍となると……」トビアスが返した。


「なるほどな……まあとにかく気を付ける」


 ――――――――――


 ギルドのカウンターに向かう四人。


「おはようございます。今日はどのような御用でしょうか?」受付に座るマリアが事務的に尋ねた。


「もう一度、Cランク昇格試験を受けます」ルカが答えた。


「そうですか。昨日の今日で大丈夫ですか」


「ええ、大丈夫です。私には頼りになる仲間がいます」


「……」マリアはルカの顔を見た。ルカはじっとマリアの顔を見返した。


「……なるほど。それでは試験会場に向かいましょう」


 そういうとマリアは立ち上がり、四人を連れて試験会場に向かった。

 ========== 【作者より】


 読んでいただきありがとうございます。


 今回は感情描写と会話の多い回でしたがいかがでしたでしょうか。ルカ、ダリオ、トビアス、そしてエレナリアの感情が近づく回です。次回はCランク昇格をかけた破壊者デストロイヤーマリアとの再戦ですね。乞うご期待!


 本日、以下スケジュールで更新予定です。

 17時10分~22時10分まで1時間おきに23話まで公開。

 リアクション、感想、★評価をいただけると執筆の励みになります。引き続きよろしくお願いします

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