第16話「シン(伸二):坑道の調査——届いた気配」
三日後、転生十四日目。
馬車は夜にラステルの街に到着した。馬車を降りてギルドに向かう。
ビアはまだ足を少し引きずっており、シンの肩を借りていた。
「シンさん、申し訳ないですかね」
「気にするな」とシンは返した。
ビアは少し頬を赤くしながらうつむき加減でギルドを目指した。
――――――――――
「シンさん、ビアさん、お帰りなさい」
ギルドの夜番のバーバラは少し心配そうな顔で声をかけてきた。
「ポルティアについたノエルさんからクエストの状況はうかがっているわ。ビアさん大変でしたね。怪我は大丈夫?」
「柳に雪折れなしといいますが、今回は受け流せずもろに両足に刺さったのでちょっとまだ響きますかね。でも大丈夫ですかね」ビアは自嘲気味に言った。
「無理はしないことね」とバーバラはまだ心配そうに言う。
「シンさんたちには申し訳ないですが、一週間程度休みますかね」
「無理は禁物ぞい」とシンの後ろにいたボルゾイが言った。シンも合わせて頷いた。
「あら、ボルゾイさんも。お久しぶりです」とバーバラがボルゾイに気づいた。
「バーバラも久しぶりぞい。実は先日受けたクエストでシンとビアと出会ってな。今は一緒に行動してるぞい」豪快に笑うボルゾイ。
「ビアの怪我を治療してもらった」とシンは短く返すと、
「大切な仲間ぞい」とにやりと笑うボルゾイ。
「あら……ビアさんはシンさんにとって大切な仲間なのね」とバーバラは少しじっとシンを見つめた。
「妬けるわね」とつぶやくように言った。
「……ああ。仲間だ」
「まあいいわ。とりあえずノエルさんからの報告と合わせてクエストの振り返りをしましょ」
「まず、ビアさんとシンさん、草原でのDランクモンスターオーク複数体の討伐、遺跡の調査に加えて、Cランクモンスターハイオーク、およびDランクのオーク、Eランクのコボルトなどモンスターの討伐。特にビアさんは一人でEランクモンスター十体以上、シンさんはCランクのハイオークを単独討伐しているわね。これだけでDランク昇格に必要な条件を満たすくらいの功績だわ」
「加えて、ボルゾイさんとシンさん、Eランクのコボルト九体の討伐。ボルゾイさんはあと一クエストクリアでDランク昇格条件を満たせるわ」
「聞いてて思ったんじゃが、最近ギルドのクエスト調査が雑になったのは気のせいぞい? 上位モンスターが出たり、調査が討伐に変わったりおかしいぞい」
「いえ、そんなことはない……といいたいんだけど、何やら最近モンスターの動きが活発になっているようで、想定よりランクが高いモンスターが出るケースが増えてるの。王都の方でも調査中とは聞いているんだけど……」バーバラは困った顔で言う。
「原因はなんぞい」ボルゾイは眉をひそめた。
「調査中と告げた通り、まだ詳細が分からず申し訳ありません」バーバラは深々と頭を下げた。
胸の谷間が見えそうだ。ボルゾイは目をそらした。
「いや、かまわんぞい。バーバラが悪いわけではないぞい。ギルドカードの確認に移るぞい」ボルゾイは少しばつの悪い顔をして言った。
「はい、それではシンさんから」
「ああ」
シンはギルドカードを台座に置くと魔力を込めた。
―― シン・タキシタ LV:20 ランク:E
STR:B DEF:A SPD:D VIT:B MND:A MAG:D DEX:B
LUK:B HP:D MP:E
スキル:【中級剣術 LV3】【洞察力 LV5】【隠蔽 LV3】【仲間思い LV4】
――
「おかしい。仲間思いがLV4に上がっている」
——ボルゾイとクエスト前に確認したときはLV3だった。スキル発動はしていない。なぜだ。
「クエストで上がったんじゃないのかぞい」ボルゾイは不思議そうに聞いた。
「いや、仲間思いは発動していない」
「ワシは仲間じゃないのかぞい」ボルゾイが悲しそうな顔をした。
「……そういうことではない」シンが息を吐きながら訂正した。
「スキルは、行動だけでなく、経験、感情の高ぶりで変わることもある」
後ろからカルラが声をかけた。
「最近何かのきっかけで強い感情が生まれたことはないかい」
「……ある」
——集落を出たとき、仲間とともに結華を探すと誓った。今までとは違い、一人ではなく仲間とともに。
「それがヒントの可能性は高い。スキルレベルが上がって何か変化はあったかい?」
「LV1の時には爆発的な加速が、LV2、3の時には体が淡く光って丈夫になることが追加で分かった。あとは、まだはっきりとしないが……」
