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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十六章 ハーレムの行方

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番外編 フォンの気持ち

 自分が信じられない。

 記憶が、本当か植え付けられたものか判断できない。

 それはとても気持ち悪いことだった。


 許せないという怒りと、助けてくれた恩人という記憶が頭の中で衝突し合う。

 現実と過去が混じり合い、立っていられなくなることもあった。


 何かを見ても、「そう判断する」ということはできるが、感情が動かない。

 怒るべきか、笑うべきか、違うと説明すべきか……。

 いくつかの候補は浮かぶが、どれが最適な反応かを考えているうちに、話題は次に移っている。


 だんだん、黙って眺めていればいいかと思うようになった。


 だから「以前の反応」を求められると、とても気が重くなる。

 それは本当に私なのか、作られた私なのか、わからない。


 妖精の国へ向かうことになり、まずバスラのクランを抜けた。


 冒険者パーティーはとりあえず休止。

 思い出があるだけ、このメンバーは厄介だった。

 いっそ記憶がなければ楽だろうに。


 いつも笑顔を心がけ、人の間で調整をしていた自分の記憶がある。

 両親を殺された後に、犯人たちに育てられる間に身につけた処世術なのかもしれない。

 あるいは、嫌われたり、争っているのを見たりするのが怖くて、なあなあで済ませる雰囲気を作っていたのかもしれない。


 どう考えていたかはわかるが、どう感じていたかがぼやけてしまう。


 ただ、魔族のオンに対する嫌悪だけは、繭に閉じこもっているときから感じていた。

 魔族と妖精族は海を隔てて、隣り合っている。

 過去、幾度となく戦火を交えてきた。


 寿命が長い魔族には、気の長い戦法を取る者がいる。

 気付かれないような小さな罠をたくさん張り巡らせ、どれかにハマればいいという具合に。


 あのオンは、こちらの常識を知らないということを逆手にとって、無邪気な振りをしていた。

 サァラやルナの愚痴をぼんやり聞きながら、魔族の女の暗躍を指摘してやりたいと思っていた。


 おそらく、オンの狙いはトーマの発想力だ。


 けれど、繭から出た途端、それを指摘する気が失せた。

 自分のことだけで精一杯になってしまったのが一つ。


 それ以外にも――オンの魔力の大きさを感じた瞬間、「邪魔をしたら消される」と萎縮した。

 風魔法が使えるくらいで、対峙できる相手ではない。


 他の三人もクランを出ることに賛成だったので、オンの話はそれでお終いにした。


 それから、女性の冒険者パーティーに男性を入れるのは、トラブルの元だ。

 案の定、活動休止になってしまったではないか。




 私が妖精族の国に行くと言ったら、同行者をつけると言われた。

 王城から外交官、魔法使い、護衛が出されることになった。


 そんなメンバーを揃えたら、立派な外交団である。

 気が重いが、あの老婦人につかまってファルガン共和国に戻れなくなると困る。

 そのためだと思えば、まあ、許容範囲か。


 誰かに「自分探しの旅」と言われた。

 無くした感情を探しにいく旅――と言えるかもしれない。


 まずは、両親を殺された怒りを、自分の感情として思い出せるだろうか。

 そこが、歪み始めた原点なのだ。


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