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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十六章 ハーレムの行方

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番外編 ルナとサァラの帰郷

「トーマたち、今頃どのあたりにいるんだろうね」

 トゥルメル領のいつもの宿が目に入り、ルナとサァラは歩きながらそんな会話をした。

「いつもの宿」といっても、トーマが加入してからはご無沙汰になっていた。

 彼が護衛対象だったため、警備のしっかりとしたホテルに泊まることが多かったのだ。



 事情を知らない宿のおかみさんは、宿泊の手続きをしながら「ご無沙汰じゃないか」と、しかめっ面をした。もちろん、本気で気分を害しているわけではなく、拗ねたふりだろう。


「あれ、フォンちゃんは?」

 そんなことを言われた。ルナもサァラも一瞬、言葉が出ない。

「あ……あ~、里帰り。海を渡っていく場所だから、しばらく戻ってこないよ」

 ルナは、言葉を選びながら答えた。

 嘘ではない。

 ただ、長年の洗脳が解けて、別人のようになったフォンがこの街に戻ってくるかは、正直わからない。


 自分たちが知っているフォンを、フォン自身に否定されているようで、向き合うのが辛かった。

 そのため、ルナもサァラも、あまりフォンの話題を口にしなくなっている。


「あたしたちもちょっと休んだら、サァラの山小屋に行くから」

 ルナは長期滞在ではないことを告げる。

「なんだい。寂しいねぇ。ま、ゆっくりしていきな」

 おかみさんはいつもの笑顔で、二人部屋の鍵をくれた。



 宿の部屋に落ち着くと、ルナがこんなことを言い出した。

「この宿の人は、トーマとはあんまり関わってないんだっけ」

 宿の人がトーマのことに触れてこないので、意外に思ったのだ。


「そういえば、そうだにゃ」

 トーマは正式に「花猫風月」に加入する前に、数回泊まっただけだった。




 翌日、冒険者ギルドに顔を出したときは、「トーマが戻ってこないなんて」と大騒ぎになった。

 ギルドマスターは特に、トーマを巡る騒動の後始末をすることが多かったので、複雑な顔をしていた。

 面倒ごとを持ち込むと愚痴を言いながら、それなりに可愛がっていたのだろう。


「ギルドの通信とエリオット様の部下から少し聞いちゃいたけど……本当なんだな」

 と、ため息を吐いた。

「で、花猫風月は解散じゃなくて、いいんだな?」

「……今のところは、ね」

 ルナは歯切れ悪く答える。自分たちにも、この先どうなるかわからないのだ。



「まあ、二人が戻ってきてくれて、心強いよ。Bランクに昇級したんだってな。おめでとう」

 ギルドマスターはしんみりした雰囲気を吹き飛ばすように、明るく祝ってくれた。


「ああ、助かります。頼りにしています」

 ギルドマスターの補佐をしている職員が、そんなことを言う。

 ルナは、「別にあんたのためじゃないけど」と言い返したくなったが、言葉を飲み込んだ。


「悪いんだけど、あたいはしばらく山小屋に籠もるよ?」

 サァラは容赦なく、そう返した。

「ガーン!」

 職員はふざけているのか、真面目な顔でそう言った。


「Aランクの『光牙の道標』がこっちに拠点を移したんだから、いいじゃん」

 ルナはそれを指摘した。

 隣の領からAランクパーティーが拠点を移した。それは、すごくこの領が評価されたという証だ。

 それに釣られるように、移籍してくるパーティーもいただろう。


「彼らは護衛を主にしているので、トゥルメル領にいないことが多いんですよ」

「そっかー。依頼の手配は大変なんだねん」

 サァラが軽い相槌を打つ。


「う、他人事のように……」

「あ! そういえば、あんたが勧めてきたミナス。王都で犯罪者として捕まったんだけど」

 サァラは職員を睨みつけた。

「……いやぁ、あの、そ、それは……こちらとしても、想定外と申しますか……。

 人を見る目がありませんでした。すみません!」

 言い逃れできないと諦めたのか、職員は頭を下げた。



 ギルドマスターの部屋を出て、二人は冒険者ギルドの玄関へ向かった。

 その途中で声をかけてくる人がいる。

 多くは、「久しぶり」とか、「元気だったか」という挨拶だ。

 その中の一人が、手紙も寄越さないトーマを薄情だと文句を言ってきた。顔見知り程度の職員だ。

 ぬいぐるみ騒動以降、トーマと知り合いだというのがステータスのようなところがあったせいだろうか。


 適当にあしらって、宿へ戻ることにした。こんな勘違い野郎をいちいち相手にしていられない。



「サァラの体調が良さそうな日に、山小屋へ出発しようか」

 妊婦のサァラに合わせながら、数日山登りをすることになる。

「買い出しは明日でいいかにゃ」

「そうだね」

 そう返事をしながら、トーマに教えてもらって旅の準備も上手くなったな――と、遠くにいる仲間に思いを馳せるのだった。



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