「何かあったのかい?話しな」
「遠くで誰かの感情を感じた。怒り、悲しみ、喜び。感情の揺れを感じた」
「なるほど。単純に守るだけのスキルでもないのかもね」
「……わからない」
「まあ、着実にレベルは上がっているから、おいおい明らかになるさ」
カルラはシンの肩に手を乗せた。すぐに離した。
「次はボルゾイかい。あんたの魂の灯火のLVはどうなった」
ボルゾイはスキルカードを台座に置く。カルラがのぞき込んだ。
―― ボルゾイ・グランバルド LV:19 ランク:E
STR:D DEF:C SPD:E VIT:C MND:D MAG:C DEX:C
LUK:D HP:D MP:D
スキル:【中級体術LV1】【中級杖術LV1】【中級光術 LV5】【ヒール LV4】
【プロテクト LV3】【鼓舞の聖歌 LV2】【魂の灯火 LV2】
――
「変わらんぞい。使う機会もないし、使い勝手も悪いぞい」
「……できるだけ使わないように立ちまわるんだね」
「分かっとるぞい。使わんように気を付けるぞい……」ボルゾイは珍しく声を落とした。
ビアのステータスを確認してその日は解散した。
―― ビア・アルバ LV:18 ランク:E
STR:E DEF:F SPD:C VIT:E MND:D MAG:F DEX:C
LUK:D HP:E MP:F
スキル:【初級弓術 LV9】【初級短剣術 LV3】【隠蔽 LV4】【追跡 LV6】 【罠設置 LV5】【鍵開け LV2】【森の子 LV4】【夜目 LV3】【野の声 LV2】
――
――――――――――
ビアは宣言通り、一週間療養に入った。その日はボルゾイと二人だ。
「これがいいぞい」と一枚の依頼書を手に取った。採掘場の安全確認のための調査クエストだ。
採掘場の中にはもともと岩トカゲや蝙蝠型のモンスターが住みついていた。ただ、最近それ以外のモンスターの目撃情報があるようだ。大型のトカゲのようなモンスターだ。
「鉱石を探してるぞい。ついでに安全確認もするぞい。かまわんぞい?」
「ああ、問題ない」
二人は準備を整え、馬車に乗った。
――――――――――
採掘場の場所はラステルの北に馬車で三日ほど行ったスタティクス山脈の麓にある。スタティクス山脈はシンたちがいるスタティクス大陸を南西から北東に分断する広大な山脈だそうだ。
馬車が徐々に採掘場に近づいていた。
採掘場には大きな入口があり、馬車が一台通れる程度の幅があった。太い木材が門のように組まれて天井と両壁を支えている。木材の表面は黒ずんでいたが、継ぎ目に腐りはなかった。定期的に手入れされている証だった。
入口の脇に小屋が一棟建っていた。道具置き場と休憩所を兼ねているのだろう。壁に採掘用の鶴嘴と角灯がいくつも並んで掛けてあった。角灯の油は補充されており、芯も新しい。採掘が止まっているとはいえ、管理者が定期的に来ているのが分かった。
地面には轍が残っていた。鉱石を運び出す荷車の跡だろう。深く刻まれた二本の溝が坑道の奥へと続いている。坑道はどうやら四つあるようだ。
馬車から降りると、ボルゾイが周囲を確認していた。
「ふむ、少し古いがいい採掘場ぞい。設備がしっかりしてるぞい」
その時、後ろから声をかけられた。
「シンさん!シンさんたちもこの依頼を受けたんですね」
カイルとリーネだった。カイルは革の鎧、片手剣、盾を身に着けていた。前回あったときと同様だった。リーネは、弓と矢筒を背負い、動きやすい服装をしていた。
「シン、この二人は誰ぞい」
「冒険者だ。カイルとリーネだ」と紹介する。
「おお、カイルとリーネか。ワシはボルゾイ・グランバルト。よろしくぞい」と笑う。
「グランバルトってあの!?」とカイルとリーネは目を合わせた。
ボルゾイはちらりとシンを見て言う。「ほら、これが普通の反応ぞい」
シンは何も言わなかった。
カイルが状況を説明した。
「三番坑道が狭かったので、二人で見てきたところだったんですが、特に怪しいものはありませんでした。見かけたのは普段から出る岩トカゲやオオコウモリくらいです」
「あと坑道はいくつ見る必要がある」
「四つですが、四番坑道は閉鎖されていて入れません。あとは一番と二番坑道だけです」
「手分けして確認しよう。どちらが広い」
「大きさは二番坑道の方が少し広いです」
「わかった。二番は俺たち。一番はカイルとリーネで頼む。危険だと思ったら引き返せ」
「わかりました」と二人は坑道の入り口に向かう。同じようにシンたちも向かった。
二番坑道の入り口に立ち、角灯に火をつけた。
