番外編 フォンの気持ち
自分が信じられない。
記憶が、本当か植え付けられたものか判断できない。
それはとても気持ち悪いことだった。
許せないという怒りと、助けてくれた恩人という記憶が頭の中で衝突し合う。
現実と過去が混じり合い、立っていられなくなることもあった。
何かを見ても、「そう判断する」ということはできるが、感情が動かない。
怒るべきか、笑うべきか、違うと説明すべきか……。
いくつかの候補は浮かぶが、どれが最適な反応かを考えているうちに、話題は次に移っている。
だんだん、黙って眺めていればいいかと思うようになった。
だから「以前の反応」を求められると、とても気が重くなる。
それは本当に私なのか、作られた私なのか、わからない。
妖精の国へ向かうことになり、まずバスラのクランを抜けた。
冒険者パーティーはとりあえず休止。
思い出があるだけ、このメンバーは厄介だった。
いっそ記憶がなければ楽だろうに。
いつも笑顔を心がけ、人の間で調整をしていた自分の記憶がある。
両親を殺された後に、犯人たちに育てられる間に身につけた処世術なのかもしれない。
あるいは、嫌われたり、争っているのを見たりするのが怖くて、なあなあで済ませる雰囲気を作っていたのかもしれない。
どう考えていたかはわかるが、どう感じていたかがぼやけてしまう。
ただ、魔族のオンに対する嫌悪だけは、繭に閉じこもっているときから感じていた。
魔族と妖精族は海を隔てて、隣り合っている。
過去、幾度となく戦火を交えてきた。
寿命が長い魔族には、気の長い戦法を取る者がいる。
気付かれないような小さな罠をたくさん張り巡らせ、どれかにハマればいいという具合に。
あのオンは、こちらの常識を知らないということを逆手にとって、無邪気な振りをしていた。
サァラやルナの愚痴をぼんやり聞きながら、魔族の女の暗躍を指摘してやりたいと思っていた。
おそらく、オンの狙いはトーマの発想力だ。
けれど、繭から出た途端、それを指摘する気が失せた。
自分のことだけで精一杯になってしまったのが一つ。
それ以外にも――オンの魔力の大きさを感じた瞬間、「邪魔をしたら消される」と萎縮した。
風魔法が使えるくらいで、対峙できる相手ではない。
他の三人もクランを出ることに賛成だったので、オンの話はそれでお終いにした。
それから、女性の冒険者パーティーに男性を入れるのは、トラブルの元だ。
案の定、活動休止になってしまったではないか。
私が妖精族の国に行くと言ったら、同行者をつけると言われた。
王城から外交官、魔法使い、護衛が出されることになった。
そんなメンバーを揃えたら、立派な外交団である。
気が重いが、あの老婦人につかまってファルガン共和国に戻れなくなると困る。
そのためだと思えば、まあ、許容範囲か。
誰かに「自分探しの旅」と言われた。
無くした感情を探しにいく旅――と言えるかもしれない。
まずは、両親を殺された怒りを、自分の感情として思い出せるだろうか。
そこが、歪み始めた原点なのだ。