中に入ると、空気が変わった。
外の乾いた山の空気とは違う、湿った重い空気が肌に触れた。岩と土と、何か金属に似た匂いが混じっている。坑道の奥から細い風が流れてきていた。どこかに通気口があるのだろう。
天井は大人が背を伸ばして歩ける高さがあった。ただし所々で岩盤が張り出しており、不意に頭をぶつけそうになる箇所がある。壁には等間隔に松明受けの金具が打ち込まれていた。今は松明が外されているため、持ち込んだ角灯だけが頼りだった。
採掘の作業で踏み固められた土の上に、砕いた岩の欠片が散らばっている。轍の跡がここにも続いていた。歩くたびに小石が靴の底に当たる音がした。
壁を見ると、岩盤の中に白い筋が幾重にも走っている。鉱脈の跡だろうか。削り取られた部分は色が明るく、手つかずの部分は黒ずんで重たい色をしていた。
入って十メートルほどで天井が一段下がり、背の高い人間は首をすくめて歩く必要が出てきた。ボルゾイはそのまま歩いた。シンは少し前かがみになった。
壁の質が変わっていた。採掘が進んでいない区域なのか、岩盤に白や茶色の筋が複雑に入り組んでいる。
足元に水が滲んでいた。岩盤の隙間から地下水が染み出しているのだろう。角灯の光がその水たまりに反射して、天井に揺れる光の模様を作っていた。
奥に進むにつれて、気温が下がった。外の山の空気より二、三度は低い。
静かだった。
外の風の音も、鳥の声も届かない。角灯の油が燃える微かな音と、二人の足音と、遠くから滴る水の音だけがあった。
少し行くと開けた場所に出た。天井が高くなった。角灯の光が届かない上部が暗く、広さが分からなかった。壁際に砕いた岩が積み上げられている。採掘の途中で放棄された場所のようだった。奥から何か物音がする。集中して周囲を見ると、トカゲのしっぽのようなものが見えた。
「岩トカゲぞい」小さな声でボルゾイが言った。
「一匹か……気付いていないようだ。隠蔽で先行する」
そう言うと集中して気配を消した。
——カルラも戦闘には自由に使えと言っていた。本来はこうするのが正しいのだろうと自分に言い聞かせた。
岩トカゲの背後に回る。大きな尻尾に加え体全身を覆う岩のような鱗。洞察力が発動する。首筋の鱗が開いていた。そこを一閃。岩トカゲは静かになった。
「見事ぞい」ボルゾイが手をたたきながら歩いてくる。
坑道の中を歩くと、ボルゾイが立ち止まった。天井や外壁を眺めていた。
「どうした」
「探している鉱石のある場所には岩龍が住んでいるといわれているぞい。その形跡がないか見たが、ないぞい」ボルゾイは肩を落とし、残念そうな顔をした。
「先を急ごう」シンが言うとボルゾイはついてきた。
それ以降は開けた道だった。道中でいくつか採掘した鉱石を運ぶトロッコが置かれていた。
それ以降も岩トカゲが数体出た。
一体目は擬態していた。岩肌と同じ色をした鱗が保護色になっていた。しかし呼吸でわずかに動く腹が見えた。隠蔽で背後に回り、首筋を一閃した。
二体目は天井からだった。落下の軌道を読んで剣の腹で受け流した。ボルゾイが光術で追撃した。
三体目は通路の奥から走ってきた。ボルゾイが前に出た。拳が岩トカゲの胴を捉えた。鍛冶師の家の腕は、鱗ごと沈めた。
「見事だ」
「伊達に鍛えとらんぞい」腕をポンポンとたたくボルゾイ。
道中、ボルゾイは時折岩盤に近づいては指先でなぞり、角灯を寄せて色を確かめていた。岩龍の形跡を探しているのだろう。その都度、首を横に振っていた。
坑道の一番奥についた。行き止まりだった。ここまで掘り進めて、採掘を止めた場所だ。
「何もなかったぞい。戻るぞい」
鉱石の手がかりを探してボルゾイが岩盤を確認した。しかし求めているものは見当たらなかった。
引き返そうとした時、シンの胸の奥で何かが波打った。かすかだった。遠くで誰かが揺れているような、輪郭のはっきりしない気配。
——以前感じた気配とは違う。しかし確かに、一番坑道の方角から恐怖に近い何かが届いていた。
「ボルゾイ、来い」
走った。説明はしなかった。ボルゾイは一瞬だけ目を細めて、黙ってついてきた
========== 【作者より】
読んでいただきありがとうございます。
難しい漢字が多いのでルビを打ってみるようにしました。
今後は増やしていこうかなと思います。
この辺り読みやすくする工夫を過去分も含めて考えたいと思います。
23話までは毎日7時10分、18時10分更新です。
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